民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案(案)

第3 意思表示
2 錯誤(民法第95条関係)
民法第95条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 意思表示は、次のいずれかの錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
ア 意思表示に対応する意思を欠くもの
イ 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反するもの
(2) (1)イの錯誤による意思表示の取消しは、当該事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
(3) (1)の錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次のいずれかに該当するときを除き、(1)による意思表示の取消しをすることができない。
ア 相手方が、(1)の錯誤があることを知り、又は知らなかったことについて重大な過失があるとき。
イ 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
(4) (1)による錯誤による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
(説明)
錯誤については、基本的に、部会資料79B第1の甲案(以下「従前の甲案」という。)を前提としつつ、その表現を改めている。主な違いは、次のとおりである。
1 素案(1)について
(1) 従前の甲案では、「その錯誤が意思表示をするか否かの判断に通常影響を及ぼすべきものであるとき」との要件で錯誤が重要かどうかを判断することとしていた。しかし、第90回会議では、消費者契約法第4条第4項の「通常影響を及ぼす」との用語をそのまま民法で用いるのはその適用場面が異なり適切ではないとの指摘があったほか、従前の甲案の書きぶりでは、その錯誤が意思表示をするかどうかの判断に影響するかどうかという単なる事実の評価のみをすることになると読めるが、それだけでなく、規範的評価が可能となるような表現とすべきであるとの趣旨の指摘があった。確かに、民法第95条の「法律行為の要素に錯誤」という文言は、主観的因果性と客観的重要性という二要件に分析できるとしても、その判断の中に一定の規範的評価(当該錯誤が意思表示の取消しを認めるほどのものかどうか)が織り込まれたものであったと見ることのできる表現であるし、実際上も、錯誤を理由とする取消しを認めるかどうかを判断する際に、一定の規範的評価を行うことは有用であるようにも思われる。そこで、素案では、従前の甲案の文言に代えて、「その錯誤が…重要なものであるとき」との文言を用いることにより、当該錯誤が意思表示の取消しを認めるほどに重要であるかどうかという規範的評価を行いやすいものとしている。
重要性の判断に当たっては、その錯誤が一般的にも重要であることが必要であることから、これを示す趣旨で「取引上の社会通念に照らして」との文言を置いている。この「取引上の社会通念」における「取引」とは、営利目的で行われる売買行為だけではなく、広く、物又は財物の移転などを含む概念として用いており、遺言や遺産分割なども包含するものである。また、重要性を判断するためには、その法律行為の目的(当該法律行為が目指していたもの)がどのようなものであるのかが重要な考慮要素になると考えられる。従前の甲案では、因果関係の要件である「その錯誤がなければ表意者は意思表示をしていなかった」の有無を判断する際に、この点についても考慮されていたと思われるところである。以上を合わせて、重要性の判断の考慮要素を示すため、「法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして」との文言を用いている。
(2) 上記のとおり、重要性の判断の中で、その法律行為の目的(当該法律行為が目指していたもの)がどのようなものかを考慮したことや、規定の表現上の全体的なバランス等を考慮し、当該錯誤と意思表示との間に因果関係があることについては、従前の甲案における「その錯誤がなければ表意者は意思表示をしていなかった」との文言に代えて、今回の案では、「次のいずれかの錯誤に基づくものであって」という文言を用いることとし、ここでは当該錯誤と意思表示の間の事実的な因果関係を判断するようにしている。
(3) 「意思表示に対応する意思を欠くもの」という文言は、従前の甲案における「意思表示に錯誤」がある場合(いわゆる表示の錯誤)に対応するものであり、素案(1)アとイとの論理的な対比を明らかにする趣旨で、上記のとおり修正した。
(4) 「表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反するもの」という文言は、従前の甲案における「ある事項の存否又はその内容について錯誤」がある場合(いわゆる動機の錯誤)に対応するものであり、アの錯誤(いわゆる表示の錯誤)との区別をより明確にする観点から、その表現を改めている。なお、「法律行為の基礎とした事情」とは、法律行為(の効力)が存在する前提とした事情であり、例えば、表意者が、譲渡所得税は課されないと認識して、多額の譲渡所得税が課されないとの事情を当該財産分与の基礎としていた場合において、その多額の譲渡所得税が課されないとの認識が真実と反しているときが、(1)イに該当する。
2 素案(2)について
(1) 「当該事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたとき」という文言は、従前の甲案の「表意者が法律行為の効力を当該事項の存否又はその内容に係らしめる意思を表示していたこと。」に対応するものである。この従前の甲案の表現に対しては、第89回及び第90回会議において、意思を表示しそれに相手方が同意したのであれば条件になっているように読めるが、条件になっているのならば錯誤の問題ではないと見えてしまうとの指摘や、この表現ではその適用範囲が狭くなり過ぎるように読めるとの指摘があったことを踏まえつつ、単に当該事情が動機(理由)であると表示されているだけでは足りないと判示する判例があること等をも考慮し、「法律行為の基礎とされていることが表示されていた」との表現を用いている。「表示されていた」とは、積極的な表示がなくても黙示的な表示が認定される場合があることを含意しており、この点に関する従来の判例実務を踏襲する趣旨である。
(2) 他方で、従前の甲案の「相手方の行為によって当該錯誤が生じたとき」という要件については、これを取り上げていない。
これを独立の要件として設けるかどうかについては、この部会における長い議論の経緯があったところであるが、依然として意見の対立が解消するには至っていない。例えば、従前の裁判例の中には相手方の行為によって錯誤が生じたことを考慮して錯誤の無効を判断したものがあるとの指摘があるものの、その一方で、相手方の行為によって錯誤が生じたことを考慮して従前の裁判例の基準である「意思表示(法律行為)の内容」の要件(又は素案(2)の「法律行為の基礎とされていることが表示されていた」の要件)の有無を判断することは否定しないものの、その要件につき判断を経ることなく、錯誤により意思表示の効力を否定することを認めると、重要性の要件(素案(1)の「その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるとき」の要件)による絞りをかけるとしても錯誤により意思表示の効力が否定される範囲が広がりすぎるとの意見がある。また、相手方が誤った表示等を行ったために表意者に錯誤が生じ、その誤った認識を前提として表意者が意思表示をし、そのことを相手方も当然の前提であると認識していたと評価できるような場合には、「法律行為の基礎とされていることが表示されていた」と評価することで対応することも可能であるとの指摘もされている。これらを考慮したうえで、今回は、従前の甲案の「相手方の行為によって当該錯誤が生じたとき」という要件を削除した案を提示することとした。
4 意思表示の効力発生時期等(民法第97条関係)
民法第97条の規律を次のように改めるものとする。
(1) (略)
(2) 相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その意思表示の通知は、その通知が通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。
(3) (略)
(説明)
(2)につき、第90回会議における審議の結果を踏まえ、部会資料79−1「意思表示の通知を受けることを拒んだとき」を「意思表示の通知が到達することを妨げたとき」に変更し、了知可能な状態にならないように妨害したケースなども含むことをより適切に表現するようにした。
第4 代理
7 代理権授与の表示による表見代理(民法第109条関係)
民法第109条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。(民法第109条と同文)
(2) 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば(1)によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、当該行為について、その責任を負う。
(説明)
従前の案である部会資料82−1第4、7(2)は、第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者が7(1)により責任を負うべき場合との要件を定めることとしていた。もっとも、7(1)により責任を負うべき場合というのは、あくまで、表示された代理権の範囲内の行為を無権代理人が仮にしたとすれば本人がその責任を負うべき場合という意味であることから、そのことを明確に示すべきである旨の指摘がある。
そこで、今回の要綱仮案(案)では、第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者が「その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば(1)によりその責任を負うべき場合」との表現に改めることとした。
8 代理権消滅後の表見代理(民法第112条関係)
民法第112条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後にその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対してその責任を負う。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。
(2) 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後に、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば(1)によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、当該行為について、その責任を負う。
(説明)
従前の案である部会資料82−1第4、8(2)は、他人に代理権を与えた者が8(1)により責任を負うべき場合との要件を定めることとしていた。もっとも、8(1)により責任を負うべき場合というのは、あくまで、消滅した代理権の範囲内の行為を無権代理人が仮にしたとすれば本人がその責任を負うべき場合という意味であることから、そのことを明確に示すべきである旨の指摘がある。
そこで、今回の要綱仮案(案)では、他人に代理権を与えた者が「代理権の消滅後に、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば(1)によりその責任を負うべき場合」との表現に改めることとした。
第6 条件及び期限
1 効力始期の新設及び期限の概念の整理
(1) 効力始期の新設
効力始期について、次のような規律を設けるものとする。
ア 法律行為に効力始期を付したときは、その法律行為の効力は、期限が到来した時からを生ずる。
イ 民法第128条及び第129条の規定は、効力始期について準用する。
(2) 期限の概念の整理
民法第135条第1項の規律を次のように改めるものとする。
法律行為に請求始期を付したときは、その法律行為の履行は、期限が到来するまで、これを請求することができない。
(説明)
従前の案では、条件及び期限について、その内容を分かりやすいものとする観点から、「停止条件」、「解除条件」、「請求始期」、「履行始期」及び「終期」につき、その意味内容を括弧書きで定義する案を提示していた。
もっとも、現行の民法においては、このような定義を設けるとの方針は採用されておらず、この部分のみ詳しい定義を設けると、規定間のバランスを損なうとの指摘がある。
そこで、基本的に現行法の規定振りを維持しつつ、新設する効力始期概念と現行の「始期(履行期限)」との関係につき、「請求始期」、「効力始期」という概念を用いて整理することとしている。
第7 消滅時効
6 時効の完成猶予及び更新
(8) 協議による時効の完成猶予
ア 当事者間で権利に関する協議を行う旨の書面による合意があったときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しない。
(ア) 上記合意があった時から1年を経過した時
(イ) 上記合意において当事者が協議を行う期間(1年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時
(ウ) 当事者の一方が相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の書面による通知をした時から6箇月を経過した時
イ アの合意又は通知がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)によってされたときは、その合意又は通知は、書面によってされたものとみなす。
ウ 当事者は、アの規定によって時効の完成が猶予されている間に、改めてアの合意をすることができる。ただし、アの規定によって時効の完成が猶予されなかったとすれば時効期間が満了すべき時から通じて5年を超えることができない。
エ 催告によって時効の完成が猶予されている間に行われたアの合意は、時効の完成猶予の効力を有しない。アの規定によって時効の完成が猶予されている間に行われた催告についても、同様とする。
(説明)
従前の案である部会資料80−1、第1、6の(8)に対しては、第92回会議において、当事者が一定の期間を定めた協議の合意を行った場合における時効の完成猶予の期間について整理する必要があるとの指摘があった。
従前の案では、当事者が合意した協議の期間を完成猶予の期間とすることとしていなかった。これは、債権者が優位な立場を利用して債務者に長期間の協議の合意をさせ、その後全く協議を行わないという状態が継続することを防止するためには、完成猶予の期間を1年と限定するのが適切であると考えられることによる。他方、当事者間で実際に協議が継続していれば、新たな協議の合意をすることは容易であることから、当事者が1年よりも長期の協議の合意をした場合に、完成猶予の期間を1年としても、当事者に特段不都合はないと考えられる。もっとも改めて検討してみると、当事者が一定の期間を定めた協議の合意をし、かつ、その期間が1年未満である場合については、当事者が合意した協議の期間を完成猶予の期間としても特段弊害はなく、完成猶予の期間をあえて1年に伸張する必要性はないと考えられる。そこで、今回の要綱仮案(案)では、当事者が一定の期間を定めた協議の合意をし、かつ、その期間が1年未満である場合に、その期間を経過した時まで時効の完成を猶予することとしている。
第10 履行請求権等
1 履行の不能
履行の不能について、次のような規律を設けるものとする。
債務の履行が契約その他の当該債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。
(説明)
従前の案である部会資料82−1第10、1は、その本文において、債権者は債務者に対してその債務の履行を請求することができる旨を定めた上で、ただし書において、その債務の履行が不能であるときはこの限りでない旨を定めることとしていた。もっとも、債務の履行が不能であるときは債権者はその債務の履行を請求することができない旨を定めれば、債権者が債務者に対してその債務の履行を請求することができる旨の規律も表現されているとみることができる旨の指摘がある。
そこで、今回の要綱仮案(案)では、従前の案のただし書に相当する規律のみを定めることとした。
第11 債務不履行による損害賠償
1 債務不履行による損害賠償とその免責事由(民法第415条関係)
民法第415条の規律を次のように改めるものとする。
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が、契約その他の当該債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
(説明)
従前の案である部会資料82−1第11、1は、「債務の本旨に従った履行をしないとき」の中に「債務の履行が不能であるとき」が含まれる旨を明記することとしていた。これは、起草者が現行の民法第415条前段の「債務の本旨に従った履行をしないとき」とは、同条後段の「履行をすることができなくなったとき」(履行不能)を含むものであるが、同条前段の表現では履行をすることができるのにしないという意味に読めてしまい、同条後段の場合を含むことが読み取れないことから、同条前段に加えて同条後段を設けたとされていることを踏まえたものであった。もっとも、起草者のそのような考慮の結果、同条前段と同条後段とを少なくとも表現上は独立のものとして定めたのであれば、今般の改正で同条前段と同条後段とを統合するに当たっても、両者を「又は」でつないだほうが適切である旨の指摘がある。そこで、今回の要綱仮案(案)では、「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるとき」との表現を用いることとした。
また、従前の案である部会資料82−1第11、1は、(1)において損害賠償請求権の発生根拠に関する規律を定め、(2)においてその免責事由に関する規律を定めることとしていたが、発生根拠と免責事由とは密接に関連するものであることから、本文とただし書の形式とするほうが適切である旨の指摘がある。そこで、今回の要綱仮案(案)では、従前の案における(1)と(2)との関係の実質を変更することなく、本文とただし書の形式に改めることとした。
4 履行遅滞中の履行不能
履行遅滞中の履行不能について、次のような規律を設けるものとする。
債務者がその債務について遅滞の責任を負っている間に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債務者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。
(説明)
現在の案に対しては、履行の不能が債権者の責めに帰すべき事由によるものであることの主張立証責任は債務者の側にあるから、そのことを条文上も明確に示す必要がある旨の指摘があり、別案として、例えば「債務者がその債務について遅滞の責任を負っている間にその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債務者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。ただし、その履行の不能が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、この限りでない。」といった表現を用いることも考えられる。もっとも、そのような表現を用いると、履行の不能が債務者の責めに帰すべき事由によるものである場合についてもこの規律が適用されることとなるため、債務者の責めに帰すべき事由による履行不能であるにもかかわらず債務者の責めに帰すべき事由による履行不能であるものとみなすとの効果を与えることとなってしまい、相当でないとも考えられる。以上の問題等を踏まえ、現在の案を維持することとした。
第12 契約の解除
2 無催告解除の要件@(民法第542条・第543条関係)
民法第542条及び第543条の規律を次のように改めるものとする。
次のいずれかに該当するときは、債権者は、1の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。
(1) 債務の履行が不能であるとき。
(2) 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
(3) 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
(4) 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
(5) (1)から(4)までの場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者がその履行の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
3 無催告解除の要件A(民法第542条・第543条関係)
無催告解除の要件について、次のような規律を設けるものとする。
次のいずれかに該当するときは、債権者は、1の催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる。
(1) 債務の一部の履行が不能であるとき。
(2) 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
(説明)
従前の案である部会資料82−1第12、2は、(1)において「履行の全部又は一部が不能であるとき」に契約の解除をすることができる旨、(2)において「履行の一部が不能である場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき」に契約の解除をすることができる旨、(3)において「債務者が債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき」に契約の解除をすることができる旨を定めていた。もっとも、これに対しては、一部不能や一部拒絶の場合における(1)から(3)までの規律の適用関係が不明確である旨の指摘がある。
そこで、今回の要綱仮案(案)では、従前の案の2(1)の規律のうち、履行の一部の不能により契約の一部の解除をする場合と、2(3)の規律のうち、履行の一部の拒絶により契約の一部の解除をする場合については、3(1)及び3(2)として定めることとした。2(4)の定期行為の場合における一部解除や2(5)の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがない場合における一部解除の可能性を否定する趣旨ではない。また、一部解除が可能なのは一つの契約のうちの一部分のみを解消することが可能な程度に当該部分が区分されている場合に限られることを前提としている。
6 解除権者の故意等による解除権の消滅(民法第548条関係)
民法第548条の規律を次のように改めるものとする。
解除権を有する者が故意若しくは過失によって契約の目的物を著しく損傷し、若しくは返還することができなくなったとき、又は加工若しくは改造によってこれを他の種類の物に変えたときは、解除権は、消滅する。ただし、解除権を有する者がその解除権を有することを知らなかったときは、この限りでない。
(説明)
従前の案である部会資料82−1第12、5では、現行の民法第548条第2項の「行為」を「故意」に改めた上で、同項を維持することが前提とされていた。もっとも、そもそも同項は、同条第1項の要件を充足しない場面のうちの一部を取り出したものにすぎず、無用の混乱を招きかねないため削除すべきである旨の指摘がある。
そこで、今回の要綱仮案(案)では、民法第548条第2項を削除する改正を含む趣旨で、同条全体を素案のとおり改めることとした。
第14 受領遅滞
1 民法第413条の削除
民法第413条を削除するものとする。
2 保存義務の軽減
保存義務の軽減について、次のような規律を設けるものとする。
債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その債務の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、履行の提供があった時からその物の引渡しをするまで、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、その物を保存しなければならない。
3 履行費用の債権者負担
履行費用の債権者負担について、次のような規律を設けるものとする。
債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができないことによって、その履行の費用が増加したときは、その増加額は、債権者の負担とする。
4 受領遅滞中の履行不能
受領遅滞中の履行不能について、次のような規律を設けるものとする。
債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。
(説明)
従前の案である部会資料82−1第14、(3)及び(4)は、受領遅滞中に履行不能が生じた場合に関する規律を定めることとしていた。もっとも、第11、4(履行遅滞中の履行不能)の規律との関係が不明確であり、両者をパラレルな内容の規律として定めるほうが分かりやすい旨の指摘がある。そこで、今回の要綱仮案(案)では、従前の案の(3)及び(4)を第11、4(履行遅滞中の履行不能)とパラレルな内容の規律に改め(素案4)、そのことを明確に示す趣旨で「受領遅滞中の履行不能」との標題を付した。また、それに伴い、他の論点にも標題を付するなどした。
素案4を前提とすると、従前の案の(3)アの債権者が契約の解除をすることができない旨の規律は、債権者に帰責事由があるときは契約の解除をすることができない旨を定める第12、3によって導かれることになる。また、従前の案の(3)イの債権者が反対給付の履行を拒むことができない旨の規律は、債権者に帰責事由があるときは反対給付の履行を拒むことができない旨を定める第13、2(2)によって導かれることになる。また、従前の案の(4)の債務者が履行不能による責任を負わない旨の規律は、債務者に帰責事由がないときは債務者は損害賠償責任を負わない旨を定める第11、1によって導かれることになる。
第16 詐害行為取消権
4 特定の債権者に対する担保の供与等の特則
特定の債権者に対する担保の供与等について、次のような規律を設けるものとする。
(1) 債務者がした既存の債務についての担保の供与又は債務の消滅に関する行為について、債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、1の取消しの請求をすることができる。
ア 当該行為が、債務者が支払不能(債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいう。以下この4において同じ。)の時に行われたものであること。
イ 当該行為が、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること。
(2) (1)に定める行為が、債務者の義務に属せず、又はその時期が債務者の義務に属しないものである場合において、次に掲げる要件のいずれにも該当するときは、債権者は、(1)にかかわらず、当該行為について、1の取消しの請求をすることができる。
ア 当該行為が、債務者が支払不能になる前30日以内に行われたものであること。
イ 当該行為が、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること。
(説明)
従前の案である部会資料82−1第16、4に対しては、素案(1)と素案(2)との関係が不明確である旨の指摘がある。そこで、今回の要綱仮案(案)では、素案(2)が素案(1)の例外的な場合を定めたものであることを明確にする趣旨の修正をすることとした。
5 過大な代物弁済等の特則
過大な代物弁済等について、次のような規律を設けるものとする。
債務者がした債務の消滅に関する行為であって、受益者の受けた給付の価額が当該行為によって消滅した債務の額より過大であるものについて、1の要件に該当するときは、債権者は、4(1)にかかわらず、その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分については、1の取消しの請求をすることができる。
(説明)
従前の案である部会資料82−1第16、5に対しては、同4との関係が不明確である旨の指摘がある。例えば従前の案の「消滅した債務の額に相当する部分以外の部分に限り」との表現では、過大な代物弁済等は常に過大な部分に限ってのみ取消しが認められるとの誤解を生じかねない旨の指摘である。そこで、今回の要綱仮案(案)では、同4との関係を明確にする趣旨の修正をすることとした。従前の案と同様に、過大な代物弁済等については、同4の要件を満たせば当該行為の全部を取り消すことができるが、同4の要件を満たさなくても同5の要件を満たせば過大な部分については取り消すことができることを前提としている。
なお、破産法第160条第2項の「消滅した債務の額に相当する部分以外の部分に限り」との表現について整備を要するかどうかについては、要綱仮案の決定後に検討する必要があると考えられる。同様に、第16、1及び同6において従前の案の「債権者を害すべき事実」との表現を「債権者を害すること」に修正している点、第16、3において従前の案の「債権者を害する処分」との表現を「債権者を害することとなる処分」に修正している点(いずれの点も従前の案を実質的に変更する趣旨のものではない。)についても、同様の問題がある。
10 詐害行為の取消しの効果(民法第425条関係)
民法第425条の規律を次のように改めるものとする。
1又は6の取消しの請求を認容する確定判決は、債務者及びその全ての債権者に対してもその効力を有する。
(説明)
現在の案に対しては、債務者に確定判決の効力を及ぼすのであればその債務者の債権者らに確定判決の効力を及ぼす実益はない旨の指摘があり、別案として、例えば「全ての債権者」の部分を削り、「1又は6の取消しの請求を認容する確定判決は、債務者に対してもその効力を有する。」との規律に改めることも考えられる。もっとも、「全ての債権者」の部分を削ることの具体的な必要性を示すことは困難である。例えば、同一人物が債権者であり転得者でもある場合において、当該者が債権者の立場で受益者に対する詐害行為取消しの効果を受けることになると、転得者の立場としても自ら転得した物を債務者に返還しなければならなくなるといった誤解を生ずるおそれがある旨の指摘があるが、その誤解は現行法の下でも同様に生じ得るにもかかわらず、現在そのような誤解が生じている旨の指摘は見当たらない。以上を踏まえ、現在の案を維持することとした。
第17 多数当事者
2 連帯債務者の一人について生じた事由の効力等
(3) 連帯債務者の一人に対する免除(民法第437条関係)
ア 民法第437条を削除するものとする。
イ 債権者と連帯債務者の一人との間に債務の免除があった場合においても、他の連帯債務者は、免除があった連帯債務者に対し、4(1)又は(3)により求償の請求をすることができる。
(4) 連帯債務者の一人についての時効の完成(民法第439条関係)
ア 民法第439条を削除するものとする。
イ 連帯債務者の一人のために時効が完成した場合においても、他の連帯債務者は、時効が完成した連帯債務者に対し、4(1)又は(3)により求償の請求をすることができる。
(説明)
従前の議論は、債権者と連帯債務者の一人との間に債務の免除があった場合又は連帯債務者の一人のために時効が完成した場合においても、他の連帯債務者は、免除があった又は時効が完成した連帯債務者に対し、求償をすることができることを前提としていたが、この点については、これを根拠付ける規定を置く必要があると考え、明記することとした。
他方で、求償をした連帯債務者が債権者に対して償還の請求をすることができないことについては、異論がないところであるが、その償還の請求をすることができることを根拠付ける規定がない以上、これを否定する規定を置き、そのような償還の請求ができないことを特に明記する必要はないと考え、記載しないこととした。
4 連帯債務者間の求償関係
(2) 連帯債務者間の通知義務(民法第443条関係)
民法第443条の規律を次のように改めるものとする。
ア 他の連帯債務者があることを知りながら、連帯債務者の一人が共同の免責を得ることを他の連帯債務者に通知しないで弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得た場合において、他の連帯債務者は、債権者に対抗することができる事由を有していたときは、その負担部分について、その事由をもってその免責を得た連帯債務者に対抗することができる。この場合において、相殺をもってその免責を得た連帯債務者に対抗したときは、その連帯債務者は、債権者に対し、相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。
イ (略)
(説明)
従前は、「過失のある連帯債務者」としていたが、第92回会議における審議での指摘を踏まえ、他の連帯債務者があることを知りながら通知をしない以上は過失のあるのが通常であり、あえて「過失のある」と記載する必要はなく、また、その内容が逆にわかりにくくなると考え、「その連帯債務者」に修正した。
(3) 負担部分を有する連帯債務者が全て無資力者である場合の求償関係(民法第444条関係)
民法第444条の規律を次のように改めるものとする。
ア 連帯債務者の中に償還をする資力のない者があるときは、その償還をすることができない部分は、求償者及び他の資力のある者の間で、各自の負担部分に応じて分割して負担する。(民法第444条本文と同文)
イ アの場合において、求償者及び他の資力のある者がいずれも負担部分を有しない者であるときは、その償還をすることができない部分は、求償者及び他の資力のある者の間で、平等の割合で分割して負担する。
ウ ア及びイにかかわらず、償還を受けることができないことについて求償者に過失があるときは、他の連帯債務者に対して分担を請求することができない。
(説明)
従前は、単に「求償者に過失がある」としていたが、ここでいう「過失」は、民法第444条ただし書と同様、償還を受けることができないことについて問題とするものであることから、この点を明確にした。
7 連帯債権者の一人について生じた事由の効力等
(1) 連帯債権者の一人との間の相殺
債務者が連帯債権者の一人に対して債権を有する場合において、その債務者が相殺を援用したときは、その相殺は、他の連帯債権者に対してもその効力を生ずる。
(2) 連帯債権者の一人との間の更改又は免除
連帯債権者の一人と債務者との間に更改又は免除があったときは、その一人の連帯債権者がその権利を失わなければ分与される部分については、他の連帯債権者は、履行を請求することができない。
(3) 連帯債権者の一人との間の混同
連帯債権者の一人と債務者との間に混同があった場合について、次のような規律を設けるものとする。
連帯債権者の一人と債務者との間に混同があったときは、債務者は、弁済をしたものとみなす。
(4) 相対的効力の原則
連帯債権について、次のような規律を設けるものとする。
連帯債権者の一人の行為又は一人について生じた事由は、(1)から(3)までの場合を除き、他の連帯債権者に対してその効力を生じない。ただし、他の連帯債権者の一人及び債務者が別段の意思を表示したときは、当該他の連帯債権者に対する効力は、その意思に従う。
(説明)
1 第92回会議における審議での指摘を踏まえ、連帯債権者の一人との間の相殺について規律を置くことを提案するものである。
例えば、A及びBが債務者に100万円の連帯債権を有している場合において、その債務者がAに対して有する100万円の債権をもって相殺をした事例を前提に考えると、確かに、その相殺の効果がBにも及ぶと、Bは債務者に対して連帯債権を行使することができず、Aに対して求償権を行使することとなるので、仮に、債務者が資力を有し、他方で、Aが無資力であるような場合には、Bは害されることになるように思われる。
しかし、そもそも、債務者が資力を有しないAに現金で弁済し、Aがその現金を費消したような場合には、BはAから償還を受けることができず、債務者に対しても連帯債権を行使することができないことからすると、弁済と実質的に同じ効果を有する相殺の場面でAが無資力である危険をBが負担するのは、むしろバランスが取れているように思われる。加えて、Bに相殺の効力が及ばないこととすると、相殺をした債務者の相殺に対する期待が害されるほか、Bは、債務者から全額を受け取りながら、Aに対しその持分を償還しなければならなくなるなど、その後の処理が迂遠なものとなることは否定できない。
そこで、債務者が連帯債権者の一人に対して債権を有する場合において、その債務者が相殺を援用したときには、その相殺は、他の連帯債権者に対してもその効力を生ずることとしている。
2 なお、相殺の対象となる債務を負っている連帯債権者(上記の事例ではA)が相殺をした場合であっても、その効果は債務者が相殺をした場合と同様であると考えられるが、連帯債務と相殺の関係を定める現行民法第436条は債務者が相殺をした場合のみを定めている(連帯債務の場合であっても、債権者が相殺をした場合と債務者が相殺をした場合でその効果に違いはないと解される。)ことに倣って、上記でも、債務者が相殺をした場合のみを記載している。
3 また、連帯債権における相殺の処理について手当てをすることとの関係で、不可分債権における相殺の処理についても手当てをするのかが問題となる。現行法では、不可分債権における相殺の処理については解釈が分かれているところであるが、今回の改正で意思表示によって生じる不可分債権の概念はなくなり、不可分債権が金銭債権であることがほとんどないことからすると、不可分債権において相殺が問題となることもほとんどなく、この点を特に明文で定める必要性は乏しいことから、特段の手当てをする必要はないと考えられるため、今回の素案では特に取り上げていない。
第18 保証債務
3 保証人の求償権
(3) 保証人の通知義務(民法第463条関係)
民法第463条の規律を次のように改めるものとする。
ア (略)
イ 保証人が弁済をし、その他自己の財産をもって主たる債務者にその債務を免れさせた場合において、保証人がその旨を主たる債務者に通知することを怠ったため、主たる債務者が善意で弁済をし、その他有償の行為をもって免責を得たときは、主たる債務者は、保証人が主たる債務者の意思に反して保証をした者でないときであっても、自己の弁済その他免責のためにした行為を有効であったものとみなすことができる。
ウ (略)
(説明)
実質的な内容に変更はなく、カッコ書きを避けてわかりやすくする趣旨の修正を加えたものである。
5 根保証
(1) 極度額
民法第465条の2の規律を次のように改めるものとする。
ア 一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約(仮称)」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
イ 個人根保証契約は、アの極度額を定めなければ、その効力を生じない。
ウ 民法第446条第2項及び第3項の規定は、個人根保証契約におけるアの極度額の定めについて準用する。
(2) 元本の確定事由
民法第465条の4の規律を次のように改めるものとする。
ア 個人根保証契約における主たる債務の元本は、次に掲げる場合に確定する。ただし、(ア)の場合にあっては、強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。
(ア) 債権者が、保証人の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。
(イ) 保証人が破産手続開始の決定を受けたとき。
(ウ) 主たる債務者又は保証人が死亡したとき。
イ アに定める場合のほか、主たる債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務(以下「貸金等債務」という。)が含まれる個人根保証契約における主たる債務の元本は、次に掲げる場合に確定する。ただし、(ア)の場合にあっては、強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。
(ア) 債権者が、主たる債務者の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。
(イ) 主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。
(3) 求償権についての保証契約
民法第465条の5の規律を次のように改めるものとする。
ア 保証人が法人である根保証契約において、(1)アの極度額の定めがないときは、その根保証契約の保証人の主たる債務者に対する求償権についての保証契約(保証人が法人であるものを除く。)は、その効力を生じない。ただし、その求償権についての保証契約が根保証契約であるときは、この限りでない。
イ 保証人が法人である根保証契約であってその主たる債務の範囲に貸金等債務が含まれるものにおいて、元本確定期日の定めがないとき、又は元本確定期日の定め若しくはその変更が民法第465条の3第1項若しくは第3項の規定を適用するとすればその効力を生じないものであるときは、その根保証契約の保証人の主たる債務者に対する求償権についての保証契約(保証人が法人であるものを除く。)は、その効力を生じない。
(説明)
1 素案(2)(元本確定事由)について
(1) 素案(2)では、債権者が主たる債務者の財産について強制執行等を申し立てたとき(民法第465条の4第1号)を、個人根保証契約一般における元本確定事由とはしていない。これは、次の理由による。
貸金等債務を主たる債務の範囲に含まない個人根保証契約のうち実務上重要なものとして、賃貸借契約に基づく賃借人の債務を主たる債務とする個人根保証契約がある。このような保証契約では、債権者(賃貸人)は、賃貸借契約が継続している限り、主たる債務者(賃借人)の資産状態が悪化していると認識したとしても、原則としてその目的物を賃貸し続けなければならない。また、民法第465条の4が定める元本確定事由のうち債権者が主たる債務者の財産について強制執行等を申し立てたとき(同条第1号参照)は、根保証契約の主たる債務の範囲に含まれない債務に基づき債権者が強制執行等を申し立てたときも含むものであるが、債権者(賃貸人)は、主たる債務者(賃借人)が当該賃貸借契約と関係がない債務の弁済を怠っている場合に、その債務に基づき強制執行等を申し立てたとしても、賃貸借契約を解除することはできない。加えて、主たる債務者(賃借人)が債権者(賃貸人)に対する賃料の弁済を怠ったとしても、債権者(賃貸人)は、賃貸借契約を解除することができない場合がある(判例によれば、賃料の弁済を怠っていても、当事者間の信頼関係が破壊されていないなどの事情があるときは、賃貸借契約を解除することができないとされている。)。そうすると、債権者(賃貸人)が主たる債務者の財産について強制執行等を申し立てた後にその目的物を賃貸し続けていても、それは、定型的に見て、主たる債務者(賃借人)の資産状態の悪化を賃貸人が知りながら「あえて」行ったものとはいえず、その後に発生する賃料等の債務について債権者(賃貸人)が保証債務の履行を求めるのが衡平に反すると直ちにいうことはできない。同様のことは、一定の物の継続的売買契約によって生じた債務を主たる債務とする個人根保証契約において、当該売買契約によりその物を供給する義務が債権者(売主)に課されているような場合にも起こり得る。
そこで、債権者が主たる債務者の財産について強制執行等を申し立てたとき(民法第465条の4第1号)については、これを個人根保証契約一般における元本確定事由とはしていない。
なお、主たる債務者の財産に対する強制執行等の申立てを個人根保証契約一般における元本確定事由とした上で、賃貸借契約によって生ずる債務に関する個人根保証契約のみを例外(元本確定事由としない)とするという意見もあったが、賃貸借契約によって生ずる債務に関する個人根保証契約以外には同様の問題が生じないことを検証することが困難であることから、賃貸借契約によって生ずる債務に関する個人根保証契約のみを例外とするという方策は採らないこととした。
(2) 素案(2)では、主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたとき(民法第465条の4第2号)を、個人根保証契約一般における元本確定事由とはしていない。これは、次の理由による。
貸金等債務を主たる債務の範囲に含まない個人根保証契約として、賃貸借契約に基づく賃借人の債務を主たる債務とする個人根保証契約があるが、主たる債務者(賃借人)が破産手続開始の決定を受けたとしても、債権者(賃貸人)は、そのことを理由として賃貸借契約を解除することはできず、賃貸借契約が当然に終了することもない。
このため、主たる債務者(賃借人)が破産手続開始の決定を受けた後であっても、債権者(賃貸人)は、主たる債務者(賃借人)に対し、その目的物を賃貸し続けなければならず、それによって主たる債務も新たに生ずる。そうすると、主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたときを元本確定事由とすれば、保証人がいることを見込んで賃貸借契約を締結した債権者(賃借人)に保証人がないまま賃貸借の継続を強いることとなる。
そこで、民法第465条の4が定める元本確定事由のうち主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたとき(同条第2号参照)については、これを個人根保証契約一般における元本確定事由とはしていない。
なお、主たる債務者についての破産手続開始の決定を個人根保証契約一般における元本確定事由としつつ、賃貸借契約によって生ずる債務に関する個人根保証契約のうち居住用建物を目的物とする賃貸借契約によって生ずる債務に関するもののみを例外(元本確定事由としない)とするという意見もあるが、その目的物が居住用建物であるかどうかで区別する合理性についての十分な説明が困難であると思われる。賃貸借契約によって生じる債務に関する個人根保証契約のみを例外(元本確定事由としない)とする意見については、上記(1)と同様である。
(3) なお、保証人は、飽くまでも主たる債務者に着目して保証をしているのであり、保証人が主たる債務者の相続人の債務についてまで責任を負うことは予定していないというほかないから、主たる債務者が死亡したときについては、個人根保証契約一般においても元本確定事由とすることとしている。
2 素案(3)については、実質的な内容に変更はなく、わかりやすくするための修正を加えたものである。
6 保証人保護の方策の拡充
(1) 個人保証の制限
個人保証の制限について、次のような規律を設けるものとする。
ア 保証人が法人である場合を除き、事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約は、その契約の締結に先立ち、その締結の日前1箇月以内に作成された公正証書で保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ、その効力を生じない。
イ アの公正証書を作成するには、次に掲げる方式に従わなければならない。
(ア) 次に掲げる保証契約を締結し、保証人になろうとする者が、それぞれ次に定める事項を公証人に口授すること。
a 保証契約(bを除く。) 主たる債務の債権者及び債務者、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものの定めの有無及びその内容並びに当該主たる債務者が債務を履行しないときには、当該債務の全額について履行する意思(保証人になろうとする者が主たる債務者と連帯して債務を負担しようとするものである場合には、債権者が主たる債務者に対して催告をしたかどうか、主たる債務者がその債務を履行することができるかどうか又は他に保証人がいるかどうかにかかわらず、その全額について履行する意思)を有していること。
b 根保証契約 主たる債務の債権者及び債務者、主たる債務の範囲、保証契約における極度額、元本確定期日の有無及びその内容並びに当該主たる債務者がその債務を履行しないときには、極度額の限度で元本確定期日又は5(2)ア若しくはイに掲げる事由が生じた時までに生じた主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものの全額について履行する意思(保証人になろうとする者が主たる債務者と連帯して債務を負担しようとするものである場合には、債権者が主たる債務者に対して催告をしたかどうか、主たる債務者がその債務を履行することができるかどうか又は他に保証人がいるかどうかにかかわらず、その全額について履行する意思)を有していること。
(イ) 公証人が、保証人になろうとする者の口述を筆記し、これを保証人になろうとする者に読み聞かせ、又は閲覧させること。
(ウ) 保証人になろうとする者が、筆記の正確なことを承認した後、署名し、印を押すこと。ただし、保証人になろうとする者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
(エ) 公証人が、その証書は(ア)から(ウ)までに掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。
(注)保証人になろうとする者が口をきけない者である場合又は耳が聞こえない者である場合については、民法第969条の2を参考にして所要の手当をする。
ウ ア及びイの規定は、事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約の保証人の主たる債務者に対する求償権についての保証契約(保証人が法人であるものを除く。)に準用する。
エ 次に掲げる者が保証人である保証契約については、アからウまでの規定は、適用しない。
(ア) 主たる債務者が法人その他の団体である場合のその理事、取締役、執行役又はこれらに準ずる者
(イ) 主たる債務者が法人である場合のその総社員又は総株主の議決権の過半数を有する者
(ウ) 主たる債務者が個人である場合の主たる債務者と共同して事業を行う者又は主たる債務者が行う事業に現に従事している主たる債務者の配偶者
(説明)
1 素案イにつき、部会資料80−1第3、6では、「当該主たる債務者が債務を履行しないときには(保証人になろうとする者が主たる債務者と連帯して債務を負担しようとするものである場合には、主たる債務者がその債務を履行するかどうかにかかわらず、かつ、他に保証人がいるかどうかにかかわらず)、当該債務の全額について履行する意思を有していること。」などとしていたが、これでは、主たる債務者が主たる債務を履行したとしても保証人が責任を負うようにも読めてしまい、適当ではない。そこで、「保証人になろうとする者が主たる債務者と連帯して債務を負担しようとするものである場合には、債権者が主たる債務者に対して催告をしたかどうか、主たる債務者がその債務を履行することができるかどうか又は他に保証人がいるかどうかにかかわらず、その全額について履行する意思」などと表現を改めることとした。
2 素案エ(ウ)につき、部会資料80―1では「主たる債務者の配偶者(主たる債務者が行う事業に従事している者に限る。)」としていたが、実際に事業に従事している点をより明確にすべきである等の第92回会議における審議での指摘を踏まえ、表現を改めた。
(3) 保証人の請求による主たる債務の履行状況に関する情報提供義務
請求による履行状況の情報提供義務について、次のような規律を設けるものとする。
債権者は、委託を受けた保証人から請求があったときは、保証人に対し、遅滞なく、主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち履行期限が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならない。
(説明)
保証人に対する情報提供について、債権者が守秘義務の制約を免れる根拠となり得るものであることからすると、法人である保証人も併せてその対象とすべきであるとの第92回会議における審議での指摘を踏まえて、法人である保証人もその対象に含むこととした。
第19 債権譲渡
1 債権の譲渡性とその制限(民法第466条関係)
(1) 譲渡制限の意思表示の効力 民法第466条第2項の規律を次のように改めるものとする。 22
ア 当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示(以下この第19において「譲渡制限の意思表示」という。)をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない。
イ アに規定する場合において、譲渡制限の意思表示があることを知り、又は重大な過失によって知らなかった第三者に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことができるほか、譲渡人に対する弁済その他の当該債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる。
(説明)
部会資料82−1の案は、「民法第466条第1項の規定に反する意思表示」に素案イの効果を付与することとしていたが、以下の二点について改めることとした。
一点目は、従前の案のアの「民法第466条第1項の規定に反する意思表示」の内容が分かりにくいという問題があったので、「債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示」と改め、これに「譲渡制限の意思表示」という名称を付すこととした。単独行為によって発生する債権については、債務者の単独の意思表示によってすることができるので、「特約」という名称が適当ではない場合があることを考慮し、「譲渡制限特約」という名称とはしなかった。
二点目は、「悪意又は重大な過失」という文言を、その意味をより分かりやすくする観点から、「知り、又は重大な過失によって知らなかった」と改めている。
なお、以上の修正に伴い、第19、1の他の箇所にも形式的な所要の修正を加えている。
(3) 譲渡制限の意思表示が付された債権の債務者の供託
譲渡制限の意思表示が付された債権の債務者の供託について、次のような規律を設けるものとする。
(ア) 債務者は、金銭債権(金銭の給付を目的とする債権をいう。以下この(3)において同じ。)について譲渡制限の意思表示をした場合において、その金銭債権が譲渡されたときは、その譲渡された金銭債権の全額に相当する金銭を債務の履行地(債権者の現在の住所が債務の履行地である場合にあっては、譲渡人の現在の住所を含む。イにおいて同じ。)の供託所に供託することができる。
(イ) (ア)の規定により供託をした債務者は、遅滞なく、譲渡人及び債権者に供託の通知をしなければならない。
(ウ) (ア)の規定により供託をした金銭は、債権者に限り、還付を請求することができる。
イ ア(ア)に規定する場合において、譲渡人について破産手続開始の決定があったときは、(1)イの規定にかかわらず、債権者(その金銭債権の全額を譲り受けた者であって、その金銭債権の譲渡につき第三者に対抗することができるものに限る。)は、債務者にその金銭債権の全額に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託させることができる。この場合においては、ア(イ)及び(ウ)の規定を準用する。
(説明)
金銭債務は原則として持参債務となるため(民法第484条)、これについて弁済供託をするときは、債権者の現在の住所を管轄する供託所に供託をしなければならないところ(同法第495条第1項)、譲渡禁止特約付きの金銭債権が譲渡された場合に、債権者不確知を原因として供託するときは、被供託者である譲渡人と譲受人の住所のいずれを管轄する供託所に供託してもよいと解されている。このように解されている理由は、譲渡禁止特約付債権の譲渡が有効であるか否かが明らかではないため、譲渡人と譲受人の双方が「債権者」に該当する可能性があるからである。
今般の改正(第19、1(1))によれば、譲渡制限の意思表示が付された債権の譲渡は常に有効であるため、「債権者」は譲受人となる。したがって、従前の案によれば、譲渡人の現在の住所を管轄する供託所に供託することができないことになりかねないという問題があったが、債務者保護の観点からは、譲渡人の現在の住所を管轄する供託所における供託を可能とする必要がある。そこで、この点を明確化するために、今回の要綱仮案(案)では、素案アの債権者という文言の後に括弧書きを付すこととした。
(4) 譲渡制限の意思表示が付された債権の差押え
譲渡制限の意思表示が付された債権の差押えについて、次のような規律を設けるものとする。
ア (1)イの規定は、その債権に対して強制執行をした差押債権者に対しては適用しない。
イ アの規定にかかわらず、譲渡制限の意思表示があることを知り、又は重大な過失により知らなかった第三者の債権者によって、その債権に対して強制執行がされたときは、債務者は、その債務の履行を拒むことができるほか、譲渡人に対する弁済その他の当該債務を消滅させる事由をもって差押債権者に対抗することができる。
(説明)
改めて検討したところ、従前の案のアによれば、担保権者が差し押さえた場合にも、債権譲渡制限特約を対抗することができないこととなってしまうが、これでは、判例(最判昭和45年4月10日民集24巻4号240頁)の実質的な内容を明文化するものとはならず、内容としても適当ではないと考えられる。そこで、この要綱仮案(案)では、「債権に対して強制執行をした差押債権者」という限定をすることとした。
なお、素案イについては、素案アとの関係を明確化する観点から、「アの規定にかかわらず」という文言を加えることとした。
(5) 預金債権又は貯金債権に係る譲渡制限の意思表示の効力
預金債権又は貯金債権に係る譲渡制限の意思表示の効力について、次のような規律を設けるものとする。
ア 預金口座又は貯金口座に係る預金又は貯金に係る債権(以下「預貯金債権」という。)について譲渡制限の意思表示がされた場合において、そのことを知り、又は重大な過失によって知らなかった第三者がその債権を譲り受けたときは、(1)アの規定にかかわらず、債務者は、譲渡制限の意思表示をもってその第三者に対抗することができる。
イ アの規定は、その債権に対して強制執行をした差押債権者に対しては適用しない。
(説明)
「譲渡制限の意思表示」という用語を用いることとした点と、従前の「悪意又は重大な過失」を「知り、又は重大な過失によって知らなかった」と改めた点は、前記(1)の説明記載のとおりである。
また、「債権の譲渡は、その効力を有しない」という文言を「債務者は、譲渡制限の意思表示をもってその第三者に対抗することができる」と改めたのは、以下の理由に基づくものである。例えば、特定の者に対する譲渡を禁止する特約や、一定の条件を成就しない限り譲渡を禁止する特約がされている場合があり得るが、「債権の譲渡は、その効力を有しない」という表現では、これらの特約によって譲渡が禁止されない場合であっても、文理上その譲渡が無効となるように読めてしまうという問題がある。これに対して、譲渡制限の意思表示を対抗することができるとすれば、その意思表示の内容通りの効果を譲受人に主張することができると解することができるため、上記の問題は生じないと考えられる上、債務者の承諾を得ない譲渡を無効とする特約をしておけば、その特約違反の譲渡が無効であることを譲受人に対して対抗することができることになると考えられる。以上のように、この要綱仮案(案)での修正は、従前の案の実質的な内容をより適切に表現することを目的とするものである。
素案イは、(4)アとの平仄を合わせるための形式的な修正である。
第21 債務引受
1 併存的債務引受
(2) 併存的債務引受の引受人の抗弁等
併存的債務引受の効果について、次のような規律を設けるものとする。
ア 引受人は、併存的債務引受により負担する自己の債務について、その効力が生じた時に債務者が主張することができる抗弁をもって債権者に対抗することができる。
イ 債務者が債権者に対して取消権又は解除権を有するときは、引受人は、これらの権利の行使によって債務者がその債務の履行を免れる限度で、債権者に対して債務の履行を拒むことができる。
(説明)
従前の案のウの規定を設けることについては、民法第436条第2項と規定が重複しているという問題があった。そこで、この要綱仮案(案)では、これを削除することとしたが、実質的な規律内容を変更する趣旨ではない。
4 免責的債務引受による担保権等の移転
免責的債務引受による担保権等の移転について、次のような規律を設けるものとする。
(1) 債権者は、2(1)アの規定により債務者が免れる債務の担保として設定された担保権を引受人が負担する債務に移すことができる。ただし、引受人以外の者が担保を設定した場合には、その承諾を得なければならない。
(2) (1)の規定による担保権の移転は、あらかじめ又は同時に引受人に対してする意思表示によってしなければならない。
(3) (1)及び(2)の規定は、2(1)アの規定により債務者が免れる債務の保証をした者があるときについて準用する。
(4) (3)の場合において、保証人の承諾は、書面でしなければ、その効力を生じない。
(5) (3)の保証人の承諾がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その承諾は、書面によってされたものとみなして、(4)の規定を適用する。
(説明)
従前の案については、(1)で債権者が単独で担保を移転させることができるとしつつ、(3)では、担保を設定した第三者の承諾が必要であるとされていたが、第92回会議の審議において、要件が分断して規定されていることにより、実質的なルールを読み取りにくいとの指摘があったことを踏まえ、構成を改めている。民法第518条を参照して、従前の案の(3)を(1)ただし書として加えることとしたものである。
また、素案(2)については、免責的債務引受と同時にする意思表示でもよいという点を「あらかじめ」という表現から読み取ることが困難であるため、この要綱仮案(案)では、「あらかじめ又は同時に」と改めることとした。
第23 弁済
2 第三者の弁済(民法第474条第2項関係)
民法第474条第2項の規律を次のように改めるものとする。
(1) 弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、債権者が債務者の意思に反することを知らなかったときは、この限りでない。
(2) (1)に規定する第三者が弁済をすることができるときは、債権者は、その受領を拒むことができる。ただし、その第三者が債務者の委託を受けて弁済をする場合において、そのことを債権者が知ったときは、この限りでない。
(説明)
従前の案については、第92回会議の審議において、実質的なルールを読み取りにくいとの指摘があった。その原因の一つとしては、従前の案の(2)の「(1)に規定する第三者が弁済をすることができるときであっても」のうち、「であっても」という文言にどのような含意があるか不明確であるという点が挙げられると考えられる。そこで、今回の要綱仮案(案)では、「(1)に規定する第三者が弁済をすることができるときは」と改めることとした。
4 債務の履行の相手方(民法第478条・第480条関係)
(1) 債権者以外の者に対する弁済(民法第478条関係)
民法第478条の規律を次のように改めるものとする。
債権者、債権者が弁済を受領する権限を与えた第三者及び法令の規定により弁済を受領する権限を有する第三者(以下「受領権者」という。)以外の者であって取引上の社会通念に照らして受領権者と認められる外観を有するものに対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する。
(2) 民法第480条を削除するものとする。
(説明)
従前の案の(1)アと(1)イを分けて規定することについては、この要綱仮案(案)の全体のバランスを考慮すると、やや詳細すぎる規定を設けることになっているとの指摘がある。そこで、この要綱仮案(案)の(1)では、従前の案のアとイを一体的に規律することとした。
5 代物弁済(民法第482条関係)
民法第482条の規律を次のように改めるものとする。
弁済をすることができる者が、債権者との間で、その負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合において、債務者が当該他の給付をしたときは、その債権は、消滅する。
(説明)
従前の案では、「債務者が、債権者との間で、その負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約」をしたときであっても、(2)において、債権者が当初の給付をすることが妨げられないとされていたが、(2)について独立の規定を設けることについては、この要綱仮案の全体のバランスからしても、やや詳細すぎるとの指摘があり、また、そもそも従前の案の(2)の内容を明記するかどうかについては、これまでの部会の審議においても異論が見られたところである。以上の点を踏まえ、この要綱仮案(案)では、従前の案の(2)を削除することとした。
また、現行法の「弁済と同一の効力を生ずる」という文言を改めている点についても、これによって第三者も代物弁済をすることができるという現在確立している解釈を導くことを困難にしているという問題がある。そこで、この要綱仮案(案)では、「債務者」を「弁済をすることができる者」と改めることとした。
6 弁済の方法(民法第483条から第487条まで関係)
(1) 特定物の現状による引渡し(民法第483条関係)
民法第483条の規律を次のように改めるものとする。
債権の目的が特定物の引渡しである場合において、法律行為の性質又は当事者の意思によってその引渡しをすべき時の品質を定めることができないときは、弁済をする者は、その時の現状でその物を引き渡さなければならない
(2) 弁済の時間
弁済の時間について、次のような規律を設けるものとする。
法令又は慣習により取引時間の定めがある場合には、その取引時間内に限り、債務の履行をし、又はその履行の請求をすることができる。
(3) 受取証書の交付請求(民法第486条関係)
民法第486条の規律を次のように改めるものとする。
弁済をする者は、弁済と引換えに、弁済を受領する者に対して受取証書の交付を請求することができる。
(4) 預貯金口座への振込みによる弁済
預貯金口座への振込みによる弁済について、次のような規律を設けるものとする。
金銭の給付を目的とする債務について債権者の預金又は貯金の口座(以下「預貯金口座」という。)に対する払込みによってする弁済は、払い込んだ金銭の額について、債権者がその預金又は貯金に係る債権の債務者に対して払戻しを請求する権利を取得した時に、その効力を生ずる。
(説明)
1 素案(1)について
これまでの部会の審議において、引き渡すべき特定物の品質については、当事者間の合意によって常に定まるのであるから、民法第483条を存置する必要はなく、かつ、同条がこれまで特定物ドグマの根拠の一つとされることがあったことなどの理由に基づき、同条を削除することとされていた。これは、専ら特定物の売買を念頭に置いた議論であり、この点については概ね異論は見られない。
しかし、民法第483条は債権総則に置かれている規定であり、例えば、売買以外の契約に基づき特定物の引渡しをしなければならない場合や、不当利得返還請求権に基づき特定物の引渡しをしなければならない場合には、同条の適用の余地があるとの指摘がある。すなわち、例えば、不当利得返還請求権に基づき特定物の引渡しをする債務の内容については、従来、十分に議論がされてきたとは言い難いものの、同条によって、引渡しをすべき時点の現状で引き渡さなければならないということが債務の内容となるという解釈があり得る。この解釈を前提とすると、履行遅滞後の保管に関して善管注意義務を尽くしていたにもかかわらず生じた損耗等について債務者が責任を負うのは、同条が根拠となるが、同条を削除することでこの点についての解釈が不明確になり得るという問題があると考えられる。
そこで、この要綱仮案(案)では、民法第483条を削除するという従前の案を改め、上記の問題に対応する素案を提示している。もっとも、例えば売買契約において、引き渡すべき特定物の品質(契約の内容に適合した品質)について当事者間の合意の内容を認定することができるという考え方を前提とすれば、素案(1)の「法律行為の性質又は当事者の意思によってその引渡しをすべき時の品質を定めること」ができることになるので、この素案(1)の適用場面は実際上それほど広くないと考えられる。
2 素案(4)(従前の案(4)から(6)まで)について
従前の案の(4)に対しては、第92回会議において、預貯金口座に対する払込みによって弁済をすることができる場合の要件が広すぎるので、当事者間の合意があったときに限り、預貯金口座への払込みによって弁済をすることができる旨の規定に改めるべきであるとの意見があった。この点については、現段階で賛否が分かれていると見られ、規定を設けることは困難であると考えられるので、従前の案の(4)と(5)については削除し、どのような場合に預貯金口座への払込みによって弁済をすることができるかという点については、引き続き解釈に委ねることとした。素案(4)で従前の案の(6)を修正しているのは、この削除に伴う形式的な修正であり、実質的な内容を変更するものではない。
7 弁済の充当(民法第488条から第491条まで関係)
民法第488条から第491条までの規律を次のように改めるものとする。
(1) 次に掲げるいずれかの場合に該当し、かつ、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をした場合において、その者と債権者との間に弁済の充当の順序に関する合意があるときは、その順序に従い充当するものとする。
ア 債務者が同一の債権者に対して同種の給付を内容とする数個の債務を負担するとき(イに該当するときを除く。)。
イ 債務者が同一の債権者に対して同種の給付を内容とする一個又は数個の債務を負担する場合において、そのうち一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべきとき。
(2) (1)アに該当する場合において、(1)の合意がないときに適用される規定として、民法第488条及び第489条と同旨の規定を設ける。
(3) (1)イに該当する場合において、(1)の合意がないときに適用される規定として、民法第491条と同旨の規定を設ける。この場合において、その債務の費用、利息及び元本のうちいずれかの全部を消滅させるのに足りないときは、(2)の規律に従う。
(4) 一個の債務の弁済として数個の給付をすべき場合において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、(1)から(3)までの規定を準用する。
(説明)
弁済の充当に関する合意は、債務者以外の弁済をすることができる第三者もすることができると解されている。従前の案の「当事者間に弁済の充当の順序に関する合意があるとき」という文言では、上記の解釈を読み取ることが困難であるという問題があったことから、この要綱仮案(案)では、弁済をすることができる者と債権者との間の合意があれば、その合意によって充当される旨を明示することとした。
10 弁済による代位
(1) 任意代位及び法定代位(民法第499条・第500条関係)
民法第499条及び第500条の規律を次のように改めるものとする。
ア 債務者のために弁済をした者は、債権者に代位する。
イ 民法第467条の規定は、アの場合について準用する。
ウ 弁済をするについて正当な利益を有する者は、弁済によって当然に債権者に代位する。
(説明)
従前の案のイは、民法第499条第2項を実質的に維持するものであったが、「弁済をするについて正当な利益を有する者以外の者」という表現がやや分かりにくいという問題があった。そこで、この要綱仮案(案)では、素案イを同項と同様の規律に改めた上で、素案ウで同法第500条と同様の規律を新たに設けることによって、上記の分かりにくさを解消することとした。
(3) 法定代位者相互間の関係(民法第501条後段関係)
民法第501条後段の規律を次のように改めるものとする。
(2)アの場合には、(2)イの規定のほか、次に定めるところによる。
ア 第三取得者(債務者から担保の目的となっている財産を譲り受けた者に限る。イにおいて同じ。)は、保証人及び物上保証人に対して債権者に代位しない。
イ 第三取得者の一人は、各財産の価格に応じて、他の第三取得者に対して債権者に代位する。
ウ イの規定は、物上保証人の一人が他の物上保証人に対して債権者に代位する場合について準用する。
エ 保証人と物上保証人との間においては、その数に応じて、債権者に代位する。ただし、物上保証人が数人あるときは、保証人の負担部分を除いた残額について、各財産の価格に応じて、債権者に代位する。(民法第501条後段第5号と同文)
オ 物上保証人から担保の目的となっている財産を譲り受けた者は、物上保証人とみなして、ア、ウ及びエの規定を適用する。
(説明)
第95回会議においては、従前の案の(2)ウ(オ)の規律を設けることに対して反対する意見が複数あり、実務的にもこの規定をあえて設ける必要性は高いとはいえないとの意見があった。そこで、この要綱仮案(案)では、これを削除し、保証人と物上保証人を兼ねる者の取扱いについては、引き続き解釈に委ねることとした。
(5) 担保保存義務(民法第504条関係)
民法第504条の規律を次のように改めるものとする。
ア 債権者は、(1)ウの規定により代位をすることができる者のために、その担保を喪失し、又は減少させない義務を負う。
イ 債権者が故意又は過失によってアの義務に違反したときは、(1)ウの規定により代位をすることができる者は、代位をするに当たってその喪失又は減少によって償還を受けることができなくなる限度において、その責任を免れる。債権者が故意又は過失によってアの義務に違反した後に担保の目的となっている財産を譲り受けた第三者についても、同様とする。
ウ イの規定は、その担保を喪失し、又は減少させたことについて、取引上の社会通念に照らして合理的な理由があると認められるときは、適用しない。
(説明)
1 素案イ(従前の案の10(5))について
素案イの後段は、従前の案の10(5)の内容を規律するものである。従前の案は、(4)イと(5)との関係が分かりにくいという問題があったために、その関係を明確化するために、規定の位置を素案イ後段に移すこととした。
2 素案ウについて
素案ウは、従前の案のイただし書に相当するものである。従前の案のイただし書に対しては、第92回会議において、どのような場合にただし書に該当するのかを読み取ることが困難であるとの意見があったため、判例(最判平成7年6月23日民集49巻6号1737頁)を踏まえて、「取引上の社会通念に照らして合理的な理由があると認められるとき」に、免責の効果が生じないことを明記することとした。これは、表現の明確化を図るものであって、実質的な内容を変更する趣旨ではない。
第24 相殺
1 相殺禁止の意思表示(民法第505条第2項関係)
民法第505条第2項の規律を次のように改めるものとする。
前項の規定にかかわらず、当事者が相殺を禁止し、又は制限する旨の意思を表示した場合には、その意思表示は、第三者がこれを知っていたとき又は重大な過失により知らなかったときに限り、その第三者に対抗することができる。
(説明)
従前の案では、民法第505条第2項ただし書の改正案を提示していたが、第92回会議において、同項ただし書を改める場合には、同項本文も改める必要が生ずるので、同項全体の改正案を提示すべきであるとの意見があった。そこで、この要綱仮案(案)では、同項全体の改正案を提示することとした。
なお、民法第505条第2項の「反対の意思」の内容を明確化するために「相殺を禁止し、又は制限する旨の意思」と改めている。また、「悪意又は重大な過失」という文言についても、その意義を明確化するために、「知っていたとき又は重大な過失により知らなかったとき」と改めている。
2 不法行為債権を受働債権とする相殺の禁止(民法第509条関係)
民法第509条の規律を次のように改めるものとする。
次に掲げる債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。ただし、その債権者がその債務に係る債権を他人から取得したものであるときは、この限りでない。
(1) 悪意による不法行為に基づく損害賠償に係る債務
(2) 人の生命又は身体の侵害に基づく損害賠償に係る債務((1)に該当するものを除く。)
(説明)
従前の案では、(1)及び(2)のいずれに対しても、「債務者が債権者に対してした」という限定が付されていた。第92回会議においては、特に(2)についてこのような限定が付されていると、例えば、工作物責任(民法第717条)が生ずる場合における損害賠償債務が相殺禁止の対象とはならないことになってしまい、不当であるとの意見があった。そこで、この要綱仮案(案)では、人の生命又は身体の侵害に基づく損害賠償債務については、全て相殺禁止の対象とする趣旨で、「債務者が債権者に対してした」という文言を削除することとした。なお、(1)についても同様に、従前の「債務者が債権者に対してした」という文言を削除したが、工作物責任に基づく損害賠償債務については、「悪意による不法行為」とはいえないことから、今回の修正後も、引き続き相殺禁止の対象とはならないと考えられる。
また、この修正に伴い、債権者が(1)又は(2)に該当する損害賠償債権を他人から取得した場合には相殺禁止の対象とはならないことを明らかにするただし書を加えている。この場合には、現実の支払を受けさせることによる被害者保護などの相殺禁止の趣旨が当てはまらないことから、相殺禁止の対象から除外する必要があると考えられるからである。
3 支払の差止めを受けた債権を受働債権とする相殺(民法第511条関係)
民法第511条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできないが、差押え前に取得した債権による相殺をもって対抗することができる。
(2) (1)の規定にかかわらず、(1)の差押え後に取得した債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであるときは、第三債務者は、当該債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができる。ただし、差押え後に他人の債権を取得したものであるときは、この限りでない。
(説明)
従前の案の「この場合において」の用法について適切でないとの指摘があったことを踏まえ、表現ぶりを修正した。実質的な内容を変更するものではない。
第25 更改
1 更改の要件及び効果(民法第513条関係)
民法第513条の規律を次のように改めるものとする。
当事者が従前の債務に代えて、次に掲げるいずれかの新たな債務を成立させる契約をしたときは、従前の債務は、更改によって消滅する。
(1) 従前の給付の内容について重要な変更をしたもの
(2) 従前の債務者が第三者と交替したもの
(3) 従前の債権者が第三者と交替したもの
(説明)
従前の案の(1)によれば、給付の内容を変更すれば、更改意思があれば、更改が成立することとなっていたが、判例によれば、給付の内容を変更した場合であっても、別個のものと評価されない場合には、更改の成立が否定されると考えられており(大判大正5年2月24日民録22輯329頁、大判明治34年4月26日民録4巻87頁)、この考え方を表す必要があると考えられる。そこで、この要綱仮案(案)では、(1)に「重要な変更をした」という要件を加えることとした。
5 更改後の債務への担保の移転(民法第518条関係)
民法第518条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 債権者は、更改前の債務の目的の限度において、その債務の担保として設定された質権又は抵当権を更改後の債務に移すことができる。ただし、第三者がこれを設定した場合には、その承諾を得なければならない。
(2) (1)の質権又は抵当権の移転は、あらかじめ又は同時に更改の相手方に対してする意思表示によってしなければならない。
(説明)
従前の案については、第92回会議の審議において、部会資料80−1の第5の4の規律に対して、実質的なルールを読み取りにくいとの指摘があったことを踏まえ、これと平仄を合わせる観点から構成を改めている。民法第518条を参照して、従前の案の(3)を(1)ただし書として加えることとしたものである。
また、素案(2)については、更改と同時にする意思表示でもよいという点を「あらかじめ」という表現から読み取ることが困難であるため、この要綱仮案(案)では、「あらかじめ又は同時に」と改めることとした。
第26 契約に関する基本原則
2 履行の不能が契約成立時に生じていた場合
契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であった場合について、次のような規律を設けるものとする。
契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第11に従ってその債務の履行が不能であることによって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。
(説明)
部会資料80−1第10、2では、契約に基づく債務の履行がその契約の締結時に不能であったことが、その契約の効力の妨げとならない旨の規定を設けるという考え方が提示されていた。しかし、これに対しては、その契約の効力が妨げられないという消極的な規定ぶりによって、具体的にどのような法的効果が導かれるのかが明らかでないとの問題点の指摘がある。
そこで、ここでは、契約の効力が妨げられないことによって実現される最も代表的な法的効果として損害賠償を取り上げ、契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、その債務の履行が不能であることによって生じた損害の賠償を請求することを妨げないことを明記することとしている。
第27 契約の成立
2 承諾の期間の定めのある申込み(民法第521条第1項・第522条関係)
民法第521条第1項及び第522条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 承諾の期間を定めてした契約の申込みは、撤回することができない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない。
(2) 民法第522条を削除するものとする。
(説明)
部会資料81−1第3、2では、「ただし、申込者が反対の意思を表示したときは、この限りでない。」としていたが、その「反対の意思」の内容を明確にするために表現を修正している。
3 承諾の期間の定めのない申込み(民法第524条関係)
民法第524条の規律を次のように改めるものとする。
承諾の期間を定めないでした申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない。
(説明)
部会資料81−1第3、3では、「ただし、申込者が反対の意思を表示したときは、この限りでない。」としていたが、その「反対の意思」の内容を明確にするために表現を修正している。
4 対話者間における申込み
対話者間の申込みについて、次のような規律を設けるものとする。
(1) 承諾の期間を定めないで対話者に対してした申込みは、その対話が継続している間は、いつでも撤回することができる。
(2) 申込者が(1)の申込みに対して対話が継続している間に承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは、その効力を失う。ただし、申込者が対話の終了後もその申込みが効力を失わない旨を表示したときは、この限りでない。
(説明)
部会資料81−1第3、4では、「ただし、申込者が反対の意思を表示したときは、この限りでない。」としていたが、その「反対の意思」の内容を明確にするために表現を修正している。
5 申込者の死亡等(民法第525条関係)
民法第525条の規律を次のように改めるものとする。
申込者が申込みの通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失した常況にある者となり、又は行為能力の制限を受けた場合において、申込者がその事実が生じたとすればその申込みは効力を有しない旨の意思を表示したとき、又はその相手方が承諾の通知を発するまでにその事実が生じたことを知ったときは、その申込みは、その効力を有しない。
(説明)
部会資料81−1第3、5では「当該申込み」としていたのを、「その申込み」と修正しているが、実質的内容を変更した点はない。
7 懸賞広告
(1) 懸賞広告(民法第529条関係)
民法第529条の規律を次のように改めるものとする。
ある行為をした者に一定の報酬を与える旨を広告した者(以下この7において「懸賞広告者」という。)は、その行為をした者がその広告を知っていたか否かにかかわらず、その行為をした者に対してその報酬を与える義務を負う。
(2) 懸賞広告の効力
懸賞広告の効力について、次のような規律を設けるものとする。
ア 指定した行為をする期間を定めてした広告は、その期間内に指定した行為を完了する者がないときは、その効力を失う。
イ 指定した行為をする期間を定めないでした広告は、指定した行為の内容その他の事情を考慮して相当な期間内に指定した行為を完了する者がないときは、その効力を失う。
(3) 懸賞広告の撤回(民法第530条関係)
民法第530条の規律を次のように改めるものとする。
ア 懸賞広告者は、その指定した行為をする期間を定めた場合には、その広告を撤回することができない。ただし、その広告において撤回をすることができるものとしたときは、この限りでない。
イ 懸賞広告者は、その指定した行為をする期間を定めなかった場合には、その指定した行為を完了する者がない間は、その広告を撤回することができる。ただし、その広告中に撤回をしない旨を表示したときは、この限りでない。
ウ 広告の撤回は、前の広告と異なる方法によってした場合には、これを知った者に対してのみ、その効力を有する。
(説明)
小項目ごとに表題を付したほか、現行民法の用語に合わせて、本文中の懸賞広告を単に「広告」と呼ぶこととしている。
また、素案(3)アにつき、部会資料81−1第3、7は、「ただし、その広告中に反対の意思を表示したときは、この限りでない。」としていたが、その「反対の意思」の内容を明確にするために表現を修正している。
第28 定型約款
1 定型約款
定型約款の定義について、次のような規律を設けるものとする。
定型約款とは、相手方が不特定多数であって給付の内容が均一である取引その他の取引の内容の全部又は一部が画一的であることが当事者双方にとって合理的な取引(以下「定型取引」という。)において、契約の内容を補充することを目的として当該定型取引の当事者の一方により準備された条項の総体をいう。
(説明)
従前の案からの変更点は以下のとおりである。
(1) 定義語を「定型条項」から「定型約款」に変更した。ここでは「条項の総体」をいうものであるが、「定型条項」という用語は個別の条項を指す概念と誤解されるおそれがあることを考慮したものである。
(2) 定型約款の定義においては、その要件を@取引の内容の全部又は一部が画一的であることが両当事者にとって合理的であること、A契約の内容の補充を目的として作成されたものであることと整理している。
そして、@については、どのような場合が該当するかについて、その典型的なものとして、相手方が不特定多数であり給付が均一である場合を例示している。
「契約内容の補充」とは、後記2によって合意があったものとみなされて約款に記載された部分を含めて契約内容となることをいうものであり、いわゆる「組み入れ」に相当するものである。
従前の案とは表現を異にしているが、その趣旨に変更はなく、製品の原材料の供給契約等のような事業者間取引に用いられる契約書が定型約款に含まない点については同様である。すなわち、この種の取引は画一的であることが両当事者にとって合理的とまではいえないからである(なお、例えば、ある企業が一般に普及しているワープロ用のソフトウェアを購入する場合などは、事業者間の取引ではあるが、上記の要件を満たすので、その場合には、定型約款に当たる。)。
さらに、当該取引においては、通常の契約内容を十分に吟味し、交渉するのが通常であるといえる場合には、仮に当事者の一方によってあらかじめ契約書案が用意されていたとしても、それはいわゆるたたき台にすぎないが、このような場合には契約の内容はお互いに十分に認識することが前提であり、「契約の内容を補充する」目的があるとはいえない。
以上と類似するものとして、基本契約書に合意した上で行われる個別の売買取引などがある。このような取引においては、基本契約書で合意したところに従い、契約条件の詳細は定められていて、個々の発注時には対象物の品質、数量等のみを示して取引が行われることが少なくない。しかし、このような取引については、別途基本契約で内容を十分に認識して合意しているものであり、個別の発注時に基本契約書で定められた取引条件に拘束されるのは基本契約の効力によるものと解される。したがって、このような取引は「定型約款」による取引とはいえないものと解される。
なお、定型約款による取引は、交渉が行われず、相手方はそのまま受け入れて契約するか契約しないかの選択肢しかないといった特色を有するが、この点も従前と変更はない。もっとも、これは「交渉可能性の有無」そのものによって定型約款への該当性が定まることを意味しない。事実上の力関係等によって交渉可能性がないこともあるが、そういった場合であっても、プロ同士の取引であって、画一的であることが両当事者にとって合理的といえないのであれば、定型約款には当たらない。
(3) 部会資料81Bの1ただし書に記載した事項(当事者が異なる合意をした条項の扱い)については、解釈によっても当然に導くことができると考えられることから、明文の規定は設けないこととしている。
2 定型約款によって契約の内容が補充されるための要件等
定型約款によって契約の内容が補充されるための要件等について、次のような規律を設けるものとする。
(1) 定型取引の当事者は、定型約款によって契約の内容を補充することを合意した場合のほか、定型約款を準備した者(以下この第28において「定型約款準備者」という。)があらかじめ当該定型約款によって契約の内容が補充される旨を相手方に表示した場合において、定型取引合意(定型取引を行うことの合意をいう。以下同じ。)をしたときは、定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなす。
(注)旅客鉄道事業に係る旅客運送の取引その他の一定の取引については、定型約款準備者が当該定型約款によって契約の内容が補充されることをあらかじめ公表していたときも、当事者がその定型約款の個別の条項について合意をしたものとみなす旨の規律を民法とは別途に設けるものとする。【P】
(説明)
従前の案とは、従前の案のイについて後記の趣旨に基づき(注)を付した点を除けば、表現を変更しているものの、実質的な内容には変更がない。
新たに、「定型取引合意」、すなわち、当該取引を行おうとする合意という概念を設けているが、約款全体を了解して行う契約の意思とは異なるものである。例えば、インターネットで商品を買う場合には、どの店でどのような商品をいくらで購入するといったことについては意思の合致があるといえるが、契約条件の詳細は認識すらしていないことが想定される。このうちの前者の意思の合致を定型取引合意という。定型取引合意がある状態で約款による旨(定型約款によって契約の内容が補充される旨)が表示されていれば、素案2(1)により具体的な内容を認識していなくとも定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなされ、それが契約の内容となる。
なお、例えば、鉄道事業に係る旅客運送のように、あらかじめ定型約款によって契約の内容が補充される旨を相手方に表示していない場合であっても、その表示が困難であるという一定の取引については、定型約款によって契約の内容が補充されることを可能にするための規定を設ける必要性は高い。従前の案のイはこの必要性に対応するための規定であったが、このような個別の取引類型に着目した規定については、一般法である民法ではなく、個別法に設けることがふさわしいとの指摘がある。そこで、この要綱仮案(案)では、従前の案のイの内容の規律を個別法に設けることを前提に、従前の案のイを削除している(なお、関連法律の整備に関する事項であるため、【P】を付している。)。
(2) (1)の条項には、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、当該定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして民法第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものは、含まないものとする。
(説明)
従前の案においては、不当条項規制及び不意打ち条項規制を二つの異なる規律として設けることとしていたが、これを一本化することとしている。
民法第1条第2項(信義則)違反に該当するような条項でなければ、合意があったものとみなされて当事者を拘束するという点は部会資料81Bと変更はない。
定型約款については、その特有の考慮事情として、「定型取引の態様」が挙げられている。これは、契約の内容を具体的に認識しなくとも定型約款の個別の条項について合意をしたものとみなされるという定型約款の特殊性を考慮することとするものである。
この特殊性に鑑みれば、相手方にとって予測し難い条項が置かれている場合には、その内容を容易に知り得る措置を講じなければ、信義則に反することとなる蓋然性が高いことが導かれる(この限度で不意打ち条項に果たさせようとしていた機能はなお維持される。)。もっとも、これはその条項自体の当・不当の問題と総合考慮すべき事象であることから、このような観点は一考慮要素として位置づけることとした。
また、合意があったものとみなすとの構成を採ったことに鑑み、一定の条項を無効とするのではなく、みなしの対象となるべき条項から一定の条項を除外するとの構成(除外されなかった条項について合意があったものとみなす。)を採ることとしたものである。
3 定型約款の内容の開示義務
定型約款の内容の開示義務について、次のような規律を設けるものとする。
(1) 定型取引を行い、又は行おうとする定型約款準備者は、定型取引合意の前又は定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法で当該定型約款の内容を示さなければならない。ただし、定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していたときは、この限りでない。
(2) 定型約款準備者が、定型取引合意の前において、(1)の請求を拒んだときは、2の規定は、適用しない。ただし、一時的な通信障害が発生した場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。
(説明)
基本的に部会資料81Bと同様であるが、(2)については「認識することを妨げる目的で不正に応じなかった」との表現を改めており、定型約款準備者が請求を拒絶し、かつ、そのことについて正当な事由のない場合に限定するとの表現に改めている。
4 定型約款の変更
定型約款の変更について、次のような規律を設けるものとする。
(1) 定型約款準備者は、次のいずれかに該当するときは、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意をしたものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。ただし、定型約款にこの4の規定による定型約款の変更をすることができる旨が定められているときに限る。
ア 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。
イ 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、定型約款に変更に関する定めがある場合にはその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。
(2) 定型約款準備者は、(1)の規定による定型約款の変更をするときは、その効力の発生時期を定め、かつ、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びに当該発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない。
(3) 定型約款準備者は、(1)イの規定による定型約款の変更をするときは、(2)の時期が到来するまでに(2)による周知をしなければ、定型約款の変更は、その効力を生じない。
(説明)
1 基本的に部会資料81Bと同様である。
相手方にとって利益となる変更(4(1)アによる変更。以下「利益変更」という。)について、(1)ただし書の要件を設けないこととするかどうかについては、従前の案を維持している。多様な契約があり得ることに鑑みると、利益変更であるから当然に契約の変更を許容すべきものともいい難いこと、他方で、一般に定型約款に上記の意味での変更条項を定めておくことに困難が伴うともいい難いことから、利益変更についても(1)ただし書の要件が適用されることとしたものである。
また、この要件は、4の規定による定型約款の変更を行うものであるか否かを相手方に明示することに主たる意義があることから、そのように表現を改めている。
さらに、イの判断に当たっては、相手方に解除権を与えるなどの措置が講じられているか否かといった事情のほか、個別の同意を得ようとすることにどの程度の困難を伴うか(約款の変更による必要性)といった事情も考慮されるものである。
2 (2)及び(3)は従前の案において「相当な方法により周知」することとしていた点につき、利益変更とそれ以外の変更(4(1)イによる変更)とに区分し、規律をより詳細なものとしたものである。
なお、効力発生時期については、これを常に定めなければならないものとしているが、利益変更はともかく、それ以外の変更については周知が終了しなければ効力は発生しないこととしている。
3 以上に加え、約款の変更に関しては、既存の契約への適用関係をどのように整理するかが実務上重要であるとの指摘がある。経過措置に関しては、影響の大きな改正項目については改めてまとまった審議を行うべきものと考えられるが、少なくとも、約款の変更に関しては、次のような経過措置を設けることが必要になるものと考えられる。
すなわち、約款の変更に関しては、改正法施行前に締結した契約と改正法施行後の契約とで異なる規律に服することは合理性に乏しく、無用なコストを生ずることにもなりかねない。そこで、改正法施行前に締結した契約についても適用が可能なように措置する。加えて、4(1)ただし書の要件については、@(事業者の種別を問わず)利益変更、A顧客の数が極めて多数であり、継続的契約であるといった要件を満たす類型の契約(保険、預金取引など)については、4(1)ただし書の条項が定型約款に設けられていなくとも約款の変更を行うことができるようにする(例えば、4(1)ただし書の条項があるものとみなすなどの方法による。)必要があるものと考えられる。
第30 売買
2 売主の義務
売主の義務について、次のような規律を設けるものとする。
(1) 他人の権利(権利の一部が他人に属する場合における当該権利の一部を含む。)を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。
(2) 売主は、買主に対し、登記、登録その他の売買の目的である権利の移転を第三者に対抗するために必要な行為をする義務を負う。
(説明)
従前の案である部会資料81−1第5、2(1)(2)は、いわゆる契約責任説の立場から、売主には契約の内容に適合した物や権利の移転義務があることを明示するものであった。しかし、「3 売主の追完義務」において、特定物売買だとしても、引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、売主には修補義務があること等を明記していることから、従前の案における上記規定はこれと重複している旨の指摘がある。そこで、これらは取り上げないこととした。
素案(1)(2)は、部会資料81−1第5、2(3)(4)を維持するものである。
10 目的物の滅失又は損傷に関する危険の移転
危険の移転について、次のような規律を設けるものとする。
(1) 売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る。以下この10において同じ。)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が売主の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、買主は、その滅失又は損傷を理由とする履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において、買主は、代金の支払を拒むことができない。
(2) 売主が契約の内容に適合する目的物の引渡しを提供したにもかかわらず買主が受領しない場合において、その提供があった時以後に、その目的物が売主の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときも、(1)と同様とする。
(説明)
「目的物」という用語の使い方に関して、部会資料83−1第30(売買)における他の項目(同3、4及び7)では特定物、特定した種類物及び特定していない種類物がいずれも含まれる意味で使っているところ、ここでの「目的物」は、特定物と特定した種類物を意味するものであることから、単に「目的物」と書くのみでは、文言の使い方が不安定で適切でないとの指摘がある。そこで、この違いを明らかにするため、ここでは「目的物」の後にカッコ書きで「売買の目的として特定したものに限る。」との文言を付け加えることとした。また、目的物が売買の目的として特定しているものであることを明示することにより、従前の案である部会資料81−1第5、10(2)の「買主に引き渡すべきものとして引き続き特定されている」の部分が重複したものになることから、この部分を削除することとした。
11 買戻し(民法第579条ほか関係)
(1) 民法第579条の規律を次のように改めるものとする。
ア 不動産の売主は、売買契約と同時にした買戻しの特約により、買主が支払った代金及び契約の費用を返還して、売買の解除をすることができる(民法第579条前段と同文)。この場合において、売主が提供すべき金額について別段の合意があるときは、その合意に従う。
イ アの場合において、当事者が別段の意思を表示しなかったときは、不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなす。
(2) 民法第581条第1項の規律を次のように改めるものとする。
買戻しの特約を登記したときは、買戻しは、第三者に対しても、その効力を有する。
(説明)
買戻しの実行の場面における代金及び契約の費用の「提供」については、口頭の提供でも足りるとする判例があり、これを現実の提供に改めることについて必ずしも意見が一致しているものでもないことなどを踏まえ、民法第579条の「返還」を「現実に提供」に改めることは見送ることとした。
第31 贈与
2 贈与者の瑕疵担保責任(民法第551条関係)
民法第551条第1項の規律を次のように改めるものとする。
贈与者は、贈与の目的である物又は権利を、贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し、又は移転することを約したものと推定する。
(説明)
従前の案である部会資料81−1第6、2では「確定」という語を用いていたが、これは、上記第30、10の「特定」と同じ意味であり、このままでは同じ意味を表す語として「確定」と「特定」の語が混在することになる。民法第534条第2項では「確定」の語が使われているが、同条は今般の改正で削除することとしており、一般には「特定」の語が用いられていることから、「特定」の語で表現を統一することとした。
第32 消費貸借
1 消費貸借の成立等(民法第587条関係)
民法第587条に次の規律を付け加えるものとする。
(1) 民法第587条の規定にかかわらず、書面による消費貸借は、当事者の一方が金銭その他の物を引き渡すことを約し、相手方がその引渡しを受けた物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。
(2) 消費貸借がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その消費貸借は、書面によってされたものとみなして、(1)を適用する。
(3) (1)の消費貸借の借主は、貸主から金銭その他の物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。この場合において、当該契約の解除によって貸主に損害が生じたときは、貸主は、その損害の賠償を請求することができる。
(4) (1)の消費貸借は、借主が貸主から金銭その他の物を受け取る前に当事者の一方が破産手続開始の決定を受けたときは、その効力を失う。
(説明)
改めて検討したところ、従前の案である部会資料81−1第7、1(1)の「相手方がその物を受け取った後に…約する」との文言は、返還をする旨を約する時期が物を受け取った後であるかのような誤読のおそれがあることから、表現を修正したものである。規律の実質を変更するものではない。
第33 賃貸借
3 賃貸借の存続期間(民法第604条関係)
民法第604条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 賃貸借の存続期間は、50年を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、50年とする。
(2) 賃貸借の存続期間は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から50年を超えることができない。
(説明)
本論点は、現代社会においては20年を超える賃貸借を認めるニーズがあることから、民法第604条を削除するというものであった。しかし、これまでも部会において、あまりにも長期にわたる賃貸借は、目的物の所有権にとって過度な負担になる等の弊害が生ずる懸念があるとの指摘があり、改めて検討したところ、このような弊害に対しては公序良俗等の一般原則によっては十分な対応ができないおそれがあることから、何らかの存続期間の上限を設けるのが相当であると考えられた。そこで、民法第278条が物権である永小作権の存続期間の上限を50年と規定していること等を参照して、賃貸借の存続期間の上限を20年から50年に改めるものである。
5 合意による賃貸人たる地位の移転
賃貸人たる地位の移転について、次のような規律を設けるものとする。
不動産の譲渡人が賃貸人であるときは、その賃貸人たる地位は、賃借人の承諾を要しないで、譲渡人と譲受人との合意により、譲受人に移転させることができる。この場合においては、4(4)及び(5)の規定を準用する。
(説明)
改めて検討した結果、本論点は、第22の契約上の地位の移転の例外として、賃借人の承諾を要しないで、譲渡人と譲受人の合意により、賃貸人たる地位を移転させるものであることから、これを明らかにするため、「賃借人の承諾を要しないで」の文言を付け加えるものである。
11 転貸の効果(民法第613条関係)
民法第613条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人と転貸人との間の賃貸借に基づく債務の範囲を限度として、賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負う。
(2) (1)の場合において、転借人は、転貸借契約に定めた当期の賃料を前期の賃料の弁済期以前に支払ったことをもって賃貸人に対抗することができない。
(3) (1)及び(2)の規定は、賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することを妨げない。
(4) 賃借人が適法に賃借物を転貸した場合には、賃貸人は、転貸人との間の賃貸借を合意により解除したことをもって転借人に対抗することができない。ただし、当該解除の当時、転貸人の債務不履行により賃貸人と転貸人との間の賃貸借を解除することができたときは、この限りでない。
(説明)
従前の案である部会資料81−1第8、11(1)は、適法な転貸借における賃貸人の転借人に対する義務を定めるものであるが、改めて検討した結果、賃貸人が転貸借を承諾している以上、転借人の使用及び収益を妨げることができないことは当然に含意されているともいえ、規律を設ける意義が乏しいことや、実務的な観点からも規律を設ける特段の必要性が指摘されているわけではないことなどを考慮し、論点として取り上げないこととした。
素案(1)から(4)までは、部会資料81−1第8、11(2)から(5)までを維持するものである。
第34 使用貸借
3 使用貸借の解除(民法第597条関係)
民法第597条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 次に掲げる場合には、貸主は、契約の解除をすることができる。
ア 借主がまだ目的物を受け取っていないとき。ただし、書面による使用貸借については、この限りでない。
イ 2(2)に規定する場合において、2(2)の目的に従い借主が使用及び収益をするのに足りる期間を経過したとき。
(2) 当事者が使用貸借の期間並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも契約の解除をすることができる。
(3) 借主は、いつでも契約の解除をすることができる。
(説明)
改めて検討したところ、従前の案である部会資料81−1第9、3(1)のうち、アイは要件を満たしているときに貸主が解除することができることを定めるものであるが、ウは貸主がいつでも解除することができることを定めるものであり、アイとウを同列に扱うことは適切でないと考えられた。そこで、ウを別項目として素案(2)とし、民法第597条第3項の「いつでも」の文言を付加することとした。規律の実質を変更するものではない。
第35 請負
1 仕事を完成することができなくなった場合等の報酬請求権
仕事を完成することができなくなった場合等の報酬請求権について、次のような規律を設けるものとする。
注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなった場合又は仕事の完成前に請負が解除された場合において、既にした仕事の結果のうち、可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の限度において、報酬を請求することができる。
(説明)
現在の案に対しては、第94回会議において、当事者が報酬とは別に費用を支払う旨の合意をした場合に、既にした仕事のうち可分かつ注文者が利益を受ける部分に対応する費用を請求することができないと解釈されるおそれがあることから、民法第642条第1項と同様に「報酬及びその中に含まれていない費用」と記載すべきであるとの指摘があった。もっとも、同項における「報酬及びその中に含まれていない費用」の意義は必ずしも明らかではなく、未履行部分について既に支出した費用が含まれるとの解釈もあり得ると考えられる。そうすると、同項により請求し得るものと、この規律によって請求し得るものとは範囲が異なる可能性があることから、同項と同じ文言を用いることは必ずしも適切ではないと思われる。そこで、現在の案を維持し、当事者が報酬とは別に費用を支払う旨の合意をした場合における費用の扱いについては解釈に委ねることとしている。
2 仕事の目的物が契約の内容に適合しない場合の請負人の責任
(1) 仕事の目的物が契約の内容に適合しない場合の修補請求権(民法第634条第1項関係)
民法第634条第1項の規律を次のように改めるものとする。
仕事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないものであるときは、注文者は、請負人に対し、相当の期間を定めて、目的物の修補を請求することができる。
(説明)
第95回会議において、民法第634条第1項の改正に伴い、同条第2項を削除すべきとの意見があったのに対し、同項を削除する必要はないとの意見もあった。仕事の目的物が契約の内容に適合しない場合の請負人の責任に関する規定をどのように整理するかという問題は、同項を現行法のまま維持すべきか否かという点のみならず、同条第1項及び同法第636条についても検討する必要があると思われる。この問題については、要綱仮案の取りまとめ後、条文化の段階で引き続き検討することとしたい。
なお、第95回会議での指摘を踏まえ、標題を修正した。
(3) 仕事の目的物が契約の内容に適合しない場合の注文者の権利の期間制限(民法第637条関係)
民法第637条の規律を次のように改めるものとする。
請負人が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物を注文者に引き渡した場合(引渡しを要しない場合にあっては、仕事が終了した時に目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合)において、注文者がその不適合の事実を知った時から1年以内に当該事実を請負人に通知しないときは、注文者は、その不適合を理由とする修補の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、請負人が引渡しの時(引渡しを要しない場合にあっては、仕事が終了した時)に目的物が契約の内容に適合しないものであることを知っていたとき又は知らなかったことにつき重大な過失があったときは、この限りでない。
(説明)
従前の案である部会資料82−1、第35、2の(3)では、「代金の減額の請求」という言葉を用いていたが、第95回会議において、請負においては仕事の結果に対して注文者が請負人に支払うべき対価は「報酬」と表現するのが適切ではないかとの指摘があった。これを踏まえ、「代金」を「報酬」と改めた。
第36 委任
2 報酬に関する規律
(2) 委任事務を処理することができなくなった場合等の報酬請求権(民法第648条第3項関係)
民法第648条第3項の規律を次のように改めるものとする。
ア 委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務を処理することができなくなったとき又は委任が履行の中途で終了したときは、受任者は、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。
イ 2(1)に規定する場合において、委任者の責めに帰することができない事由によって成果を得ることができなくなったとき又は成果を得る前に委任が終了したときは、既にした委任事務の処理による結果のうち、可分な部分の給付によって委任者が利益を受けるときに限り、その部分を得られた成果とみなす。この場合において、受任者は、委任者が受ける利益の限度において、報酬を請求することができる。
(説明)
従前の案である部会資料82−1、第36、2の(2)イでは、成果を得ることができなくなったとき又は成果を得る前に委任が終了したときに、その時点までに履行した委任事務処理の結果を「既にした委任事務の処理による成果」と表現していたが、請負に関する部会資料83−1、第35、1の規律と平仄を合わせ、より適切な表現とする観点から、「既にした委任事務の処理による結果」と改めた。
3 委任契約の任意解除権(民法第651条関係)
民法第651条第2項の規律を次のように改めるものとする。
民法第651条第1項の規定による委任の解除が次のいずれかに該当するときは、その解除をした者は、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。
(1) 当事者の一方が相手方に不利な時期に委任を解除したとき。
(2) 委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任を解除したとき。
(説明)
従前の案である部会資料82−1、第36、3では、この規律によって請求することのできる損害の範囲を明確にする趣旨で、得ることができなくなった報酬を損害から除く旨を括弧書きで記載していた。もっとも、第95回会議において、得ることができなくなった報酬が損害と認められる場合もあり得るという解釈を封ずるべきではないとの指摘があった。これを踏まえ、今回の要綱仮案(案)では括弧書きを削除し、現行の民法第651条第2項と同様に「損害」とのみ記載している。
第37 雇用
1 報酬に関する規律(労働に従事することができなくなった場合等の報酬請求権)
労働に従事することができなくなった場合等の報酬請求権について、次のような規律を設けるものとする。
使用者の責めに帰することができない事由によって労働に従事することができなくなったとき又は雇用が履行の中途で終了したときは、労働者は、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。
(説明)
現在の案に対しては、第94回及び第95回会議において、民法第536条第2項を実質的に維持する規律を設け、報酬請求権の根拠を明確にすべきであるとの意見があった。もっとも、そのような規律を雇用の箇所にのみ設けた場合には、請負及び委任における報酬請求権の規律との均衡を失し、請負及び委任についての同項の適用の有無をめぐって解釈上の疑義を生ずるおそれがあると考えられる。第95回会議では、同項による報酬請求が妨げられない旨を、同法第624条第1項にただし書で付け加えるという考え方もあり得るとの指摘があった。もっとも、この考え方に対しても、請負及び委任における報酬請求権についての解釈を不明確にするおそれがあるとの指摘があり得ると思われる。役務提供型契約が多様化し、請負、委任、雇用の区別が不明確な場合もあり得ることからすれば、これらの契約における報酬に関する規律はできる限り統一的であるべきであり、雇用についてのみ報酬請求権の発生根拠となる規定を設けるという考え方は必ずしも望ましい方向性ではないと考えられる。そこで、現在の案を維持している。
第38 寄託
1 寄託契約の成立(民法第657条関係)
(2) 寄託者の解除権
寄託者の解除権について、次のような規律を設けるものとする。
寄託者は、受寄者が寄託物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。この場合において、当該契約の解除によって受寄者に損害が生じたときは、受寄者は、その損害の賠償を請求することができる。
(説明)
第94回会議における審議の結果を踏まえ、消費貸借における同趣旨の規律(第32の1(3)参照)と同様の表現に改めている。
5 寄託者による返還請求(民法第662条関係)
民法第662条の規律を次のように改めるものとする。
当事者が寄託物の返還の時期を定めたときであっても、寄託者は、いつでもその返還を請求することができる。この場合において、寄託者がその時期の前に返還を請求したことによって受寄者に損害が生じたときは、受寄者は、その損害の賠償を請求することができる。
(説明)
第94回会議における審議の結果を踏まえ、消費貸借における同趣旨の規律(第32の6参照)と同様の表現に改めている。
7 消費寄託
(2) 民法第590条及び第592条の規定は、(1)の場合について準用する。
(3) 民法第591条第2項(第32の6参照)の規定は、預金又は貯金に係る契約により金銭を寄託した場合について準用する。
(説明)
素案(2)については、成立における要物性に関する見直しが行われた後の寄託の条文(第38の1(1)参照)を適用するため、消費貸借の成立に関する民法第588条を準用の対象から除いている。規律の実質を変更するものではない。
素案(3)については、従前の案である部会資料81−1第13の7(3)の実質が民法第666条第1項において準用される同法第591条第2項の規律を維持するものであったことから、これを明示する表現に改めている。