トップ サービス 相談室 法律無料相談会 TOPIX サイトマップ
経営法務・市民法務相談所 無料相談会 相続相談室 貴方の暮らしを守る【契約で騙されないための防犯対策】 会社法務相談室

裁判事例

最高裁平成24年9月13日判決−定期借家契約締結には、契約書とは別個独立の定期借家に関する書面の交付が必要と判断した事例
  借地借家法(以下、法)38条2項では、定期建物賃貸借(いわゆる定期借家、以下、同)契約を締結するとき、賃貸人は、あらかじめ賃借人に対して、契約更新がなく、期間満了により当該建物の賃貸借が終了することについて、その旨を記した書面を交付して説明すると定めている。
本件は、この書面につき契約書と別個独立の書面である必要性を認め、契約締結に至る経緯や、賃借人の認識の有無・程度といった個別具体的事情を考慮することなく、形式的、具体的に取り扱うことが相当として、賃借人が定期借家と認識していても、かかる書面交付がないことを理由に、定期借家に当たらないとした事例である。
東京高裁平成22年9月22日判決―結婚相手紹介サービス契約に関し、書面不備があったことから、退会後のクーリング・オフを認めた事例
  本件は、結婚相手紹介サービス契約について、交付書面に不備があったことから、消費者が退会後にクーリング・オフを主張したケースにおいて、特定商取引法(以下「特商法」)で定められた特定継続的役務以外のお見合いツアー、成婚ツアー等も一体の契約であることを理由として、契約全体のクーリング・オフを有効と認め、契約金全額の返還を命じた事例である。
東京高裁平成24年5月24日判決―債権者の説明により建物の担保価値を誤解して締結した連帯保証契約に錯誤無効を認めた事例
  本件は、銀行が主債務者に建物購入資金を融資するにあたり、主債務者の兄が連帯保証契約締結に応じたのは、銀行の担当者から、本件借入金により購入しようとしている建物について実際の価値に比べ相当高いものと説明され、これを信じたためであるから、本件連帯保証契約締結においては錯誤があるとして、契約の無効を主張した事案である。
裁判所は、連帯保証人には動機の錯誤があったとしたうえで、この錯誤は銀行の担当者の説明によりもたらされたものであり、本件では動機の表示があったものと認められるとして、保証契約の錯誤無効を認めた。
東京地裁平成23年12月1日判決―インターネットによるパック旅行販売の価格誤表示と契約の成否
  本件は、旅行業者がウェブサイト上で、誤って通常価格よりかなり安い価格を表示してパック旅行募集を行っていたところ、これに申し込んだ顧客に対し、旅行業者が一度は誤表示価格での契約の成立を認めるメールを送信したにもかかわらず、後に旅行業者が誤表示価格での代金受け取りおよび旅行参加を拒否したため、顧客は旅行業者が旅行に参加させる義務を怠ったとして、債務不履行に基づく損害賠償を請求した事例である。
裁判所は、旅行業者と顧客の間には予約契約が成立しており、顧客がクレジットカード情報を通知した時点で本契約が成立しているとして、旅行業者の債務不履行責任を認めた。
東京高裁平成22年1月27日判決―結婚相手紹介サービス業者の不実告知と元取締役の不法行為責任
  結婚相手紹介サービス会社の会員となった女性が、男性会員を紹介してもらう契約を締結し、契約金約90万円を支払ったが、契約締結の勧誘の際、担当の従業員が男性会員数を実際の約3倍ほど多く伝えたことは不実告知であり、従業員に対し当該不実告知を行うよう指揮・監督をしていた契約当時の取締役の行為は、不法行為を構成するとして、損害賠償を請求した事例である。
裁判所は、従業員が本件契約の締結を勧誘するに当たり、男性会員数を実際より多く伝えたことは、本件契約締結の判断に影響を及ぼす重要な事項につき、不実告知をしたものであると認定し、当該指導を行った結婚相手紹介サービス業の当時の取締役の不法行為責任を認めた。
最高裁平成23年7月15日判決―建物賃貸借契約における更新料条項を有効とした事例
  居住用建物の賃借人が、賃貸借契約における定額補修分担金条項および更新料条項は消費者契約法10条に違反するため無効であるとして、賃貸人に対し、支払い済みの更新料等の返還を請求した事案である。
裁判所は、賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条の後段要件(「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」)に該当しないとし、上記特段の事情が存するとはいえないとして、賃借人の請求を認めなかった。
大阪地裁平成23年3月23日判決―ドロップシッピングが特商法の業務提供誘引販売に該当するとして解除および原状回復を認めた事例
  ドロップシッピングの一形態であるインターネットショッピング運営支援事業を展開するYと当該事業の利用契約を締結したXらが、特定商取引に関する法律(以下「特商法」)によるクーリング・オフをしたとして、契約解除に基づく原状回復を請求した事案である。
裁判所は、いわゆるドロップシッピングは、特商法51条1項の業務提供誘引販売に該当するとしてクーリング・オフを認めたうえ、ドロップシッピングを利用して商品を販売した利益について原状回復請求権から損益相殺をすべきでないとして、Xらの請求を全額認めた。
札幌地裁平成20年8月28日判決―携帯電話の未成年者契約につき、法定代理人の同意に錯誤があったとして未成年者取消しを認めた事例
  未成年者の携帯電話利用契約締結に際し、利用額上限を設定できる料金プランであるとの説明のもと、法定代理人が同意したが、現実には契約者による上限額変更が可能であったため、未成年者が増額して利用し、2カ月分約19万円の利用料金を電話会社が請求した事案である。
裁判所は、法定代理人による上限額を超える部分の同意につき錯誤無効を認め、未成年者取消しを認めつつも、未成年者に現存利益があること、親権者が監護義務を尽くしたとはいえないこと等を理由に、限度額を超える利用額の3割の支払いを命じた。
東京高判平23・12・7―違法な勧誘行為
  Y社の従業員は、ファンドのしくみの詳細やリスクについて説明をすることなく、「年2回の配当があり、絶対に儲かる。年金のようなものだ」と確実に利益が上がり、リスクがないかのような説明をして勧誘を行っていた。本判決は、「出資者から集められた金員が外国債券の購入などによって運用されている事実自体確証がなく、……Xが出資した本件各フアンドは、預け資金の流れもリスクの具体的な内容も明らかでない金融商品まがいの商品であると断ぜざるを得ない」として、Yの不法行為責任を認めた〔上告〕。
大阪地判平24・11・12―賃貸借契約条項の差止め
  X(適格消費者団体)は、不動産事業者Yに対して、Yが消費者との間で締結する建物賃貸借契約の条項は消費者契約法に違反するとして、該当する条項の使用差止めを求めた。7つの条項が争われているが、本欄では、解除条項に絞って紹介する(解除条項以外は、消費者契約法に違反しないとされた)。Yの使用する契約条項には、貸借人が「解散、破産、民事再生、会社整理、会社更生、競売、仮差押、仮処分、強制執行〔以上、@〕、成年被後見人、被保佐人〔以上、A〕の宣告や申し立てを受けたとき」にYは直ちに契約を解除できると規定されていた。
本判決は、@の部分は「貸借人の支払不能状態、経済的破綻を徴表する事由であり、賃貸借契約当事者間の信頼関係を破壊する程度の賃料債務の履行遅滞が確実視される事由」であるとして、消費者契約法10条後段に該当しないと判断した。
これに対して、Aの部分は「貸借人の資力とは無関係な事由であり、申立てによって財産の管理が行われることになるから、むしろ、賃料債務の履行が確保される事由」であるとして、同法10条後段に該当するとした。結論として、Aの部分について、同法12条3項に基づく差止めが認められた〔控訴〕。
東京高判平24・10・25―保険約款条項と10条後段該当性
  本件は、保険約款条項と消費者契約法10条後段該当性が争われた最二小判平24・3・16の差戻審判決である。保険料不払いの際、履行の催告(民法541条)なしに保険契約が失効する旨を定めた条項の効力につき、最高裁判所は、「本件約款において、保険契約者が保険料の不払をした場合にも、その権利保護を図るために一定の配慮をした…定めが置かれていることに加え、上告人〔保険会社〕において上記のような運用を確実にした上で本件約款を適用していることが認められるのであれば、本件失効条項は信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものに当たらない」と判示している。
本判決は、保険料払込督促の態勢および実務上の運用について具体的事実を認定したうえで、「未払保険料督促事務は、……契約の失効を防ぐシステムとして確実に運用されている」とした。
未払保険料が発生した場合の督促の態勢の整備および実務上の運用の確実性については、「保険契約者が保険料支払債務の不履行があったことに気付くことができる程度に整えられ、かつ、確実に運用されることをもって足りる」と述ベ、保険契約者の主張ごとに検討をしている。たとえば、普通郵便で送付された未納通知書の到達を確実にする態勢がとられていないとの主張に対し、「未納通知書が保険契約者に到達したことを確認していないからといって、被控訴人〔保険会社〕が採用する督促の態勢に不備があり、あるいは、確実に運用されていないとすることはできない」としている。これらの検討の結果、「保険契約者が保険料の支払を怠った場合についてその権利保護のために配慮がされている上、保験料の払込みの督促を行う態勢が整えられており、かつ、その実務上の運用が確実にされていたとみることができる」と述ベて、消費者契約法10条後段により無効とはならないと判断した〔上告・上告受理申立て〕。
京都地判平24・11・20―解約金支払条項と9条1号・10条
  近時、携帯電話利用サービス契約において解約金を支払う旨の条項が消費者契約法9条1号・10条に反するのかが争われている。本判決は、解約されることにより通信事業者に生じる逸失利益に平均解約期間と契約期間である2年間との差の期間を乗じた金額を平均的損害としたうえで、諸費用を考慮に入れて算出した結果、平均的損害は解約金を上回るとして、9条1号に反しないと判断した。また、サービス利用者は、解除金条項の存在を認識したうえで、経済的合理性等を考慮して当該契約を霹択しており、通信事業者が当該契約を押し付けたとはいえないとして10条にも反しないと判断した〔控訴〕。
東京地判平24・9・7―家賃滞納による迫い出し
  本件は、賃借人Xの家賃滞納を理由として、賃料の保証人であるY社が、管理会社とともにX居室に立ち入り、X所有の物品を処分したという事案である。YがXのために代位弁済した賃料が5カ月分累積した際に、早急に連絡すること、指定期日までに連絡のない場合には室内残留物等の所有権を放棄したものと判断し処分することを記載した書面をX居室ドアの内側に貼った(なお、この立入り時にYが室内の状況を確認したところ、大量のごみ袋が放置され、冷蔵庫の内部では虫がわいており、犬が1頭峯内に放置されている状態であった)。1週間待っても書面に対する応答がなかったため、Yは、X所有の物品を搬出し処分した。
このような状況のもと、Yは、物品の搬出および処分は必要やむを得ない自力救済として違法性を欠くと主張した。本判決は、Yは「Xに対し、代位弁済に係る求債権を行使することはできても、本件居室からの退去、明渡しを求めることができる立場にあるわけではない。そうすると、実力をもってXの占有を排除する行為は、そもそも、Yの権利を実現するものではなく、この点で、およそ『自力救済』といえるものですらない」としてYの不法行為責任を認めた。また、この当時、追出行為が社会的に問題になっており、この対策の強化がなされている状況のもとでは、賃借人の占有排除を行うような業務執行については、特に慎重な法令遵守が求められていたとして、Y代表取締役の任務解怠責任(会社法429条1項)も認められた。追出行為の違法性を認めただけではなく、会社代表者の責任を認めた判決。
大阪地判平23・8・31―暴力団員であることを理由とした契約解除
  本件は、Y社の運営するホテルで結婚式および披露宴を行う契約をしたX夫婦が、Yから一方的に契約を解除され、予定どおりに結婚式および披露宴を行うことができなかったとして、損害賠償を請求した事案である。契約解除に至った経緯として、@本件契約締結後、当該ホテルで食中毒事件が発生した際、X1(夫)が食中毒について不安を強調して大幅な値引要求をしたこと、AそのためYが違和感を覚え警察に相談したところ、X1が暴力団組員であると告げられたこと、BY内部で検討した結果、反社会的団体員のホテル利用を断ることができる旨を定めた規約条項を根拠として本件契約を解除したことが認定されている。
本判決は、「X1は本件契約の締結時及ぴ解除時において暴力団員であったと推認できるから、Yが、Xに対し、本件規約条項に基づいて契約解除の意思表示をし、本件契約上の債務を履行しなかったことに違法性はな」いとして、Xの請求を棄却した〔確定〕。
大阪地判平24・6・7―英会話受講料相当額の損害賠償贖求
  Xは、A社が経営していた英会話学校の受講生であったが、Aの経営破綻によって、受講することができず、また、受講料の返還を受けることもできなかった。そこで、Y(Aの元代表取締役等)に対し、@財政破綻状態を隠匿したうえで、Xに受講契約を締結させた、A莫大な広告宣伝費をかけたり無謀な新規教峯を開設したりして、会社財産を流失させた(資金流出回避義務違反)、B法令を遵守して経営を行う義務を負っているにもかかわらず、法令に違反する経営を行った結果、会社の信用が毀損され倒産に至った(倒産回避・遵法経営義務違反)として、不法行為等に基づき受講料相当額の損害賠償を請求した。なお、最三小判平19・4・3は、Aが定めている受講料の清算に関する規定について、特定商取引に関する法律49条2項1号に定める額を超える額の金銭の支払いを求めるもので無効であるとしている。
本判決は、@の主張に対して、「Aが平成18年3月末決算期まで引当金を計上しなかったこと及び同決算期以降の引当金の額は、……企業会計原則に反するものとまでは認められない」として、Yが「債務超過、財政破綻状態を隠匿したとはいえない」と判断した。Aの主張に対して、「小学校における外国語教育の重要性が指摘され、その実施が予想されていた」ことや、「広告宣伝費は、売上高の約15パーセント程度である」ことから、需要の増加を予想したことは不相当ではなく、広告宣伝費の支出や教室数の拡大は、著しく不合理な経営判断とまではいえないと判断した。Bの主張に対して、「解約清算金の算定方法について、消費者団体から改善要望が来たり、下級審の裁判所においてAが敗訴していた事案があったのだから、対処することが望ましくはあったといえる。
しかしながら、下級審の判断は上級審で覆される可能性もある判断であることからすると、最高裁判所の判断が出るまでは、解約清算金の算定方法を変更しなかったとしても、法令を遵守しなかったとはいえない」と指摘し、Aは経済産業省による行政処分前に業務改善計画書を提出し、現に改善を図っていたことも考慮して、Yに倒産回避義務違反および法令遵守義務違反はなかったと判断した。結論として、Xの各主張は全て退けられた〔控訴〕。
札幌地判平24・6・7―受寄者の義務違反
  本件は、ワインを寄託したXが、倉庫業者Yの温度や湿度の管理が不十分であったためワインの品質が損なわれたとして、損害賠償を請求した事案である。本件寄託契約においては、ワインセラー内を温度14度前後、湿度75%前後に保つことが明示されていた。
本判決は、「保管している段ボールが水気を含んで変形している状況は、湿度75%前後での湿度管理を表明していることと整合するとはいえず、また、温度についでは、……10度位まで下がった可能性がある本件では、14度前後で管理すると表明していることと整合しないのであって、……Yには、定温・定湿義務違反があった」と判断して、保管料相当額の賠償を命じた。しかし、本件ワインについでは、そのうま味・風味がどのように変化したかについては判然とせず、Yに「上記の定温・定湿義務違反があったとしても、上記の義務違反によって、本件ワインが毀損したと認められない」と判断して、ワイン自体の損害は認めなかった〔確定〕。
熊本地判平24・7・20―登山ツアー中の事故
  Aは、Yが主催した北アルプスの登山ツアーに参加していたところ、強風と吹雪にさらされて低体温症により死亡した。そこで、X(Aの相続人)は、Yに対して損害賠償を請求した。本判決は、「Yは、プロの登山ガイドとして高度の注意義務を負って」おり、@事前情報収集義務(台風の北上に伴い冬型の気圧配置となる可能性があるかどうか事前に情報を収集すぺき義務)とA催行検討義務(収集した情報を検討し、悪天候が予見される場合には、登山中止等の適切な処置をすベき義務)を負っていたと判断した。そのうえで、Yは気象情報の収集を怠り、その結果、催行検討義務を履行することができなかったとして、上記@とAの義務違反を認めた。
また、Yは、登山の危険性をAも認識していたとして、賠償額の減額を求めた。しかし、本判決は、「ツアー客が自ら天候に関する情報を収集し、天候を予測して催行を検討すべきものとはいえない」と述ベて、Yの主張を退けた。結論として、Yの不法行為責任が認められた〔控訴〕。
東京地判平24・7・26―動機の錯誤(陶磁器・絵画の売買)(10条)
  Xは、Y(美術品販売会社の代表者)から市場価値のない陶磁器や絵画を買わされたと主張して、損害賠償を請求した。本件売買に先立ち、Yは、日本有数の美術コレク夕-のコレクションから格安で陶磁器が手に入るとXに説明していた。
Xは、その美術コレク夕-は美術品の愛好家として美術界で有名なAのことか、と尋ねたところ、Yは肯定も否定もしなかった。
本判決は、「一般人である買主が売買対象の美術品の入手経路について誤解している場合には、売買契約を締結しようとする者として、これを正すべき信義則上の義務」があるとしたうえで、「Xには売買対象物である本件陶磁器等の内容について動機の錯誤があり、これは黙示で表示されているものということができ、また、この錯誤は、これがなければXにおいて購入の意思表示をしなかったと認められる要素の錯誤ということができる」と述べて、錯誤により無効になると判断した。また、絵画の売買につき、国内の市場で通用する鑑定を得ておらず、市場における価値を正確に伝えていなかったとして、Yに信義則上の義務違反があると判断した。結論として、陶磁器と絵画の売買について、Yの不法行為責任を認めた〔控訴〕。
東京地判平23・10・27―建物賃貸借契約の諸費用(10条)
  建物の借主Xは、貸主に対し、消費者契約法10条を根拠として、@礼金の返還、A更新料の返還、B清掃費用(約7万円)の返還、C室内に設置したエアコンの造作買取りを請求した。本判決は、特約は一義的に明確な内容である(@およびA)、清掃費用は建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額を大きく超えるものとまではいえない(B)、Xは賃貸借契約締結時に司法修習生(現在は弁護士)であるから、自由な意思決定に基づき造作買取りをしない旨の特約の意味内容を理解したうえで契約を締結した(C)として、Xの各請求を棄却した〔確定〕。
京都地判平24・7・19―解約全文払条項と消費者契約法9条1号・10条
  近時、携帯電話の利用サーピス契約において、契約期間内に解約した場合に解約金の支払いを義務づける条項(以下、「解約金条項」という)の有効性について争われている.適格消費者団体Xは、2年間の契約期間内に中途解約した場合に一律9975円の解約金の支払いを義務づける解約金条項が消費者契約法(以下、本項において「法」という)9条1号または10条に該当し無効であると主張して、通信事業者Yに対して、解約金条項を内容とする意思表示をすることの差止めを請求した(本件は、実際に解約金を支払った消費者が、解約金条項の無効を前提に不当利得返還請求を提起した事件と併合されている)。
本判決は、@法9条1号の平均的損害は、民法416条に基づく損害の算定方法を前提とすべきである、A解約に伴いYに生じる平均的損害は、中途解約されることなく契約が期間満了時まで継続していればYが得られたであろう通信料収入等から、解約に伴い事業者が支出を免れた費用を控除して算出すべきであるとした。具体的には、1カ月あたりのYの解約に伴う逸失利益は4000円であり、これを解約時から契約期間満了時までの期間を乗じた額が、解約に伴いYに生じる平均的損害になると認定した。そのうえで、契約が締結された日の属する月から教えて23カ月日以降に解約した場合に解約金の支払義務があることを定める部分について、超過額の限度で法9条1号に該当し無効であると判断した。また、法9条1号により無効となる部分については、法10条にも該当し無効であるとしている。結論として、Yが現に使用する解約金条項を含む意思表示を差止めの対象とした〔控訴〕.これに対して、京都地判平24・3・28は、同種の事案において、解約金条項に基づく支払義務の金額である9975円は平均的な損害額を下回るとして法9条1号該当性を否定した。法10条についても、@消費者は解約金条項に基づき解約権の制限を受けるものの、それに見合った割引という対価を受けている、A事業者と消費者との間には、解約金条項に関して存在する情報の質および量並びに交渉力の格差が存在するとはいえないとして、法10条後段に該当しないと判断した。
東京高判平24・7・11―保険約款条項と消費者契約法10条後段該当性―本件は、亡Aの配偶者から死亡保険金請求権の譲渡を受けたXが、保険会社Yに対し、保険金の支払いを請求した事案である。
  本件保険契約の約款には、支払猶予期間内(払込期月の翌月末まで)に保険料の払込みがないときは当然に保険契約が失効する旨の条項かおり、これが消費者契約法10条により無効となるのかが問題となった。
最二小判平24・3・16は、本件と同種の事案において、履行の催告(民法541条)なしに保険契約が失効する旨を定める点で、失効条項は「任意規定による場合に比し、消費者である保険契約者の権利を制限するものである」として消費者契約法10条前段の要件を満たすとした。 10条後段については、「保険料支払債務の不履行があった場合に契約失効前に保険契約者に対して保険料払込みの督促を行う態勢を整え、そのような実務上の運用が確実にされていたとすれば、通常、保険契約者は保険料支払債務の不履行があったことに気付くことができる」と述べたうえで、「多数の保険契約者を対象とするという保険契約の特質をも踏まえると、本件約款において、保険契約者が保険料の不払をした場合にも、その権利保護を図るために一定の配慮をした……定めが置かれていることに加え、上告人において上記のような運用を確実にした上で本件約款を適用していることが認められるのであれば、本件失効条項は信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものに当たらない」と判示した。
本判決は、次の@ないしGの事実から、上記最高裁判決のいう「実務上の運用が確実にされていた」という事情が認められるとして、本件失効条項は信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものに当たらないと判断した。すなわち、@Yは保険契約の情報処理のすべてをコンピュータシステムで管理していること、A保険料の振替結果に基づいて自動処理により督促通知書が作成されること、B督促通知書は振替不能契約者に一斉に郵送されること、C代理店に対してもYから振替不能契約者の一覧表が送付され、失効とならないように注意を促すべく保険契約者に連絡するよう依頼することとなっていること、D失効通知書も自動処理により作成され一斉に郵送されること、E以上の事務手続は社内で制度化されていたこと、F実際上、以上の事務手続に大きなトラブルが生じたことはなかったこと、G1回目の振替不能の際、Aについて督促通知書が通知され、Yの保険代理店からもAに対する連絡がされたが、翌月の2回目の振替えも不能となって、失効通知書が送付されたこと、である。
本判決は、最高裁判所の示した要件につき、実務上の運用を具体的に検討している。最高裁判決には須藤正彦裁判官の反対意見が付されており、保険会社が現実に督促通知を行わなかった場合について懸念が表明されている。本判決は、現実に保険契約者に督促通知書が通知された事実も考慮して運用の確実性を認めている。
京都地判平24・3・23では、携帯電話利用サービス契約の中途解約による解約金支払条項が消費者契約法9条1号または10条に該当して無効に当たるかが問顕とされた。
  9条1号については、詳細に平均的損害を算定したうえで当たらないとし、10条前段には該当するものの、利用者が基本料金の割引を受けていることなど制限に見合った対価を受けていること、情報の質および量並びに交渉力の格差が認められないことなどを理由に、後段に該当しないとして、利用者の主張を退けた。類似の解約料の支払いは、モバイル通信端末の利用契約においても約款に規定が置かれる場合があり、同様の問題が生じる可能性がある。利用者の得られる利益と不利益のバランスにより、裁判所の判断が分かれる可能性があるが、仮にバランスがとれているとしても、料金体系が複雑になることで、利用者はどのような選択をすれば経済的なのか判断しづらくなっている。利用者が、自己の利用スタイルにあった選択をすることが容易になるよう、契約締結に先立って、シミュレーションを示すなどの配慮をすることが望ましいといえよう。
最ニ判平24・3・16では、生命保険契約および医療保険契約の保険料の不払いがあった場合に、履行の催告なしに契約が失効する旨を定める約款条項が、消費者契約法l0条に該当するかが争われた。
  保険会社は、加入者の保険料不払いに対し、書面による督促を行っており、約款には、a.1カ月の猶予期間が定められ、b.自動貸付条項が置かれ、c.復活条項が定められていた。aの定めがあったため、月払いの保険料の弁済期限が猶予期間の末日なのか払込期日の末日なのかが争われ、この点については、各払込期日の末日であるとされた。そのうえで、本件失効条項の消費者契約法10条該当性について、前段に該当することを認め、多数の保険契約者を対象とするという保険契約の特質をも踏まえると、本件約款において、保険契約者が保険料の不払いをした場合にも、その権利保護を図るために一定の配慮をしたabの定めが置かれていることに加え、保険会社において保険料支払債務の不履行があった場合に督促を行う運用を確実にしたうえで本件約款を適用していることが認められるのであれば、後段要件に当たらない、として原審を破棄・差戻しとした。本判決は、約款の条項外の事情をも考慮すべきとしたものと解される。ちなみに、cについては、保険契約者の権利保護を図るものとしてあげられていないが、保険契約の復活が保険会社の承諾を要件とするため、取り上げられなかったものと解される。本判決には反対意見があり、実質的にみれば猶予期間が民法541条により求められる催告期間よりもさして長いわけではないこと、本件では解約返戻金が発生していないことを考慮すれば、「自動貸付条項」は保険契約者の権利の制限を緩和する事由として考慮できないこと、督促通知やその運用が確実であることはあくまでも事実上のものにすぎず、法的保護の好外であることがあげられている。
京都地判平24・2・29は、マンションの賃貸借契約
  敷金10万円、礼金l8万円、契約期間1年、更新料を15万円(賃料の3.125か月分)とするマンションの賃貸借契約について、更新料のうち、年額賃料の2割を超える部分を無効とした。
東京高判平24・2・29は、NHKの放送受信契約および衛星放送受信契約に基づく受信料債権が消滅時効にかかるか
  具体的には民法169条または173条1号・2号のいずれかの債権に当たるか否かが争われた事案で、控訴審(横浜地判平23・7・13)はこれを否定して、NHKの請求を全面的に認容した。上告審である本判決は、受信料債権は、放送受信契約という基本契約に基づく支分権であり、月額が定められ、2カ月ごとに支払いをなす金銭債権であるなどとして、民法169条所定の「年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権」に該当することば明らかであるとして、原審判決を破棄自判し、受信料債権の一部の時効消滅を認めた。本件では、ケーブルテレビ加入者とNHKとの受信契約締結義務の有無も争われたが、放送法32条1項本文が、受信の態様を特定していないことから、有線テレビ放送施設を介して受信する場合であっても、同項本文にいう「協会の放送を受信することのできる受信設備」に当たるとして、控訴審・本判決ともこれを認めている。
京都地判平24・1・12は、通信契約に関連する裁判例
  パソコン通信に携帯電話を使用し、携帯電話会社から約20万円の使用料を請求された利用者が、パケット料金の支払いに関する契約条項が消費者契約法10条に該当し、または公序良俗に反し無効であるとし、予備的に通信料金に関する説明・情報提供義務違反による損害賠償を請求した.契約条項の無効の主張はいずれも退けられたが、本件事案のもとでは契約上の付随義務として利用者ヘの注意喚起義務があるとし、携帯電話会社の義務違反を肯定した(過失相殺3割)。近時、携帯電話利用契約において、一定の期間内に契約を解約した場合に、利用者に高額の解約金の支払いを義務付ける条項によりトラブルも多発している。
京都地裁平23.12.13は、会員制の冠婚葬祭業者と会員との聞の契約の途中解約における解約払戻金を制限する条項について、消費者契約法九条一号により無効とされ、適格消費者団体による同法一二条三項に基づく差止請求が認容された事例
  本件は、適格消費者団体が消費者契約法一二条三項に基づき差止請求等をした事件であり、差止請求の可否、当否等が争点になった事案である。
Y1株式会社は、冠婚葬祭の相互扶助をする業務等を行い、約款を定め、約款の中には、将来の冠婚葬祭に備え、月掛金を前払いで積み立て、途中解約の際は支払済金額から所定の手数料を差し引いた解約払戻金を請求できる旨の条項(Y1解約金条項)があった。Y1は、会員との間で互助契約を締結し、月掛金を支払った会員のため冠婚葬祭を施行しているが、会員以外の者にも冠婚葬祭を施行している。本牛相互契約には、三つのコースがあり、一ロの金額、積立回数が異なり、コースごと、加入口ごとに途中解約の際の解約払戻金の額が異なる。他方、Y2株式会社は、相互的冠婚葬祭の業務を行い、会則を定め、ニ○〇回積立で積立契約を締結し、途中解約の際は支払済金額相当の利用権の交付を受けるか、支払済金額から所定の手数料を差し引いた解約払戻金を受け取る選択をすることができる旨の条項(後者の条項がY2解約金条項)があった。X2ら(合計九名)は、それぞれY1との間で相互契約を締結し、月掛金を支払っていたが、途中解約したところ、Y1が、Y1解約金条項に従って解約払戻金を返金した。適格消費者団体であるX1法人は、平成二〇年九月、Y1、Y2に対して解約手数料に関し、消費者契約法四一条所定の事項を記載した書面により差止請求をした。
X1は、Y1、Y2に対して互助契約又は積立契約において解約金条項を使用していることについて、同条項が消費者契約法九条一号、一O条に反して無効であると主張し、主位的に解約金を差し引くことを内{容とする意思表示の差止め等、予備的に現実に使用している約款等に基づく意思表示の差止等を請求し(甲事件)、X2らが解約金条項が無効であり、差し引かれた解約手数料相当額につき不当利得の返還を請求した(乙、丙、丁事件)。
本件では、消費者契約法の適用の有無(同法一一条二項)、、に対する差止請求の可否、Y1解約金条項の同法九条一号、一○条の該当性、Y2解約金条項の同法九条一号、一〇条の該当性が争点になった。
本判決は、Y1の互助契約は割賦販売法二条六項の前払式特定取引に当たるとし、契約の解除に伴う損害賠償等の制限に関する同法六条一項三号は、前払式割賦販売に適用されるが、前払式特定取引に適用されず、同法三五条の三の六二、一五条一項五号は取締規定にすぎない等とし、Y1解約金条項には消費者契約法一一条二項、一二条三項但書が適用されないとした上、Y1解約金条項については、冠婚葬祭事業者の会員募集費、会員管理費、物的設備費、逸失利益等の事情を考慮し、月掛金を一回振り替える毎にY1が負担した五八円の振替費用をもって消費者契約法九条一号の平均的損害に当たるとし、五八円に第一回目を除く払込の回数を掛けた金額を超える解約金を差し引いて消費者に対し返金する部分が無効であるとし、Y2解約金条項が同号に違反して無効であるとし、X1の大半の主位的・予備的請求を認容し(差止請求等の請求の趣旨、判決内容は、同種の請求に当たって参考になるものであるが、詳細は判決文を参照されたい)、X2らの大部分の不当利得返還請求を認容した。
本判決は、会員制の冠婚葬祭事業者につき契約の途中解約における解約払戻金を制限する条項を消費者契約法九条一号により無効とし、適格消費者団体による同法一二条三項本文に基づく差止請求を認容したものであり、訴訟実務に一つの事例を提供するものであるので、紹介する。消費者契約法九条一号の適用に当たっては、平均的な損害の認定、判断が困難な問題を提起するが、本判決は、この判断事例を提供するところ、消費者契約法九条に関する最近の裁判例としては、東京地判平20・10・17(無効事例)、東京高判平20・12・17(無効事例)、東京地判平21・5・19(無効事例)、横浜地判平21・7・10(無効事例)、最三判平22・3・30(有効事例)がある。
消費者契約法一二条に基づく差止請求に関する裁判例としては、京都地判平21・4・23、京都地判平21・9・30がある(いずれも認容事例)。
東京地判平23・12・1は、特定商取引に関する法律(以下、「特定商取引法」という)40条1項により連鎖販売契約が解除された事案
  加入者が商品を消費していた場合、商品の客観的な価値相当額については、解除権を有する者が自己の行為によって契約の目的物を返還することができなくなったものとして民法548条1項により解除権が消滅するが、残りの部分の解除権は消滅せず、原状回復請求として商品の客観的な価値相当額を超える部分の代金の返還を請求できると判示した。契約価格の返還義務を認めたとすれば、クーリング・オフで契約の取消しを認める意義が失われるため、妥当な判断といえよう。また、新規加入者の勧誘により加入者が統括者から得た報酬は、連鎖販売契約ではなく、新規加入者の勧誘を直接の原因とするものであって、報酬支払いの原因となる契約の性質は委任契約に当たり、解除は将来に向かってのみその効力を生ずるから、統括者に報酬返還請求権は生じないとした。
東京地判平23・12・1は、旅行業者がウェブサイト上で募集した海外旅行ツアーの代金の誤表示があった場合において
  申込者と旅行業者との間に、誤表示の代金で予約契約の成立および本契約の成立を認めたうえ、同申込者を同海外旅行ツアーに参加させなかった旅行業者の債務不履行責任を認めた。本件では、旅行業者が、申込者に対し、自動送信メールのみならず、誤表示にかかる旅行代金での予約成立を確認したメールを送信していた。
東京地判平23・11・17は、手配旅行契約に関して
  宿泊前日の取消料を、宿泊料金のl00%とする手配旅行契約における取消料条項が、消費者契約法9条1号に該当するかが争われた。本事案では、前提として、権利能力なき社団が実質的に消費者に当たるとの判断がなされ、そのうえで、「平均的な損害」(予定された宿泊料、グラウンド使用料から免れた支出を控除)を算出し、それを超える部分が無効とされた。
最三判平23・10・25は、いわゆる「デート商法」により指輪等をクレジットで購入した顧客が、売買契約が公序良俗違反により無効であり、かつ、クレジット契約も無効であるとして、信販会社に対して既払金の返還を請求したところ、逆に信販会社から未払金を請求された事案である。
  裁判所は、「個品割賦購入あっせんにおいて、購入者と販売業者との間の売買契約が公序良俗に反し無効とされる場合であっても、販売業者とあっせん業者との関係、販売業者の立替払契約締結手続ヘの関与の内容及び程度、販売業者の公序良俗に反する行為についてのあっせん業者の認識の有無及び程度等に照らし、販売業者による公序良俗に反する行為の結果をあっせん業者に帰せしめ、売買契約と一体的に立替払契約についでもその効力を否定することを信義則上相当とする特段の事情があるときでない限り、売買契約と別個の契約である購入者とあっせん業者との間の立替払契約が無効となる余地はない」と判示した。すなわち、信義則を根拠として、個品割賦購入あっせんにつき、売買契約が公序良俗に反し無効である場合に、これとは別個の契約である立替払契約についても、一体的に効力を否定すベき場合があり得ることを示したものである。なお、平成20年の割賦販売法改正(平成21年12月1日施行)により、個品割賦購入あっせん(新割賦販売法2条4項の個別信用購入あっせん)について、一定の要件の下で、購入者から信販会社に対する既払割賦金の返還を求めることができるとの規定が置かれ、立法的解決が図られたが、その範囲は限定的である。
西宮簡判平23・8・2は、建物賃貸借に関する事案
  敷金50万円、月額賃料9万3000円の物件で敷引が40万円とされた事案において、i敷引金以外には更新料および礼金等の金銭が徴収されていないこと、ii賃貸借期間が6年間であったこと、iii貸借人は敷引特約について説明を受け、その趣旨を十分に理解したうえで賃貸借契約を締結していることから、月額賃料の3カ月分を相当な敷引金の範囲と解し、その額を超える部分について、消費者契約法10条により無効であるとした。
東京地判平23・7・28は、手配旅行契約の解除にあたり、取消手続料金が代金のl00%となる約款が消費者契約法9条1号に反するのかが争点となった事案
  裁判所は、「この約款は、旅行者が本件契約を解除した場合には、同人は、〔1〕既に旅行者が提供を受けた旅行サービスの対価、〔2〕取消料、違約料、その他の運送・宿泊機関等に対して既に支払い、又はこれから支払う費用の負担、〔3〕旅行業者に対し、所定の取消手続料金及び同社が得るはずであった取扱料金を支払わなければならない旨を定めているものであって、その内容に照らせば、同法9条1号の『平均的な損害』の内容を一般的に定めたものと解される」として特約の効力を認めた。なお、本事案では、手配の対象となった航空券の発券後の取消手続料金が、航空会社によって100%と定められていた。
最ニ判平23・7・15は、更新料特約の消費者契約法l0条該当性が争われた事案である。
  消費者契約法10条が憲法29条1項に反しないことを示したうえで、特約が10条前段に該当することを認めたが、「賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り」10条後段に該当しないとして、条項の無効を認めなかった。
最一判平23・7・14は、複数の契約ないし取引の連続性の有無が問題となった事案は多数あるが、自動継続条項が付いたものの取引の一体性について判断した
  自動継続条項が付いた金銭消費貸借に係る基本契約が順次締結された場合、第一の基本契約に基づく取引により発生した過払金を、それが発生した後に締結された第二の基本契約に基づく債務に充当できるかが争点となった。裁判所は、最二判平20・l・l8を引用し、「同一の貸主と借主との間で継続的に貸付けとその弁済が繰り返されることを予定した基本契約(以下「第1の基本契約」という。)が締結され、この基本契約に基づく取引に係る債務の各弁済金のうち制限超過部分を元本に充当すると過払金が発生するに至ったが、過払金が発生することとなった弁済がされた時点においては両者の間に他の債務が存在せず、その後に、両者の間で改めて金銭消費貸借に係る基本契約(以下「第2の基本契約」という。)が締結され、第2の基本契約に基づく取引に係る債務が発生した場合には、第1の基本契約に基づく取引により発生した過払金を新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するなど特段の事情がない限り、第1の基本契約に基づく取引に係る過払金は、第2の基本契約に基づく取引に係る債務には充当されないと解するのが相当である」、「第1の基本契約に基づく取引と第2の基本契約とが事実上l個の連続した貸付取引であると評価することができる場合には上記合意が存在する」、「第1の基本契約に基づく…‥最終の弁済から第2の基本契約に基づく最初の貸付けまでの期間‐……等の事情を考慮して、第lの基本契約に基づく債務が完済されてもこれが終了せず、第1の基本契約に基づく取引と第2の基本契約とが事実上一個の連続した貸付取引であると評価することができる場合には、上記合意が存在するものと解するのが相当である」とした。そのうえで、「基本契約1に基づく最終の弁済から基本契約2に基づく最初の貸付け、基本契約2に基づく最終の弁済から基本契約3に基づく最初の貸付け及ぴ基本契約3に基づく最終の弁済から基本契約4に基づく最初の貸付けまで、それぞれ約l年6カ月、約2年2カ月及び約2年4カ月の期間があるにもかかわらず、基本契約1ないし3に本件自動継続条項が置かれていることから、これらの期間を考慮することなく、基本契約1ないし4に基づく取引は事実上一個の連続した取引であり、本件過払金充当合意が存在するとしているのであるから、この原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある」として破棄、差し戻した。本判決は、平成20年1月判決が、基本的には取引の事実上の側面に重点を置いていることを確認し、自動継続条項の存在という法律的・形式的な事実が、その一体性判断において重視されるべき要素としては位置付けられていないことを確認したものである。
名古屋地判平23・5・19は、いわゆるパチンコ・パチスロ攻略情報について、消費者契約法4条1項2号にいう「断定的判断の提供」に当たる
  その提供契約の取消しを認めるとともに、業者の代表取締役または取締役であった者に対し、その就任時期を問うことなく、組織的な詐欺行為があったとして共同不法行為に基づく損害賠償責任を認めた。
最一判平23・3・24は、消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付されたいわゆる敷引特約につき、
  「信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであると直ちにいうことはできないが、賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる損耗や経年により自然に生ずる損耗の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし、敷引金の額が高額に過ぎると評価すベきものであるときは、当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り、信義則に反して消費者である貸借人の利益を一方的に害するものであって、消費者契約法10条により無効となる」としたうえで、当該事実における敷引特約は無効にならないとした。
大阪地判平23・3・23は、ドロップシッピング契約
  ドロップシッピング契約の一種であるウインドシッピング契約が、特定商取引法51条にいう業務提供誘引取売に当たるとし、同法58条1項によるクーリング・オフを認めた。
大阪地判平22・12・2は、通信情報端末の購入契約およびインターネットを介して提供されるサービスの代理店契約について
  業者が交付した書面について、記載の不備を理由として、クーリング・オフの期間経過の前提となる特定商取引法32条2項の書面性を否定した。本事実では、原告らのうち、夫の父の営む店舗の一角で代理店を営んでいた夫婦について、特定商取引法の適用対象である個人には当たらないとして、クーリング・オフが認められなかった。
最高裁平22.9.9第一小法廷判決―転貸借契約
  土地の賃貸人および転貸人が、転借人所有の地上建物の根抵当権者に対し借地権の消滅を来すおそれのある事実が生じたときは通知する旨の条項を含む念書を差し入れた場合において,賃貸人および転貸人が地代不払いの事実を土地の転貸借契約の解除に先立ち根抵当権者に通知する義務を負い,その不履行を理由とする根抵当権者の損害賠償請求が信義則に反するとはいえないとされた事例
土地の賃貸人および転貸人が,転借人所有の地上建物の根抵当権者に対し借地権の消滅を来すおそれのある事実が生じたときは通知する旨の条項を含む念書を差し入れた場合において、次の(1)〜(3)など判示の事実関係の下では,賃貸人および転貸人は、上記念書の内容等につき根抵当権者から直接説明を受けておらず,上記念書を差し入れるにあたり根抵当権者から対価の支払いを受けていなかったとしても、地代不払いの事実を土地の転貸借契約の解除に先立ち根抵当権者に通知する義務を負い,その不履行を理由とする根抵当権者の損害賠償請求が信義則に反するとはいえない。
(1)上記念書には,地代不払いなど借地権の消滅を来すおそれのある事実が生じた場合には,賃貸人および転貸人が根抵当権者にこれを通知し、借地権の保全に努める旨が明記されていた。
(2)賃貸人および転貸人は事前に上記念書の内容を十分に検討する機会を与えられてこれに署名押印または記名押印をした。
(3)転貸人は不動産の賃貸借を目的とする会社であり、賃貸人は転貸人の代表者およびその子である。
大阪地裁平22.5.27判決―フランチャイズ契約
  ニコニコキッチンフランチャイズ契約において,フランチャイズ・チエーン運営者の情報提供義務・経営指導義務の違反が認められなかった事例
大阪地裁平22.5.12判決―フランチャイズ契約
1 フランチャイズ契約締結勧誘時にフランチヤイザーがフランチャイジーになろうとする者に対して示した売上予測が客観的な根拠や合理性に欠けるものであったとして,フランチヤイザーの情報提供義務違反を認めた事例
2 フランチャイズ契約終了後にフランチヤイザーがフランチャイズ契約上の競業禁止条項に基づきフランチャイジーに対して競業避止義務を負わせることが信義則に反し許されないとした事例
東京地裁平22.5.11判決―フランチャイズ契約
  持ち帰り弁当販売事業を展開するフランチャイズシステムのサブフランチャイザーがマスターフランチャイザー主催の会議への出席を拒否するなどした行為はマスターフランチャイザーとの間のフランチャイズ契約(サブ・フランチャイズ契約)上の義務違反行為に当たるとはいえないとした上で,マスターフランチヤイザーによるフランチャイズ契約の更新拒絶の効力を否定しその後のエリアフランチャイザーによる信頼関係破壊を理由とするフランチャイズ契約の解約の意思表示を有効とした事例
最高裁平22.3.30第三小法廷判決―在学契約
  専願等を資格要件としない大学の推薦入学試験に合格した者が入学年度開始後に在学契約を解除した場合において,いわゆる授業料等不返還特約が有効とされた事例
返還しない旨の特約の付された在学契約を締結した者が、入学年度開始後である平成18年4月5日に同契約を解除した場合において,学生募集要項に一般入学試験の補欠者とされた者につき4月7日までに補欠合格の通知がない場合は不合格となる旨の記載があり,当該大学では入学年度開始後にも補欠合格者を決定することがあったなどの事情があっても,上記授業料等は上記解除に伴い当該大学に生ずべき平均的な損害を超えるものではなく,上記解除との関係では上記特約はすべて有効である
大阪高裁平22.2.26判決―契約交渉
  契約交渉過程における説明義務違反について債務不履行責任を認め,10年の消滅時効期間を適用した事例
大阪高裁平22.1.25判決―フランチャイズ契約
  フランチャイズ契約において,契約終了後の競業避止義務規定が公序良俗に違反せず無効とはいえないとされた事例
東京高裁平21.12.25判決―フランチャイズ契約
1 フランチャイズ契約において,フランチヤイザー側に詐欺的な契約締結の勧誘及び経営指導義務違反があるとして,フランチヤイジーからの損害賠償等の請求が認められた事例
2 フランチャイズ契約において,フランチヤイザーからの競業避止義務違反による違約金請求が権利の濫用に当たるとされた事例
最高裁平21.12.18第二小法廷判決―特定の商品の先物取引
  特定の商品の先物取引につき,委託玉と自己玉とを通算した売りの取組高と買いの取組高とが均衡するように自己玉を建てることを繰り返す取引手法を用いている商品取引員の従業員が、信義則上,専門的な知識を有しない委託者に対して負う説明義務
特定の商品の先物取引につき,委託玉と自己玉とを通算した売りの取組高と買いの取組高とが均衡するように自己玉を建てることを綴り返す取引手法を用いている商品取引員が、専門的な知識を有しない委託者から当該特定の商品の先物取引を受託しようとする場合,当該商品取引員の従業員は信義則上,その取引を受託する前に委託者に対し,その取引については上記取引手法を用いていること及び上記取引手法は商品取引員と委託者との間に利益相反関係が生ずる可能性の商いものであることを十分に説明すべき義務を負う。
東京地裁平21.11.18判決―フランチャイズ契約
  学習塾チェーン経営会社が競業禁止条項に違反して独立した元フランチャイズ契約加盟店に対して行った違約金請求につき,違約金条項の一部が公序良俗に反するとして請求額の一部のみが認容された事例
大阪高裁平21.10.29判決―更新料特約
  契約期間を2年間,契約期間の1か月前までに賃貸人,賃借人のいずれからも書面による異議申出のない場合は契約期間が自動的に2年間更新され,貸借人は更新時に賃貸人に対して更新料として旧賃料の2か月分を支払う旨の更新料特約が消費者契約法10条に反せず,民法90条にも反しないとし,有効であるとされた事例
岐阜地方裁判所平成21年10月21日―損害賠償請求控訴事件(駐車場利用に関する契約)
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人は,控訴人に対し,10万円及びこれに対する平成20年10月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は,第一,二審とも被控訴人の負担とする。
(4) (2),(3)項につき仮執行宣言
2 被控訴人
主文同旨
第2 当事者の主張
1 控訴人の請求原因
(1) 控訴人と被控訴人は,平成20年6月19日,次の駐車場利用に関する契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
ア控訴人が名古屋市a区bc丁目で管理する時間貸有料駐車場「d」(以下「本件駐車場」という。)に一定の時間,被控訴人の車両(以下「本件車両」という。)を駐車し利用する。
イ利用代金40分100円
ウ利用時間48時間以内
エ代金支払時期出庫前
オ利用方法入庫時には,所定の位置にフラップ板が下がっていることを確認の上,完全にこれを乗り越えて駐車する。出庫時には,料金精算後フラップ板が下がったのを確認後,出庫する。
カ不正行為又は利用方法,利用規約に違反した場合,駐車場利用者(所有者及び同乗者を含む)は,(。1)正規駐車料金,(2)損害賠償金(チェーン施錠,レッカー移動費用等実損諸費用)及び(3)違約金10万円を管理者に支払う。
(2) 被控訴人は,同日,本件車両を本件駐車場に駐車する際,本件車両が車輪止めを踏みつけた状態で駐車し,駐車料金の支払いがないまま,出庫した。
(3) よって,控訴人は,被控訴人に対し,本件契約(賃貸借契約)の債務不履行による損害賠償請求権に基づき,違約金10万円及びこれに対する平成20年10月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
2 請求原因に対する被控訴人の認否
請求原因事実は否認する。
第3 当裁判所の判断
1 請求原因(1)につき検討する。
(1) 証拠(甲1ないし6)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア控訴人は,名古屋市a区bc丁目で本件駐車場を管理している。
本件駐車場は無人の駐車場で,駐車代金の精算は駐車場の利用者が精算機に千円札又は硬貨を投入することによってなされている。
イ本件駐車場には,「昼間8:00〜18:00 100円/40分夜間18:00〜8:00 200円/40分土日祝昼間8:00〜18:00 100円/30分」と大きな文字で書かれ,「入庫時フラップ板(ロック板)が下げっていることを確認の上,ゆっくり入庫してください。フラップ板を前輪又は後輪で完全に乗り越えて車室枠線内に駐車してください。」「出庫時料金精算後,フラップ板が完全に下がったことを確認の上,5分以内に出庫願います。」「駐車場のご利用は,48時間以内に限ります。ロック板が上がっていたり,車高が低く,車に破損を与えそうな車両は十分に注意していただくか,又は駐車を見合わせてください。料金精算後にロック板が完全に下がって,車両が出庫出来るのを確認の上,車を出庫させてください。不正行為又は利用方法,利用規約に違反した場合,・・・駐車場利用者(所有者及び同乗者を含む。)は,(1)正規駐車料金,(2)損害賠償金(チェーン施錠,レッカー移動費用等実損諸費用)及び(3)違約金10万円を管理者に支払わなければなりません。」
などと小さな文字で書かれた看板がある(甲4,5)。
ウ被控訴人は,平成20年6月19日,本件車両を本件駐車場に駐車した。
その際,被控訴人は,本件車両がフラップ板を踏みつけた状態で駐車し,駐車料金の支払いをしないまま,出庫した。控訴人の関係者は,同日午前11時19分ころ,本件車両が車輪止めを踏みつけた状態で駐車しているのを見つけ,写真を撮影した(甲6)
(2) この点,被控訴人は,「平成20年6月19日ころ,本件車両を修理に出してあって,修理代金が支払えなかったことから,本件車両を引取りにいくことができなかった。したがって,被控訴人は,本件駐車場に本件車両を駐車していない。」旨主張する。
しかし,被控訴人は,平成20年6月ころ本件車両を使用していたものであること(甲3),被控訴人は本件車両を修理に出したと主張しながら,どこに修理に出したかも明らかにしないことからすると,被控訴人が本件駐車場に本件車両を駐車したものと推認するのが相当であって,被控訴人の同主張は採用できない。
(3) ところで,財又はサービスの提供を受けようとする者が,自ら硬貨や紙幣等を入れて代金を精算するという無人の設備でもって,財又はサービスの提供を受けた場合,財又はサービスの提供者と利用者の双方とも契約の申込み又は承諾の意思表示をしたとはいえないものの,財又はサービスの提供者と利用者の双方が契約を成立させる意思を有すると認められる限りにおいて,その契約が成立したものと解するのが相当である。
これを本件についてみるに,被控訴人が,フラップ板を踏みつけた状態で本件車両を駐車し,駐車料金の支払いをしないまま,出庫していることからすると,被控訴人は,そもそも本件駐車場の駐車料金を支払う意思は全くなく,本件契約を締結する意思がなかったものと認められる。そうとすると,控訴人と被控訴人との間で本件契約は成立していないというべきである。
この点,控訴人は「控訴人, が,管理する駐車場を利用者に対し一定の内容で賃貸する意思があることを駐車場内の看板で表示していること,被控訴人が,控訴人の掲示した看板に表示された意思内容を十分に認識していることから,控訴人と被控訴人間に意思表示の合致がある。」と主張するが,控訴人が駐車場施設を設置して看板に賃貸する意思があることを掲示しただけでは,本件契約の申込みの誘因があったというにとどまり,控訴人に本件契約の申込みの意思表示があるとはいえず,また,被控訴人が看板を見て駐車場内に駐車しただけでは被控訴人に本件契約の承諾の意思表示があるとはいえない。また,被控訴人の本件駐車場の利用形態からして,被控訴人に本件駐車場の駐車料金を支払う意思がないと認められることは上記認定のとおりである。したがって,控訴人の同主張は採用できない。
3 以上によれば,控訴人の請求は理由がないからこれを棄却すべきである。
よって,原判決は,結論において相当であって,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京高裁平21.10.20決定―葬儀に関する契約
  喪主として葬儀社と葬儀に関する契約をした抗告人が、葬儀社に支払った費用につき,死者またはその相続人に対し葬式費用の先取特権を有しているということはできないとする原決定が維持された事例
1 葬式費用の先取特権を有する債権者は債務者のために直接葬式の費用を支出した者であることを要するが、自ら葬式に必要な物品または労力を提供したと他人をして物品または労力を提供してその費用を支払ったとを問わないから,葬儀社のみならず,葬儀社に費用を立替払いした者も,債権者としてこの先取特権を有すると解されるところ,抗告人は,自ら喪主として葬儀社との間で死者の葬式に関する契約を締結して.その費用につき自己の債務として上記費用を支払った者であるから,葬儀社に費用を立替払いした者でないことは明らかである。
2 民法309条1項の「債務者」とは死者自身を指すべきものと解されており、葬式費用の債権者は本来的には葬儀社であって,「債務者」の総財産である遺産の上に相当額について先取特権を有することになるところ、葬儀社に費用を立替払いした者は債権者(葬儀社)に代位するこどもできる立場にあり(同法499条1項)、先取特権を有すると認めるべきであるが,喪主として葬儀社と葬儀に関する契約をした者が葬儀社に支払った費用についてはその喪主自身のために死者の総財産に先取特権が成立するとは解し得ない。
知財高裁21.10.20判決―営業譲渡契約
1 「本営業に必要な譲渡日現在の資産負債及び営業権,特許権,実用新案権,商標権等の一切の権利」を譲渡する旨の営業譲渡契約において,契約当時設定登録に至っていない特許を受ける権利も,譲渡の対象とされた事例
2 譲渡人名義の預金に振り込まれた営業譲渡契約の対価の支払が債務の本旨に従った営業権の対価の支払の履行として,特許権等の移転登録手続に対する同時履行の抗弁権が成立しないとされた事例
東京簡易裁判所平成21年09月28日―損害賠償請求(少額訴訟判決―運送契約)
主文
1 被告は,原告に対し,金24万円及びこれに対する平成21年8月18日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを5分し,その2を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
4 この判決は,主文第1項に限り,仮に執行することができる。
ただし,被告が金24万円の担保を供するときは,その仮執行を免れることができる。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,金60万円及びこれに対する平成21年8月18日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 請求の原因の要旨
(1) 訴外Aは,被告との間で次のような運送契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
受付日平成21年5月11日
お届け予定日平成21年5月12日
依頼者A
届け先原告
品名ワレモノ(伝票記載)蒔絵高月(以下「本件荷物」という。)
運賃1160円
(2) 被告は,平成21年5月11日にAから本件荷物を受け取り,原告に運んだ。
(3) 本件荷物は,壊れた状態で原告に届けられた。
(4) よって,原告は,被告に対し,本件契約の債務不履行により,損害賠償として,金60万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成21年8月18日から支払済みまで年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。
予備的に,原告は,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償として上記と同様の損害賠償の支払を求める。
2 争点及びこれに対する主張
(1) 被告の契約責任の存否
(被告) Aの申告では「ワレモノ」というのみであった。30万円以上の物は宅急便では送れないこともAには伝えてある。
(2) 被告の不法行為責任の存否
(3) 本件荷物の損害額
(被告)
ア「宅配便」には宅配便約款(甲3の2)が適用になり,その25条により,荷物に発生した損害については,送り状に記載された責任限度額である30万円の範囲内で賠償するとの規定があり,本件についてもこの約款の適用があり,責任限度額は30万円である。
イ損害額については,時価によるべきであって,制作者の付けた金額ではない。本件荷物の時価額は3万円であり,この金額が損害賠償額として相当である。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)について
原告は,運送契約の当事者ではないが,本件荷物が到達地に達した後であることから,商法583条により荷送人の権利を取得しているものと認められる。
ところで,Aの申告では「ワレモノ」のというのみで,高価品としての申告はない(証拠甲1の4,乙9)。このことから,商法578条の適用があり,同上に定める「明告」がなかったものとして,被告は高価品の損害賠償については,免責される。また,高価品については,普通品としての価額を算定することは困難であることから,普通品としての損害賠償責任も負わないこととなる。
2 争点(2)について
被告は,原告に対し,契約責任を負わないとしても,債務不履行責任と不法行為責任とは請求権競合であると解されるので,不法行為責任の成立要件が認められるのかについて検討することになる。
原告は,本件荷物の所有権については,平成21年3月16日の遺産分割申立事件中間合意により所有権を取得しており(甲8の1),本件荷物の所有者であることが明らかである。また,被告の運送中に本件荷物が破損されたことについては,被告も認めている。即ち,被告の原告に対する不法行為責任は一応認めることができる。
ところで,商法578条による運送人の保護の規定は,不法行為責任についても及ぶのかについては見解の分かれるところであるが,同条は運送契約上の債務不履行責任にのみ関するものであり,運送人の不法行為責任についてまで免責されるものではないとみるのが相当である(神戸地判平成2年7月24日)。また,請求権の競合が認められるには運送人の側に過失あるをもって足り,必ずしも故意又は重大な過失の存することを要するものではない(最判昭和38年11月5日)。
よって,被告は,原告に対し,原告の所有物たる本件荷物を破損させた不法行為責任を負うことになる。
3 争点(3)について
まず,本件が一部請求か否かについてであるが,原告は全体額を明示しているものとは言い難く,また,一部請求の明示もないことから,本件は60万円についての全部請求であるものと認める。
次に,損害額の立証についてみると,原告がその責任を負うものであるところ,F店のGの見積によれば123万9000円(甲5),H店のIの評価では60万円以上(甲4の1)とある一方,被告は,反証として,時価3万円前後であるとの査定評価書(乙3)及びインターネット上同種のものが9万8000円で販売されている(乙4)等の各証拠を示すが,いずれも論拠は不明であり,かつ,一回審理の少額訴訟という状況下においては,損害額について立証不十分であり,真偽不明であると言わざるを得ない。このことから,本件荷物の損害発生は明らかであるものの損害額を定めることができず,損害の性質上その額を立証することが極めて困難な場合であると認め,裁判所は民事訴訟法248条に基づき,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,その額を60万円と認定する。
しかし,原告の損害額は60万円であると評価されるとしても,原告が,本件荷物をAに送らせるに当たり,内容物の価額を明告することによって,被告側関係人に特別の注意を払わせ,損害発生を防止できた可能性があったにもかかわらず,損害発生を防止しようとしなかった原告側にも大きな過失があったものと認められることから,その損害額の4割に相当する24万円が本件荷物の損害額であるとするのが相当である。
京都地方裁判所平成21年9月25日―更新料返還等請求事件等
主文
1 被告会社は,原告に対し,34万8000円及び内金22万8000円に対する平成20年3月6日から,内金12万円に対する平成20年7月2日からいずれも支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 本件確認の訴え(後記第1の1(2))を却下する。
3 被告会社の第2事件及び第3事件についての各請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,全事件を通じて被告会社の負担とする。
5 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
大阪高裁平21.8.25判決―認知症の高齢者の判断能力
  認知症の高齢者の判断能力の低下に乗じてされた不公正な土地の売買につき、公序良俗に反し無効であるとされた事例
東京簡易裁判所平成21年8月7日―敷金返還請求(本訴,通常手続移行),解約違約金等請求(反訴)
事実及び理由
第1 請求の趣旨
(本訴請求)
被告は原告に対し,金6万8500円及びこれに対する平成21年4月1日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
(反訴請求)
被告は原告に対し,金56万9338円,並びに,内金16万1000円に対する平成21年3月1日から,及び内金40万8338円に対する同月2日から,それぞれ支払済みまで年14.6パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,未払賃料を控除した後の敷金残額の返還を求めた本訴請求に対して,被告が原状回復費用,解約違約金及び未払賃料の支払を求めて反訴請求した事案である。
1 本訴請求
(請求原因の要旨)
(1) 原告は,被告との間で,平成20年12月26日,下記のとおり賃貸借契約(以下「本件契約」という。)を締結し,被告から本物件の引渡しを受けた。

物件所在地東京都港区a丁目b町c番d−e号
契約期間平成20年12月27日から同22年12月31日
賃料月額15万3000円(別途管理費8000円)
敷金22万9500円(賃料月額の1.5ヶ月分)
遅延損害金年14.6パーセント
(2) 原告は被告に対し,平成21年2月上旬頃,本件契約の解約を通知し,3月2日に本件建物を明渡した。原告は被告に対し,賃貸借期間中のうち2月分までの賃料を支払った。
(3) よって,原告は被告に対し,敷金から3月分の賃料・管理費の合計16万1000円を控除した残額6万8500円及びこれに対する平成21年4月1日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員の支払を求める。
(被告の主張要旨)
(1) 請求原因の要旨(1)(2)は認める。
(2) 本物件には,明渡時において原告の過失・善管注意義務違反による以下の損耗があったので,原告はこれらの修復費用を負担すべきである。
(ア) 洋室北面の壁に黒い汚れ2箇所
(イ) 洋室北面の壁,前記(ア)の汚れの右脇に引っかけたキズ(剥がれ)1箇所
(ウ) 洋室床,前記(ア)の汚れの近くに油のような粘着質の液体をこぼした跡(シミではなく固着して粘りがある)
(エ) 洋室床に,ガムテープを剥がし損なったような粘着質の付着物7箇所
(オ) 洋室南側の窓枠に粘着テープを貼り付けた跡4箇所
(カ) キッチン東側壁,洗面所入口付近の巾木に黒い汚れ
(3) 本件契約には,中途解約の場合の違約金について,次の定めがあり,賃貸人である被告がこれを請求する実質的根拠がある。
(ア) 原告が契約期間中に解約する場合は,書面により被告に通知し,通知が被告に到達した日の翌月末をもって解約日とする。
(イ) 被告が賃貸借開始より1年未満で解約する場合は,違約損害金として賃料の2ヶ月分を,1年以上2年未満で解約する場合は,違約損害金として賃料の1ヶ月分を支払う。
2 反訴請求
(請求原因の要旨)
(1) 反訴原告(以下「被告」という。)は,反訴被告(以下「原告」という。)との間で,平成20年12月26日,本件契約を締結し,原告に本物件を引き渡した。
(2) 本件契約には,契約終了時の明渡し及び原状回復について,使用期間及び汚れの程度の如何を問わず,自然損耗劣化分を含め,以下の補修・修繕基準に従い原状に復し,明渡さなければならない旨の定めがある。
(ア) ルームクリーニング
退去明渡し時には必ず実施し,その費用額は5万2000円とする。
(イ) フローリングワックス
費用額は2万3000円とする。
(ウ) クロス貼替(壁面用・天井用)
1平方メートルあたりの費用額は1300円とする。
(3) 本物件には,明渡時において前記1被告の主張要旨(2)記載の原告の過失・善管注意義務違反による以下の損耗があった。前記(2)の定めにより,これらの修復費用合計10万2338円は,原告が負担すべきである。
(ア) ルームクリーニング(\52,000 × 1.05) 5万4600円
(イ) フローリングワックス(\23,000 × 1.05) 2万4150円
(ウ) クロス貼替(1,300 円× 17.28 u× 1.05) 2万3588円
(4) 本件契約には,前記1被告の主張要旨(3)のとおり,途中解約の場合の違約金支払いの定めがあり,本件は賃貸借開始より1年未満で解約する場合であるから,原告は違約損害金として賃料の2ヶ月分に当たる30万6000円を賃貸人である被告に支払わなければならない。
(5) 本件契約には,前記1被告の主張要旨(3)のとおり解約予告期間の定めがあり,本件では原告からの解約届は平成21年2月9日に被告に到達したので,その翌月末である3月31日が解約日となる。したがって,原告は3月分の賃料・管理費合計16万1000円の支払義務がある。
(原告の主張要旨)
(1) 補修・修繕基準に従い原状回復義務を負うとする特約の有効性を争う。
ルームクリーニング,フローリングワックスは次の入居者のためのグレードアップであり,原状回復費用とはいえない。クロスの損傷は原告の故意・過失によるものか不明である,仮に原告の過失によるとしても,1ヶ所のみの汚れと傷であり,1面分の費用負担とはならないはずである。
(2) 中途解約の場合の違約金についての特約の有効性を争う。この特約は,入居募集のチラシ・図面には記載されておらず,原告は認識していなかった。
この特約は,消費者である原告の利益を一方的に害するものとして消費者契約法10条に違反して無効であるか,少なくとも同法9条1号により平均的損害を超える部分につき無効である。原告は契約時に礼金として15万3000円を支払っており,被告が主張するほどの損害は与えていない。
(3) 3月分の賃料・管理費の支払義務は認める。しかし,これは敷金から充当・相殺されるべきである。
3 本件の争点
(1) 原告が負担すべき原状回復費用の有無及びその額
(2) 中途解約違約金についての特約の有効性
第3 当裁判所の判断
1 争点
(1)(原告が負担すべき原状回復費用の有無及びその額)について
平成20年12月26日締結の本件契約書(甲1)21条(1)には,「使用期間及び汚れの程度の如何を問わず,自然損耗劣化分を含め,別に定める後記補修・修繕基準に従い原状に復し,・・・明渡さなければならない」との記載があり,同基準の一覧表には床,壁・天井等の区分ごとに行うべき補修・修繕の内容が記載されている。しかし,この一覧表では,どのような損耗状態が発生したときにこの基準により補修・修繕を行うことになるのかが明らかにされているとはいえず,その意味では賃借人が負担すべき原状回復費用の範囲が明確に示された基準ということはできない。ルームクリーニングについては,「明け渡しの際には必ずルームクリーニングを実施する」との記載がある。
費用については,「補修・貼替実費料金(消費税別途)」として「ルームクリーニング5万2000円」,「クロス貼替壁面用1300円(uあたり)」,「フローリングワックス2万3000円」とされている。
(2) 以上を踏まえて,以下検討する。
(ア) まず,クロス,フローリングについては,特約により賃借人が負担すべき原状回復費用の範囲が明確に示されているとはいえないから,費用負担の特約が合意されているとみることはできず,原告の費用負担は故意・過失による損耗部分に限定されるべきことになる。
(イ) 証拠(乙1,証人A)によれば,クロス(原告入居時に貼り替えられていると認められる)には3箇所の汚れ,傷が認められ(乙1の1,1,2),これらの汚れ,傷は原告の故意・過失により生じたものと推認するのが相当である。しかし,その対象範囲は,横約0.9メートル,縦約2.3メートル程度が1枚単位となるクロス材の2枚分(0.9 × 2.3 × 2 = 4.14 u)で足りる範囲と認められる。そうすると,クロス貼替費用は5651円(\1,300 × 4.14u× 1.05 =\5,651)となり,これを原告負担とするのが相当であるから,被告の主張はこの限度で認められる(入居期間が2ヶ月余りであることから,減価償却を考慮する必要はない。)。
(ウ) フローリングの汚れについては,原告はこれを争っており,証拠(乙1)によってもこれを認めるに十分ではない。仮に,被告主張のとおりの汚れがあるとしても,その除去は後記のクリーニングの一環として対処されるべきであり,フローリングワックスの費用を原状回復費用として賃借人である原告に負担させることは相当でなく,被告の主張は認められない。
(エ) ルームクリーニングについては,「明け渡しの際には必ずルームクリーニングを実施する」との記載があり,その費用額も5万2000円(消費税別途)と具体的に示されていることからすると,通常損耗の場合(通常の清掃を行った場合)でも費用を負担することが明確に合意されていると認められる。その費用額は,居室面積に応じた平方メートル単価でみると1495円(\52,000 ÷ 34.77 u=\1,495 円)であり,不相当に高額であるとはいえない。
また,証拠(証人A)によれば,退去時の清掃状況は,床に髪の毛や紙くずが残され,トイレに汚物の散った跡があり,キッチンの収納には包丁や調味料等が残置されたままであったことが認められ,通常の清掃を行ったとは認めがたい不十分な清掃状況であったといわざるを得ない。以上によれば,本件のルームクリーニング費用5万4600円(\52,000 × 1.05)は原告の負担とするのが相当であり,被告の主張が認められる。
2 争点(2)(中途解約違約金についての特約の有効性)について
(1) 本件契約書(甲1)第4条(3)には,被告主張の違約金の定めがある。
原告は,この特約は入居募集のチラシ・図面には記載されておらず,認識していなかったと主張するが,証拠によれば原告は契約条項の説明及び重要事項説明を受けていることが認められ,この条項を認識していなかったとの主張は認められない。
(2) また,原告は,この特約は,消費者である原告の利益を一方的に害するものとして消費者契約法10条に違反して無効であるか,少なくとも同法9条1号により平均的損害を超える部分につき無効であると主張するので,以下検討する。
本件契約は,事業者たる被告と一般消費者である原告との間の消費者契約に該当する(消費者契約法2条3項),一般の居住用マンションの賃貸借契約である。賃貸借契約において,賃借人が契約期間途中で解約する場合の違約金額をどのように設定するかは,原則として契約自由の原則にゆだねられると解される。しかし,その具体的内容が賃借人に一方的に不利益で,解約権を著しく制約する場合には,消費者契約法10条に反して無効となるか,又は同法9条1号に反して一部無効となる場合があり得ると解される。
途中解約について違約金支払を合意することは賃借人の解約権を制約することは明らかであるが,賃貸借開始より1年未満で解約する場合に違約金として賃料の2ヶ月分,1年以上2年未満で解約する場合に違約金として賃料の1ヶ月分を支払うという本件契約上の違約金の定めが,民法その他の法律の任意規定の適用による場合に比して,消費者の権利を制限し又は義務を加重して,民法1条2項の信義則に反し消費者の利益を一方的に害するものとして一律に無効としなければならないものとまではいえない。
しかし,途中解約の場合に支払うべき違約金額の設定は,消費者契約法9条1号の「消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項」に当たると解されるので,同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害を超えるものは,当該超える部分につき無効となる。これを本件についてみると,一般の居住用建物の賃貸借契約においては,途中解約の場合に支払うべき違約金額は賃料の1ヶ月(30日)分とする例が多数と認められ,次の入居者を獲得するまでの一般的な所要期間としても相当と認められること,被告が主張する途中解約の場合の損害内容はいずれも具体的に立証されていないこと(賃貸人が当然負担すべき必要経費とみるべき部分もある),及び弁論の全趣旨に照らすと,解約により被告が受けることがある平均的な損害は賃料の1ヶ月分相当額であると認めるのが相当である(民事訴訟法248条)。そうすると,被告にこれを超える損害のあることが主張立証されていない本件においては,1年未満の解約の場合に1ヶ月分を超える2ヶ月分の違約金額を設定している本件約定は,その超える部分について無効と解すべきである。このことは,原告が本件契約時に礼金として賃料1ヶ月分相当の15万3000円を支払っていること,解約予告期間として最大で2ヶ月が設定され,本件でも2月9日の予告日から解約日3月31日まで50日間の猶予があったことを併せ考慮すると,解約時における賃貸人,賃借人双方の公平負担の観点からも妥当な結論であると解する。
したがって,被告が請求しうる違約金額は,賃料の1ヶ月分である15万3000円の限度と解するのが相当である。
3 まとめ
(1) 以上によれば,本件解約及び退去・明渡しに伴い原告が負担すべき費用は次のとおりとなる。
(ア) 3月分の賃料及び管理費16万1000円(争いがない)
(イ) クロス貼替費用5651円
(ウ) ルームクリーニング費用5万4600円
(エ) 解約違約金15万3000円
合計37万4251円
(2) 原告の預入敷金は22万9500円であるから,これを前記の原告が支払うべき37万4251円に充当・相殺すると(まず(ア)から),原告が支払うべき金額は14万4751円(\374,251−\229,500=\144,751)となる。
(3) 以上のとおりであるから,敷金の返還を求める原告の本訴請求には理由がないのでこれを棄却することとし,解約違約金等の支払を求める被告の反訴請求は14万4751円及びこれに対する平成21年3月2日から支払済みまで年14.6パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容し,その余は理由がないのでこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
京都地方裁判所平成21年07月23日―敷金返還請求事件
判示事項の要旨
居住用建物の賃貸借契約における保証金の解約引き特約及び更新料特約が,消費者契約法10条に該当し無効であると判断された事例
事実及び理由
第1 請求
1 被告は,原告に対し,46万6000円及び内35万円に対する平成20年7月31日から,内11万6000円に対する同年10月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
第2 事案の概要など
1 事案の概要
原告は,被告(貸主)との間のマンション賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)の締結時に保証金35万円を,契約更新時に更新料特約(以下「本件更新料特約」という。)に基づき更新料11万6000円(以下「本件更新料」という。)をそれぞれ支払ったが,本件賃貸借契約の約定中,解約引き特約(以下「本件敷引特約」という。)及び本件更新料特約が消費者契約法(以下「法」という。)10条により無効である旨主張して,敷金契約終了に基づき被告が返還すべき義務があることを自認した5万円を含めた保証金35万円及びこれに対する賃借物件明渡し後である平成20年7月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,不当利得返還請求権に基づき,更新料11万6000円及びこれに対する訴えの変更申立書送達の日の翌日である同年10月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 前提事実(証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実)
(1) 原告は,平成18年4月1日,被告との間で原告を賃借人,被告を賃貸人として,以下の内容の本件賃貸借契約を締結した(甲1)。
ア 賃貸借物件京都市a区b町c−d e号室(以下「本件物件」という。)
イ 契約期間平成18年4月1日から平成20年3月31日まで
ウ 賃料1か月5万8000円
エ 保証金35万円
オ 解約引き30万円(以下「本件敷引金」という。)
カ 更新料賃料2か月分
(2) 本件賃貸借契約にかかる契約書(以下「本件賃貸借契約書」という。)には以下の条項があった(甲1。なお,同契約書中「甲」は賃貸人たる被告のことであり,「乙」は賃借人たる原告のことである。)。
第2条(敷金または保証金)
@ 乙は,敷金(保証金)として頭書(3)記載の金額(35万円)を本契約締結時と同時に甲に差し入れるものとする。但し,敷金(保証金)には,利息を付さない。
A 前項の敷金(保証金)は,乙の甲に対する賃料の支払及び損害賠償その他の本契約から生ずる一切の債務を担保する。
C 甲は,敷金(保証金)を返還する際,未納の家賃損害金,滞納損害金,原状回復の為の費用等,乙が甲に支払うべき金額を控除して,その残金を明渡し後60日以内に乙に返還する。但し,敷金(保証金)の額が不足するときには,乙は不足額を直ちに甲に納付しなければならない。
第3条(賃料及び共益費等)
@ 賃料及び共益費は,頭書(3)に記載(賃料5万8000円,共益費5000円)するとおりとする。
第4条(契約期間)
@ 契約期間は,頭書(2)記載(平成18年4月1日から平成20年3月31日まで)のとおりとする。但し,契約期間満了の2か月以上前に,乙が甲に対し書面により更新拒絶の申出をしない限り,契約は当然に更新されるものとする。但し,第11条第2項に該当する場合(乙の責に帰すべき事由による契約の解除)は本契約を更新することができない。
A 乙は合意更新または,前項による法定更新にかかわらず,頭書(3)記載の更新料(賃料2か月分)を支払わなければならない(本件更新料特約)。
第5条(賃料・共益費の改定)
第3条に定める賃料及び共益費等が,物価の変動,住宅の維持管理,公租公課等,その他の事由により不相当となるに至ったときは,契約期間中といえども,甲は,家賃・共益費・敷金等を改定することができる。
第6条(延滞金)
乙が賃料及び共益費等の全部又は一部の支払を怠ったときは,乙は甲に対し納付期日から延滞日数に応じ年率(365日あたり)14.6パーセントの割合を乗じて算出した額に相当する延滞金を支払わなければならない。但し,天災等その他不可抗力によるものと甲が認めたときは,これを減免することができる。
第10条(契約期間内の解約)
@ 乙は契約期間中といえども,甲に対して書面により2か月以上前の予告期間を定めて,本契約の解約を申し入れることができる。この場合,予告期間満了と同時に本契約は終了する。但し,乙は予告期間にかえて2か月分の賃料相当額を甲に支払うことにより,直ちに解約することができる。
B 甲は契約期間中といえども,乙に対し,6か月以上の予告期間を定めて本契約を解約することができる。
第13条(原状回復)
乙もしくは頭書(4)記載の同居人,又はそれらの来訪者その他の乙の関係者が目的物件,本建物設備,及び諸造等を変更,又は毀損した時は,乙は直ちにこれを原状に回復しなければならない。もし,乙が原状に回復しない場合は,甲は乙の費用負担において回復することができる。
(3) 原告は,被告に対し,平成20年1月15日,本件賃貸借契約を更新するに際し,本件更新料特約に基づき,2年間の契約期間に対する更新料として11万6000円(本件更新料)を支払った。
(4) 原告は,被告に対し,平成20年5月8日,本件賃貸借契約の解約の申入れを行い,同月31日,本件物件を明け渡した(甲2)。
(5) 原告は,被告に対し,平成20年6月2日,2か月分の賃料相当額として11万6000円を支払った。
3 争点及び争点に対する当事者の主張
(1) 本件敷引特約及び本件更新料特約は,法10条に該当するものとして無効といえるか
ア 原告
(ア) 賃貸借契約は,賃貸人が賃借人に対して目的物を使用収益させる義務を負い,賃借人が賃貸人に対して目的物の使用収益の対価として賃料を支払う義務を負うことによって成立する契約であり,賃貸目的物の使用収益と賃料の支払が対価関係にあることを本質的な内容とする。そして,民法上,賃借人に賃料以外の金銭的負担を負わせる旨の明文規定は存しないから,賃借人に債務不履行がある場合を除き,賃借人が負担する金銭的な義務としては賃料以外のものを予定していない。
よって,本件敷引特約及び本件更新料特約のように,賃借人に賃料以外の金銭的負担を負わせる内容の合意は,民法の賃貸借契約に関する任意規定の適用に比し,賃借人の義務を加重するものである。
(イ) 本件敷引金の法的性質について
被告は,本件敷引金の法的性質につき,@自然損耗料,Aリフォーム費用,B空室損料,C賃貸借契約成立の謝礼,D当初賃貸借期間の前払賃料,E中途解約権の対価といった要素が渾然一体となったものである旨主張する。
しかしながら,本件賃貸借契約に際し,本件敷引金がそのような性質を有するものであるとの説明は一切なく,そもそも前記要素は以下のとおりいずれも合理性がない。
a @自然損耗料及びAリフォーム費用について目的物の通常の使用に伴う自然損耗の修繕費用は賃料で考慮されており,賃料に加えて自然損耗の修繕費用の負担を強いることは賃借人に二重の負担を強いることになることから,本件敷引金に自然損耗料及びリフォーム費用としての要素を含ませることには合理性がない。
b B空室損料について
賃貸借契約は,賃貸目的物の使用収益とこれを使用収益する期間に対応する賃料の支払が対価関係に立つ契約であるから,賃借人の使用収益しない期間の空室賃料について賃借人が負担を強いられる理由はない。
c C賃貸借契約成立の謝礼について
賃料以外に賃借人が謝礼を支払わなければならないというのは不合理であって,賃貸借契約成立の謝礼という要素を含ませることには合理性がない。
d D当初賃貸借期間の前払賃料について
現実に使用収益する期間の長短を一切考慮せずに一定金額で賃料を前払させることに合理性はない。そもそも,前払を要するほど賃料が減額されているのか,減額されているとしていくら減額されているのか明らかでないことから,前払賃料という要素を含ませることには合理性がない。
e E中途解約権の対価について
中途解約権は,原告のみならず被告にも留保されているから,原告のみが賃貸人(被告)に対して対価を支払わなければならない理由はない。
(ウ) 本件更新料の法的性質について
被告は,本件更新料の法的性質につき,@更新拒絶権放棄の対価,A賃借権強化の対価,B賃料の補充,C中途解約権の対価といった要素が渾然一体となったものである旨主張する。
しかしながら,本件賃貸借契約に際し,本件更新料がそのような性質を有するものであるとの説明は一切なく,そもそも前記要素は以下のとおりいずれも合理性がない。
a @更新拒絶権放棄の対価について
賃貸人の更新拒絶は,正当事由があると認められる場合でなければすることができず(借地借家法28条),居住用建物の賃貸借契約の場合,正当事由が認められることはほとんどない。また,賃貸人の更新拒絶は,期間満了の6か月前までに行使しなければならず(同法26条1項),合意更新がなされる場合,すでに賃貸人による更新拒絶権行使の期間が徒過しており,更新拒絶権が発生しないことが確定している場合がほとんどである。よって,本件更新料を更新拒絶権放棄の対価とみることはできない。
b A賃借権強化の対価について
本件賃貸借契約において,賃貸人に中途解約権が留保されており,賃借権は全く強化されていない。また,居住用建物の賃貸借の場合,契約期間が短く,法定更新の場合と比べ,合意更新によって賃借権を確保するという実質的な意味はほとんどない。そもそも,賃貸人の正当事由に基づく解約が認められる場合はほとんどなく,本件更新料には賃借権を強化するという要素はない。
c B賃料の補充について
現実に使用収益する期間の長短を一切考慮せず,一定金額で賃料を補充させることに合理性はない。そもそも,賃貸借期間が1,2年と短期に設定されている居住用建物の賃貸借の場合,その期間内に賃料の不足分が生じるとは考えにくく,更新料によって賃料を補充する必要性に欠ける。法定更新の場合に更新料が支払われないことについて全く説明ができないことからも,その不合理性は明らかである。
d C中途解約権の対価について
賃借人が中途解約権を留保している一方,賃貸人も中途解約権を留保しているのであり,賃借人だけがさらに対価を支払わなければならない理由はない。そもそも,本件賃貸借契約においては,更新前からすでに中途解約権が留保されており,更新料と対価関係を見出すことはできない。
e そして,全国的には居住用建物の賃貸借において更新料の定めを設けることは例外的であること,国土交通省が推奨する賃貸住宅標準契約書においても更新料の定めはないこと,公営住宅の賃貸借契約においては更新料の定めがないこと,住宅金融公庫融資物件について,更新料支払条項を設けることは賃借人に不当な負担を課すことから上記定めを設けることが罰則により禁止されていたこと等からしても,本件更新料特約が不合理であることは明らかである。
(エ) 賃貸事業者と消費者である賃借人との交渉力の格差からすれば,敷引特約及び更新料特約を賃借人が交渉によって排除することは事実上不可能である。仲介業者は賃貸物件を媒介する業者であり,賃借人の情報の質及び量並びに交渉力の格差を是正することを業務とはしていない。
また,契約内容につき説明され理解したようにみえても,実は情報の質及び量並びに交渉力の格差を背景に,賃貸事業者によって定められた契約内容が賃借希望者に対して一方的に押しつけられているのが現実であるから,契約条項自体が不当であれば無効となる。
そして,前記(イ)及び(ウ)のとおり,本件敷引金及び本件更新料にはいずれも合理的な法的性質は認められないにもかかわらず,賃借人(原告)に対してそれぞれ30万円(敷引率約86パーセント,賃料の約5.2か月分)及び11万6000円(賃料の2か月分)もの金員の負担を強いている。
賃借人の金銭的な義務は,あくまで賃料支払義務であり,それ以外に敷引金及び更新料を賃借人に負担させる正当な理由は何ら存在しないところ,本件賃貸借契約における賃料額が近隣同種物件の標準賃料額に比し低額に設定されている事実はない。
(オ) 以上の事情を総合考慮すると,本件敷引特約及び本件更新料特約は,民法1条2項の規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるから,法10条により無効である。
イ 被告
(ア) 本件敷引金の法的性質
本件敷引金は,以下のとおり,@自然損耗料,Aリフォーム費用,B空室損料,C賃貸借契約成立の謝礼,D当初賃貸借期間の前払賃料,E中途解約権の対価といった要素が渾然一体として含まれる金員であり,合理性を有する。
a @自然損耗料について
自然損耗についての修繕費用を月々の賃料という名目だけで回収するか,月々の賃料という名目だけではなく,保証金・敷引金という名目によっても回収するかは,地域の慣習などを踏まえて,賃貸人の判断に委ねられている事柄であり,本件敷引特約は,自然損耗料を賄うものである。
b Aリフォーム費用について
リフォームの程度は,賃貸期間の長短と直接の関係はなく,1,2年程度の短期間の賃貸借であっても,相当程度のリフォームが必要となるところ,賃貸借期間がどの程度継続するか予測し難いため,リフォームを含めた適正な賃料額を設定することは困難である。そのため,リフォーム費用を賃借人の負担とし,かつ,それを固定額として賃料とは別の名目で回収することは合理的である。
c B空室損料について
賃貸事業は,ある賃借人に賃貸してから次の賃借人に賃貸を開始するまでを1クールとして完結する事業であるところ,空室期間の賃料相当分を賃借人の負担とし,かつ,それを固定額として賃料とは別の名目で回収することは合理的である。
d C賃貸借契約成立の謝礼について
不動産の賃貸借契約は賃貸人と賃借人の人的信頼関係で結ばれていること,賃貸借契約により賃借人が取得する権利はそれ自体が経済的価値を持つ権利性の強い権利であること等から,かかる賃借人たる地位を得た対価としての礼金を授受することには十分に合理性がある。
e D当初賃貸借期間の前払賃料について
本件賃貸借契約においては,月払の賃料額を低額に抑えつつ,一部を賃料の前払として敷引金に含ませ,その合計をもって実質賃料としているのであるから,何ら不合理なものではない。
f E中途解約権の対価について
本件賃貸借契約で留保される賃貸人の中途解約権は,借地借家法30条に反し無効であるから,実質的には中途解約できない。すなわち,期間の定めのある本件賃貸借契約の場合,正当事由があったとしても賃貸人の意思のみによって中途解約権を行使することはできない。仮に,賃貸人の中途解約権を定める条項が有効であったとしても,賃貸人が中途解約権を行使するためには正当事由が必要であり,その有無は厳格に判断されるため,両当事者に対等性はなく,賃借人に有利な中途解約権が付与されている。
(イ) 本件更新料の法的性質
本件更新料は,以下のとおり,@更新拒絶権放棄の対価,A賃借権強化の対価,B賃料の補充,C中途解約権の対価といった要素が渾然一体として含まれる金員であり,合理性を有する。
a @更新拒絶権放棄の対価について
本件更新料は賃貸人の更新拒絶権を放棄することの対価としての性質を有し,また,更新料の支払を約することによって,画一的に更新拒絶権行使に伴う紛争を回避する目的もあり,合理性を有する。
b A賃借権強化の対価について
本件更新料の支払により,本件賃貸借契約が期間の定めのある賃貸借契約として更新され,賃貸人からの解約申入れがなされないこととなり,これにより賃借権が強化されることの対価としての性質を有する。なお,賃貸人の中途解約権は,借地借家法30条により無効である。
c B賃料の補充について
賃貸人及び賃借人は,月額賃料等と同様,更新料について目的物件を使用収益させる(する)対価として把握していると考えるのが合理的意思解釈として妥当である。そして,本件更新料は,2年間の更新期間ごとに支払われることが約定されており,使用収益期間と更新料支払との相関関係が肯定されることから,本件更新料は,賃借人の使用収益期間に対応した賃料の補充的性質を有する。
d C中途解約権の対価について
賃貸人の中途解約権は,借地借家法30条により無効であることから,賃借人にのみ片面的に中途解約権が付与されることになる。仮に,賃貸人の中途解約権を定める条項が有効であったとしても,賃貸人が中途解約権を行使するためには正当事由が必要とされ,その有無は厳格に判断されるため,中途解約に関して両者間に対等性はなく,賃借人に有利な中途解約権の付与にあたる。
(ウ) 本件敷引特約及び本件更新料特約は,前記の法的性質や契約当事者の意識等から,契約の要素と主たる給付の対価という核心的部分又は中心的部分の条項に該当し,専ら当事者の自由意思によって決定される事項であり,比較すべき適切な対象基準がそもそも存在しないことから,法10条は適用されない。
(エ) 居住用建物の賃貸借において賃借人は,物件の所在・設備・広さ等とともに経済的な負担(賃料・共益費・礼金・敷金・更新料等)を比較検討した上で賃借する物件を選択する。このことから,賃貸借契約の締結にあたっての賃料額の算出において,さまざまな要素を斟酌し盛り込むことは,民法が当然に予定し,許容しているものである。そして,本件敷引金及び本件更新料は,前記の法的性質のとおり,賃借人の使用収益と対価関係に立つものであるから,月額賃料と合算して全体として実質賃料を構成するから,その総額が不合理でない限り,民法601条に比して消費者の義務を加重するものではなく,法10条1項前段に該当しない。
また,敷引及び更新料については,事実たる慣習となっており,法10条1項前段所定の「民法その他の法律の公の秩序に関しない規定」に含まれる(民法92条)から,本件敷引特約及び本件更新料特約が法10条1項前段に該当することはない。
(オ) 法10条1項後段の要件は,当該契約条項を有効とすることによって消費者が受ける不利益と当該契約条項を無効とすることによって事業者が受ける不利益とを利益衡量し,消費者の受ける不利益が信義則に反し均衡を失するといえるほどに一方的に大きいといえる場合にのみ,当該契約条項を無効とするものと解すべきである。
居住用建物の賃貸借においては,平成12年時点において,空家率が15パーセントを超えるなど賃借人が自己の希望する条件に適合する,あるいはこれに近い物件を選択することが十分に可能な状況となっていたこと,賃貸人が個人経営者であるのに対して,賃借人はインターネット・情報誌等により容易に大量の情報を手に入れることができること,本件賃貸借契約の締結にあたっては,京都ライフが原告の仲介業者としてその契約締結交渉及び手続をしていたことなどから,両当事者に法が想定するような情報及び交渉力の格差はなかった。
そして,本件賃貸借契約における賃料は,本件敷引特約及び本件更新料特約を前提として,近隣類似物件に比し,低廉に設定されている。
また,本件敷引特約及び本件更新料特約は,本件賃貸借契約にかかる契約書に明示されており,原告はこれを十分に理解した上で本件賃貸借契約を締結し,本件敷引特約については誓約書まで提出している。
原告は,本件敷引特約及び本件更新料特約を納得・了承して本件賃貸借契約を締結しており,これらの特約が有効とされても,もともと自ら承知していた負担を負うだけのことであり,不測の損害を被ることはない。他方,被告は本件敷引金及び本件更新料を含めてマンション経営全体の収支を計算し,その上で月額賃料額を設定しており,仮にこれらの特約が無効とされると,被告は不測の損害を被る。
以上のとおり,本件敷引特約及び本件更新料特約は,内容に合理性があり,社会的にも承認されていたこと,原告被告間に情報力や交渉力の格差は存せず,原告の受ける不利益が被告の受ける不利益に比べて一方的に大きいとはいえないことなど諸般の事情を総合考慮すると,本件敷引特約及び本件更新料特約は法10条1項後段に該当しない。
(2) 本件賃貸借契約を清算する和解が成立したといえるか
ア 被告
本件物件の明渡しに際し,原告と被告代理人有限会社アドバンスは,原状回復費用その他本件賃貸借契約にかかる清算問題について協議した。その結果,@被告が原告に対し特別損耗にかかる原状回復費用を請求しないこと,A被告が預かっている保証金35万円につき本件敷引特約を適用し,5万円を平成20年7月31日までに原告に返還すること,B原告が被告に対し2か月分の賃料相当額を速やかに支払うこと,を内容とした和解(以下「本件和解」という。)が成立した。原告は,本件賃貸借契約書第10条1項により,2か月以上前の予告期間を定めてするか,2か月分の賃料相当額を解約権行使時に支払うことによって本件賃貸借契約の解約告知を行うことができるが,本件ではそのいずれの要件も満たしていなかった。それにもかかわらず,被告は,原告に対し,本件賃貸借契約を平成20年5月31日をもって終了させる点で譲歩している。また,2か月分の賃料相当額について,本件賃貸借契約書第6条により,年14.6パーセントの割合による3日分の遅延損害金の支払義務を負うところ,被告は原告に対し,この遅延損害金の支払義務を免除した点で譲歩している。20日までに退去する旨誓約していたにもかかわらず,この違反を不問とする点で譲歩している。
そして,原告は被告に対し,本件和解に基づき,平成20年6月2日,11万6000円を支払った。
本件和解は,本件賃貸借契約の終了にかかる問題をすべて解決する趣旨のものであり,本件和解により,原告は,被告に対し,本件敷引特約適用後の預かり保証金残額5万円の返還請求権のみを有するものであり,本件敷引金及び本件更新料の返還請求権を有しない。
イ 原告
被告の前記アの主張は否認ないし争う。
和解は,当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約する契約であるところ,被告主張の本件和解は,賃借人である原告のみに譲歩を強いるもので互譲がない。原状回復費用はそもそも賃貸人が負担すべきものであるから,被告が原告に対して請求しないのは当然である。
本件賃貸借契約において,特別損耗部分は生じていない。また,敷引部分に該当しない金員を賃貸人が賃借人に返還するのは当然である。
なお,本件契約の中途解約は,2か月以上前の予告期間を定めてするか,2か月分の賃料相当額を支払うことによって行うことができるが,あらかじめ2か月分の賃料を支払うことまで要求するものではない。また,誓約自体有効性に疑義があるし,原告は31日に退去することにつき被告から了解を得ていた。
(3) 原告の本件請求が信義則に反するといえるか
ア 被告
(ア) 本件賃貸借契約における賃料は,近隣同種物件の標準賃料に比し,低額に設定されている。
(イ) 原告は,被告に対し,駐車場に空きがないにもかかわらず,駐車場がなければいずれ出て行かなければならなくなる旨申し向けて,駐車場の賃貸を申し込んだ。被告は,原告の申込みに困惑したが,原告に退去される事態を避けたいとの思いから,平成19年12月23日,やむなく自らが使用していた駐車場を空け,原告に賃貸した。その際,原告は「マンションも借りてるんだから,安くしてよ。」と値段交渉を行い,被告はやむなく月額1万7000円のところを月額1万6000円とする減額に応じた。これにより,被告は自動車通勤をすることができなくなり,自転車通勤を余儀なくされた。さらに,原告は被告に対し,平成20年1月ころ,駐車場が狭いことを理由に駐車場の場所の変更を何度も要求していたところ,別の駐車場が空くことから被告はこれにやむなく応じ,本来その場所に決まっていた者との交渉をしてまで対処した。
原告は,これにより自己の自動車を新たな駐車場に移動する必要があったが,期日までに移動させず,被告は,本来そこに駐車する予定であった者からのクレーム対応に忙殺された。
(ウ) 前記(イ)のとおり,被告は原告が本件物件の賃借人であることから,駐車場契約をし,利用することができるよう種々の便宜を図ってきたにもかかわらず,原告が本件請求をすることは信義則に反し,許されない。
イ 原告
被告の主張は否認ないし争う。
(4) 被告による弁済の提供があったか
ア 被告
被告は,原告代理人A(以下「A」という。)に対し,平成21年9月1日,本件賃貸借契約に基づき本来返還すべき5万円を含めた20万円を返金する旨申し出た。しかし,Aは,その受領を拒否した。
イ 原告
被告の前記アの主張は認める。Aは,原告から本件敷引金及び本件更新料の合計46万6000円の返還請求を依頼されていたため,20万円では応じられないことから,上記のとおり拒否した。
第3 当裁判所の判断
1 本件敷引特約及び本件更新料特約は,法10条に該当するものとして無効といえるか(争点(1))
(1) 前提事実及び弁論の全趣旨によれば,原告は法2条1項の「消費者」に,被告は同条2項の「事業者」にそれぞれ該当し,本件賃貸借契約に法が適用される。
(2) 本件敷引特約及び本件更新料特約が民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項といえるかについて検討する。
ア 本件敷引特約について
賃貸借契約は,賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とする契約であり(民法601条),賃借人が賃料以外の金員の支払を負担することは賃貸借契約の基本的内容に含まれない。そして,居住用建物の賃貸借の場合の保証金は,敷金と同様,賃料その他の賃借人の債務を担保する目的をもって賃貸借契約締結時に賃借人から賃貸人に交付される金員であり,賃貸借契約終了の際に賃借人の債務不履行がないときは賃貸人はその金額を返還するが,債務不履行があるときはその金額中より当然弁済に充当されることを約束して授受する金員を指すことが多く,本件賃貸借契約書(甲1)第2条にも,その趣旨が規定されている。
しかしながら,本件敷引特約については,全く返還を許さない趣旨のものなのか,原状回復にその程度の費用を要することがあることを考慮して,基本的には返還しないが,そのような費用を要しなかったことが具体的に明らかになった場合には,本件敷引特約を適用しないこととするかについて,明瞭な約定がされていたものとは評価し難い。
さらに,将来返還される余地のない金員として,本件敷引金のような金員を授受することが慣習化していることを認めるに足りる証拠はない。
こうしたことを考慮すると,本件敷引特約は,その法律上の性質ないし意味合いを明確にしないまま,民法その他公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の義務を加重したものといえる。
イ 本件更新料特約について
前記アのとおり,賃借人が賃料以外の金員の支払を負担することは賃貸借契約の基本的内容に含まれないところ,本件更新料特約では,賃借人が賃貸人に対し,契約更新時に賃料の2か月分相当額の更新料を支払うこととされている(前提事実(1)カ)。そして,本件更新料が,賃料の補充としての性質を有しているといえるかは後記のとおり疑問であるし,仮にその性質を有していたとしても,その支払時期が早い点(民法614条参照)で賃借人の義務を加重する特約であるといえる。
さらに,更新料を授受することが慣習化していることを認めるに足りる証拠はない。
そうすると,本件更新料特約は,民法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の義務を加重したものといえる。
(3) 本件敷引特約及び本件更新料特約が民法1条2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するといえるかについて検討する。
ア 民法1条2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するか否かは,消費者と事業者との間に情報の質及び量並びに交渉力の格差があること(法1条)にかんがみ,当事者の属性や契約条項の内容,そして,契約条項が具体的かつ明確に説明され,消費者がその条項を理解できるものであったか等種々の事情を総合考慮して判断すべきである。
前提事実及び弁論の全趣旨によれば,原告は,居住用として本件物件の賃借人となった者であるのに対し,被告は,貸家業を営み,多くの借家人と賃貸借契約を締結してきたのであって,建物賃貸借に関する情報(礼金,保証金,更新料等を授受するのが通常かどうか,同種の他の物件と比較して本件賃貸借契約の諸条件が有利であるか否か)を継続的に得ることができる立場にあり,このような情報に接してきた期間にも差があるものと推認できるのであって,両者の間に情報収集力の格差があることは否定できない。
イ 本件敷引特約について
(ア) 本件敷引特約は,保証金35万円からそのうち30万円を無条件に差し引くものであるが,賃借人(原告)としては本件物件を借りようとする以上,支払わざるを得ないものであり,特に本件賃貸借契約のように4月から入居しようとする場合,賃借希望者が多数存在することから競争原理が強くはたらく結果,原告としては本件敷引特約について交渉する余地はほとんどなかったものと考えられる。そして,本件敷引金は,保証金の約85パーセントに相当し,月額賃料の約5か月分にも相当するものであり,保証金,賃料に比して高額かつ高率であり,消費者である原告にとって大きな負担となる。
(イ) 被告は本件敷引金の法的性質について,@自然損耗料,Aリフォーム費用,B空室損料,C賃貸借契約成立の謝礼,D当初賃貸借期間の前払賃料,E中途解約権の対価といった要素があり,これらの要素が渾然一体として含まれる本件敷引金には合理性がある旨主張するので,各要素について検討する。
a @自然損耗料及びAリフォーム費用について賃貸借契約は,賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり,賃借物件の損耗の発生は,賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものである。そのため,建物の賃貸借においては,賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗にかかる投下資本の減価の回収は,通常,賃貸人が減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われているところ(最高裁平成16年(受)第1573号同17年12月16日判決・判例タイムズ1200号127頁),本件全証拠をもってしても,京都市内においてこれと異なる慣習等が存在するとは認められない。そうすると,通常損耗の回復費用は賃料を適正な額とすることによって回収するのが通常というべきであって,敷引金という形で賃借人に負担を転嫁することには合理的理由があるとはいえない。
また,リフォーム費用も,通常損耗部分の補修のために支出される側面が多く,本件全証拠をもってしても,本件物件について通常損耗がなかったが,良質な居住環境を提供するためにリフォームを行うこととしているなど,そうしたことへの対価として返還を要しない礼金を授受することが適当とみられるような状況が存在したとまでは認め難い。そうすると,本件においては,リフォーム費用を敷引金という形で賃借人に負担を転嫁することには合理的理由があるとはいえない。
b B空室損料について
賃貸人による投下資本(賃貸物件)の回収は,原則として賃料の支払を受けることにより行われているのであるから,空室期間(すなわち,賃借人が使用収益しない期間)の賃料が得られないことによるリスクは賃貸人が負うべきである。そのため,建物の賃貸借契約では,賃貸人のリスクを避けるため,賃借人からの解約も一定期間の経過をもって終了することとされている(民法617条,本件賃貸借契約書第10条1項参照)。
そうすると,賃借人が賃貸事業者である被告に対して,使用しない期間の空室損料を支払わなければならない合理的理由があるとはいえない。
c C賃貸借契約成立の謝礼について
賃貸借契約が成立することにより賃貸人も利益を受けるのであり,賃借人のみに賃貸借契約成立の謝礼を一方的に負担させる合理的理由があるとはいえない。
d D当初賃貸借期間の前払賃料について
本件賃貸借契約において,本件敷引特約が設定されていることにより賃料が低額にされているかは本件全証拠によっても明らかではない。
また,前記aのとおり,賃貸借契約は,賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであるから,実際に賃借人が使用する期間にかかわりなく,本件敷引金に賃料前払の要素があるとする合理的理由は見出せない。
さらに,更新後の賃貸借期間については更新料という名目で同様の趣旨の金員支払を求め,本件賃貸借契約を締結する当初には解約引きとして,この意味合いを有する金員支払を求めることは,賃貸人に都合の良い説明であるといわざるを得ず,本件敷引特約が具体的かつ明確に説明され,消費者がその条項を理解できるものであったかという観点からすると,消費者(原告)が上記Dの要素があるものと理解することはできなかったと考えざるを得ない。
e E中途解約権の対価について
本件賃貸借契約書第10条2項により,賃貸人にも中途解約権は留保されており,その対価を賃借人に一方的に負担させる合理的理由があるとはいえない。
(ウ) 以上のとおり,被告が主張する本件敷引金の性質に合理的理由は認められず,その趣旨は不明瞭であるといえる。
(エ) 前記(ア)ないし(ウ)で指摘した点を考慮すると,本件敷引金を賃借人に負担させるには,その旨が具体的かつ明確に説明され,賃借人がその内容を認識した上で合意されることが必要であり,そうでない以上,民法1条2項に規定する基本原則(信義則)に反して賃借人の利益を一方的に害するものというべきである。
(オ) 前提事実及び弁論の全趣旨によれば,原告は仲介業者を介し,契約内容の説明を受けていたこと,本件賃貸借契約書(甲1)に「解約引き30万円」の記載があったことが認められ,原告は本件敷引特約の存在自体は認識していたといえる。しかしながら,原告が被告から被告主張のような本件敷引特約の趣旨,すわなち,本件敷引金30万円がどのようにして決められたのか,自然損耗料,リフォーム費用,空室損料,賃貸借契約成立の謝礼,当初賃貸借期間の前払賃料,あるいは,中途解約権の対価の要素を有するのかということについて,具体的かつ明確な説明を受けていたとは本件全証拠によっても認められない。
(カ) よって,本件敷引特約は,法10条に該当し,無効である。
ウ 本件更新料特約について
(ア) 本件更新料特約は,賃料2か月分として11万6000円を支払うものであるが,賃借人として本件物件を(たとえ1か月でも)継続して借りようとする以上,その全額を支払わなければならないものであり,原告としては本件更新料特約について交渉する余地がほとんどない。また,賃借人としては,遠隔地に居住する必要がある場合等の外は,引き続いて当該物件を借りるのが一般的であるところ,証拠(甲21)によれば当該物件を選ぶ際に更新料の存在及びその額を知り得ないこともあり,更新料まで考慮して契約を締結することは困難である。そして,本件更新料特約による更新料は,契約期間2年に対し月額賃料の2か月分を支払うものであること,正当事由(借地借家法28条)の有無に関係なく支払わなければならないこと,法定更新なら全く金員を支払う必要がないことからすると,原告にとって大きな負担となる。
(イ) 被告は本件更新料の法的性質について,@更新拒絶権放棄の対価,A賃借権強化の対価,B賃料の補充,C中途解約権の対価といった要素があり,合理性がある旨主張するため,各要素について検討する。
a @更新拒絶権放棄の対価について
建物の賃貸借において,賃貸人に明渡しの正当事由(借地借家法28条)がない限り,賃借人は何らの対価的な出捐をする必要がなく,継続して賃借物件を使用することができるところ,居住用建物の賃貸借において,賃貸人が当該物件の使用を必要とする事情は通常想定できず(本件においても,弁論の全趣旨から,一般に行われている居住用建物の賃貸借と同様,専ら他人に賃貸する目的で建築された居住用建物の賃貸借であることが認められる),正当事由が認められる可能性はほとんどないことから,更新拒絶権放棄の対価という要素に合理的理由があるとはいえない。
b A賃借権強化の対価について
居住用建物の賃貸借の場合,前記aのとおり,正当事由が認められる可能性はほとんどないため,期間の定めのない賃貸借と定めのある賃貸借とで賃借権の保護の度合いは実質的に異ならず,賃借権強化の対価という要素に合理的理由があるとはいえない。
c B賃料の補充について
本件更新料特約では,更新後の実際の使用期間(前提事実のとおり,本件では更新後2か月経過時点で明け渡している)の長短にかかわらず,賃料の2か月分を支払わなければならないのであり,使用収益に対する対価である賃料の一部として評価することはできない(上記のように更新後,短期間で賃貸物件を明け渡した場合でも,残期間に対応する更新料が返還されることはうかがえない。)。
さらに,賃料増減額請求訴訟において,その対象に更新料も含まれることを前提としていることはほとんどないこと及び同請求訴訟の審理において賃料の適正額を判断する際,通常,更新料の額まで考慮されることは稀であることからも,更新料が賃料の補充の性質を有しているとはいえず,本件更新料に賃料の補充という要素があるという点に合理的理由があるとはいえない。
d C中途解約権の対価について
本件賃貸借契約書第10条2項により,賃貸人にも中途解約権が留保されており,その対価を賃借人に一方的に負担させる合理的理由があるとはいえない。
(ウ) 以上のとおり,被告が主張する本件更新料の性質に合理的理由は認められず,その趣旨は不明瞭であるといえる。
(エ) 前記(ア)ないし(ウ)で指摘した点を考慮すると,本件更新料を賃借人に負担させる場合は,その旨が具体的かつ明確に説明され,賃借人がその内容を認識した上で合意されることが必要であり,そうでない以上,民法1条2項に規定する基本原則(信義則)に反して賃借人の利益を一方的に害するものというべきである。
(オ) 前提事実及び弁論の全趣旨によれば,原告は仲介業者を介して契約内容の説明を受けていたこと,本件賃貸借契約書(甲1)に「更新料賃料の2か月分」の記載があったことが認められ,原告は本件更新料特約の存在自体は認識していたといえる。しかしながら,原告が被告から被告主張のような本件更新料特約の趣旨,すわなち,本件更新料が更新拒絶権放棄の対価,賃借権強化の対価,賃料の補充,あるいは,中途解約権の対価の要素を有するということについて,具体的かつ明確な説明を受けていたとは本件全証拠によっても認められない。
(カ) よって,本件更新料特約は,法10条に該当し,無効である。
2 本件賃貸借契約を清算する和解が成立したといえるか(争点(2)) 被告は,本件和解により,原告は被告に対し,本件敷引特約適用後の預かり保証金残額5万円の返還請求権を有するのみであり,本件敷引金(30万円)及び本件更新料(11万6000円)の返還請求権を有しない旨主張する。
しかしながら,賃貸借契約解除・金銭明細書(甲2)には,「尚,保証金等のお預けしています金銭より私の支払うべき費用(下記諸費用・別紙見積書・請求書)を全て清算することに了承いたします。また,清算後不足金が有る場合は,下記お約束の期日までに遅滞なくお支払いいたします。」と記載されていることが認められるが,それ以上に原告が不当利得返還請求権を有する場合にどのように処理するのかについては特段の記載がされていないし,本件全証拠をもってしても,その点に関する何らかの合意がされていたとは認められない。そうすると,被告が利得分を保持すべき法律上の原因が存在するとはいえない。
また,民法705条の趣旨に照らせば,本件敷引特約及び本件更新料特約が法10条により無効である以上,賃借人(原告)が上記無効により本件敷引金及び本件更新料の返還を求めることができることを知りながら,あえて契約を締結するとか,こうした請求権を放棄する旨の明確な意思表示がされていない限り,不当利得返還請求権を有するものと解するのが相当である。
本件において,被告が本件和解の証拠として掲げる賃貸借契約解除・金銭明細書(甲2)を含む本件全証拠によっても,原告が上記に述べる返還請求権を放棄する意思を明確に表示していたとは認められない。
よって,被告は本件賃貸借契約を清算する和解が成立したとして不当利得返還義務を免れることはできない(争点(2)についての被告の主張は理由がない。)。
3 原告の本件請求が信義則に反するといえるか(争点(3))
被告は,上記第2の3(3)アのとおりの事情を述べて,本件請求をすることは信義則に反し許されない旨主張する。
しかしながら,本件全証拠によっても,本件賃貸借契約に定める賃料が低額に設定されているかは明らかでないこと,駐車場に関する被告主張の事実が認められるとしても,本件賃貸借契約とは直接関連しない事情であることや,前記1で検討した本件敷引特約及び本件更新料特約の不合理性を考慮すると,原告が本件請求を行うことが信義則に反するとは評価できず,被告の上記主張は失当である。
4 被告による有効な弁済の提供があったか(争点(4))
弁論の全趣旨によれば,被告は,Aに対し,平成21年9月1日,本件賃貸借契約に基づき本来返還すべき5万円を含めた20万円を返金する旨申し出たこと,Aはその受領を拒否したことが認められる。
しかしながら,前記1で検討したとおり,原告は被告に対し,46万6000円の返還請求権を有しているところ,被告の弁済の提供は,その半額以下の20万円であるから,有効な弁済の提供とはならない。
したがって争点(4)についての被告の主張は理由がない。
5 結論
以上によれば,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条を,仮執行の宣言につき同法259条1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。
最高裁判所第二小法廷平成21年07月03日―賃料等請求事件
理由
上告代理人ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
1 本件は,建物についての担保不動産収益執行の開始決定に伴い管理人に選任された被上告人が,上記建物の一部を賃料月額700万円(ほかに消費税相当額35万円)で賃借している上告人に対し,平成18年7月分から平成19年3月分までの9か月分の賃料合計6300万円及び平成18年7月分の賃料700万円に対する遅延損害金の支払を求める事案である。上告人は,上記賃貸借に係る保証金返還債権を自働債権とする相殺の抗弁を主張するなどして,被上告人の請求を争っている。
2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) 第1審判決別紙物件目録記載2の建物(以下「本件建物」という。)の過半数の共有持分を有するA株式会社(以下「A」という。)は,平成9年11月20日,上告人との間で,本件建物の1区画を次の約定で上告人に賃貸する契約を締結し,同区画を上告人に引き渡した。
ア 期間20年間
イ 賃料月額700万円(ほかに消費税相当額35万円)毎月末日までに翌月分を支払う。
ウ 保証金3億1500万円(以下「本件保証金」という。)賃貸開始日から10年が経過した後である11年目から10年間にわたり均等に分割して返還する。
エ 敷金1億3500万円
上記区画の明渡し時に返還する。
(2) Aは,上記契約の締結に際し,上告人から,本件保証金及び敷金として合計4億5000万円を受領した。
(3) Aは,平成10年2月27日,本件建物の他の共有持分権者と共に,Bのために,本件建物につき,債務者をA,債権額を5億5000万円とする抵当権(以下「本件抵当権」という。)を設定し,その旨の登記をした。
(4) Aは,平成11年6月22日,上告人との間で,Aが他の債権者から仮差押え,仮処分,強制執行,競売又は滞納処分による差押えを受けたときは,本件保証金等の返還につき当然に期限の利益を喪失する旨合意した。
(5) Aは,平成18年2月14日,本件建物の同社持分につき甲府市から滞納処分による差押えを受けたことにより,本件保証金の返還につき期限の利益を喪失した。
(6) 本件建物については,平成18年5月19日,本件抵当権に基づく担保不動産収益執行の開始決定(以下「本件開始決定」という。)があり,被上告人がその管理人に選任され,同月23日,本件開始決定に基づく差押えの登記がされ,そのころ,上告人に対する本件開始決定の送達がされた。
(7) 上告人は,平成18年7月から平成19年2月までの間,毎月末日までに,各翌月分である平成18年8月分から平成19年3月分までの8か月分の賃料の一部弁済として各367万5000円の合計2940万円(消費税相当額140万円を含む額)を被上告人に支払った(以下,これらの弁済を「本件弁済」と総称する。)。
(8) 上告人は,Aに対し,平成18年7月5日,本件保証金返還残債権2億9295万円を自働債権とし,平成18年7月分の賃料債権735万円(消費税相当額35万円を含む額)を受働債権として,対当額で相殺する旨の意思表示をし,さらに,平成19年4月2日,本件保証金返還残債権2億8560万円を自働債権とし,平成18年8月分から平成19年3月分までの8か月分の賃料残債権各367万5000円の合計2940万円(消費税相当額140万円を含む額)を受働債権として,対当額で相殺する旨の意思表示をした(以下,これらの相殺を「本件相殺」と総称し,その受働債権とされた賃料債権を「本件賃料債権」と総称する。)。
3 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断して,平成18年7月分の賃料700万円(以下,いずれも消費税相当額を含まない額である。)及び平成18年8月分から平成19年3月分までの8か月分の賃料の本件弁済後の残額2800万円の合計3500万円並びに平成18年7月分の賃料700万円に対する遅延損害金の支払を求める限度で被上告人の請求を認容した。
(1) 本件相殺の自働債権とされた本件保証金返還残債権はAに対するものであるのに対し,本件開始決定の効力が生じた後に発生した支分債権である本件賃料債権は,その管理収益権を有する管理人である被上告人に帰属するものであって,民法505条1項所定の相殺適状にあったとはいえないから,本件相殺は効力を生じない。
(2) 仮にそうでないとしても,本件相殺の意思表示の相手方となるのは本件賃料債権について管理収益権を有する被上告人のみであり,管理収益権を有しないAに対する相殺の意思表示をもって民法506条1項所定の相手方に対する意思表示があったとはいえないから,本件相殺は効力を生じない。
4 しかしながら,原審の上記判断はいずれも是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 担保不動産収益執行は,担保不動産から生ずる賃料等の収益を被担保債権の優先弁済に充てることを目的として設けられた不動産担保権の実行手続の一つであり,執行裁判所が,担保不動産収益執行の開始決定により担保不動産を差し押さえて所有者から管理収益権を奪い,これを執行裁判所の選任した管理人にゆだねることをその内容としている(民事執行法188条,93条1項,95条1項)。管理人が担保不動産の管理収益権を取得するため,担保不動産の収益に係る給付の目的物は,所有者ではなく管理人が受領権限を有することになり,本件のように担保不動産の所有者が賃貸借契約を締結していた場合は,賃借人は,所有者ではなく管理人に対して賃料を支払う義務を負うことになるが(同法188条,93条1項),このような規律がされたのは,担保不動産から生ずる収益を確実に被担保債権の優先弁済に充てるためであり,管理人に担保不動産の処分権限まで与えるものではない(同法188条,95条2項)。
このような担保不動産収益執行の趣旨及び管理人の権限にかんがみると,管理人が取得するのは,賃料債権等の担保不動産の収益に係る給付を求める権利(以下「賃料債権等」という。)自体ではなく,その権利を行使する権限にとどまり,賃料債権等は,担保不動産収益執行の開始決定が効力を生じた後も,所有者に帰属しているものと解するのが相当であり,このことは,担保不動産収益執行の開始決定が効力を生じた後に弁済期の到来する賃料債権等についても変わるところはない。
そうすると,担保不動産収益執行の開始決定の効力が生じた後も,担保不動産の所有者は賃料債権等を受働債権とする相殺の意思表示を受領する資格を失うものではないというべきであるから(最高裁昭和37年(オ)第743号同40年7月20日第三小法廷判決・裁判集民事79号893頁参照),本件において,本件建物の共有持分権者であり賃貸人であるAは,本件開始決定の効力が生じた後も,本件賃料債権の債権者として本件相殺の意思表示を受領する資格を有していたというべきである。
(2) そこで,次に,抵当権に基づく担保不動産収益執行の開始決定の効力が生じた後において,担保不動産の賃借人が,抵当権設定登記の前に取得した賃貸人に対する債権を自働債権とし,賃料債権を受働債権とする相殺をもって管理人に対抗することができるかという点について検討する。被担保債権について不履行があったときは抵当権の効力は担保不動産の収益に及ぶが,そのことは抵当権設定登記によって公示されていると解される。そうすると,賃借人が抵当権設定登記の前に取得した賃貸人に対する債権については,賃料債権と相殺することに対する賃借人の期待が抵当権の効力に優先して保護されるべきであるから(最高裁平成11年(受)第1345号同13年3月13日第三小法廷判決・民集55巻2号363頁参照),担保不動産の賃借人は,抵当権に基づく担保不動産収益執行の開始決定の効力が生じた後においても,抵当権設定登記の前に取得した賃貸人に対する債権を自働債権とし,賃料債権を受働債権とする相殺をもって管理人に対抗することができるというべきである。本件において,上告人は,Aに対する本件保証金返還債権を本件抵当権設定登記の前に取得したものであり,本件相殺の意思表示がされた時点で自働債権である上告人のAに対する本件保証金返還残債権と受働債権であるAの上告人に対する本件賃料債権は相殺適状にあったものであるから,上告人は本件相殺をもって管理人である被上告人に対抗することができるというべきである。
(3) 以上によれば,被上告人の請求に係る平成18年7月分から平成19年3月分までの9か月分の賃料債権6300万円は,本件弁済によりその一部が消滅し,その残額3500万円は本件相殺により本件保証金返還残債権と対当額で消滅したことになる。
5 以上と異なる原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決のうち上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,被上告人の請求を棄却した第1審判決は結論において正当であるから,上記部分につき被上告人の控訴を棄却することとする。
名古屋簡易裁判所平成21年6月4日―敷金等返還請求事件(通常訴訟手続に移行)
事実及び理由
第1 請求
1 被告は,原告に対し,金44万7000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
第2 事案の概要
1 請求原因の要旨
原告は,被告との間で,平成20年10月5日,k市l区m町n−o所在の建物(以下「本件建物」という。)について,原告を借主,被告を貸主とする賃貸借契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
原告は,被告及び仲介業者に対して,本件契約に基づき,次の金員を支払った。
@ 敷金30万円
A 同年11月分家賃12万6000円
B 仲介手数料13万2300円
C 消毒料1万6275円
D 家賃保証料2万5200円
E 鍵交換代2万1000円
F 火災保険料3万円
合計65万0775円
原告は,同年10月24日,仲介業者を通じて,被告に対し,本件契約を解除する旨申し入れた。
その後,仲介業者から,前記B仲介手数料,D家賃保証料,F火災保険料の合計18万7500円の返還はあったが,残りの金員の返還はない。
よって,原告は,被告に対し,本件契約の合意解除又は解約に基づく現状回復請求として,前記@敷金,A同年11月分家賃,E鍵交換代の合計44万7000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
2 請求原因に対する認否及び被告の主張
(1) 敷金,平成20年11月分家賃及び鍵交換代を請求原因のとおり受け取った事実は認める。
(2) 本件契約を合意解除した事実はない。また,本件契約を解約する場合は,約定により,書面により申し入れすることとされているが,書面による解約申し入れはなく,解約は成立していない。原告が仲介業者の従業員のEに解約を申し入れたとしても,被告は仲介業者に賃借人の募集を依頼し,本件契約は締結され,金銭の授受はなされ,仲介業務は終了しているから,被告に対して,いかなる効果も生じない。原告は,本件建物に一度も入居しておらず,被告としては,入居する意思はないものとして,同年12月末日をもって本件契約は終了したものとして扱い,同21年1月から原告とは別の入居希望者に賃貸したものである。
(3) 敷金に関しては,約定により,全額償却するものとされている。本件建物の家賃は月額20万円から25万円が相場であるが,全額償却を前提としていること,賃貸借期間は5年で,延長は認めないという定期借家契約を条件としていることから,月額15万円で賃貸しようとしたが,原告から減額の申し出があったことや,2階部分はリフォームせず,2階にある5部屋のうちの2部屋に本件契約時に置かれていた荷物を引き続き置かせてもらうという条件で,月額12万6000円にしたものである。
敷金は60万円で全額償却するのが相場であるが,本件では敷金を30万円としていることから,これを全額償却としても,賃貸人に一方的に有利とはいえず,敷金の償却の約定が社会的相当性を逸脱しているともいえない。
(4) 鍵交換代については,原告が費用は負担するので鍵を交換して欲しいということで,交換に要する費用として,被告は仲介業者の従業員であるEから2万1000円を受け取ったものである。
被告が鍵交換代を負担することになっていたのであれば,そもそも原告はEに鍵代を支払う必要はなかったはずである。
3 原告の主張
(1) 本件契約はすべて仲介業者であるFを通じて行われており,担当者はEであったことから,解約もEを通したもので,一般的に解約申し入れは仲介業者を通して行われるものであるから,本件でも解約申し入れは有効である。
なお,解約申し入れは書面で行っている。
(2) 敷金を全額償却する旨の契約条項は,賃借人の権利を不当に制限するものであるから無効であり,被告は敷金返還義務を負うべきである。
被告から敷金を全額償却する代わりに家賃を低額に抑えておくという説明は受けていないし,家賃は低額ではなく,適正な額である。
(3) 引っ越しの際に鍵の交換を行うのは常識である。原告は仲介業者から鍵交換代として求められた金額を支払ったに過ぎない。
第3 裁判所の判断
1 原告と被告間で本件契約が締結され,その後,本件契約は終了している事実並びに敷金,平成20年11月分家賃及び鍵交換代を原告が被告に支払った事実は,当事者間に争いはない。
2 本件契約の終了理由,被告に敷金等の返還義務があるのかという点に関して,当事者間に争いがあるので,以下,検討する。
(1) 本件契約終了理由について
原告は合意解除ないし原告からの解約申し入れにより,本件契約は終了した旨主張するのに対し,被告はそれらの事実をいずれも否定し,原告が入居しないので,平成20年12月末をもって本件契約が終了したものと扱った旨主張している。
甲4,甲5及び原告の弁論によれば,同年10月24日に原告はEに解約の申し入れを行い,同月25日にEは被告にその旨伝えた事実が認められる。
ところで,被告の弁論によれば,被告は原告の解約申し入れに納得していなかった事実が認められること,本訴が提起されているということは,原告と被告間で,現在にいたるも本件契約に関する精算が行われていないことの表れであることからすると,原告と被告間で,合意解約が成立したものと解することは困難である。
しかしながら,原告から被告に対して,解約申し入れが行われた事実は認められることから,本件契約は解約によって終了したものと解することはできる。
なお,この点に関して,被告は被告自身に対する解約申し入れがなかった旨主張し,さらに,本件契約条項上,書面によることとされているが,書面によっていない旨主張している。しかしながら,甲5によれば,Eを通して,原告の解約申し入れは被告に伝えられたものと認められるし,被告自身,原告は幽霊が出る,妖気を感じたとして,本件契約に因縁をつけてきたので怒りを抑えることができなかった旨述べており,原告から解約申し入れがあったことを知っていたことを推認させる弁論を行っている。また,被告は甲4の書面は見たことがない旨述べているが,原告の弁論からすれば,原告がEに解約申し入れを行った際,原告はEから甲4の書面に署名押印するよう求められ,甲4はその場で作成されたものであると認められるから,書面による解約申し入れはなされたものと解される。Eは仲介業者としての立場で,本件契約の締結に関与しており,Eによって,原告の解約申し入れは被告自身に伝わっていることからすると,Eを通じて行われた原告の解約申し入れが無効となるいわれはない。甲2によれば,同年11月分の家賃は同年10月6日に支払済みであることが認められることから,甲1の14条の規定により,本件契約は被告に告知されたと考えられる同月25日に終了したものと解するべきである。
(2) 敷金等の返還義務について
甲1の契約条項7条には,保証金(敷金)30万円は全額償却する旨の記載が認められるが,敷金は一般に賃貸借契約から生ずる賃借人の債務(未払家賃や賃借人が負担する必要のある修繕費等)を担保するために賃借人から賃貸人に差し入れられたものであるから,賃借人に未払家賃,修繕費等の債務がない場合には,他に合理的な理由がない限り,賃貸人は賃借人に返還する義務を負い,これと異なる定めは消費者契約法10条により無効になると考えるべきである。被告は,敷金の全額償却の定めは賃料及び敷金を相場と比べて低額にしているためである旨主張しているが,当該事実を裏付ける証拠はないし,被告自身,賃料を低額にした理由として,契約期間を5年間として,更新できない定期借家としたことや,リフォームを一部行わないことにしたからである旨述べているところであり,また,敷金を低額(相場の半額)に抑えたとしても,それは早期に契約を締結し,空室状態をできるだけ防ぐという経営上の措置であるとも考えられるところであり,敷金の全額償却を正当化する合理的な理由は認められないから,被告は,原告に対し,敷金30万円の返還義務を負う。
次に,同年11月分の家賃の返還義務の有無について検討するに,解約申し入れにより,本件契約は同年10月25日に終了したものと解されるところ,甲1によれば,契約条項14条に,1か月分の月額家賃を賃貸人に支払うことにより即時中途解約することができる旨定められており,本件ではこの条項に該当すると考えられるから,原告は,初日不参入により,同月26日から1か月後の同年11月25日までの賃料については返還請求することはできず,同月26日から同月30日までの5日間分のみ返還請求することができるものと考えられる。12万6000円の30日分の5日分は2万1000円となるから,被告が返還義務を負うのは2万1000円である。
次に,鍵交換代の返還義務について検討するに,新たに賃貸借契約が締結される場合の鍵の付け替えは,賃貸人が当該物件管理上の責任を負っており,その義務の履行としてとらえるのが相当であるから,賃借人が負担した場合には,賃貸人は自らの支出を免れたことによる利得を得たことになるから,原則として,当該費用の返還義務を負うと解するべきである。鍵の交換を原告が要求して,その費用の負担を了解していたものであるか否か,原告と被告とで主張は異なっており,事実関係は明らかではないが,少なくとも,鍵は交換され,その費用を原告が負担した事実は明らかであり,原告が負担する必要がないのに鍵交換代を支出したことを裏付ける証拠はないから,原則に従い,被告が鍵交換代2万1000円の返還義務を負うと解するべきである。
なお,訴状送達の日の翌日が同21年1月24日であることは顕著な事実である。甲1によれば,契約条項8条に敷金の返還時期は原告又は物件管理者が退去確認後,原則として1か月以内とする旨定めているが,訴状送達の日の翌日はその後であるから,遅延損害金の起算日は後者となる。敷金以外の既払金(11月分家賃の一部及び鍵交換代)についても,同日以降遅滞となる。
3 結論
以上によれば,原告の請求は,34万2000円及びこれに対する平成21年1月24日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから,主文のとおり判決する。
東京簡易裁判所平成21年5月22日―(通常手続移行)保証委託料請求事件
事実及び理由
第1 請求の趣旨
1 被告らは原告に対し,連帯して,金25万2000円及びこれに対する平成20年7月15日から支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの連帯負担とする。
3 この判決は仮に執行することができる。
第2 事案の概要
1 請求原因の要旨
(1) 賃貸借契約及び連帯保証契約の成立 被告有限会社A商事(以下「被告会社」という。)は,訴外有限会社C(以下「賃貸人」という。)との間で次のとおり賃貸借契約を締結し,下記物件の引渡しを受けた。被告Bは賃貸人に対し,本件賃貸借契約に基づく被告会社の債務を,同日書面により連帯保証した。
(ア) 契約日平成18年7月21日
(イ) 賃貸物件所在東京都千代田区a町bc丁目d番e号Dビル一棟156.26平方メートル
(ウ) 賃貸期間2年間(更新により平成22年7月20日満了予定)
(エ) 賃料1ヶ月金84万円(消費税込み)
なお,原告は賃貸人に対し,本件賃貸借契約に基づく被告会社の債務を,書面により保証した(以下「保証契約」という。)。
(2) 保証委託契約及び連帯保証契約の成立
原告は被告会社からの委託により,被告会社との間で次のとおり保証委託契約を締結した。被告Bは原告に対し,本件保証委託契約に基づく被告会社の債務を,同日書面により連帯保証した。
(ア) 契約日平成18年7月21日
(イ) 契約期間2年間(賃貸借契約が更新されたときは,更新期間分延長する)
(ウ) 保証委託料金84万円(消費税込み)
(エ) 再保証委託料契約期間が更新期間分延長されたときは,金84万円(消費税込み)を更新期間開始日の1週間前に支払う。ただし,10日間以上の賃料滞納がない場合は,30パーセントにあたる金25万2000円とする。
(3) 賃貸借契約の更新及び保証委託契約期間の延長
被告会社と賃貸人は平成20年7月21日から賃貸借契約を更新したので,これにより本件保証委託契約期間も延長され,被告会社は原告に対し,同契約4条2項により再保証委託料金25万2000円を,更新期間開始日の1週間前である7月14日までに支払う義務がある。
2 被告らの主張の要旨
(1) 保証委託契約の解除ないし更新・延長拒否の通知
被告会社には本件保証委託契約を解除する権利があり,被告会社が原告に対し,平成20年3月か4月頃と,同年5月ないし6月の2回にわたり,本件保証委託契約を更新ないし延長しないことを通知したことにより契約は終了しているから,再保証料の支払義務はない。
(2) 公序良俗違反
本件保証委託契約は,@賃貸人が原告を指定し,賃貸人と原告で契約内容を決定し,被告らには契約内容を事前に十分知らされず,説明も受けていない状態で締結を強制されたこと,A初回保証料が業界の水準に比べて約3倍近い高額であること,B更新のたびに永久に再保証料を取り続けること,C再保証料の支払を軽減,免除される手続が存在しないこと,D賃料不払い等があった場合に物件の鍵を一方的に変更する権限を原告に与えたり,滞納賃料の取りたて等の権限を原告に与えたり,2ヶ月の賃料不払いをした場合に賃貸人が800万円の預託金返還請求権を原告に譲渡するなどの,原告の不当な権利行使を容易に認める条項が含まれていること,などの事情を総合すれば,公序良俗違反により無効である。
(3) 錯誤無効
被告らは,契約締結の際に,原告と仲介会社であるE株式会社(以下「仲介会社」という。)に対し,当初契約期間の2年間賃料を滞りなく支払えば,その後の更新時には保証委託契約は更新しない旨を申し入れ,これが受諾されたものと思っていた。滞納しないで賃料を払っても更新の度に賃料の30パーセントの再保証料を払い続けると,信用が付加されるのに保証料総額は機械的に増加するという不合理なものであり,金額も多額になるという点で更新の度に再保証料を払うという合意には重要な要素に錯誤があり,無効である。
(4) 借地借家法違反
本件保証委託契約は賃貸借契約と一体不可分の関係にあり,賃貸借契約更新の都度,保証委託契約も更新し再保証料を支払わせる点において賃借人に不利な条件を強いたもので,借地借家法30条自体ないしその趣旨に違反し,無効である。
3 原告の反論の要旨
(1) 被告会社に,期間の定めのある本件保証委託契約を一方的に解除する権利があるとの主張は争う。被告会社主張のとおり,本件保証委託契約を更新ないし延長しない旨の通知があったが,それによって契約が終了することはなく,被告らの再保証委託料支払義務がなくなることはない。
また,原告が契約締結を強制したことはなく,被告らは前記の契約条件を考慮した上で契約するかしないかを決定する自由があったのであり,最初の2年間賃料不払いがなかった場合でも,その後の更新に際して賃貸人が保証人のない契約を締結しなければならない理由はない。
(2) 仮に,被告らが,最初の2年間賃料不払いがなければ,その後の更新時には保証委託契約は更新されず再保証料の支払義務はなくなるとの錯誤に陥っていたとしても,賃貸借契約書及び保証委託契約書には,賃貸借契約が更新されたときは,保証委託契約も更新期間分延長され,再保証料を支払う旨が明確に約定されているから,被告らに重大な過失がある。
(3) 再保証料の支払いによって原告の賃貸人に対する保証責任を継続負担させ,本件賃貸借契約に基づく賃借人の地位を安定して享受することができるのであるから,賃借人に不利な特約として借地借家法30条ないしその趣旨に違反するとはいえない。
4 本件の争点
本件保証委託契約の有効性
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。
(1) 原告は不動産賃貸借契約に伴い,賃借人の賃料債務等を保証することを業とする株式会社であり,被告会社は中華料理店を営む資本金1000万円の有限会社,被告Bは被告会社の唯一の取締役である。
(2) 被告Bは中国武漢市に生まれた中国人であるが,F大学卒業後1989年にG大学の研究生として来日し,1991年にH大学大学院法学研究科に入学して2年間国際法を勉強し,1993年に日本語で修士論文を提出して修士の学位を取得して卒業し,I百貨店に就職して3年間勤務した。その後,2003年3月頃,知人から中華料理店の運営を任されたことから,自分の店を持ち,事業,会社を拡大して行きたいと考えるようになり,本件ビルを賃借して中華料理店を経営することとなった(乙5,被告代表者本人)。
(3) 被告代表者は,仲介会社から本件賃貸借契約書(甲1)の文案を事前に示され,目を通していた(被告代表者本人)。同契約書(甲1)の特約条項には,「乙(賃借人)は本契約締結にあたり,甲(賃貸人)が指定する賃貸保証システムに加入するものとする」,「本契約更新の際,賃貸保証システムも更新することとする」,「保証委託契約料,更新料は乙(賃借人)の負担とする」との記載がある。
(4) 賃貸人と仲介会社が保証会社として原告を選定し,被告代表者が保証人を選定することは認められなかった。本件保証委託契約書(甲2)は,契約当日に被告代表者に示された(被告代表者本人)。同契約書第4条には,前記第2の1の(2)(イ)ないし(エ)と同旨の記載がある。
(5) 被告代表者は,原告と賃貸人間で締結された保証契約書(甲5)の内容は,本件訴訟に至るまで知らなかった。
2 以上認定した事実を踏まえて,被告らの各主張及び原告の主張の当否について検討する。
(1) 保証委託契約の解除又は更新・延長拒否の通知による契約終了について
被告会社が原告に対し,2回にわたり本件保証委託契約を更新ないし延長しないことを通知したことに争いはない。しかし,本件保証委託契約は,賃貸人と被告会社間の賃貸借契約,賃貸人と原告間の保証契約と相俟って本件賃貸保証システムを構築しているものであり,期間の定めのある本件保証委託契約のみを被告会社が一方的に解除する権利があるとの主張にはなんら根拠がないといわざるを得ず,被告の主張は認められない。
(2) 公序良俗違反について
本件保証委託契約が締結された経緯をみても,被告らが契約締結を強制され,諾否の自由を抑圧されて契約したことを認めるに足りる証拠はない。
賃貸人が保証会社として原告を指定し,賃貸人と原告のみで契約内容を実質的に決定していたとしても,被告らには契約内容を検討する機会が与えられ,契約締結を拒否ないし留保することができたものと解される。また,仮に,被告ら主張のとおり,初回保証料が業界の水準に比べて約3倍近い高額であり(その根拠には疑問の余地があるが),更新のたびに永久に再保証料を取り続け再保証料の支払を軽減,免除される手続が存在しないなど,賃借人である被告らに一方的に不利益な条件であると判断したのであれば,契約締結を拒否ないし留保することができたものと解される。さらに,本件保証委託契約とともに本件賃貸保証システムを構築している賃貸借契約,保証契約には,賃料不払い等があった場合に物件の鍵を一方的に変更する権限を原告に与えるなどの原告の権利行使を容易に認める条項が含まれていることが認められるが,これらの条項に基づく原告の不当な権利行使が現実に行われ,これにより被告らになんらかの被害が生じたとの事実についての主張立証はない。
以上の事情を総合すれば,本件保証委託契約締結の経緯及びその内容には,公序良俗違反により無効とすべき程の反社会性・反倫理性があるとは認められないというべきである。
(3) 錯誤無効について
被告らは,契約締結の際に,原告と仲介会社に対し,当初契約期間の2年間賃料を滞りなく支払えば,その後の更新時には保証委託契約は更新しない旨を申し入れ,これが受諾されたものと思っていたとして錯誤を主張している。そして,被告代表者は中国人であるが,賃貸借契約書(甲1)及び保証委託契約書(甲2)に,賃貸借契約が更新されたときは保証委託契約も更新期間分延長され,再保証料を支払う旨の記載があるのを見落としたと述べるが,F大学卒業後にG大学の研究生として来日し,その後H大学大学院法学研究科に入学して2年間国際法を勉強し,日本語で修士論文を提出して学位を取得したという経歴からすると,むしろ一般人よりは本件のような契約条項についての理解力が優れているとみるのが相当であり,仮に被告らに契約内容についての錯誤があったとしても,被告らに重大な過失があるといわざるを得ず,錯誤無効を主張することは許されない(民法95条但書)。
さらに,滞納なく賃料を払っても更新の度に賃料の30パーセントの再保証料を払い続けることは,信用が付加されるのに保証料総額は機械的に増加し多額になるという不合理な合意であり,重要な要素に錯誤があると主張する。しかし,最初の2年間賃料不払いがなく一定の信用が付加されたとしても,その後の更新に際して賃貸人がまったく保証人のない,無担保の契約を締結しなければならないとする合理的な理由もないというべきである。本件保証委託契約においては,2年間賃料不払いがないことによる信用付加については,再保証料を30パーセントに減額することで相当に評価されているのであり,保証料総額が機械的に増加する不合理な合意であるとの主張には理由がないというべきである。したがって,この点を理由とする錯誤無効の主張は認められない。
(4) 借地借家法違反について
前記のとおり,本件保証委託契約が,賃貸借契約及び保証契約とともに本件賃貸保証システムを構築している一体不可分の関係にあることは,被告らが主張するとおりである。しかし,賃貸借契約更新の都度,保証委託契約も更新し再保証料を支払わせることが,賃借人である被告会社に一方的に不利な条件を強いるものであるとする点は,当初の契約時点で被告らには諾否の自由があったこと,継続的な契約関係である賃貸借契約において契約更新後も一定の保証システムが随伴することに一定の合理性が認められること,再保証料の支払いによって原告の賃貸人に対する保証責任を継続負担させ,本件賃貸借契約に基づく賃借人の地位を安定して享受することができること,本件保証委託契約においては,2年間賃料不払いがないことによる信用付加について再保証料の30パーセント減額により相当程度評価していることなどを考慮すると,これを賃借人である被告会社に一方的に不利な条件を強いるものであるとして借地借家法30条ないしその趣旨に違反するとみることは相当でなく,被告らの主張は理由がない。
3 まとめ
以上によれば,被告らの主張はいずれも認められず,原告の請求には理由があるので,主文のとおり判決する。
東京簡易裁判所平成21年5月8日―庭修復費用請求事件(本訴,通常手続移行),敷金返還請求事件(反訴)
事実及び理由
第1 請求の趣旨
(本訴請求)
本訴被告は本訴原告に対し,金36万8350円を支払え。
(反訴請求)
反訴被告は反訴原告に対し,金12万円及びこれに対する平成19年5月25日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,庭付き一戸建て住宅を賃貸した本訴原告(以下「原告」という。)が,契約当時の庭の植栽等は十分に手入れがされ健全な状態であったのに,本訴被告(以下「被告」という。)退去時には松が枯れるなど荒れ果てた状態になっていた,として庭の修復費用の支払いを求めて本訴請求したのに対し,被告が,庭の植栽等の管理をする契約上の義務はないとして,敷金全額の返還を求めて反訴請求した事案である。
1 請求原因の要旨
(本訴請求)
(1) 原告は,被告との間で次のとおり賃貸借契約を締結し(以下「本件契約」という。),下記賃貸物件を,その敷地である庭とともに引き渡した。
(ア) 契約日平成16年8月8日
(イ) 賃貸物件所在東京都町田市a町b−c構造・間取り木造2階建て4LDK面積建物109.3 平方メートル敷地90 坪
(ウ) 賃貸期間2年間(更新により平成20年8月7日満了予定)
(エ) 解約予告期間1ヶ月
(オ) 賃料1ヶ月金12万円
(カ) 敷金・礼金額敷金12万円礼金12万円
(2) 前記賃貸借契約は平成19年6月11日限りで終了し,被告は原告に対し,同日賃貸物件を明け渡した。
(3) 本件敷地である庭の植栽は,被告入居時は十分に手入れがされていたのに,被告退去後は,被告の管理不十分により荒れ果てており,特に門かぶりの松は枯れていた。
(4) 庭の修復費用として,以下の合計48万8350円の費用を要するので,被告はこの費用から敷金12万円を充当・控除した残額36万8350円の費用を負担すべき義務がある。
(ア) 2メートル以上の高木剪定作業等費用14万0700円
(イ) 2メートル以下の低木剪定作業等費用6万5100円
(ウ) 雑草・除草及び刈取り処分費用3万2550円
(エ) 枯れた松と同程度の松の植替え費用25万0000円
(反訴請求)
(1) 反訴原告(以下「被告」という。)は反訴被告(以下「原告」という。)との間で本件契約を締結し,敷金12万円を預け入れた。
(2) 本件契約は平成19年5月25日限りで終了し,被告は原告に対し,同日賃貸物件を明け渡したが,原告は敷金を返還しない。
2 本件の争点及び争点に関する当事者の主張
(争点)
本件賃貸物件の敷地・庭の植栽について,被告がこれを手入れするなどして健全な状態に保つべき注意義務及びその違反があったか。
(原告)
(1) 契約に際し,原告は仲介業者である株式会社Aの担当者を介して,退去時に庭を原状に近い状態に戻すことを条件とするよう依頼し,被告がこの条件を承諾した。
(2) 植木・垣根は伸び放題で,隣家2階のウッドデッキが隠れる程になり,落ち葉は3シーズン分堆積し,つる草(蔦)は植木部地面全体にはびこり,荒廃状態になっていた。門かぶりの松が枯れた原因は,切断面に虫食いもないことから,松葉が密集・堆積して蒸れたことによると思われる。異常に気付いた時点で対策をとる必要があったのに,被告はなんの措置も講じなかった。
(被告)
(1) 庭は本件契約の目的ではないから,特約がない限り庭の修復費用は原告が負担するべきであり,本件契約書及び重要事項説明書にも庭の管理等についての記載はなく,被告は原告主張のような庭の管理についての説明も受けていない。庭は建物の敷地として,一般常識的な使い方をしていたに過ぎない。
(2) 平成19年5月25日の退去時に,株式会社Aが委託した管理会社担当者が立ち会い,敷地,庭,ガレージ,建物内の状況を確認した上で,被告が負担すべき原状回復費用はゼロであるとの原状回復工事承認書を交付している。
(3) 剪定作業等の費用などは,契約上明記されず,事前の説明もないので負担義務はない。雑草・除草刈取り処分費用は賃借人に負担義務はない。枯れた松の植替え費用は,被告が故意に枯らしたのではなく,いつ,どういう原因で枯れたのかも不明であり,被告に負担義務はない。
第3 当裁判所の判断
1 証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1) 本件賃貸物件は,平成元年建築であり,JRd線e駅から数百メートルの地点の住宅地に所在する。構造・間取りは木造2階建て,4LDKで,建物109.3 平方メートル,敷地90 坪あり,近隣の賃料相場に比べて安い物件である(甲1,乙3,乙4,原告本人,証人B)。
(2) 本件契約書及び重要事項説明書(甲1,乙3,乙4)には,賃貸借の目的物として建物のみが記載され,敷地,庭の植栽等に関する記載はない。仲介業者株式会社Aを介した説明を受けて,被告が,退去時に庭を原状に近い状態に戻すことを承諾した,との原告主張事実を認めるに足りる証拠はない。
(3) 被告は,本件賃貸物件の敷地・庭で子どもを遊ばせるなど,通常の一般的な使用をしていた。庭の植栽の管理については,株式会社Aから週に1回程度芝を刈ること,つつじの枝が飛び出すように伸びたらその部分を刈ってもよいが,基本的には植栽はジョキジョキ刈らないこと,などの説明を受けていた。被告及びその妻B(被告代理人。以下両者を「被告ら」という。)には,庭の植栽の管理についての知識はほとんどなく,植栽等の剪定の必要を感じたこともなかったので,剪定はしなかった。植木・垣根は入居当時よりは明らかに伸び,隣家2階のウッドデッキが隠れるほどになっていた(甲5の1,2,証人B)。門かぶりの松が枯れた原因は,病害虫ではないと推認されるが,真の原因は明らかではない(原告本人)。
(4) 被告は,平成19年5月11日までに本件契約を解約することを原告に通知し,契約は同年6月11日限りで終了したが,被告はそれ以前の5月25日に退去し,賃貸物件を明け渡した(乙6,原告本人,証人B)。退去時に,株式会社Aが委託した管理会社担当者が立ち会い,敷地,庭,ガレージ,建物内の状況を確認した上で,被告が負担すべき原状回復費用はゼロであるとの原状回復工事承認書を交付した(乙2,乙7,証人B)。
(5) 原告は,訴外C造園に見積もらせた本件賃貸物件の樹木剪定工事費用合計23万8350円のうち,(ア)2メートル以上の高木剪定作業等費用14万0700円のみの作業を行わせ,同額を支払った(甲2,甲3,原告本人)。
(エ)枯れた松と同程度の松の植替え費用25万円は,原告が訴外C造園の植木職人から相当額として聴き取ったものである。この松は原告が別の場所で育成していたものを,本件賃貸物件の新築時に移植したものである。
2 本件賃貸物件の敷地・庭の植栽についての被告らの善管注意義務違反以上で認定した事実を踏まえて,被告らの善管注意義務違反の有無・程度について検討する。
(1) 庭の植栽についての被告らの善管注意義務
本件契約書及び重要事項説明書には,賃貸借の目的物として建物のみが記載され,敷地,庭の植栽等に関する記載が一切ないことは前記認定のとおりである。しかし,本件のような庭付き一戸建て物件の賃貸借契約においては,被告らのような庭の使用状況に照らして,庭及びその植栽等も建物と一体として賃貸借の目的物に含まれると解するのが当事者の合理的意思に合致するというべきである。そうすると,被告ら(被告の妻Bは利用補助者)は本件賃貸物件の敷地・庭の植栽についても,信義則上,一定の善管注意義務を負うと解するのが相当である。
(2) 植栽の剪定をしなかったことについて
庭の植栽の剪定をしなかったことを被告の善管注意義務違反とみることができるかどうかについては,敷地・庭の植栽の管理方法についての具体的な合意・約定がないこと,株式会社Aから基本的には植栽は刈らないようにとの説明を受けていたこと,植栽の剪定・養生にはこれに関する一定の知識経験が必要と解されるが,被告らには知識経験はほとんどなかったこと等に照らせば,剪定をしなかったことを被告らの善管注意義務違反とみることはできないというべきである。
(3) 草取りの状況について
被告らの入居前と退去後の庭の草の状況を比較すると,退去後は明らかに草が生い茂っている状態であり,甲5の2Dの写真が退去の約1ヶ月後の状態であることを考慮しても,一般的な庭の管理として行われるべき定期的な草取りが適切に行われていなかったものと推認される。したがって,この点は被告らの善管注意義務違反とみるのが相当である。
(4) 松枯れについて
松枯れの原因は不明であり,被告の善管注意義務違反によるものかどうかは明らかでない。しかし,松枯れはある日突然起きたわけではなく,徐々に葉の状態を変化させながら枯れるにいたったものと推認される。そして,本件の松はいわゆる門かぶりの松であり,その変化の推移は居住していた被告らが毎日目にしていたはずのものである。そうすると,庭の植栽についても,信義則上,一定の善管注意義務を負うと解される被告らは,その変化の状態に気付き,これを株式会社Aないし原告に知らせて対応策を講じる機会を与えるべき義務があったと解するのが相当であり,これを怠った被告らには善管注意義務違反があったと認めるのが相当である。
(5) 以上の草取り及び松枯れについての被告らの善管注意義務違反の程度を総合的に評価し,本件賃貸物件が近隣の賃料相場に比べて安い物件であることも併せ考慮すると,被告は預託した敷金の半分にあたる6万円を庭の修復費用の一部として負担するのが相当である。
3 以上によれば,敷金12万円を充当した後の庭修復費用の残額を請求した本訴原告の請求には理由がなく,敷金全額の返還を請求した反訴原告の請求には負担すべき分を控除した残額6万円の支払を求める限度で理由があるので,主文のとおり判決する。
なお,遅延損害金の起算日は契約終了日の翌日とするのが相当である。
京都地方裁判所平成21年4月23日―契約条項使用差止等請求事件
判示事項の要旨
金銭消費貸借契約において,借主が弁済期限前に貸付金の全額を返済する場合に,借主が利息及び遅延損害金以外の金員(違約金)を貸主に交付する旨を定める契約条項が,貸付けの内容によっては消費者契約法10条に該当し無効であることを理由に,同法12条3項により,当該契約条項を含む契約の締結の停止等が認められた事例
東京簡易裁判所平成21年4月10日―(通常手続移行)原状回復費用等請求事件
事実及び理由
第1 請求
被告らは,原告ら各自に対し,連帯して30万1751円及びこれに対する平成20年10月25日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 請求原因の要旨
(1) 原告A及び原告B(以下1 ,「原告ら」という。)は,平成19年10月23日,被告株式会社C(以下「被告会社」という。)との間で,東京都新宿区a町bc丁目d番e号所在のEビル2階110.25平方メートル(以下「本件建物」という。)について,原告らを賃貸人,被告会社を賃借人,被告Dを連帯保証人とし,賃料は月額44万1221円(消費税込み),共益費は月額10万5052円(消費税込み),賃料等は毎月末日限り翌月分を支払う,保証金は306万8200円との約定で,賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結した。
(2) 本件賃貸借契約は,被告会社の平成20年1月11日付け賃貸借契約の解除届により,同年7月10日に終了した。
(3) 被告会社は本件賃貸借契約に基づき,被告Dは連帯保証契約に基づき,原告ら各自に対し,連帯して,次の金員の合計336万9951円(遅延損害金を除きいずれも消費税込み)の支払義務を負っている。
@ 賃料2か月分相当の償却費(本件賃貸借契約書10条6項)88万2441円
A 平成20年5月分賃料,管理費及び公共料金等の合計額59万9295円(同年3月分賃料等に対する遅延損害金を含む。)
B 同年6月分賃料,管理費及び公共料金等の合計額59万1944円(同年4月分賃料等に対する遅延損害金を含む。)
C 同年7月分賃料,管理費及び公共料金の合計額20万5444円
D 原状回復費用(本件賃貸借契約書の特約条項1項)85万8009円
E 同年6月4日から同年7月17日までの公共料金5万1853円
F 同年3月分から同年7月分までの賃料等に対する遅延損害金(本件賃貸借契約書11条)18万0965円
(4) 被告らの上記債務額336万9951円に本件預り保証金306万8200円を充当すると,被告らの原告らに対する残債務は30万1751円である。
(5) よって,原告ら各自は,被告らに対し,連帯して,30万1751円及びこれに対する平成20年10月25日から支払済みまで年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。
2 争点
(1) 本件賃貸借契約における原状回復特約の成否
(2) 本件賃貸借契約における保証金の償却特約の効力
3 争点についての原告ら及び被告らの意見
(1) 原告ら
ア 争点(1)について
本件賃貸借契約における原状回復特約(以下「本件原状回復特約」という。)は,本件賃貸借契約書に全額借主負担と明記約定されており,また,国土交通省のガイドラインはオフィスビルには適用されないから,有効に成立している。
イ 争点(2)について
本件賃貸借契約における保証金の償却特約(以下「本件償却特約」という。)は礼金の後払的性質のものであり,経済的合理性がある。
(2) 被告ら
ア 争点(1)について
本件原状回復特約条項は,被告らが原状回復費用を負担すべき通常損耗の範囲を明白に定めたものとはいえない。
イ 争点(2)について
本件償却特約に基づく保証金の償却は,通常損耗についての原状回復費用に充当するものとしてのみ許されるものと思慮される。
第3 当裁判所の判断
1 請求原因(1)の事実は,当事者間に争いはない。
2 証拠及び弁論の全趣旨によれば,ア請求原因(2)の事実,イ被告らは原告ら各自に対し,連帯して,請求原因(3)のA,B,C,Eの各債務及び平成20年5月分から同年7月10日までの賃料等に対する各弁済期から同日までの遅延損害金6万6053円の債務を負っていること,ウ本件償却特約に基づく償却費に相当する金額は88万2441円(消費税込み)であること,及び,エ原告らが支出した本件建物の原状回復費用は85万8009円(消費税込み)であることが認められる。
3 争点(1)について
(1) 原告らは,本件建物に被告会社の義務違反ないし故意過失による損耗は存しないことを認めたうえで,本件原状回復特約に基づいて,本件建物の通常損耗についての原状回復費用を請求するものであると主張する。本件賃貸借契約書の特約条項1項は「, 借主は,本貸室を事業用の事務所として賃借する為,本契約書第20条に基づく解約明渡時における原状回復工事は,床タイルカーペット貼替,壁クロス貼替,天井クロス貼替及び室内全体クリーニング仕上げ等工事を基本にして借主負担とする。」と定める(甲1)が,この特約条項は,被告らの原状回復義務の範囲を被告会社の義務違反ないし故意過失に基づく損耗に限定していないから,通常損耗を含めて被告らに原状回復義務を負わせたものと解せられる。そこで,本件賃貸借契約において,被告らが通常損耗についての原状回復義務を負う旨の特約が締結されたか否かについて検討する。
ア 「賃借人は,賃貸借契約が終了した場合には,賃借物件を原状に回復して賃貸人に返還する義務があるところ,賃貸借契約は,賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり,賃借物件の損耗の発生は,賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものである。それゆえ,建物の賃貸借においては,賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は,通常,減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている。
そうすると,建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは,賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから,賃借人に同義務が認められるためには,少なくとも,賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか,仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には,賃貸人が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識し,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約(以下「通常損耗補修特約」という。)が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である」(最高裁判所第二小法廷平成17年12月16日判決)。
イ これを本件についてみると,本件原状回復特約条項は,「原状回復工事は,床タイルカーペット貼替,壁クロス貼替,天井クロス貼替及び室内全体クリーニング仕上げ等工事を基本にして借主負担とする。」と記載するのみであり,補修工事の具体的範囲,方法,程度等について何ら定めていないから,被告らが負担することになる通常損耗の範囲が一義的に明白であるとはいえない。また,同条項中の「・・・等工事を基本にして借主負担とする。」との文言の意味するところも必ずしも明確とはいえない。したがって,被告らが補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているとは認められない。また,被告らが補修費用を負担することになる通常損耗の範囲について,原告らが口頭で説明し,被告らがその旨を明確に認識し,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約が明確に合意されていることを認めるに足りる証拠はない。したがって,本件賃貸借契約において,被告らが通常損耗についての原状回復義務を負う旨の特約が成立しているとはいえない。
ウ 原告らは,本件賃貸借契約はオフィスビルについての契約であり,国土交通省のガイドラインはこれに適用されないから,本件原状回復特約は有効に成立していると主張する。しかし,オフィスビルの賃貸借契約においても,通常損耗に係る投下資本の減価の回収は,原則として,賃料の支払を受けることによって行われるべきものである。賃借人に通常損耗についての原状回復義務を負わせることは賃借人にとって二重の負担になるので,オフィスビルの賃貸借契約においても,賃借人に通常損耗についての原状回復義務を負わせるためには,原状回復義務を負うことになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか,賃貸人がそのことについて口頭で説明し,賃借人がその旨を明確に認識し,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約が明確に合意されていることが必要であると解すべきであり,このことは居住用の建物の賃貸借契約の場合と異ならないというべきである。したがって,原告らの主張は採用しない。
(2) 以上によれば,本件原状回2 復特約の成立は認められないから,本件原状回復特約の成立を前提とする通常損耗についての原状回復費用の請求は理由がない。
4 争点(2) について
本件賃貸借契約書10条6項は,「本契約に基づく解約においては,契約終了後乙が本物件を明渡した日より6カ月経過後直ちに甲は預り保証金額内から解約時賃料の2カ月分を償却費として控除し,返還すべき保証金額からこれらの乙の債務の金額を控除することができる。」と定めている。
被告らは,本件償却特約は通常損耗についての原状回復費用に充当するものとしてのみ許されると主張する。しかし,保証金についての償却特約は,原告ら主張のように礼金の後払的性質を有するものとしてだけではなく,設備の償却費の一部負担,建設協力費等様々な目的で定められるものであるが,本件償却特約が原状回復費用に充当するものとしてのみ締結されたことを認めるに足りる証拠はない。
証拠及び弁論の全趣旨によれば,被告らは,本件償却特約の内容を了承して,本件償却特約が付された本件賃貸借契約を締結したものと認められる。したがって,被告らには,本件賃貸借契約書の償却特約条項に基づき,原告ら各自に対し,連帯して,本件賃貸借契約解約時の賃料の2か月分に相当する88万2441円(消費税込み)の支払義務がある。
5 以上によれば,原告らは通常損耗についての原状回復費用を請求し得ないのであるから,原状回復費用を除く被告らの前記未払賃料等の債務に本件保証金を充当すると,同未払賃料等の債務は消滅し,なお保証金に残余が生じることになる。したがって,本件賃貸借契約に基づく被告らの債務に本件保証金を充当しても被告らの債務は完済されず,なお債務が残るとして残債務の支払を求める原告らの請求は理由がない。
東京簡易裁判所平成21年2月20日―解約予告不足金請求事件
事実及び理由
第1 請求の趣旨
被告らは原告に対し,連帯して,金43万2000円及びこれに対する平成21年1月8日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年36.5パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 請求原因の要旨
(1) 原告は,被告らとの間で,平成18年7月15日,下記のとおり賃貸借契約(以下「本件契約」という。)を締結し,被告Aに対し本物件を引き渡した。
被告Bは原告に対し,被告Aの本件契約上の債務につき書面により連帯保証した。

物件所在地東京都杉並区ab丁目c番d号Ce号
契約期間平成18年7月15日から2年間(2年ごとの自動更新)
賃料月額7万2000円(共益費3000円を含む)
遅延損害金年36.5パーセント
解約被告Aが賃貸借期間中に解約する場合は,次の区分に応じた予告期間を置かなければならない。ただし,予告に代えて予告期間分の賃料・共益費を原告に支払い即時解約することができる。
9・10・11月に解約通知する場合3ヵ月
12・1月に解約通知する場合1ヵ月
2・3・4・5月に解約通知する場合9ヵ月
6・7・8月に解約通知する場合6ヵ月
(2) 被告Aは原告に対し,平成20年8月上旬頃,本件契約の即時解約を通知した。
(3) よって,原告は被告らに対し,賃料・共益費の6ヶ月分である43万2000円(7万2000円×6)及びこれに対する平成21年1月8日から支払済みまで年36.5パーセントの割合による金員の支払を求める。
2 被告らの主張の要旨
(1) 被告Aが本契約書に署名押印したことは認めるが,被告Aが契約時に解約予告期間について説明を受け,承諾書に署名押印したことは争う。承諾書は原告が勝手に作成した偽造書面である。
(2) 仮に解約予告期間及び違約金の合意が成立したとしても,本件のような賃貸借契約においては,賃借人が契約期間内に解約する場合の予告期間は30日,違約金額は賃料の30日分とするのが通常であるが,本件契約の解約予告期間・違約金額は解約予告する月によってまちまちであるなど,賃借人の解約権を不当に制約するものであり,消費者契約法10条に反して無効であるだけでなく,公序良俗にも反し無効である(民法90条)。
(3) 遅延損害金利率は,消費者契約法9条2号により14.6パーセントを超える部分は無効である。
第3 当裁判所の判断
1 被告らが本件契約書(甲1)に署名押印し,原告及び被告らの間で本件契約が締結され,これが合意により更新されたことは,当事者間に争いがない。本件契約書第19条には,原告主張の解約予告期間及び違約金の記載がある。
また,本件契約書(甲1)の被告Aの署名押印と承諾書(甲2)の署名押印とは同一のものと認められ,いずれも被告Aが署名押印したものと認めるのが相当であり,被告Aは本件解約予告期間及び違約金の定めについて,一応の説明を受けたものと推認するのが相当である。したがって,原告及び被告らの間で解約予告期間及び違約金についての合意が成立したと認められる。
2 本件契約は,事業者たる原告と一般消費者である被告らとの間の消費者契約に該当する(消費者契約法2条3項),一般の居住用建物の賃貸借契約である。
賃貸借契約において,賃借人が契約期間内に解約する場合の解約予告期間及び予告に代えて支払うべき違約金額をどのように設定するかは,原則として契約自由の原則にゆだねられると解される。しかし,その具体的内容が賃借人に一方的に不利益で,解約権を著しく制約する場合には,公序良俗に反し無効となるか(民法90条),消費者契約法10条に反して無効となるか,又は同法9条1号に反して一部無効となる場合があり得る。
これを本件についてみると,まず解約予告期間を時季に応じて1ヶ月間ないし9ヶ月間とする条項は,いまだ公序良俗に反し無効とすべき程度であるとまではいえない。
次に,本件のような解約予告期間を設定することは賃借人の解約権を制約することは明らかであるが,このような解約予告期間の設定は,民法上にも期間の定めのない建物賃貸借につき3ヶ月間とし,期間の定めのある場合でも期間内に解約する権利を留保したときはこれを準用するとの定めがある(民法617条1項2号,同法618条)ことからすると,本件契約上の解約予告期間の定めが民法その他の法律の任意規定の適用による場合に比して,消費者の権利を制限し又は義務を加重して,民法1条2項の信義則に反し消費者の利益を一方的に害するものとして一律に無効としなければならないものとはいえない。
しかし,解約予告に代えて支払うべき違約金額の設定は,消費者契約法9条1号の「消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項」に当たると解されるので,同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害を超えるものは,当該超える部分につき無効となる(被告らの主張はこの点をも含むものと解される)。これを本件についてみると,一般の居住用建物の賃貸借契約においては,解約予告期間及び予告に代えて支払うべき違約金額の設定は1ヶ月(30日)分とする例が多数であり(乙1標準契約書の10条),解約後次の入居者を獲得するまでの一般的な所要期間として相当と認められること,及び弁論の全趣旨に照らすと,解約により原告が受けることがある平均的な損害は賃料・共益費の1ヶ月分相当額であると認めるのが相当である(民事訴訟法248条)。そうすると,原告にこれを超える損害のあることが主張立証されていない本件においては,1ヶ月分を超える違約金額を設定している本件約定は,その超える部分について無効と解すべきである。
本件解約が1回目の更新がなされ更新料が支払われた直後である8月上旬にされたこと,契約時に預け入れた保証金(賃料・共益費の1ヶ月分である7万2000円)は解約に伴い償却され被告Aに返還されていないこと等を総合して考えると,解約時における賃貸人,賃借人双方の公平負担の観点からも妥当な結論であると解する。したがって,原告が請求しうる解約予告に代わる違約金額は,賃料・共益費の1ヶ月分である7万2000円の限度と解するのが相当である。
3 本件契約上の遅延損害金利率は,消費者契約法9条2号に規定する損害賠償の予定に当たるので,本条項に規定する年14.6パーセントを超える部分は無効といわなければならない。
4 以上のとおりであるから,原告の請求は,解約予告に代わる違約金として賃料・共益費の1ヶ月分である7万2000円及びこれに対する年14.6パーセントの遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容し,その余は理由がないのでこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
大津地裁平21.2.5判決―フランチャイズ契約
  フランチャイジーとして菓子の販売をする者が,フランチヤイザーに対して,フランチャイズ契約に違反し契約時に店舗の売上げ予測に関して不正確,不合理な情報を提供したとして求めた。債務不履行に基づく損害賠償請求が認められた事例
最高裁21.1.19―損害賠償請求本訴建物明渡等請求反訴事件
  修繕義務の不履行に基づき賃貸人が賠償すべき損害(営業利益)の範囲と,賃借人の損害軽減義務
  賃貸人の修繕義務の不履行に基づき、貸借人が損害賠償を請求する場合において,賃借人が損害を回避又は減少させる措置を執ることができたと解される時期以降の営業利益相当額のすべてが、通常損害と評価されるものではないとされた事例
東京地裁平20.12.24―土地建物所有権移転登記抹消登記等精求事件
1 不動産売買契約が,売主の意思無能カを理由として無効とされた事例
  不動産売買契約の内容が売主にとって著しく不利な内容のものであり,売主がこれを締結したことが合理的判断力を有する者の行動としては理解し難いものであること,上記売買契約当時,売主が老人性認知症に罹患しており,その理解カは相当に衰えていたものと推認できること,本件に顕れたすべての主張立証をもってしても、上記売買契約の代金が一部でも売主に支払われた事実を認定できないことに加えて,売主が十分な理解,判断の下に上記売買契約を締結すべき特段の事情が認められない場合にはその契約の内容及び効果を認識する意思能力を欠いていたと認めるのが相当である。
2 売主の意思無能カを理由として無効とされた不動産売買契約の買主との間で抵当権設定契約を締結した抵当権者につき,民法94条2項を類推適用すべきではなく,売主は抵当権者に対して当骸不動産の所有権が買主に移転していないことを主張することができるとされた事例
  不動産売買契約の売主が,契約締結当時,その内容及び効果を認識する意思能力を欠いていた場合には,売主が契約書に自署し上記売買契約の買主の代理人をして実印を押印させて,これを同代理人に交付した行為や同代理人に対して印鑑登録証明書や自署がされ実印が押された各書面を交付した行為は,売主が当該不動産の所有権移転登記の作出に積極的に関与したと評価することは相当ではなく,民法94条2項の法意に照らしても,売主が,買主との間で当該不動産につき抵当権設定契約を締結した抵当権者に対し、売買契約が無効であって買主に当該不動産の所有権が移転しないことを対抗し得ないとする事情はない。
千葉地裁平19.8.30―損害賠償請求事件・違約金等請求事件(フランチャイズ契約)
  たこ焼き店のフランチャイズ契約の締結に際して,フランチヤイザーが、自営業を営んだことのない主婦のフランチヤイジー候補者(加盟候補者)に対し,その自己資金だけでは開業することが困難となるであろうことを告げず、初期投資総額の見込額等を配載した文書を交付せずに,加入金等を入金させた後にその不返還を定めた契約書に署名押印させるなどしたことが、加盟候補者に対し同契約を締結してフランチャイジーになるか否かにつき自由に意思決定をするに足りる必要かつ十分な情報を適時かつ正確に提供・開示すべき信義則上の義務を尽くしたとはいえないと判断するなど、フランチャイズ契約で問題となる多数の争点につき判断した事例
  一般にフランチャイズ契約は店舗経営の知識や経験に乏しく資金力も十分ではない個人が、フランチャイザーのブランド名及びその指導や援助を期待して契約を締結するものであり,フランチヤイザーは,契約締結後,フランチャイジーに対し、ロイヤリティ料を支払ってその営業ノウハウの指導・援助を受けるとともにフランチャイザーから継続的に仕材や商材の供給を受けていくなど、多大にフランチャイザーに依存していくことが予定された契約形態であることに鑑みれば,フランチヤイザーとしては契約締結に向けた段階においても、既にフランチヤイジー候補者に対し契約を締結してフランチャイジーになるか否かを判断するに足りる必要かつ十分な情報を適時かつ正確に提供・開示し,同候補者に不測の損害を与えないように配慮すベき義務を信義則上負っているものというべきであり,さらに上記の義務は、フランチャイジー候補者の判断過程に何ら不当または不適切な影響を与えるなどしていない状況のもとで履行されることが求められるものと解するのが相当である。
東京高裁平20.9.26判決―診療契約
1 獣医師は飼い主との診療契約に基づき,飼い主の意向を確認する必要があり,その前提として病状,治療方針等について飼い主に説明をする義務を負う旨判示した事例
2 ペットの入院が長期化し,瀕死の状態になったこと等につき、原審が20万円の限度で認めた飼い主の慰謝料の額を40万円に増額した事例
契約
東京地判平18.6.27
私立大学の入学試験の合格者が学納金を納付後に入学を辞退し学納金の返還を求めた事案で,入学金の返還は否定され,授業料等の返還が認められた事例
東京地裁H17.9.9
結婚式場利用契約に付された予約取消料条項が、挙式予定日の一年以上前にされた予約取消しに関する限度で消費者契約法九条一号により無効とされた事例
名古屋地判平18.6.30
売買契約が要素の錯誤にあたり無効とされた
福岡高判平18.1.31
フランチャイズ契約における情報提供義務違反
不動産・賃貸借
大阪高裁H18.5.18
賃貸借契約終了時に貸借人が負う原状回復義務につき、貸借人に通常損耗の原状回復義務が認められるためにはその旨の特約が明確に合意されていることが必要と判断し、原判決を破棄した最高裁判決を受けての差戻審で和解が成立した事例
大津地裁H18.6.28
敷金から退去時に一律に一定金額を控除するいわゆる敷引特約(敷金二五万円中二〇万円を控除)は、消費者の利益を一方的に害するものであり、消費者契約法一〇条により無効
木津簡裁H18.4.28
敷引特約は消費者契約法一○条に違反し、特約全体が無効として、敷引額全額の返還を認めた
最高裁H17.12.16
賃借建物の通常の使用に伴い生ずる損耗について賃借人が原状回復義務を負う旨の特約か成立していないとされた事例
京都地判H.18.11.8
敷引特約につき、敷引特約が一○条違反により無効であるとして返還請求を認めた
敷引特約(四五万円から三〇万円を差し引く)の効力につき、敷引特約が一〇条違反により無効であるとして返還請求を認めた
京都地判H19.4.20
敷引特約につき、賃貸借契約には、賃貸借契約終了時に敷金の一部を返還しない旨のいわゆる敷引特約が付されており、敷引特約は一〇条により無効であると判断
大分地判平17.5.30
不動産取引における説明義務に関するもの(正確な情報提供を怠ったなどとして,購入者である原告らの一部に対して慰謝料の支払いを命じた。)
京都地判平成19年6月1日
居住用マンションの賃貸借契約終了に伴い、賃貸人が預託された保証金から清掃費用、原状回復費用、解約手数料を控除して賃借人に返還したところ、賃借人が賃貸人に対し、保証金全額の返還を求めた。本件原状回復特約条項中、通常の使用による損耗に対する原状回復費用を賃借人の負担とする部分は、賃借人の義務を加重し、信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであるから、消費者契約法10条により無効というべきであるとし、賃借人には支払義務がないとした。
京都地判平成19年4月20日
賃借人が、賃貸借契約に基づき交付した敷金35万円のうち、敷引特約に従って5万円しか返還されなかった。本件敷引特約は、敷金の一部を返還しないとするものであるから、消費者契約法10条により、特約全体が無効であると認めた。
大阪地判平成18年12月15日
賃借人が、敷金契約に基づき差し入れた保証金(敷金)45万円のうち、敷引特約に従って控除された未返還部分30万円についての返還を求めた。本件敷引特約は、民法商法その他の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比べて賃借人の権利を制限する消費者契約の条項であり、かつ、信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものといえるから、消費者契約法10条により無効であるとした。
大阪高判平成18年7月26日
建物及び駐車場の賃貸借契約の借主が,敷金の返還を求めた。本件敷引特約は,保証金60万円に対して50万円(約83%),賃料の6ヶ月分であり,10条に違反し無効である。本件償却特約は,保証金3万3000円について年20%ずつ償却,賃料の約半月分にとどまり,チェーンゲートの保守管理に費用を要する等,暴利行為とまでは認めがたく,有効である。
大津地判平成18年6月28日
.建物賃貸借契約における敷金返還請求。敷引特約について10 条に違反するとして,全額の返還請求を認めた。
東京地判平成18年6月12日
建物建築請負契約を建築開始前に解約し,支払済みの契約金300万円から10万円を差し引いた金額の返還請求をした。「請負代金総額の3分の1または請負人に生じた損害額のどちらか高い方を賠償する」との条項の効力。当該条項について9条1項に違反し,10万円を超える限度で無効とし,返還請求を認めた。
大阪地判平成18年6月6日
建物賃貸借契約における保証金返還請求。保証金35万円の内25万円を控除するとの条項の効力。敷引特約は特段の合理性,必要性がない限り10条違反により無効であり,本件でも合理性を認められないとした。
大阪高判平成18年5月24日
敷金返還請求。敷引特約の有効性。通常損耗部分の原状回復費用をを借主が負担することの合意は成立していない。また,仮に合意が成立していたとしても,このような合意は許されない。
枚方簡判平成18年5月19日
建物賃貸借における,保証金の返還請求。保証金45万円の内30万円を控除するとの条項の効力。当該条項について,賃貸物件の価値を高めるものではなく,また,賃貸期間の長短に関係なく賃借人が交替する毎に生ずる費用(例えば不動産業者の仲介手数料)については有効であるが,それ以外については10条違反により無効であるとしてその部分について返還請求を認めた。
木津簡判平成18年4月28日
敷金返還請求。敷引特約(35万円から30万円を差し引く)の効力。敷引特約が10条違反により無効であるとして返還請求を認めた。
福岡簡判平成18年3月27日
マンションの居室賃貸借契約で,中途解約をした借主が,敷金及び違約金の返還を求めた。敷引特約(家賃3ヶ月分,15万6000 円)及び中途解約違約金特約(家賃1ヶ月分)の効力。敷引特約が10 条違反により無効であるとして返還請求を認め,違約金特約は有効であるとして違約金については返還請求を認めなかった。
京都地判平成17年12月22日
敷金返還請求に対し,賃貸人は,退去時に全内装分室内のカーペットの張替え,クロスの張替え,畳・襖の張替え及び退室清掃その他修復費用金額を居住年月日に関係なく,敷金より差し引くものとし,内装修復個所は居住日数に関係なく借主の復元責任とする原状回復特約。通常損耗部分の原状回復費用をを借主が負担することの合意は成立していないとして,通常損耗部分の返還請求を認めた。
尼崎簡判平成17年12月6日
敷金35万円の返還を求めた。25万円を敷金から差し引くとの敷引条項。敷引特約は,保証金の額,敷引金額や控除割合,契約期間等を総合考慮して,敷引金の額が適正であればその限度で有効であり,適正額を超える部分についてのみ10条違反となる。本件では,保証金の約71%を控除していること,賃料の約4ヶ月分,契約期間が1年との事情から,適正な敷引金はせいぜい保証金の3割の10万5000円である。以上の理由から,24万5000円の返還請求を認めた。
東京簡判平成17年11月29日
敷金返還請求。自然損耗部分の修繕費用を借主の負担とする条項。本件原状回復条項が10条に違反するとして,全額の返還請求を認めた。
明石簡判平成17年11月28日
解約引(敷引)された25万円の返還を求めた。敷引条項。本件敷引条項は,賃借人に対し賃料以外の金銭的負担を負わせるものである。全額の返還請求を認めた。
福岡地判平成17年10月24日
敷金22万5000円他の返還を求めた。入居期間の長短を問わず75%を敷金から差し引くとの敷引条項。敷金の25%を超えて控除するとの部分を10条に反して無効であるとして,75%の部分について返還請求を認めた。
枚方簡判平成17年10月14日
賃借契約の敷引特約(敷金25万円,敷引25万円)。賃借人の真の自由意思によったものとはいえず,信義に反する等として,10条に違反するとし,返還請求を認めた。
京都地判平成17年9月27日
敷金20万円余りの返還を求めた。本件賃貸借契約が消費者契約法施行後に合意更新されていることから同法の適用を受けるとし,自然損耗分を借主負担と定めた部分を10条に違反するとし,返還請求を認めた。
京都簡判平成17年7月12日
敷金返還請求に対し,賃貸人は,退去時に全内装分室内のカーペットの張替え,クロスの張替え,畳・襖の張替え及び退室清掃その他修復費用金額を居住年月日に関係なく,敷金より差し引くものとし,内装修復個所は居住日数に関係なく借主の復元責任とする原状回復特約。特約中通常損耗の原状回復費用を賃借人の負担とする部分は民法90条により無効と解すべきであるとし,自然損耗部分についての返還請求を認めた。
大阪地判平成17年4月20日
敷金の80%(40万円)を差し引く敷引特約。敷引額が適正額の範囲内では本件敷引特約は有効とし,超える部分は無効として,本件では2割(10万円)の敷引は有効とした。
佐野簡判平成17年3月25日
敷金返還請求に対し,賃貸人は,自然損耗部分も賃借人の負担とするという原状回復特約。本件原状回復特約は10条により無効であるから、自然損耗部分についての返還請求を認めるべきとした。
堺簡判平成17年2月17日
敷金の約83%を差し引く敷引特約。解約引特約が10 条違反と認定し全額返還を命じた。
大阪高判平成17年1月28日
常の使用に伴う自然損耗分も含めて賃借人の負担で契約開始当時の原状に回復する旨の特約のある建物賃貸借契約の解約に際し,当該特約が無効であるとして敷金の返還を求めた。当該特約はその具体的内容について客観性,公平性及び明確性を欠く点において信義則に反する程度に消費者の利益を一方的に害する者として10条により無効とされた。
大阪高判平成16年12月17日
賃貸マンションの解約時にクロスの汚れなどの自然損耗分の原状回復費用を借主に負担させる特約を理由に,敷金を返還しないのは違法として,家主に敷金20万円の返還を求めた。通常の使用による損耗(自然損耗)の修繕などにかかった費用を借主の負担と定めた入居時の特約について,「自然損耗等による原状回復費用を賃借人に負担させることは,契約締結にあたっての情報力及び交渉力に劣る賃借人の利益を一方的に害する」と判断し,10条に照らして無効とし,全額返還するよう命じた。
悪質商法
小林簡裁H18.3.22
悪質リフォーム工事代金支払いの為の立替払契約と工事契約は一体のものであり、契約目的が不必要工事のための支払いであるという不利益事実を故意に告げなかったことは、消費者契約法四条二項に該当するとして、信販会社に既払金の返還を命じた
名古屋簡判H17.9.6
浴衣を買いに来た客に対し、高額な喪服セットの購入を長時間勧誘しクレジット契約を締結させた事案で、裁判所は、消費者契約法四条三項二号、五条一項により、立替払契約の取消を認めた
東京地判H17.3.10
高齢者に対する床下換気扇等の点検商法について、裁判所は、販売店の説明もいい加減で、工事の必要性も相当性も認められないから、これがあるとして説明した行為は不実告知(四条一項一号)に当たり、取り消し得る。
名古屋簡判H17.10.28
旅行主任者教材セットを購入した被告(消費者)が、原告の勧誘内容の不自然さに気付き、契約解除をしたところ、原告は解約料を支払わないと解約できないと解約に応じず、売買代金の請求を求めた事案で、裁判所は、原告が被告に対し、本件契約締結の勧誘に際し、本件契約代金等を五年後に、ある協会に申請すれば特別奨励金として返還されると告げ、被告はそのような事実がないのにあると誤認して契約を締結したとして、不実告知による取消を認め原告の請求を棄却した。
東京地判H18.6.12
建物建築請負契約を建築開始前に解約し、支払済みの契約金三○○万円から一○万円を差し引いた金額の返還請求をした「請負代金総額の三分の一または請負人に生じた損害額のどちらか高い方を賠償する」との条項の効力が争われた事案で、裁判所は、当該条項について九条一項に違反し、一〇万円を超える限度で無効とし、返還請求を認めた。
津山簡易裁判所H18.12.7
連鎖販売取引での契約書不備
京都地方裁判所H18.19.1.26
連鎖販売取引については、契約に際して概要書面と契約書面の交付が求められており、クーリング・オフの起算点が契約書面の交付時からとされている。本判決は、契約締結前に契約内容を明らかにする書面が交付されても、契約書面の交付とは認められず、契約成立後一〇ケ月が経過していた事案で、クーリング‐オフを認めた
広島高岡山支判平18.1.31
健康寝具の売買契約がモニター契約と不可分一体の契約であり,公序良俗に反するものとして全部を無効と判断するとともに,購入者が当該抗弁をクレジット会社に対抗できるとした事例
小林簡判平成18.3.22
補強金具販売業者から、補強金具をつけないと家が傾く旨の虚偽の事実を告げられ、高齢者が不必要な住宅リフォーム工事を契約させられ,クレジット契約を締結させられた等として,既払い金の返還請求をした。不要な工事代金の立替に使用されるという不利益事実が告げられておらず、ローン契約は消費者契約法4条により取り消すことができるとし、既払金の返還を認めた。
佐世保簡判平成17.10.18
この化粧品を使えば十代の肌のようになり,しみもしわもなくなってきれいになる,併用して青汁を飲めばアトピーが治ると告げられ,ローン提携販売により化粧品と青汁を購入した者に対する,信販会社からの求償金請求に対し,不実告知,不利益事実の不告知等を理由として取消しを主張した。健康食品に医薬品的効能があるなど医薬品等との混同が生ずるような広告,表示は,それ自体事実でないというべきであるとし,化粧品と併用して青汁を飲めばアトピーが治ると告げたことが不実告知にあたるとして取消しを認めた。
札幌地判平成17.3.17
高齢の女性が宝石貴金属販売会社の従業員からホテルでの展示会に連れ出され,帰宅したいと告げたにもかかわらず勧誘を続けられやむなくネックレスを購入し,クレジット契約を締結させられた。顧客が,販売店従業員に対し,帰宅したいと告げたにもかかわらず勧誘を続けられ退去させられず,困惑してネックレスの購入,立替払契約を締結させられたとして,4 条3項2号により,立替払契約の取消しを認めた。
東京地判平成17年1月31日
MBAの資格取得のために,アメリカのビジネススクールの留学試験への合格を目的として,事業者が開講する授業を受講したが,留学に必要なすべてが確実になるとか,個別指導をする旨の募集要項等において標榜されていた事項が実際には全く違っていた。契約した一部のコースについては,留学に必要なすべてが確実になるような内容のものではなく,個別指導方式とはほど遠い内容のものであり,その部分の契約については取消しを認めた。残りのコースは,特定商取引法の継続的役務提供に当たり,中途解約による返金が認められた。
東京簡判平成16.11.15
内職商法で月2万円は確実に稼げると勧誘されてシステム(CD-ROM)を購入させられた。月2万円は確実に稼げるとの発言は断定的判断の提供にあたるとして4条1項2号による取消しを認めた。
大阪簡判平成16.10.7
電話機及び主装置一式のリース契約締結に関し,申し込みの勧誘から契約書等の作成,契約内容の説明などは当該取扱店が行っていたことを前提に,当該従業員が光ファイバーを敷設するためにはデジタル電話に替える必要があり,電話機を交換しなければならない旨を告げたため被告(消費者)がこれを信じたとし,4条1項1号による契約の取消しを認めた。
神戸簡判平成16.6.25
通信機器のリース契約で、取扱店とリース会社との密接な関係を前提に,当該従業員による勧誘が「NTT の回線がアナログからデジタルに変わります。今までの電話が使えなくなります。この機械を取り付けるとこれまでの電話を使うことができ,しかも電話代が安くなります。」と虚偽であったことに関し,4 条1項1号による契約の取消しを認めた。
大阪高判平成16.4.22
一般市場価格として41万4000円と表示された値札を付けて陳列されていたファッションリングを29万円で購入した。一般的な小売価格は4 条4 項1 号に掲げる重要事項に該当し,これに不実告知があったとして,購入者による契約の取消しを認めた。
大分簡判平成16.2.19
自宅の床下に拡散送風機等を設置する請負契約を締結するにつき,退去すべき旨の意思を表示したにもかかわらず退去しないことにより困惑し,それによって契約を締結した。「そのようなものは入れんでいい,必要ない。」「帰ってくれ。」「換気扇は必要ない,私らを騙しているんじゃないんか。」などと言っているにもかかわらず,午前11時ころから午後6時30分ころまで勧誘して契約を締結したことにつき,不退去により困惑して契約を締結したものとして,請負契約の取消しを認め,業者に対して既払い金の返還請求を,信販会社に対しては抗弁対抗を認めた。
大阪簡判平成16.1.9
パソコン内職をすれば月々5 万円以上の収入になるといわれて教材をクレジットで購入したが,その収入が稼げなかった。消費者契約法4条2項(不利益事実の不告知)により取消しを認め,クレジット会社に対し代金の返還を命じた。
神戸地判平16.9.21―モニター商法
布団の売買契約の立替払契約にっき,当該売買契約と密接不可分のモニター契約はその会員制度の破綻の必然性・マルチまがい商法・欺瞞的勧誘・高額にすぎる布団価格という事情があり,売買契約を含めた全体が公序良俗に反し無効であって,割賦販売法30条の4により,それを信販会社の立替払金支払請求に対し対抗できるとしたものである
札幌地方裁判所平成17.4.28
宝石貴金属の販売会社従業員から訪問販売により、ダイヤルース(ダイヤの石)とプラチナリングを購入した消費者(被告)と立替払い契約を締結したところ、特定商取引法4条書面の交付を受けていないとして(商品の引渡時期等の記載がない)、クーリングオフ期間を経過してなされた解除の意思表示が有効とされ、解除は割販法30条の4により信販会社に対抗できるとされた事例
大阪地方裁判所平成17.3.29
訪問販売により太陽光発電装置の購入と設置をする契約をしたが、契約後6日目に、電話で契約を解除(クーリング・オフ)する旨告げたというケースについて、電話でのクーリング・オフの意思表示があったとの事実認定をし、書面によらない期間内のクーリング・オフも、これが証拠上、明確であれば、有効であるとした。
名古屋高裁H19.11.19―電話機リース
電話機器のリース契約で、クーリング・オフを主張して、支払ったリース料の返還を請求。「オフィス向けの電話機器を本人が営業のために締結したとは認められない」等を理由に特商法26条1項の適用除外規定に当たらないとし、請求を認容した事例。
大阪地裁H19.9.21
認知症状を有する78歳の男性にリフォーム工事契約を締結させ、契約締結日より3日間で合計1,300万円の工事代金を支払わせ、クーリング・オフ通知後も代金を返還しない業者らに対し、不法行為による損害賠償責任を認めた。
高松高裁H20.1.29―クレジット会社の返還義務
着物等の販売店の過量販売、クレジット会社の過剰与信に該当し、公序良俗違反による無効、不法行為の成立を認め、販売店に損害賠償を命じ、クレジット会社に返還を認めた。
岐阜地裁H19.7.19
販売店の詐欺的行為によって顧客が錯誤に陥り立替払契約を締結したときは、信販会社に対して動機の錯誤の抗弁を対抗することができるとされた事例
東京地裁H19.12.13
未公開株商法は違法性が高く公序良俗に反する違法な行為であるとして、慰謝料請求を含め請求を認容した事例。
大阪地裁H19.7.27―デート商法
展示会において、販売員が非常に高品質の商品である旨誤信させて売買契約を締結させた場合、販売会社に不法行為責任を認めた。
ホーム お問い合わせ 相続相談 契約相談 会社法務相談