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裁判事例

平成22年1月15日 東京地方裁判所
  取引先からの引き抜きについて内部告発をした従業員に対する配転命令権の行使について,不当な動機目的が認められず,権利濫用に当たらないとされた事例
平成21年6月29日 東京地方裁判所
  女性労働者が男性労働者と比べて資格及び賃金で差別されていたとして、使用者に対する不法行為に基づく慰謝料請求を認めたが,昇格地位などの確認請求,差額賃金請求及び差額賃金相当額の賠償請求を認めなかった事例
平成20年12月24日 仙台地方裁判所―損害賠償請求事件(解雇)
主文
1 被告は,原告に対し,447万7325円を支払え。
2 原告のそのほかの請求を棄却する。
3 訴訟費用は,その4分の3を原告,4分の1を被告の負担とする。
事案の概要
本件は,被告から解雇されたとする原告が,この解雇は客観的で合理的な理由を欠き,社会通念上,是認し得ないものであり,民法上違法であるとして,被告に対し,不法行為に基づいて,この解雇により被った損害の賠償を求めた事案である。
裁判所の判断
1 認定事実 前提事実,関係証拠(甲1,3,4,7,8,10,乙1〜3,6,証人D,原告本人,被告代表者〔枝番を含む。認定と異なる部分を除く。〕)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。
(1)
ア 原告は,当時務めていたファイナンスリース会社を退職して,平成12年8月16日,被告に雇用された。被告では,平成12年8月16日から平成17年3月までは営業部次長を務め,同年4月からは営業部長を務めていた。平成19年5月1日には,ほかの部長職にある幹部従業員とともに,統括事業部長を兼務する取締役に就任した。
イ 原告は,被告では,債権回収,稟議規定の作成などの業務を担当していた。被告は,原告には,業務に取りかかると,手早く処理をできる集中力があり,その法的知識,債権回収能力も優れていると評価していた。
(2)
ア 原告は,被告に雇用された当時から,糖尿病にり患していた。また,この当時から,アルコールの分解能力が健康な人より低かった。
医師からは,飲酒を控えるように指導されていた。しかし,原告は,酒好きであり,1日当たり2,3合程度の焼酎を毎日飲んだり,休日には昼間から缶ビールを飲んでいた。
(ア) 原告は,酒に酔った状態で出勤したり,勤務時間中に居眠りをしたり,同行訪問,社外での打ち合わせと称して,嫌がる部下を連れて,温泉施設で,昼間から飲酒をしたり,展示会の会場で,取引先の担当者がいるのに,ろれつが回らなくなるほどに酔ってしまったり,酒に酔った状態で勤務時間後にほかの従業員に長電話をすることがあった。
(イ) 原告は,平成18年4月以降,かぜ,体調不良,うつ病などを理由に,1か月に1日ないし4日の割合で,病気休暇を取るようになっていた。うつ病にかかった平成19年3月ころには,D常務に対し,体力的につらいと述べることがあった。
原告は,体調不良を感じたり,うつ病にかかっても,健康や勤務への支障を考慮して,飲酒を止めたり,控えることはなかった。
ウ 被告には,部下,取引先から,前記のような原告の勤務態度や飲酒癖について,従業員,取引先から苦情が寄せられていた。
しかし,A社長は,原告に対し,午前7時以前,午後9時以降の電話や,飲酒を控えるよう注意したり,居眠りをしていたときは,本社事務所の2階にある社長室で寝るよう言ったことはあるが,それ以上に,勤務態度や飲酒癖を改めるよう注意や指導をしていなかった。
(3)
ア D常務は,同年6月4日の朝,B株式会社の担当者が被告の本社事務所に来ているのに,原告が出勤していないことに気づき,原告に対し,電話で,打ち合わせには間に合わないだろうけれども,出勤するよう指示をした。このとき,D常務に対し,この日が日曜日だと思っていたと弁解した。
イ 原告は,その後,C次長に対し,電話で,この日に予定していた業務を代わってもらうことを頼んだ。このとき,C次長から,出勤するよう求められたが,「とてもじゃないけど,恥ずかしくて行けない。」と答えた。
結局,原告は,この日,被告には出勤しなかった(本件欠勤)。
ウ A社長は,原告に代わって,B株式会社の担当者との打ち合わせをして,この会社との間では,リース契約を締結しないことにした。
A社長は,この打ち合わせの後,被告の大口取引先であり,B株式会社の紹介元でもあるE株式会社の代表者から,原告を解雇するよう求められた。
エ 原告は,同日の夜,A社長に対し,電話で,「(自分を)辞めさせたらどうですか。」と述べた。
このことばを聞いたA社長は,苦情を寄せている従業員,取引先から原告をかばいきれないと考え,原告に対し,退職願を提出するよう指示して,原告に退職してもらうことにした。
このとき,原告は,酒に酔った状態だった。
(4)
ア A社長は,同月6日の朝,取締役会を開催し,原告から退職の申出があったと説明した。取締役会では,原告を弁護したり,慰留する取締役がいなかったため,そのまま退職の承認がされた。
出勤した原告は,取締役会が終わるのと入れ違いに,社長室で,A社長から,退職願の提出を求められたが,その求めを拒んでいると,「首にする。」と言われた。
イ 原告は,同月11日,A社長に対し,「辞めたくはないので退職願は提出しない。」と述べるとともに,解雇理由を明らかにした解雇通知書の交付を求めた。
A社長は,その求めに応じ,本件解雇通知をした。
ウ 被告は,再就職までの原告の生活を慮って,退職に当たって,同月分の賃金全額,同月8日に支給される賞与の全額,退職金,餞別を支給した。原告は,異議をとどめないで,これらを受け取った。
エ 被告代理人弁護士は,同月28日ころ,原告に対し,原告には就業規則35条1項2号で定める普通解雇事由があったので,解雇予告手当を支給した上で,普通解雇をしたとの回答書を送付した。
2 争点(1)についての検討
(1) 前記認定のとおり,原告は,平成19年6月4日,同月5日に,A社長から退職願の提出を求められたのに,その求めに応じていない。同月11日にも,「辞めたくはないので退職願は提出しない。」と述べている。A社長は,同月5日,求めに応じない原告に対し,「首にする。」と述べている。同月11日には,原告の求めに応じて,本件解雇通知をしている。被告は,原告に対し,解雇予告手当を支給している。被告代理人弁護士は,同月28日ころ,原告に対し,原告を普通解雇したとの回答書を送付している。
これらの事情からすると,被告は,同月11日,原告に対し,本件解雇通知をすることで,本件解雇をしたとみるのが相当である。
(2) 被告は,「原告は,自己の都合により,被告を退職したのであって,本件解雇により退職を余儀なくされたのではない。」と主張する。
前記認定のとおり,原告が,平成19年6月4日の夜,A社長に対し,電話で,「(自分を)辞めさせたらどうですか。」と述べたことは認められる。しかし,原告は,このとき,酒に酔った状態であったし,その言葉づかいは,「辞める」ではなく,「辞めさせる」である。その翌日以降,A社長から求められているのに,就業規則で定める退職願の提出を拒んでいることも合わせてみると,このやり取りだけで,自分から退職する意思があったとまでは認め難い。せいぜい,あったとしても,その場限りのもので,酔いが覚めた翌日には撤回したとみるのが相当である。
したがって,被告の主張は採用できない。原告が,異議をとどめないで,平成19年6月分の賃金,賞与,退職金,餞別を受け取ったからといって,そのことで,自分から退職したとみることはできない。ほかに本件全証拠を検討しても,この認定を覆すほどの事情は見当たらない。
3 争点(2)についての検討
(1) 被告は,「原告には,被告での正常な職場機能,秩序を乱す勤務態度や飲酒癖がみられた。平成19年6月4日には,取引先であるB株式会社の担当者との打ち合わせをすることになっていたのに,酒に酔って,昼まで寝過ごした挙げ句,被告に無断で本件欠勤をした。原告には,就業規則で定める解雇事由があり,A社長から,再三にわたって,訓戒を受け,自分の勤務態度を改める機会も与えられていたのに,勤務態度を改めないどころか,無断で本件欠勤をして,業務に支障を来しており,被告には解雇以外に講ずる措置がなかった。仮に,本件解雇通知をしたことで本件解雇をしたと認められるのであっても,この解雇は,客観的に合理的な理由があり,社会通念上,相当と認められるから,有効である。」と主張する。
(2)
ア 原告には,前記認定のとおり,酒に酔った状態で出勤したり,勤務時間中に居眠りをしたり,同行訪問,社外での打ち合わせと称して,嫌がる部下を連れて,温泉施設で,昼間から飲酒をしたり,展示会の会場で,取引先の担当者がいるのに,ろれつが回らなくなるほどに酔ってしまったり,酒に酔った状態で勤務時間後にほかの従業員に長電話をするとの勤務態度がみられていた。その勤務態度は,従業員からだけでなく,取引先からも苦情が寄せられるほどであった。
このように問題とされる勤務態度は,原告の飲酒癖,深酒によるものがほとんどである。原告は,飲酒を止めたり,控えることで,勤務態度を改善することができたはずであるし,そうすべきであった。原告は,本件解雇当時,事業統括部長を兼務する取締役という幹部従業員であり,A社長から飲酒を控えるよう注意されたり,アルコールが増悪因子になる糖尿病にり患していた上に,アルコールの分解能力が健康な人より低かったのであるから,なおさらである。
ところが,原告は,体調不良を感じたり,うつ病にかかったり,D常務に対して体力的につらいと述べるようになっても,飲酒を止めたり,控えることはなかった。
イ また,原告は,前記認定のとおり,平成19年6月4日,B株式会社の担当者との打ち合わせをすることになっていたのに,本件欠勤をした。A社長やD常務に対し,この日が日曜日だと思っていたと弁解したり,酒に酔った状態で「(自分を)辞めさせたらどうですか。」と投げやり,無責任な対応をするだけで,真剣に反省したり,連絡,引継ぎを十分に行い,打ち合わせに支障を来さないような配慮をした様子はうかがわれない。
ウ これらの事情からすると,本件解雇の時点では,幹部従業員である原告にみられた,本件欠勤を含めた勤務態度の問題点は,被告での正常な職場機能,秩序を乱す程度のことであるし,原告が自ら改める見込みも乏しかったとみるのが相当であり,就業規則35条1項2号で定める普通解雇事由に該当する。
(3)
ア しかし,被告も,原告の勤務態度に問題がみられるのは,その飲酒癖,深酒によることにあると把握できていたはずである。
そうであれば,被告は,原告に対し,自分の問題点を自覚させ,自らの勤務態度を改める機会を与えるため,はっきりと,その飲酒癖,深酒,そのことにより勤務態度に問題が生じていることを注意,指導したり,そのことが解雇の理由になり得ることを警告したり,そのことを理由とする懲戒処分をすることで,改善が図られるか見極めることはできたはずであるし,そうすべきであった。被告は,原告には,業務に取りかかると,手早く処理をできる集中力があり,その法的知識,債権回収能力も優れていると評価しており,勤務態度の改善が図られれば,この能力を十分に発揮させることができたのだから,なおさらである。
ところが,A社長は,本件欠勤まで,原告に対し,午前7時以前,午後9時以降の電話や,飲酒を控えるよう注意したり,居眠りをしていたときは,本社事務所の2階にある社長室で寝るよう言ったことはあるが,それ以上に,勤務態度や飲酒癖を改めるよう注意や指導をしていなかった。かえって,営業部次長,営業部長,統括事業部長を兼務する取締役と昇進させている。このような対応は,A社長の原告に対する温情,配慮の表れとみることはできるが,原告に自分の問題点を自覚させることができておらず(このことは,尋問での原告の供述からも看て取れる。),自らの勤務態度を改める機会を与えていたとはみることはできない。
イ また,被告は,本件欠勤の後も,取締役の解任,統括事業部長職の解職,懲戒処分など,解雇以外の方法で,勤務態度の改善が図られるかどうかの見極めはできたはずであるし,これまで自らの勤務態度を改める機会を与えていなかったのであるから,そうすべきであった。
ところが,被告では,これらの手段を講じることなく,本件解雇をしている。
(4) このような事情からすると,原告の勤務態度には,前記判断のとおり,就業規則35条1項2号で定める普通解雇事由に該当する問題点はあったけれども,そのことを理由としても,本件解雇は,社会通念上,相当として是認するまではできない。
そうすると,本件解雇は無効であるし,原告は,この解雇により,被告で働くことを断念させられ,被告との労働契約を終了させることを余儀なくされたのだから,この解雇は原告に対する不法行為になる。被告には,原告に対し,本件解雇をされなければ得られたはずの収入に相当する額を賠償する義務がある。
前提事実,弁論の全趣旨によると,原告は,本件解雇当時,月額賃金56万6750円,月額賃金の1.8か月分の夏期賞与,月額賃金の2か月分の冬期賞与の各収入(1年当たり895万4650円の収入)を得ていたことが認められる。
そして,原告の勤務態度には,前記判断のとおり,就業規則35条1項2号で定める普通解雇事由に該当する問題点はあった。被告から,はっきりと注意,指導されたり,そのことが解雇の理由になり得ることを警告されたり,そのことを理由とする懲戒処分をされても,飲酒を止めたり,控えなければ,本件解雇をされなくても,そのことを理由とする解雇をされる可能性があった。また,原告は,平成18年4月以降,1か月に1日ないし4日の割合で,病気休暇を取るようになっていたし,うつ病にかかった平成19年3月ころには,D常務に対し,体力的につらいと述べており,健康状態が業務に耐えられなくなる可能性もあった。
このような事情からすると,原告は,本件解雇をされなければ,被告から,少なくとも6か月間は,1年当たり895万4650円の割合による給与収入を得られたはずなのに,この解雇をされたことで,この447万7325円の収入を得ることができなくなったとみるのが相当である。
平成20年11月18日 東京地方裁判所―損害賠償等請求事件(競業避止義務)
主文
1 被告は,原告に対し,674万円及びこれに対する平成18年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,日本国内において,本判決確定から2年間,原告が施工ないしフランチャイズ事業化している,別紙目録1及び2記載の各技術と同一内容の技術を用いた,車両外装のへこみを修復する事業(デントリペア事業)及び家具・車両内装の修復や色替えを中心とした事業(インテリアリペア事業)を行ってはならない。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,これを3分し,その1を原告の,その余を被告の負担とする。
5 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事案の概要
本件は,原告に雇用されていた被告が,在職中及び退職時に締結した機密保持契約に基づく競業避止義務に違反したとして,損害賠償及び遅延損害金の支払並びに上記義務に違反する行為の差止めを求める事案である。
平成20年05月20日 東京地方裁判所―地位確認等請求事件(雇止)
主文
1 原告らが被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は,原告aに対し,平成18年9月から本判決確定まで,毎月10日限り69万0076円,毎年6月15日限り168万3794円及び毎年12月10日限り184万4156円並びにこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は,原告bに対し,63万3326円及びこれに対する平成18年12月11日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに平成19年4月から本判決確定まで,毎月10日限り36万7268円,毎年6月15日限り82万8063円及び毎年12月10日限り90万6926円並びにこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は,原告cに対し,59万9838円及びこれに対する平成18年12月11日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに平成19年1月から本判決確定まで,毎月10日限り35万0208円,毎年6月15日限り79万7487円及び毎年12月10日限り87万3438円並びにこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は被告の負担とする。
6 この判決の第2項ないし第4項は,仮に執行することができる。
事案の概要
本件は,被告に雇用されていた原告らが,被告から解雇又は雇止めをされたため,解雇又は雇止めは無効であると主張して,労働契約上の地位の確認並びに未払賃金(賞与を含む。)及び遅延損害金の支払を求める事案である。
当裁判所の判断
1 争点1(被告事務局長に定年制の適用があるか)について
(1) 原告aは,昭和▲年▲月▲日生まれで,平成▲年▲月に68歳4か月で,事務局長就任予定者として被告に採用されたこと,被告就業規則26条に,職員の定年につき,「職員の定年は,満60才とする。ただし,会長は満70才を限度として1年毎に雇用を継続することができる。」と定めていること,はいずれも当事者間に争いがない。同原告の採用時,上記就業規則の規定に従えば,同原告の勤務できる期間はあと1年と8か月ほどであるから,規程どおり適用するのであれば,明確にそのような短期の契約であることを確認して雇用契約を締結するはずである。しかしながら,そのような事情をうかがわせる証拠はない。かえって,証拠(甲15,原告a)によれば,同原告は被告の評議員であったものを,当初は当時の故i事務局長,同人が亡くなった後は,h事務局長,e専務理事及びf学芸部長に請われて事務局長に就任したが,その際に,任期は確認されていないことが認められる。このことと,前任のh事務局長,それ以前の前記i氏が,いずれも78歳で事務局長を退職している事実(いずれも当事者間に争いがない。)からすれば,被告事務局長に定年制が適用されないか否かはともかく,少なくとも事務局長に対する定年制の適用は厳格にされていたものではなかったと認められる。そうすると,原告aについては,定年制を形式的に適用しない約定で雇用契約が締結されたと認めるのが当事者の合理的意思に適うというべきである。
この認定と反する,同原告に定年制を形式的に適用あるものとした上で,同原告が自ら退職の手続をしなければならないところ,これを怠って職に居座り続け,文化庁を巻き込んだとの被告の主張は,採用することができない。
(2) 被告は,上記就業規則26条の定めに従い,原告aは期間の定めのある雇用契約であるとして,雇止めの主張をしている。しかし,上記(1)認定のように,同原告の雇用契約に期間を定めたことは認められないから,同原告の雇用契約は,期間の定めのない契約として,いわゆる雇止め法理の適用はないというべきである。したがって,争点2については,同原告については検討を要せず,被告が,争点3に関し,同原告の雇止めの事由として主張する事実は,解雇事由として主張するものとして検討することにする。
2 争点2(原告らにつき,雇用継続の期待があるか)について
(1) 原告cが,昭和▲年生まれで採用時に59歳であったが,早期退職であったので,60歳達齢後の職員として採用され,雇止めの時は66歳であったこと,同bは,同じ昭和▲年生まれで採用時に60歳,雇止めの時は67歳であったこと,原告c及び同bについては,警視庁を退職後,嘱託として雇用されたもので,前記就業規則26条により,満70歳を限度として1年ごとに契約を継続することができる,1年間の期間の定めのある雇用契約を被告と締結し,その後,更新を重ね,6年以上にわたり雇用を継続してきたこと,以上の事実は当事者間に争いがない。
(2) 雇止めの適法性について
ア 期間の定めのある雇用契約は,期間満了により終了するのを原則とする。
しかし,@期間の定めのある雇用契約が反復更新されて期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態になっていれば,更新拒絶には解雇に関する法理が類推される(参照,最高裁昭和45年(オ)第1175号同49年7月22日第一小法廷判決・民集28巻5号927頁)。また,A期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態になっていたとまではいえないものであっても,雇用関係の継続がある程度期待されていたものは,同様に解雇に関する法理が類推される(参照,最高裁昭和56年(オ)第225号同61年12月4日第一小法廷判決・判例時報1221号134頁)。
上記@Aの契約類型では,労働者は,契約関係の終了に関し,手厚い保護を受けることになる。しかし,これら類型に該当しないものでも,期間満了時の更新の反復の度合いや携わる仕事の内容等によっては,一定の保護が与えられるものもあるというべきであり,その場合には,いかなる恣意的な理由によって雇止めがされてもよいと解するのは相当でない。
イ 本件においては,原告c及び同bは,警視庁をほぼ60歳で退職した後,嘱託として雇用され,雇止め時には年金も受給可能な年齢に達していたもので,若年労働者ほどには雇用継続の必要性も強いとはいえず,前記@Aのように解雇に関する法理を類推すべきものとはならない。しかし,前記争いのない事実並びに証拠(甲16,17,原告b,同c)及び弁論の全趣旨によれば,上記両原告はフルタイムで1週間に5日勤務し,他の職員と全く同様に勤務してきたこと,雇用契約の更新を重ねて,勤務期間は約6年に及んでいること,契約更新の手続は毎年行われてきたが,面接や雇用契約書の作成はなく,辞令交付がされていたものの雇用期限満了前ではなく,形式的なものに近いといえること,の各事実が認められ,これらを考えると,期間の経過により当然に雇用契約が終了するものとは解し難い。
このような退職高齢者を対象とする雇用契約であっても,契約の終了には,当該契約の性質に見合った合理的な事由を必要とすると解すべきである。
平成20年04月25日 大阪高等裁判所―地位確認等請求控訴事件(黙示の労働契約)
主文
1 1審原告の控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。
(1) 1審原告が,1審被告に対し,別紙3の内容の雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
(2) 1審被告は,1審原告に対し,平成18年3月以降,毎月25日限り,24万0773円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(3) 1審原告が,1審被告に対し,リペア作業に就労する義務のないことを確認する。
(4) 1審被告は,1審原告に対し,90万円及び内45万円に対する平成17年11月23日から,内45万円に対する平成18年3月9日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5) 1審原告のその余の請求をいずれも棄却する。
2 1審被告の控訴を棄却する。
3 訴訟費用は,1審被告の控訴状貼用印紙の費用を1審被告の負担とし,その余の費用を1,2審を通じて2分し,その1を1審被告の,その余を1審原告の各負担とする。
4 この判決の1(2),(4)項は仮に執行することができる。
事案の概要 本件は,1審原告が,プラズマディスプレイパネル(PDP)を製造する1審被告に対して,@1審被告との間で締結した雇用契約が期間の定めのない契約であり解雇は無効であると主張して,雇用契約上の権利を有することの確認を,A平成18年3月から毎月25日限り月額24万0773円の賃金及びこれに対する各支払期日の翌日からの遅延損害金の支払を,BPDPのリペア作業を命じられたことは,1審原告がそれまで従事していた封着工程からの配転命令であるとした上で,同命令が無効であるとしてリペア作業に就労する義務のないことの確認を,C1審被告が1審原告を解雇,雇止めしたことが不法行為にあたるとして300万円の慰謝料及びこれに対する請求の趣旨の変更申立書送達日の翌日である平成18年3月9日からの遅延損害金の支払を,D1審被告からリペア作業を命じられたこと等が不法行為にあたるとして300万円の慰謝料及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成17年11月23日からの遅延損害金の支払を,それぞれ求めた事案である。
原審は,期間満了により雇用契約が終了したなどとして,Bの請求を却下し,@,A,Cの請求をいずれも棄却し,Dの請求のうち45万円及びこれに対する遅延損害金の支払の限度で認容したため,これを不服とする1審原告,1審被告が本件各控訴をそれぞれ提起した。なお,1審原告は,当審において,1審被告が1審原告に対して信義則上の雇用義務を負い,債務不履行又は不法行為に基づくAの請求と同額の損害賠償請求を予備的に追加した。
平成20年04月22日 東京地方裁判所―解雇無効確認等請求事件
主文
1 原告が,被告に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は,原告に対し,平成16年10月から本判決確定の日まで,毎月25日限り月額47万3831円の割合による金員を支払え。
3 被告は,原告に対し,835万1382円及びこれに対する平成16年12月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用はこれを5分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
6 この判決は,第2項及び第3項に限り,仮に執行することができる。
事案の概要
本件は,従業員である原告が,使用者である被告に対し,平成16年9月9日付け解雇(以下「本件解雇」という。)は原告が業務上の疾病に罹患して休業していたにもかかわらずされたものであって違法無効であるとして,雇用契約に基づき,雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認及び本件解雇後の平成16年10月から本判決確定の日までの賃金(月額47万3831円)の支払のほか,安全配慮義務を怠って前記疾病に罹患したものであるとして,債務不履行又は不法行為に基づき,慰謝料等合計2224万2373円(弁護士費用169万0991円を含む。)及びこれに対する安全配慮義務違反行為の後で訴状送達の日である平成16年12月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
平成20年03月27日 東京高等裁判所 ―強制配転無効確認等請求控訴事件
主文
1 原判決を次のとおり変更する。
(1) 控訴人らと被控1 訴人との間で,控訴人らが被控訴人の客室乗務員(フライトアテンダント)の地位にあることを確認する。
(2) 被控訴人は,控訴人P1,同P2に対し,それぞれ100万円及びこれに対する平成15年6月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被控訴人は,控訴人P3,同P4,同P5に対し,それぞれ80万円及びこれに対する平成15年6月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 控訴人P3,同P4,同P5のその余の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,第1,2審を通じ,被控訴人の負担とする。
3 この判決は,第1項(2),(3)に限り,仮に執行することができる。
事案の概要
本件は,航空会社である被控訴人の従業員としてフライト・アテンダント(以下「FA」という。)の業務に従事していた控訴人らが,それぞれ平成15年3月1日付けで地上職である成田旅客サービス部に配転を命じられた(以下,控訴人らに対する各配転命令を一括して「本件配転命令」という。)ため,@雇用契約上,控訴人らの職種をFAに限定する旨の合意がある,Aそうでないとしても,本件配転命令は配転命令権の濫用である,Bそうでないとしても,本件配転命令は不当労働行為に当たる,として本件配転命令が違法になされたことによる無効を主張し,控訴人らが被控訴人のFAの地位にあることの確認をそれぞれ求めるとともに,不法行為に基づき,本件配転命令により被った精神的苦痛に対する慰謝料各100万円及びこれに対する本件配転命令以後の日である平成15年6月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。
原審は,控訴人らの請求をいずれも棄却した。そこで,控訴人らがこれを不服として控訴した。
平成20年01月28日 東京地方裁判所―賃金等請求事件(通称 日本マクドナルド割増賃金請求)
主文
1 原告の訴えのうち,原告が,被告に対し,被告の直営店店長としての地位にある間,労働基準法36条の規定による労使協定の締結及び同協定の所轄労働基準監督署長への届出がなされ,同協定内容が周知され,かつ,同協定が定める事由及び限度時間の範囲でなければ,1日8時間,1週40時間を超えて労働する労働契約上の義務を負っていないことの確認を求める訴えを却下する。
2 被告は,原告に対し,503万4985円及び別紙時間外及び休日割増賃金一覧表「各月合計」欄記載の各金員に対する同表「支払日」欄記載の日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 被告は,原告に対し,251万7493円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用はこれを2分し,その1を原告の,その余を被告の負担とする。
6 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
事案の概要
本件は,被告の従業員である原告が,被告に対し,@原告が,労働契約上,労働基準法36条に規定する労使協定が締結されるなどするまで,法定労働時間(同法32条)を超えて労働する義務を負っていないことの確認(請求の趣旨第1項),A未払の時間外割増賃金及び休日割増賃金の支払(同第2項),Bこの未払賃金に係る付加金の支払(同第3項),C被告から長時間労働を強いられたことにより,精神的苦痛を被ったとして,不法行為に基づく,慰謝料の支払(同第4項),D通勤に要した高速道路料金の支払(同第5項)をそれぞれ求めた事案である。
平成20年01月09日 東京地方裁判所―不当利得返還請求事件
主文
1 被告は,原告aに対し,53万1355円及びこれに対する平成18年8月25日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
2 被告は,原告bに対し,39万2217円及びこれに対する平成18年8月25日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
3 原告らのその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,被告の負担とする。
5 この判決は,第1,第2項に限り仮に執行することができる。
事案の概要
本件は,被告である損害保険会社の直販社員ないし外務員である原告らが,原告らが顧客から獲得した各種保険契約に基づく保険料の支払につき,顧客が保険料を分割払い等により口座振替により被告に支払う場合の口座振替手数料相当額を,原告らの月例給与から控除することにした被告の措置(給与規程の改定)が,原告ら所属組合ないし原告らの同意もなくなされており,被告が上記顧客から保険料に乗せて既に当該手数料の支払を受けているのに,さらに原告らから同額分を控除することは,二重払いに当たり,賃金全額払いの原則にも悖るとして,被告に対して不当利得返還を請求した事案である。
当裁判所の判断
1 証拠等によって認定できる事実
前提事実に証拠(甲10,11,乙28,29,証人c,同d,原告aの各尋問結果のほかには各文の末尾に掲記したもの。)及び弁論の全趣旨を総合すると以下の事実を認定することができる。
(1) 被告における保険取扱制度
被告の保険業務の取り扱いにおいては,顧客の自宅や勤務先へ出向くなどして損害保険の勧誘をする保険募集業務と契約の締結や保険料の領収等を業務とする集金業務がある。
以前の被告における業務に対応した区分としては,上記後者の業務は契約保全係制度として,社員系統の契約保全社員(それ以前には集金社員と呼ばれていた),代理店系統の集金代理店を設けて,当該社員を雇用したり,代理店に委託して集金業務を行うこととしていた。(甲3,乙26)
そして,以前には,集金業務とは別に保険募集業務に専念する者として,外勤の営業専門職の社員である外務員と直販社員(両者を併せて外直社員)を被告は雇用し,今日ではこれらの者をプロフェッショナルアドバイザーすなわちPA社員と称している。
被告における外勤の営業専門職の社員は勤務形態及び給与体系の違いによって外務員と直販社員とに分かれている。
被告の商品である各種保険の販売チャネルとしては,上記集金業務に対応するものとして,直販社員制度のほかに保険募集代理店へ業務委託して販売している。
被告における制度・区分上は上記のような募集業務と集金業務に分けた制度・職種を設けていたが,集金業務については,保全社員のみでまかなうことは顧客との関係上難しく,契約時の年間保険料一括払いとか分割払保険料の契約時における第1回分などのほかに,実際には募集に当たった外直社員なり代理店が扱者集金等として行っている件数もあった。(乙26,証人c2ないし5頁,証人d20,21頁)
(2) 従前の外直社員の給与に関する労働条件(給与体系)
直販社員の給与体系は,固定給と出来高給からなっており,出来高給部分は獲得保険料に保険の種類ごとに一定の換算率を乗じて算出した金額の合計が月例給与として支給されることになっていて,標準的には年間換算成績額の27パーセントが支払われるよう設定されてきている。年間換算成績額とは,各種保険種目毎の保険料に予め保険種目毎等に決められた換算係数を乗じることによって算出された額の総合計額を指す。保険料分割払契約では,1年間に領収する予定の保険料合計額に換算係数を乗じ,年間換算成績額を算出している。
外務員の給与体系は,年間成績額(1年間に領収する,または領収する予定の保険料合計額をいう。)をベースに算定するが,契約獲得年度に歩合給として支給する分と契約獲得の翌年度の月例給与ないし臨時給与で支給する分とを合算して,直販社員に支給する給与と同水準となるよう,それぞれの支給割合を算定している。
(3) 外直社員の給与に対する条件変更の経緯
昭和40年代に口座振替制度が金融機関において開発され,安価でかつ集金事故の懸念のない集金方法として急速に社会的に普及した。
被告においては,集金コスト削減のため,昭和60年ころ,顧客先に出向いて分割払の保険料を集金する保全集金から口振集金への切替を進行中であった。口振集金とは,当時,保険料分割払契約で2回目以降に支払われる保険料を契約者の銀行預金口座から被告へ自動的に支払われる方法であり,口座振替手数料が発生し,当該手数料は割賦チャージの内から支払われる形で顧客である契約者に負担させていた。
損害保険契約の多くは保険期間が1年間であり,保険料の領収方法は保険期間の1年間分の保険料(年間保険料)を契約締結時に一括して領収することが基本となるが,これを複数回に分割して領収する場合には特約を付帯して保険契約を締結する。割賦チャージとは,年間保険料を一括で領収せず複数回に分割して領収するため,年間保険料を一括して領収する場合にはかかることのない保険料集金等の付加経費がかかるため,その分を算出して年間保険料に上乗せする保険料である。当時の保険料分割払契約の1ヶ月の保険料は,口振集金かそれ以外の集金方法によるかにかかわらず,集金等に付加経費がかかるため,年間保険料にその10パーセントを加算した額を12等分して算出していた。
被告においては,上記のような集金コスト削減の一環として契約保全社員制度を平成3年に廃止する方針を決め,平成8年3月末をもって契約保全社員による保険料の集金を廃止した。そのため,保険料分割払契約で第2回目以降の保険料の支払方法について口座振替制度を利用しない保険契約者については,外直社員あるいは保険代理店による扱者集金となっていた。
損害保険業界における保険を販売する販売組織としては,代理店と社員販売があるところ,平成9年当時,被告における外直社員の人員は社員販売組織を有する旧大東京,旧日動といった保険会社と比べても格段に多く,販売組織全体に占める外直社員の収入保険料のシェアも高かった。
他方,損害保険会社の収益構造は,損害保険会社の収入を構成する営業保険料から支出を構成する各額(保険金・付帯費用,事業費,満期払戻金・契約配当金・解約払戻金)を差し引いた額の総計(差益,差損)で考えられている。事業費とは損害保険会社の保険引受上の経費で,営業費及び一般管理費及び諸手数料及び集金費を指しており,この事業費には内勤社員や外直社員の給与,代理店手数料,物件費等も含まれている。
保険料の自由化後には,損害保険会社でシェア争いの価格競争に勝ち抜くために,経費を低く抑えて収益構造を良くする努力を各保険会社とも展開していた。
被告においては,正味収入保険料に占める事業費の割合を指す事業費率が他社に比べて高い高コスト体質にあり,被告の事業費に占める経費率で外直社員の方から代理店よりも劣る状況にあった。
被告は,平成9年度から,事業費率の改善を図るために,170億円削減プラン等を実施し,経費削減の様々な努力をする中,損害保険業界の再編の動きにより業界内での競争力を付けるためにさらなる努力が必要と判断し,外直社員を多く抱える被告では事業費がかさむことから当該社員の給与体系の見直しを急務と考えた。
(4) 組合との交渉及び就業規則(給与規程)の変更
被告は,平成4年ころ,多数組合である富士労組に対して自動車保険の外直社員の給与の支給率,理論支給率の改定要求が同組合からあった際に口座振替実費を外直社員の負担とするこをを提案したが同意を得るに至らなかった。
その後,被告は,平成9年5月29日,富士労組に対して,外直社員に口座振替等の実費相当額を負担させることを前提とした給与体系に就業規則を変更するという第1回提案を,平成15年3月7日には第2回提案をしている。
第1回提案は,ア.一般種目の保険契約の初回保険料及び積立保険の初回保険料の口座振替に要した実費,イ.クレジットカードによる保険料支払に要した実費,ウ.2回目以降の保険料の口座振替に要した実費を,第2回提案は,割賦チャージ10パーセントの保険料分割払契約で2回目以降の保険料の支払について口座振替を利用している保険契約についての実費を外直社員に負担させることを前提とした給与体系に就業規則を変更するという内容であった。
被告と富士労組は経営協議会及び外直専門委員会による会合を重ねた末,それぞれの提案について一定の合意に達している。
他方,被告は,上記2つの提案について,富士支部へも同時期に申し入れをし,団体交渉を重ねたが,いずれも合意に達することなく終わっている。
(5) 被告による外直社員の給与規程の変更内容
ア 被告は,平成10年1月以降,下記の保険につき,割賦チャージ5パーセントの保険料分割払契約(口座振替によって第2回目以降の保険料を領収する保険契約)については,外直社員に口座振替の実費相当額を負担させることを前提とした給与体系とし,これを下記の時期からそれぞれ適用した。
@ 平成10年1月から自動車保険(満期返戻金なし)
A 同年5月から自動車保険(満期返戻金あり),自動車保険(保険料の4回分割払契約,保険料の6回分割払契約)
B 同年10月から火災保険保険料分割払契約(12分割)
C 平成11年5月から月掛生活総合保険
D 同年6月から総合自家用自動車保険
E 同年10月から新積立生活総合保険
F 平成14年6月から家庭用火災総合保険
G 同年11月から家庭用総合自動車保険
イ 被告は,平成10年1月1日以降を保険始期とする一般種目の保険契約及び同年2月1日以降を保険始期とする積立保険契約に関し,保険契約の初回の保険料を口座振替で領収する保険契約につき,外直社員に口座振替の実費相当額を負担させることを前提とした給与体系とし,これを適用した。
ウ 被告は,平成9年7月からクレジットカード特約付保険契約を初めて売り出し,販売後,外直社員にクレジットカードによる保険料領収に要した取扱手数料等の相当額を負担させることを前提とした給与体系とし,これを適用した。
エ 被告は,平成13年3月を保険始期とする口座振込型満期払戻金付保険契約につき,外直社員に振込手数料相当額を負担させることを前提とした給与体系を適用した。
オ 被告は,平成16年4月から,保険料分割払契約で口座振替により保険料を領収する上記@ないしG以外の保険契約の口座振替にかかる実費相当額を外直社員に負担させることを前提とした給与体系とし,これを適用した。
(6) 上記(5)の給与規程が全て適用された結果,原告aは別紙「a 口座振替手数料控除額一覧表(1)」のとおりの,原告bは別紙「b 口座振替手数料控除額一覧表(2)」のとおりの各控除額欄記載の金額が各人の控除年月日に対応する給与から被告により控除されている。
2 争点(1)(口座振替手数料を給与から控除することの有効性)について
(1) まず,原告らは被告が口座振込手数料相当分は顧客である保険契約者の割賦チャージ分から予め徴収しておきながら,さらに外直社員である原告らの給与から同額分を控除するのは二重取りであるとし,被告は,外直社員には割賦チャージ分の保険料も含めた金額を基準とした年間換算成績額に保険の種類毎に一定の換算率を乗じて給与を算定しており,当該換算率には外直社員が集金業務を行ったことを前提にした換算率を含んでいるにもかかわらず,実際には口座振替による分割払契約の保険の場合には当該社員は集金業務を行っていないのだから,被告の外直社員に対する給与体系を改めて,分割払契約の口振集金の口座振替手数料相当分を給与から控除することには合理性があり被告による二重取りには当たらないという。
ところで,前記認定事実(2)及び弁論の全趣旨によると,従前の取扱として,被告が外直社員の給与という労働条件について,顧客である契約者から獲得した保険料に各保険の種類毎に一定の換算率を乗じて支給金額を取り決めていること,保険料の支払方法を問わず単純に各保険料に上記保険の種類に応じた一定の換算率を乗じた金額が外直社員の給与支給額となる契約内容となっていることが認められ,そのようにして被告は平成9年以前には外直社員である原告らに口座振込手数料相当額を控除することなく給与を支給してきたことは当事者間に争いのないところである。
そうであるとすると,事後になって被告から外直社員の給与に変更の必要があるとして集金業務相当分の支払給与を調整するために,平成9年以降の時点で将来に向かって,上記従前と同様の換算率により計算されて決定された月例給与から一定額を減額するとしても,これを新たに口座振替実費相当分として従前の給与額から控除すること自体が問題とされなければならない。
当事者の主張におけるアの二重払いかどうかとか,その理論的前提となるイの従前の給与に集金業務の対価が含まれていたかどうかという点は,被告が上記のように従前の取扱を改めて外直社員の給与から口座振込手数料相当分を控除することが,その理由付けとして従前の労働契約内容となっている給与支給条件との関係で根拠のあるものかどうかという説得力の問題あるいはウの就業規則の不利益変更の判断における合理性の判断要素として考慮されるにすぎない。証拠等から窺われるところでは,被告における外直社員の給与規程上,上記換算率に外直社員による集金業務の対価を含むと明記しているわけでもなく,結局のところ従前の支給率自体は維持したまま,これまでの支給額を減額する理論上の根拠を模索しているにすぎないものというべきである。
(2) むしろ,ここでまず検討すべきは,原告らが主張するところの給与の全額払いの原則に照らして被告の取り扱いに問題がないかどうかである。
末尾記載証拠ないし弁論の全趣旨によると,以下の事実が認定できる。
ア 被告は,平成10年1月1日以降,自動車保険,火災保険料分割特約(12分割),生活総合保険の積立型基本特約付帯契約および月掛12回払特約付帯契約,総合自家用自動車保険,家庭用総合自動車保険,一般種目における初回保険料の口座振替に関する特約付帯契約,積立保険における初回保険料の口座振替に関する特約付帯契約,クレジットカードによる保険料支払いに関する特約付帯契約,月掛住宅・店舗総合保険および月掛団地保険,月掛住宅火災保険および月掛火災保険といった具合に平成14年11月27日実施にかかるものまで,いずれも口座振替の実費を外直社員の給与から控除するものとした給与規程の改定をしている。(乙21ないし24一各枝番号を含む。)
イ そうして,被告は,多数組合である富士労組の同意を得て平成10年1月1日以降上記規程改定に従った外直社員の給与からの控除を実施している。
ウ その後,被告は,上記富士労組の同意のもと,個別各保険ごとに実施してきた上記取り扱いを次のように一般化している。(甲1,2,乙25の1,2)
すなわち,被告における「各種保険契約の保険料口座振替に要した実費の外務員給与等に関する規程」(平成16年4月1日実施)及び「各種保険契約の保険料口座振替に要した実費の直販社員給与等に関する規程」(平成16年4月1日実施)によれば次のとおり規定されている。
(口座振替実費控除)
第1条各種保険契約(医療保険を除く。)の保険料口座振替に要した実費は,払込方法を問わず,初回保険料(異動・訂正における追加保険料を含む。),2回後保険料とも当該契約の給与等に関する規程の取り扱いに関わらず,月例給与から控除する。
(実費の範囲)
第2条控除する実費は次のとおりとする。
1.口座振替手数料
2.振替済ハガキ切手代
3.再請求ハガキ切手代
4.口座振替不能分手数料
エ なお,被告には多数派組合である富士労組と少数派組合である富士支部があるところ,多数派組合は上記いずれも過去の時点から現在に至るまで少なくとも従業員の9割以上を組織している。
(3) 以上の事実からすると,前記認定事実(2)のように,被告は従来は外直社員に各種保険の口座振替手数料実費相当額分を控除せずに一定の換算率を乗じたものを合算して支払っていたところ,平成10年以降は順次各保険ごとに当該実費相当分を月例給与から控除している。そして,平成16年4月1日からは各種取り扱い保険全部に同様の取り扱いをしている。
ところで,労働基準法24条によれば,賃金は,その全額を支払わなければならないとし,ただし,法令に別段の定めがある場合または事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合との書面による協定がある場合においては,賃金の一部を控除して支払うことができるとされている。上記認定事実からすると,被告の各種保険に関する口座振替手数料実費相当分の控除は上記ただし書きの後段である労働組合との協定がある場合に相当するものと思われる。
しかし,労働基準法24条ただし書き後段の効力は,使用者において同条の全額払いの原則に違反する賃金の支払いがあった場合の刑事罰の免罰としての効力は認められても,多数派組合のほかに少数派組合が併存し,当該少数組合がこれに同意しておらず,かつ,その組合員が個別にも上記控除の取り扱いに同意していない場合においては,彼らに対してその効力を及ぼすことはできないものというべきである。
本件においても,原告らは富士支部の組合員で,同組合が上記被告の取り扱いに同意しておらず,原告らが個別に同意してもいないことは明らかであり,被告が原告らに対する関係で各種保険料の口座振替手数料実費相当分を同人らの給与から控除した行為は,強行法規である労働基準法24条に違反するもので無効といわざるを得ない。
そして,前記認定事実(6)によれば,このような無効な控除によって原告らの給与から法律上の原因なく被告が利得した金額は分割払契約による保険料の2回目以降の支払分をはじめとする他の保険料の口座振替による支払分も含めて各人の別紙「口座振替手数料控除額一覧表」(1)(2)のとおりであると認められる。
3 これに対し,被告は,本件控除は,原告ら外直社員の給与という労働条件に関する就業規則の不利益変更の問題であるという。その意味するところは,給与支払金額を算出する方法を変更したものという主張であると善解できる。
確かに,控除の対象が外直社員が獲得した保険契約に関するものであることからすると労働に関係するものとみることができ,従前の出来高による一定の換算率により計算した金額から,顧客である契約者の口座振込があったものについて,振込手数料金額相当分を原告ら外直社員の上記換算金額から差し引いて算出するという計算方法の変更と見る余地もある。
ところで,控除の対象に着目した場合,通常,控除とされるものには,チェックオフ(組合費)とか税金・社会保険料等が典型的であり,労働の対価とは関係のない別物ということになり,給与計算方法に関するものであるとすると,労働の対価に関するものとして,例えば遅刻早退・欠勤による控除といった労働時間であるとか出勤日数等に関連するものであるのが一般的である。本件の口座振替手数料は,給与支給対象者である外直社員の労働の対価そのものではなく,当該社員が顧客から獲得した保険契約の振込手数料であり,しかも,それは顧客が負担しているものである。給与の支給実態に着目した場合,給与計算として成り立つ余地として考えてみると,保険募集業務による獲得した保険料から算定される出来高給と当該給与支給にかかる保険料自体の口座振込手数料が支給と控除の時期について異なる場合が多いものである。すなわち,獲得保険料による出来高支給と当該獲得保険料の口座振替手数料の実費の発生とは常に同一時期になるものではなく,とりわけ分割払契約の保険料の場合には,事後に月々に発生する実費ということになり,それらを計上時期の異なる月例給与からマイナス計算するというのであるから,支給出来高と計算対象の実費とが支給月あるいはこれと近接した時期に相互に関連していないことになる。
結局のところ,原告らの給与は,前記認定事実(2)のとおり各種保険ごとに従前から取り決められた換算率により算定された金額が出来高給として支給されることになっており,そこに外直社員の集金業務相当分が含まれるかどうかはともかくとして,被告が主張する外直社員の給与支給の取り扱いの変更によっても当該換算率に変更がなく月例給与としては従前どおりであること,前記に認定したように,被告の規程の文言上,「月例給与から控除する」とあり,しかもその控除するものが「実費」とされていること,給与の計算方法としては,観念的には換算率を調整するなり,当該率を乗じる対象金額から実費分相当額を除いて計算することが可能であるはずのところを敢えて月例給与そのものとは別に取り扱っていること,給与であれば,事前に支給を受ける段階で原告ら外直社員が金額的に予知特定できるものでなければならないものと考えられるところ,契約者の口座振込という不確実な要因により当該金額の有無,多寡が左右される性質のものであることからすると計算方法として一義的なものともいえないこと,外直社員の保険募集業務という労働の結果からいずれも生じてくる費用であるとしても,顧客の保険料支払方法にかかわる費用であり,募集に当たった外直社員が必然的に負担すべきものではないものであることなどからすると,当該費用が労働に関係して生じているものとみる必要はなく,上記のように給与から控除されるものの性質及び給与計算として成り立つ余地のいずれの観点からみても,これを単なる給与計算方法の変更と見ることはできないものといわなければならない。
また,上記のような被告の規程を実費の清算と見る余地があるかどうかについても検討してみるに,口座振込手数料は,保険契約者負担で割賦チャージの中に含まれており,当該割賦チャージを含んだ保険料に一定の換算率を乗じて出来高給を支給していることからすると,当該出来高給の中に実費である口座振込手数料の一部が含まれていることになる。しかし,給与(上記出来高)に含まれている口座振込手数料は換算率を掛けている関係で全額ではない。ところが,被告が外直社員の給与から控除している金額は,口座振込手数料と同一額である。このことからすると,実費を清算していることにはならない。
さらに,証拠(甲7)によれば,原告らを含む富士支部の外直社員が被告に控除された口座振替手数料の内訳を示すよう要求しているにもかかわらず被告においてその内訳が開示されていないことからしても,実費の清算としてもその明細が明らかではなく,実態としても,原告ら外直社員が支出した費用の実費を被告が弁償するものとは上記から明らかなように性質を異にしており,清算の実質を有するものと見ることも相当とは思われない。
それゆえ,被告が主張する就業規則の不利益変更の問題さらにはその判断の一要素として外直社員である従前の原告らの給与に集金業務の対価が含まれていたかどうかという問題について逐次検討判断するまでもなく,被告における外直社員である原告らに対する月例給与から口座振替手数料等実費を控除することは許されないものというべきである。
したがって,原告らの被告に対する本件不当利得返還請求には理由があることになり,同人らの債権は,期限の定めのない債務であるから履行の催告のあった訴状送達日の翌日である平成18年8月25日から遅滞になるものと考えられ,しかも商行為によって生じたものではないので,民事法定利率による年5パーセントの遅延損害金が発生するものというべきである。
4 以上によれば,原告らの被告に対する請求には上記に認定判断した範囲内でいずれも理由があるので認容し,その余は理由がないので棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京高裁平19.6.28判決
在職中、賃金について女性であることを理由に差別的な取扱いを受けたとして,不法行為に基づく損害賠償請求が認容された事例
京都地裁平成19年04月26日―損害賠償請求事件(セクシャルハラスメント)
被告が,被告が代表者を務める会社に勤務していた原告に対し,その就職直後から退職に至るまで1年2か月にわたって継続的に職務として性交渉を要求した行為について,セクハラとして不法行為に該当するとされた事例。セクハラの慰謝料として300万円が相当であるとされた事例。セクハラにより退職し,その後の就労が十分にできなかったとして,退職後3か月間については月収全額の,その後9か月については月収の3分の1の金額(合計273万円)について,逸失利益と認めた事例。
東京地裁平成19年3月9日―地位確認等請求事件
証券株式会社のした懲戒解雇は無効であると主張して,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及びこれを前提とした未払賃金の支払を求めた事案。本件解雇の事由として被告が主張する諸事実は,いずれも就業規則に違反するものとまでは認められないから,本件解雇は解雇事由がないにもかかわらずされたものである。原告の請求は,判決確定後の賃金の支払を求める部分を除きいずれも理由があるからこれを認容し,判決確定後の賃金の支払を求める部分は不適法であるからこれを却下する。
さいたま地裁平成19年3月6日―退職金支払請求事件
本件退職手当規定の適用対象について、原告の定年を延長し,本件退職手当規定の適用対象の社員として扱うとの合意をしたと認めるのが相当である。したがって,原告は,本件退職手当規定の適用対象となる社員に当たるというべきである。,原告は,被告に対して,本件退職手当規定に基づく退職金請求権があり,その額は,1449万3610円となり,この内504万8880円が中退共制度に基づいて支払われたので,現在944万4730円の未払い退職金支払請求権を有していることが認められる。
宇都宮地裁平成19.2.1―差額賃金支払等請求事件
在職キャディ原告らによる本件労働条件変更の同意は,錯誤により無効であり,在職キャディ原告らは,被告に対して,旧条件による労働契約に基づき,期間の定めのない労働契約上の権利を有するとともに認定する,旧条件を基準とする賃金額と4月以降実際に支給された賃金額との差額相当分の金員について,賃金請求権を有するものと認められる。原告の解雇は無効であり,原告と被告との間の労働契約は継続しているものと認められる。よって,原告は,被告に対して,期間の定めのない労働契約上の権利を有するものと認められる。
横浜地裁平成19.1.23判決
被告の元従業員であった原告(女性)が,被告において就労中,被告から女性であることを理由に賃金について男性と差別的取扱いを受けたとして、損害賠償請求が認められた。
東京地裁平18.11.29判決
整理解雇が無効違法とされ地位確認請求,賃金・賞与支払請求のみならず慰謝料請求も認容された事例
札幌地裁平18.9.29判決
配置転換命令が権利の濫用であるとして被告に対する原告ら(被告の従業員叉は元従業員)の慰謝料請求が一部認容された事例
東京地裁平18.1.13判決
不当な動機・目的による配転命令が会社の人事権の濫用に当たるとして無効とされた事例
名古屋地裁平17.9.16判決
「業務推進手当」の支払をもって残業代の一部支払であると認めることはできないとされた事例
札幌地裁平16.11.10判決
期間の定めのある労働契約の更新拒絶(雇止め)が無効であるとされた事例, 雇止めが不法行為に当たるとされた事例
東京地裁平16.6.30判決
4次にわたる降格・滅給処分が人事権を濫用したものであり違法,無効であるとして降格に伴う減給処分前の給与との差額請求,慰謝料請求が認められた事例
岡山地裁平13.5.23判決
2種類の賃金表等が男子に有利で女子に不利に適用されていた場合において、被告がその合理性を立証できなかったので,賃金等の支給について性差別を理由とする不合理な差別があるとして判断された事例
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