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成年後見に関する裁判事例・高齢者問題

東京家裁平成21年8月14日審判―成年被後見人を祭祀主宰者に指定した事例
1 事実の概要
被相続人Cは、亡H男と亡I女との間に生まれた長男であり、申立人AはHとIの長女である。HとIの間には他に二女、三女および二男が生まれたが、二女および二男はいずれも子をもうけることなく死亡した。また、三女は婚姻し、Gをもうけた後に死亡した。
Cは、昭和15年にJと婚姻し、長女D、長男B(相手方)、二男および二女をもうけたが、二男および二女は生後間もなく死亡した。昭和42年になり、CとJは離婚した。その後、CはKとの間に亡L(子はいない)およびEをもうけ、両名を認知した後、Kと昭和43年に婚姻したが、昭和45年に同人と離婚した。
そして、Cは昭和58年にMと婚姻したが、昭和59年に同人とは離婚している。
一方、亡Hは、晩年認知症を発症するまでAと同居していたが、昭和50年に死亡した。
甲家の墓は、Cが承継管理しており、Cは平成4年に宗教法人乙寺の墓地使用許可を受け、同日付けで同寺檀徒誓約書を差し入れた。また、Cは、従前、自宅に仏壇を置き、甲家の祖先の位牌を祀っていた。
Aは、平成16年頃に認知症を発症し、平成19年に後見開始の審判を受け、成年後見人が付された。Aは、従前、Cと親しくしており、CもAの成年後見人に対して、Aが死亡したらAを乙寺の甲家の墓に埋葬したい旨を述べていた。
平成20年にCが死亡したが、Cの近親者は、A(妹・申立人)、D(子)、B(子・相手方)、E(子)およびG(姪)であった。
しかし、D・Eはいずれも祭祀承継の意思がなく、相続も放棄している。GおよびBについては連絡がない。
甲家の菩提寺である乙寺は、甲家の墓を誰も承継しなければ無縁仏とするはかないとしている。
以上のような状況の中、AをCの祭祀主宰者とするよう申し立てたのが本件である。
2 裁判所の判断
認容(AをCの祭祀主宰者と認めた)。
「Aは現在後見開始の審判を受けているが、AがCの祭祀主宰者となり、法定代理人成年後見人を通じ乙寺に永代供養の手続をすることによって、A自身の死後の祭祀も可能になるというのであり、これらの諸般の事情を併せ考えると、AをCの祭祀承継者とすることが相当というべきである」。
福岡高裁平成16年7月21日判決―意思能力有無の判定と保佐開始の審判
本件連帯保証契約を締結した後に保佐開始の審判を受けた者が本件連帯保証契約の締結に必要な意思能力を本件契約時に欠いていたとされた事例(福岡高裁平成16年7月21日判決・原判決取消し・請求棄却)。保証債務履行請求控訴事件
1 事 実
X(アイフル株式会社―原告・被控訴人)は、平成14年6月6日、Aに150万円を貸し付け、同日、Y(当時28歳 被告・控訴人)はAの債務についてXと本件連帯保証契約を締結した。その後、Aが期限の利益を喪失したので、XはYに対して本件連帯保証契約に基づく保証債務の履行を請求して本訴に及んだ。これに対して、Yは、本件連帯保証契約当時に意思能力を有していなかった、Aに強迫されたために本件連帯保証契約締結の意思表示をした、と主張した。なお、本訴提起後、Yの叔母BがYについて保佐開始の審判を申し立て、家庭裁判所の審理を経て、平成15年9月17日、Yについて保佐が開始され、BがYの保佐人に選任されている。原審(福岡地判平成16年1月28日)は、意思能力の有無について、Yには精神上の障害が本件連帯保証契約当時も存したものの、その程度は重度のものといえず、Yが就労し、運転免許証の交付も受けるなど、それなりに社会生活を営んできたこと、本件連帯保証契約以前にAのために保証債務を履行したことがあること等の事情を考慮すれば、Yが本件連帯保証契約当時に連帯保証契約に必要な意思能力を欠いていたとまでは認められない、とした。強迫については、「本性全証拠によっても、Y主張の強迫の事実を認めるに足り」ないとした。そこで、Y控訴。控訴審が認定した事実は大略次のとおりである。
Yの生い立ちについて。
Yは、知的能力について明らかに遅れがあり、小学校2年生から特殊学級(特別支援学級)に通い、中学校卒業前に、佐賀県精神薄弱(知的障害)者更生相談所から第2種精神薄弱(知的障害)者の認定を受け、平成元年3月に中学校を卒業した後は県立の知的障害者更生施設に入所し、平成4年3月まで3年間訓練を受けた。また、18歳になると、自動車学校に通い始め、運転操作は少々時聞がかかっても自動車教習所の指導で習得できたが、交通法規などの学科試験は教習所の授業と本人の努力だけでは困難であったことから、Bが従兄(元中学校教師)に頼んで交通標識などの問題を何度も繰り返して覚えさせ、少なくとも5、6回は受験して学科試験に合格することができた。
Yの職歴について。
Yは、平成4年3月に知的障害者更生施設を退所し、釣具店に就職してルアーの製作に1年ほど従事した後、平成5年6月から工務店で大工、左官の助手として働いたが、腰椎ヘルニアを発症して平成7年12月に退職し、平成8年1月からは親威か経営する印刷所で雇ってもらい、平成14年度(13年分)の給与収入は218万7000円であった。
保証債務の履行について。
Yは、腰椎ヘルニアの治療のために入院した病院で同室者としてたまたま知り合ったAに頼まれて、平成13年3月26日、Aが株式会社Cから100万円を借り入れる際に、その借入債務を連帯保証をしたが、Aがその返済をしなかったためにCから支払いの請求を受けた。Yから相談を受けたBは、Aと連絡をとろうとしたが捕まらず、Aの家族も解決に協力する態度がみられず、Yおよびその父母に返済能力がなかったことから、同年5月11日、返済資金を用意してY名義でCに対し101万1797円を弁済した。
本件連帯保証契約の経緯・状況について。
平成14年6月5日頃、Yは、Aから自己の母親を連帯保証人にしてお金を借りるので付き添いという感じでいっしょについてきてくれるように頼まれ、単に付き添いであるからと考えてこれを承諾し、AといっしょにXを訪れたが、その際、Aから「余計なことは言うな」と告げられていた。YはXの従業員から運転免許証の提示を求められたうえ、保証契約の内容について一方的に説明を受け、求められるまま連帯保証人の中込用紙等に氏名、住所、勤務先などを記載した。Yは、この間、緊張気味で必要以上のことは話さず、返事をするのみであった。同月6日、Yは、AといっしょにXを訪れ、「金銭消費貸借契約書」、「保証契約の内容を事前に説明する書面(詳細書)」、「保証契約の内容を事前に説明する書面(概要書)」の各連帯保証人欄にそれぞれ自署した。契約終了後、Xの従業員が、Yに対し、主債務者から支払いがなかったり、連絡がとれなくなったときはYへ請求がいくことを伝えると、Yは緊張気味に「はい」と軽くうなずき、AはYに対して「大丈夫大丈夫」と笑いながら話しかけた。
Yの知能について。
Yは、昭和63年9月2日、佐賀県精神薄弱(知的障害)者更生相談所から障害の程度がB(Aは「重度」、Bは[それ以外])であると判定され、平成5年11月22日および平成10年10月27日にち障害の程度がBであると判定された。また、本件訴訟提起後にBからYについて保佐開始の審判が申し立てられ、同15年6月5日、Yは国立肥前療養所の精神科医師から中等度の精神遅滞(知的障害)と認定され、同年9月17日、自分の財産を管理、処分するには常に援助が必要な状況にあり、その回復の可能性はなく、精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分であるとして、Yについて保佐開始の審判がなされ、Aの保佐人としてBが選任された。そうして、保佐開始の審判の前日に裁判所に提出された同精神科医師作成の鑑定言によれば、診断は精神遅滞(知的障害)であり、その程度は中程度であること、労働経験を有し一応の社会適応をしていること、I Q54であること、運転免許を取得していることから、一見軽度精神遅滞(知的障害)としてもよさそうに見えるが、言語性IQの知識、単語、理解、類似の得点は極めて低く、社会的事象については全く理解が及ばず、関心も興味も示さないこと、運転免許は親威がかかりきりで何度も受験してやっと合格したものであることなどからすると、中程度の精神遅滞(知的障害)と診断した。また、借金に伴う保証人の制度、自宅土地の価格、土地売買の方法について理解ができていない、理解の及ぶ範囲、意思を表明できる範囲は、日常生活の極めて限定された事柄にすぎない、保護された環境の中でかろうじて一応の生活ができている状態である、との説明がある。
また、控訴審におけるY本人尋問の結果、Yは、保証人になると「責任をかぶる」ことになる、利息とは「お金が増えること」などと一応の理解は示すものの、計算については、足し算のほか掛け算はできるが、割り算(6÷2)や少数計算(10×O.2)はできず、100円の1割は「多分10円」と正答するが、50円の2割や50円の15%はわからず、本件金銭消費貸借契約書の「遅延損害金」の文字を読むことができず、その欄の記載内容も理解できないことが認められる。また、前にAがCから100万円を借金して保証人になったときの借金額について質問されて「多分、100万」と答えたり、Aと知り合った時期を質問されて、実際は3年以上前であるのに1、2年前であるかのような応答をし、不自然であることを指摘すると「よく覚えていない」と答えるなど、記憶が極めてあいまいである、と認定されている。
2判旨一原判決取消し・請求棄却
(1)意思能力について
 「意思能力がない者がした行為は無効であるが(大審院明治38年5月11日判決)、ここにいう意思能力とは、自分の行為の結果を正しく認識し、これに基づいて正しく意思決定する精神能力をいうと解すべきである」。
 「Yの金銭の価値についての理解は、簡単な買い物、給料などについては及んでいるが、数百万円以上の理解には及んでいないところ、本件連帯保証契約は簡単な買い物や給料額を遥かに超える150万円であること、Yは50円の15%は理解できないから、本件連帯保証契約の利息年28.835パーセント、遅延損害金年29.2パーセントの意味(元金返済を遅滞すると3年余りで返済額が借入金の2倍の300万円に達する)を理解できていないこと、にもかかわらず、Yが本件消費貸借契約書等に署名したのは、Yは他者から強く指示されると抵抗できない性格であり、Aから『余計なことは言うな』と言われていたことなどから、AとX従業員から言われるままに行動した結果であることが認められ、これらの事情を考慮すると、Yは本件連帯保証契約締結の結果を正しく認識し、これに基づいて正しく意思決定を行う精神能力を有していなかったというべきである」。
 「なお、意思無能力かどうかは、問題となる個々の法律行為ごとにその難易、重大性なども考慮して、行為の結果を正しく認識できていたかどうかということを中心に判断されるべきものであるから、Yについて一般的に事理弁識能力が著しく不十分であるとして、平成15年9月17日保佐開始審判がなされた〔略〕ことは、本件連帯保証契約について意思無能力の判断をする妨げとなるものではない」。 (2)強迫について
 「YはAから連帯保証人となることを予め頼まれてこれを承諾してXへ赴いたのではなく、単に付添を求められてこれに応じたものであったところ、Xでは連帯保証人として迎えられ署名を求められるなどして緊張し、また、Yは他者から強く指示されると抵抗できない性格であったところ、Aから『余計なことは言うな』と言われていたことなどもあって、X従業員から言われるままに、本件連帯保証契約の関係書類〔略〕に署名したものであることが認められるのであって、このようなYの性格と上記精神能力の低さなどを考慮すると、Aの『余計なことは言うな』という言葉や返済が遅れるようなことはないから『大丈夫大丈夫』と語りかけた言葉は、一方において、Yの自由な意思決定(本件連帯保証契約を拒否すること)を妨げるに十分であったと認めることができ、他方において、Yの精神能力の低さや性格に乗じて『余計なことは言うな』とYに心理的な圧力をかけて本件連帯保証契約を強いたAの行為は違法と評価することができるのであって、AのYに対する強迫行為と認めるのが相当である」。
 「以上によれば、本件連帯保証契約は、Yの意思無能力により無効であり、仮にそうでないとしても、強迫により取り消されたものであるから、本件請求は理由がないことに帰する」。
広島地裁福山支部平成21年3月24日判決―業務上横領被告事件
知的障害を有することに家庭裁判所が気づかず選任した成年後見人による成年被後見人の財産の横領について、家庭裁判所による選任行為は重大かつ明白な瑕疵があったとはいえず無効とはいえないとして、業務上横領罪が成立するとされた事例
事案の概要
Y1(被告人)はAの姪であり、平成16年3月11日、家庭裁判所により、交通事故により脳挫傷等の傷害を負ったAの成年後見人に選任され、Aの財産管理等の業務に従事していたが、F銀行a支店に「A後見人Y1」名義の普通預金口座を開設・管理し、実母であるY、(被告人)に預金通帳等を保管させて、Aが受領した事故による傷害に伴う4770万円の保険金を原資とする預金を、Aのため業務上預かり、Y2とともに共同保管中、@YおよびY2は、共謀のうえ、平成17年2月から平成18年8月までの間、74回にわたり、F銀行a支店等14力所において、ほしいままに、Y1およびY2、その同居の親族またはY1およびY2の知人らの用途に費消する目的で、前記預金口座から現金合計3629万円を引き出して横領し、さらにA平成18年2月9日、H信用組合a支店において、前記預金口座から他の金融続開へ預け替えるために引き出した865万円余のうち165万円余を、ほしいままに、同じ目的で、預替口座に入金することなく手元に留保して着服し横領したという業務上横領の各事実について起訴された。
なお、2名の家庭裁判所調査官が、成年後見人選任時等において、それぞれY1に対する面接調査をしたが、Y1が知的障害により療育手帳の交付を受けていること等の知的障害の存在をうかがわせる事情の申告は受けず、知的障害を有することに気づかなかった。
Y1の弁護人は、家庭裁判所が、調査不十分のまま、知的障害を有するY1をAの成年後見人に選任した行為には重大かつ明白な瑕疵があるからその行為は無効であって、家庭裁判所とYとの間に「委託信任関係」はなく、Y1は「業務」としてAの財産を占有していたのではないから無罪である、また、家庭裁判所の後見人選任判断の誤りから知的障害を有するY1に犯行が容易な環境が与えられた以上、Y1を犯罪者として裁くことは明らかに正義に反するから、公訴権濫用に当たるとして公訴を棄却すべきである旨ほか、一部犯行時におけるY1の心神喪失、少なくとも各犯行時を通じての心神耗弱などを、Y2の弁護人は、Y2の各犯行時における心神喪失または心神耗弱などを、それぞれ主張した。
(判旨)
〔Y1〕懲役1年10ヵ月、[Y2]懲役1年8ヵ月執行猶予3年
後見人選任に関する家庭裁判所の調査および選任には広範な裁量が認められるが、誤って欠格事由かおる者を選任した場合には、選任審判は無効であると解され、選任行為に重大かつ明白な瑕疵がある場合にも、一般の処分に準じ、選任審判は無効となると解されるが、選任審判の性質および法的安定性の要請にかんがみると、選任行為に重大かつ明白な瑕疵かおるといえるのは、誤って欠格事由かおる者を選任した場合に匹敵するような場合に限られるべきである。
Y1の成年後見人選任時には、「成年後見人となる者の職業及び経歴並びに成年被後見人との利害関係の有無」(民法843条4項)を含む諸事情の調査が行われたと認められる。また、Y1の各調査時における供述内容、供述態度自体から知的障害があることをうかがうことができたとはいえないこと等を考慮すると、2名の調査官のいずれも、各調査時においてY1の知的障害の存在あるいはその可能性を容易に認識し得る状況であったとは認められない。さらに、結果的には、弁護士等の第三者専門職を選任することが相当であったとはいえるけれども、横領等の不正行為に結びつく何らかのリスク要因をうかがいうる事情があったとは認め難いこうした状況の下で、あえて、具体的な知的能力の調査や、財産管理能力の追究的調査をすべき義務が調査官にあるとはいえない。
したがって、Y1を成年後見人に選任することの相当性に関する調査方法・内容に過失があるとはいえず、家事審判官が、この調査に基づいて成年後見人としてY1を選任し、犯行終了時まで成年後見人の職務を継続させたことについて、少なくとも重大かつ明白な瑕疵があったとは認められず、家庭裁判所が行った後見人選任行為は無効とはいえないから、適法に成年後見人に選任されたY1は、委託信任関係に基づき業務としてAの財産を占有していたものと認めることができる。そして、結果的には知的障害を有するY1に犯行が容易な環境が与えられたとしても、少なくとも、Y1を犯罪者として裁くことが明らかに正義に反するといえるまでの家庭裁判所の後見人選任判断の誤りは認められない。したがって、検察官の公訴は、裁量の範囲を逸脱し職務犯罪を構成するような違法な場合には当たらず、公訴権の濫用とはいえない。
Y1は平成17年8月から平成18年2月までの各犯行時において、軽度に近い中等度精神遅滞および噪状態により、Y2は、全犯行時において、中等度精神遅滞により、いずれも行動制御能力が著しく低下していたことから、それぞれ心神耗弱状態にあった。
最高裁平成24年10月9日決定―業務上横領被告事件
家庭裁判所から選任された成年後見人が業務上占有する成年被後見人所有の財物を横領した場合、成年後見人と成年被後見人との間に刑法244条1項所定の親族関係があっても、同条項は準用されないし、また親族関係があることを量刑上酌むべき事情として考慮することも相当ではない。
(事実の概要)
被告人は、家庭裁判所から選任された成年後見人であり、かつ、成年枝後見人の養父であるが、後見の事務として業務上預かり保管中の成年被後見人の預貯金を引き出して横領したという業務上横領の本案について、被告人被成年被後見人の養父であることは、刑法255条が準用する同法2討条1項の趣旨にかんがみ、量刑判断に当たり酌むべき事情であると主張して上告した。
(決定要旨)
上告棄却。
「家庭裁判所から選任された成年後見人の後見の事務は公的性格を有するものであって、成年被後見人のためにその財産を誠実に管理すべき法律上の義務を負っているのであるから、成年後見人が業務上占有する成年被後見人所有の財物を横領した場合、成年後見人と成年枝後見人との間に刑法244条1項所定の親族関係があっても、同条項を準用して刑法上の処罰を免除することができないことはもとより、その量刑に当たりこの関係を酌むべき事情として考慮するのも相当ではない」。
最高裁平成20年2月18日決定―業務上横領被告事件
事案の概要
家庭裁判所から選任された未成年後見人が業務上占有する未成年被後見人所有の財物を横領した場合、未成年後見人と未成年被後見人との間に刑法244条1項所定の親族関係があっても、その後見事務は公的性格を有するものであるから、同条項は準用されない。
(事実の概要)
Y1(被告人)は未成年者A(平成3年7月1日生)の母B(平成13年6月12日死亡)の母であって、平成13年8月8日、福島家庭裁判所によりAの未成年後見人に選任され、Aの預貯金の出納、保管等の業務に従事していたもの、Y2(被告人)はAの伯父(Aの母の兄)、Y3(被告人)はY2の妻であるが、@被告人3名は、共謀のうえ、平成13年8月から平成15年11月までの間、前後5回にわたり、F郵便局ほか4か所において、被告人3名の用途に費消するため、ほしいままに、Y1が後見の事務として業務上預かり保管中のA相続に係るB名義の定額郵便貯金口座ほか2口の貯金口座から合計677万円余を引き出し、さらに、AY、およびY2は、共謀のうえ、平成14年2月から平成15年11月までの間、前後9回にわたり、F農業協同組合本店ほか3か所において、Y1およびY2の用途に費消するため、ほしいままに、Y1が同じく保管中のA名義の2口の普通貯金口座から合計859万円を引き出して、それぞれ横領したという業務上横領の各事実について起訴された。
なお、Y1およびY2に対しては、新たに選任されたAの未成年後見人から告訴がなされていたが、Y3に対しては告訴はなされていなかった。
弁護人は、@Y1はAの祖母であって、Aとは直系血族の関係にあるから、刑法255条、244条1項によりその刑は免除されるべきである、
AY3はAの叔母(母の兄の妻)であって、Aと同居はしていないものの親族関係にあり、刑法255条、244条2項により告訴がなければ公訴提起が許されないから、Y3に対する公訴は棄却されるべきであるなどと主張した。
第1審である福島地裁平成18年10月25日判決は、次のように判示して、Y1とY2にはおのおの懲役3年、執行猶予5年、Y3には懲役1年6ヵ月、執行猶予3年をそれぞれ言い渡した。
@いわゆる親族相盗例の趣旨は、「法は家庭に入らず」との思想の下、親族間の財産犯罪については国家が刑罰権の干渉を差し控え、親族間の規律に委ねる方が望ましいという政策的配慮にあるから、そのような配慮の働かない領域にはこれを適用すべきでない。未成年後見人は、たとえ未成年被後見人の親族であっても、遺言あるいは家庭裁判所による選任によって初めて未成年被後見人の財産を管理し、処分する権限を取得し、家庭裁判所の監督の下で職務を行うのだから、その地位は未成年枝後見人自身というより乱家庭裁判所との信任関係に基づくものである。横領罪は、財産権の侵害に加えて信任関係の侵害をも保護法益としており、未成年後見人の横領行為は、単に未成年被後見人の財産を違法に処分したというだけではなく、家庭裁判所との信任関係を裏切って違法行為に及んだものといえるから、家庭裁判所という親族でない第三者を巻き込んだことは明らかで、親族相盗例を適用する余地はない。
家庭裁判所は、未成年後見人との間に財産委託関係がないから、財産上の被害者ではないとしても、未成年後見人は、これに選任されることにより、未成年被後見人による委託行為を待たずに、未成年被後見人の財産について法律上の支配を有するに至り、その後も、その管理、処分について監督を受け続けるのであるから、家庭裁判所と未成年後見人との間の信任関係は、未成年後見人による未成年被後見人の財産に対する支配関係と表裏一体の関係にあり、業務上横領罪の適用によって保護されるべきである。
AY1およびY2に対する告訴の効力は、刑事訴訟法238条1項により、共犯者であるY3にも及ぶ。同居の親族であるY1に対する告訴がなされている以上、同居していない親族であるY3にその効力が及ばないとするのは不当である。
被告人3名は控訴したが、原審である仙台高裁平成19年5月31日判決は、次のように判示して、控訴を棄却した。@親族相盗例は、原判決が説示するとおりの政策的な考慮に基づくものであるから、当該犯罪がもっぱら親族間の親族関係に基づく関係において行われた場合にのみその適用があるところ、未成年後見人は、その地位に就くことで、もっぱら未成年者の保護の一環として法により未成年者の財産管理の権限を賦与されるとともに、家庭裁判所の監督を受けるなどするのであって、親族が親族間で親族関係に基づきその財産管理を委託等されているものではない。
したがって、未成年後見人として未成年被後見人の財産を横領する行為は、未成年後見人や共犯者が親族であっても、もっぱら親族間の親族関係に基づく関係で行われた場合とはいえず、法益侵害の程度が低くなる理由も犯罪への誘惑が高くなる理由もなく、政策的配慮をする必要性は実質的にもないから、親族相盗例を適用する余地はない。第一審判決が家庭裁判所による未成年後見人の選任や監督等を強調し、また、家庭裁判所との信任関係は保護されるべきとするのは、未成年後見人は親族間の親族関係の自律外のものであることをいう趣旨として理解できる。A未成年後見人となっている親族はもとより、そうでない共犯者である親族にも親族相盗例は準用されないのであるから、Y3に告訴の必要はない。これに対して、被告人3名が上告した。
(決定要旨)
上告棄却。
「刑法255条が準用する同法244条1項は、親族間の一定の財産犯罪については、国家が刑罰権の行使を差し控え、親族間の自律にゆだねる方が望ましいという政策的な考慮に基づき、その犯人の処罰につき特例を設けたにすぎず、その犯罪の成立を否定したものではない」。
「一方、家庭裁判所から選任された未成年後見人は、未成年被後見人の財産を管理し、その財産に関する法律行為について未成年被後見人を代表するが(民法859条1項)、その権限の行使に当たっては、未成年枝後見人と親族関係にあるか否かを問わず、善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務を負い(同法869条、644条)、家庭裁判所の監督を受ける(同法863条)。また、家庭裁判所は、未成年後見人に不正な行為等後見の任務に適しない事由があるときは、職権でもこれを解任することができる(同法846条)。このように、民法上、未成年後見人は、未成年被後見人と親族関係にあるか否かの区別なく、等しく未成年被後見人のためにその財産を誠実に管理すべき法律上の義務を負っている」。
「そうすると、未成年後見人の後見の事務は公的性格を有するものであって、家庭裁判所から選任された未成年後見人が、業務上占有する未成半被後見人所有の財物を横領した場合に、上記のような趣旨で定められた刑法244条1項を準用して刑法上の処罰を免れるものと解する余地はない」。したがって、Y1の刑を免除することはできない。
仙台高裁秋田支部平成19年2月8日判決―業務上横領被告事件
事案の概要
家庭裁判所の選任・監督の下に成年被後見人の財産を占有・管理する成年後見人が成年被後見人の財産を横領した業務上横領の事案につき、成年後見人と成年被後見人との間に刑法255条により準用される同法244条1項ないし2項所定の親族関係があったとしても親族相盗例の準用はないとされた事例
(事実の概要)
Y(被告人)は、平成15年1月10日、秋田家庭裁判所横手支部により、同居していない叔母Aの成年後見人に選任され、A(成年被後見人)の財産管理等の業務に従事していたが、平成16年1月23日から平成17年9月7日までの間、25回にわたり、M郵便局ほか4か所において、A名義の2口の預貯金口座から現金合計951万5000円を引き出し、Aのために業務上預かり保管中、いずれもそのころ、ほしいままに、自己の用途に費消する目的で、そのうちの合計827万1759円を着服して横領し、さらに、同年9月27日、H銀行N支店において、定期預金口座(3000万円)を解約して現金1000万円を引き出し、Aのために業務上預かり保管中、そのころ、同じくそのうちの988万7197円を着服して横領したという業務上横領の各事実について起訴された。
弁護人は、Yは、被害者であるAの甥であり、刑法255条が準用する同法244条2項所定の親族関係が被害者との間に存在するから、いわゆる親族相盗例の準用により本件は親告罪に該当し、その起訴が訴訟条件を満たすためには、Aの法定代理人であるYの後任の成年後見人において、犯人をYであると知った日(成年後見人に選任された平成17年10月18日ないし遅くともYとの間において被害弁償に向けた債務弁済契約等を締結した平成17年11月18日)から告訴期間である6ヵ月(刑事訴訟法235条1項本文)内に告訴を行う必要があったところ、実際の告訴は告訴期間経過後である平成18年5月19日になって行われているから、本件公訴提起は違法であり、公訴を棄却すべきであると主張した。
これに対して、原審である秋田地裁平成18年10月25日判決は、親族相盗例は、犯罪の処理を親族内の自律的判断に委ねようとする趣旨のものであるところ、横領罪は、他人の委託に基づき占有する物の所有権その他本権を、その委託の趣旨に反して侵害する犯罪であるから、上記自律的判断に委ねうるのは、行為者と所有者および委託者相互の間に親族関係が存する場合に限られるが、Yは、家庭裁判所によりAの成年後見人に選任され、家庭裁判所の広範な監督下にAの財産管理業務に従事していたのであり、家裁が委託者の立場にあったと認められるから、行為者と委託者との間に親族関係が存したとはいえないと判示して親族相盗例の準用を否定し、懲役2年の実刑を言い渡したため、Yが控訴。
(判旨)
控訴棄却。
親族相盗例は、「法は家庭に入らず」との思想の下、一定の財産犯罪につき、その法律関係が親族間のみにとどまる場合には、国家が刑罰権の発動を差し控えるのが望ましいとの趣旨から、刑事政策的に設けられた規定である。したがって、親族以外の者が当該財産犯罪に係る法律関係に重要なかかわりを有する場合には、その者が直接・間接に法益侵害を受けるという意味での「被害者」には当からないとしても、その法律関係は、すでに純粋に「家庭内の人間関係」に限局されたものという性格を失っており、親族相盗例の適用・準用は排除される。
横領罪は、所有権その他の本権をその保護法益とするとはいえ、行為の特質という面では、むしろ委託者との委託信任関係違背の点を中核的要素とするから、親族相盗例が準用されるには、行為者と物の所有権その他の本権を有する被害者との間だけではなく、行為者との委託信任関係を形成した者(この者は、当該法律関係に重要なかかおりを有する者といえる)との間にも親族関係が存在することを要する。
親族が家庭裁判所により成年後見人に選任され、家庭裁判所の監督を受けながら成年被後見人の財産を占有、管理する中で業務上横領罪を犯したという場合、成年後見人は、家庭裁判所の選任・監督という関与の下においてのみ成年彼後見人の財産を占有、管理し得る地位を保てるものというべきであるから、被害者である成年被後見人との間に親族関係が存在したとしても、親族関係の想定できない家庭裁判所との間で上記のような委託信任関係が形成されている以上、これに違背して行われた犯罪について親族相盗例の準用はあり得ない。
確かに、財産の占有、管理につき成年後見人と民法上の委任関係にあるのは、あくまでも成年被後見人であり、家庭裁判所と成年後見人との間に民法上の委任関係があるとはいえないから、家庭裁判所は、いわゆる「被害者」には当たらず、したがって、告訴権者であるとはいえないが(本件において、家庭裁判所は告訴を行っておらず、家庭裁判所長が告発をしている)、家庭裁判所は、行為者との委託信任関係を形成した者であり、したがって、当該法律関係に重要なかかおりを有する者である。また、成年被後見人が精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者であり、基本的には、本人以外の親族等や検察官の請求により家庭裁判所が成年後見人を選任することからすれば、実質的には、成年被後見人の財産管理を成年後見人に委託するのは成年後見人を選任・監督する家庭裁判所であるということができる。
したがって、刑法上の業務上横領罪との関係で、家庭裁判所を、成年後見人に対し成年被後見人の財産の管理を委託する者と解することにも十分な根拠・理由がある。
前橋地裁平成14年6月10日判決―叔母である成年被後見人の財産を横領した事件
事案の概要
親族である成年後見人が成年被後見人の財産を着服した事案につき、業務上横領罪を適用して懲役2年の実刑を言し渡した事例
(事実の概要)
Y(被告人)は、前橋家庭裁判所桐生支部から、平成12年5月31日、Aの財産管理人に、同年8月23日、同じAの成年後見人にそれぞれ選任され、財産管理人または成年後見人としてAの財産管理等をしていたが、同年6月16日から平成13年8月20日までの間、25回にわたり、株式会社B桐生支店ほか9ヵ所において、自己の用途に供する目的で、ほしいままに、前記の各職務として業務上預かり保管中のA名義の預貯金口座から合計1746万8408円の払戻しを受けるなどして着服し横領したという業務上横領の事実について起訴された。
(判旨)
懲役2年。
Yの横領は、自らの生活費等に費消するためのもので、その自己中心的な犯行の動機は酌量の余地に乏しい。また、AはYの叔母であり、従前からYと親密な関係を有し、Yに対して全財産を相続させる旨の公正証書遺言をしていたことは、Yのために酌むべき事情の一つではあるが、Yは、生活に窮していたことから、Aの遺言のことを思い出し、Aの死亡前であっても、Aの財産を自己の用に供することができないかと考え、自らAの成年後見人に就任することを企て、前橋家裁桐生支部に対してAについての成年後見開始の申請を行い、Aの財産を管理できる地位を得て、その後、本件犯行に及んだものであって、その犯行は計画的かつ巧妙である。加えて、後見人選任後、同支部から説明または、報告を求められながら、本件犯行を継続してきたのであって、その犯行は大胆かつ悪質である。さらに、被害額は多額であるにもかかわらず、被害の弁償はほとんどなされておらず、今後なされる見込みも乏しい。
このような本件犯行の動機、態様、結果等をあわせて考慮すれば、被告人の刑事責任は重いと言わざるを得ない。
東京高裁平成22年12月8日判決―保佐等開始審判の届出義務を課す預金規定を有効とした
事案の概要
X(昭和3l年生)は、平成元年に夫と離婚した後、借金を繰り返し、家族に判明するつどこれを弁済するなどしていたが、平成9年頃からは定期的に病院に通院しており、心因性反応症、解離性健忘症と診断され、平成l2年には、横浜市から障害等級2級との認定を受けた。
平成18年末頃、Xが消費者金融から別の借金をしていたことが判明し、さらに、Xに勤務先のA社から退職金が支給されることが予定されていたことから、Xの長男であるZは、平成19年1月頃、法律相談においてXが被保佐人と認められる余地があると言われ、翌2月に横浜家庭裁判所に赴いて申立書の書式や必要書類の説明等を受けたうえ、同年4月5日、横浜家庭裁判所に対し、Xの保佐開始審判の申立てを行った。
Xは、金融機関であるY(中央労働金庫)横浜支店に普通預金口座(以下、「本件口座」という)を開設しており、平成l9年4月に合計額1793万6507円がXの退職金として本件口座に振り込まれた。Zは、まず、当時判明していたXの借金をすべて返済させたほか、上記退職金のうち1000万円をYの定期預金に振り替えた。その結果、本件口座には約340万円の残高があった。Zは、その後、Xから本件口座の通帳とキャッシュカードを預かり、自室の机の引出しの中にしまった。
なお、Xは、いったんA社を退職し、退職金を受給した後もA社から再雇用され、月額22万~23万円程度の給与が支払われた。このA社からの給与のうち毎月l0万円が本件口座に入金された。
横浜家庭裁判所は、平成l9年5月30日、Xが精神疾患のため自己の財産を管理・処分するには常に援助が必要であり、精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分であると認められるとして、Xについて保佐を開始し、Xの保佐人としてZを選任する旨審判した(代理権付与の審判はなされていない)。その審判の際、Zは、横浜家庭裁判所から「保佐人の職務について」と題する書面を交付され、元木を領収し、または利用することが保佐人の同意を要する行為に当たることを教えられ、わからないことがあったり、問題が起きたりした場合には、後見係に尋ねるように教示された。
ところが、Xは、Zの机の中に本件口座の通帳とキャッシュカードがあるのを発見し、これをZに無断で持ち出して、平成l9年6月7日から平成20年5月20日までの間、Yの支店やコンビニエンスストアにあるATMで合計424万9890円の払戻しを受けるなどした(本判決の掲載誌は、個別の払戻しごとの日付・出金額・使途を記した原判決別紙を省略しているが、これをみると、Xは、野球のチケツト・飲食・タクシー・携帯電話に関する代金支払いを使途として、45回にわたり、1万円から50万円までの範囲(1回平均9万4442円)で預金を払い戻していた。したがって、日用品の購入等の経費の支払いに必要な範囲の預金払戻しとはいえず、「日常生活に関する行為」(民法13条1項ただし書・9条ただし書)に当たるものとして取消権を排除することは困難な事案であったといえる。)。
Xは、平成20年6月16日になってはじめて、Yに対し、保佐開始の審判を受けたことを届け出た。これは、新たな成年後見制度が平成12年4月l日から施行されるのに伴い、Yにおいて、同日、Yの普通預金規定を改め、そのl2条に以下の規定が追加されたことに基づくものである。
判 旨
原判決取消し・請求棄却。
「銀行取引の反復性、大量性、さらに金融機関における預金の払戻しが、本件のようにATM(現金自動預払機)によってなされるような場合を考慮すれば、被保佐人が保佐人の同意がない場合に金融機関から預金の払戻しを受けられないようにするには、まずは、保佐人において、預金通帳や預金カードの管理を十分にすることが求められるほか、一般には、金融機関に審判がされたことを届出て、ATM(現金自動預払機)による払戻しを不可能にするなどの措置を執らない限り、被保佐人の保護が全うされないことが明らかである。このようなことからすれば、上記免責約款の規定は、被後見人、被保佐人、被補助人の保護と取引の安全の調和を図るための合理的な定めであると解される。そして、上記普通預金規定(免責約款を含れ)は、控訴人と預金取引を行う多数の預金者との間の預金取引に関する、いわば条理を定めたものであって、預金者の知、不知を問わず、拘束力を有するものと解するのが相当である。
そうすると、免責約款は有効であり、Xは、届出をしない間に行った預金の払戻しを取り消すことはできず、Xの請求は棄却を免れない」。
委任契約と死後事務
最判平成4年9月22日
【事実】
Aは老齢に達し,Y(被告・被控訴人=附帯控訴人・上告人)の世話で帰郷した。YはAの生活の面倒を見ていた。しばらくして,Aは入院し.その際.家政婦Bと友人Cの世話になった。Aが、最後の入院の際にYに預金通帳と印章を預け、引き出しを依頼したので,Yは約245万円を引き出し現金とした。Aは、Yに対して.入院費用の支払.死後の葬式と法要の費用.BとCに対する謝礼金の支払を依頼しこの現金.通帳、印章を渡した。
Aの死亡後.YはAの意思に従い入院費用(62万円),葬儀費要(45万円).法要費用(25万円).BとCに対する謝金それぞれ20万円を支払った。Cへの謝金の支払に関しては.Aの相続人の1人であるXの承諾を得ていなかった。 37回忌の際にXは以後,法要はXが行うと言って,Aが預けた通帳、印章、現金の引渡しを求めた。Yは.AとXは疎遠であり、Xは世話をしなかったことや、AがXをいやがっていたことを理由に拒否し.法要も続けた。その後.相続人間で遺産分割が成立しXが単独で相続することになった。
原審では委任契約はAの死亡によって終了したとして、預金通帳及び印章のほかYが支払った費用を控除した残金な相続人であるXに返還すベきであるとXは主張した。XはYが不法に相続財産を領得し、これは不法行為となり損害賠償責任を負うと主張した。これに対して,Yは,Aが生前に死後の一切の事務をYに委任し前記の現金,通帳,印章を含め,一切の財産をYに贈与したと主張した。これに対して,AY間の契約は贈与ではなく,委任であるとしそして委任契約はAの死亡とともに終了しAの財産はXに帰属したと,原審は判示した。Yの支払はCに対する謝金以外は,Xの承諾又は意思に沿う形でなされている。これに対して,Cへの支払は承諾がなく.不法行為となり損害賠償責任を負うとした。この結果,現金の残額に20万円を加えた金額と,通帳,印章を返還する義務があると判示したのである。
【判旨】
「しかしながら, 自己の死後の事務を含めた法律行為等の委任契約がAとYとの間に成立したとの原審の認定は、当然に委任者Aの死亡によっても右契約を終了させない旨の合意を包含する趣旨のものというべく,民法653条の法意がかかる合意の効力を否定するものでないことは疑いを容れないところである。
しかるに原判決がAの死後の事務処理の委任契約の成立を認定しながら, この契約が民法653条の規定によりAの死亡と同時に当然に終了すべきものとしたのは同条の解釈適用を誤り,ひいては理由そごの違法があるに帰し右違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるといわなければならない。この点をいう論旨は理由があり,原判決中、上告人敗訴の部分は破棄を免れない。」として,本契約が.「委任者の死亡によって当然には終了することのない委任契約」であるか「負担付贈与契約」であるかなどについて審理を尽くさせるために原審に差し戻した。
東京高判平成21年12月21日
【事実】
Aは甲寺の僧侶であるYに対して,自らの葬儀一切の供養を依頼し供養料として300万円を渡した(第一準委任契約)。さらにYに対して,Aの写真を本件墓に納め永代供養をしてほしいと依頼した(第二準委任契約)。
Xは、Aの甥であり,遺言により葬儀及び祭祀の主宰者と指定された。YとXは日蓮宗の僧侶であるが、宗派と教義を異にしていたという事情がああった。
XはYに対して.土位的に第一準委任契約は履行不能であるから,事務処理費用として前払いされた300万円を、不当利得として返還請求をした。
墓地.埋葬等に関する法律上の開発許可を取得していないことを理由にした。
さらに,祭祀承継者を指定して.宗派の異なる寺に埋葬を依頼することにより,第一準委任契約は後発的不能により終了しているとした。
また,予備的に,第二準委任契約は解除されたとして.交付金の返還を求めた。この第二準委任契約は第一準委任契約の更改であり,更改により消滅すべき旧債務が存在しないときは更改契約は無効であると主張した。
第一審では2つの委任契約の成立を認め,Yは永代供養を行っている事実があるので,第二準委任契約を解除しても,本件交付金の返還を求めることはできないとした。
これに対して,Xは控訴した。主位的請求として,第一準委任契約の錯誤無効を加え,予備的請求として.第二準委任契約は無効であり,さらに社会通念上.履行不能又は解除されたと主張し,交付金の返還を求めた。
【判旨】
「ところで,遺言は遺言者が死亡するまで,何時にても新たな遺言を作成して.従前の遺言内容を変更することが可能であり,また遺言は遺言者の死亡の時からその効力を生ずる(民法985条1項)のであるから,Xを葬儀及び祭祀の主宰者として指定する遺言が作成されたことのみをもって,本件第二準委任契約の事務が社会通念上履行不能又は後発的不能となったとはいえない。
また,本件第二準委任契約の事務は,葬儀を執り行ったり,遺骨を墓に納めるというものではなく,本件墓にAの写真を納めて.永代供養するというものであるから,日蓮宗門下にある宗教法人である甲寺の僧侶であるYにとっては,容易に行うことができるものである。したがって.Aの遺言により同じ日蓮宗の住職であるXが葬儀及び祭祀の主宰者として指定されたとしても,このことにより,Yが本件第二準委任契約の上記事務を遂行することが,社会通念上履行不能又は後発的不能となったと解することは相当でない。
さらに本件第二準委任契約の事務の内容であるAの写真を本件墓に納め.永代供養をすることについて,四十九日の法要までに行うべきであるとの社会通念は存しないし写真を墓に納めることについて,墓地埋葬法の許可を必要としないことは明らかであるから,Yには何ら債務不履行はなく,この点についてのXの主張はいずれも理由がない。(中略)本来,委任契約は特段の合意がない限り.委任者の死亡により終了する(民法653条1号)のであるが,委任者が,受任者に対し入院中の諸費用の病院への支払.自己の死後の葬式を含む法要の施行とその費用の支払,入院中に世話になった家政婦や友人に対する応分の謝礼金の支払を依頼するなど,委任者の死亡後における事務処理を依頼する旨の委任契約においては委任者の死亡によっても当然に同契約を終了させない旨の合意を包含する趣旨と解される(最高裁平成4年(オ)第67号同年9月22日第三小法廷判決)。
さらに委任者の死亡後における事務処理を依頼する旨の委任契約においては委任者は,自己の死亡後に契約に従って事務が履行されることを想定して契約を締結しているのであるから,その契約内容が不明確又は実現困難であったり,委任者の地位を承継した者にとって履行負担が加重であるなど契約を履行させることが不合理と認められる特段の事情がない限り,委任者の地位の承継者が委任契約を解除して終了させることを許さない合意をも包含する趣旨と解することが相当である。(中略)そして,本件第二準委任契約の事務の内容はAの写真を本件墓に納め.永代供養をするというもので,内容は明確であり,かつ実現可能なものであり,また極めて宗教的で委任者の内心の自由にかかわる事務であり,その対価も供養としてお経を上げるなどの宗教的行為をしてもらうことの謝礼としての意味を有し依頼する者の宗教心に基づくものと解されるところ,本件において供養料はAにおいて既に支払済みであって,Aの地位を承継したXは特に履行すべき義務はないのである。(中略)
以上のような本件にあらわれた諸事情を総合すると,本件第二準委任契約においては委任者であるAが死亡し,祭祀承継者としてXが委任者の地位を承継することとなったとしても,Xに同契約を解除することを許さない合意を包含する趣旨と解するのが相当である。
したがって,Xが委任者の地位の承継人として.民法656条.同法651条1項に基づき,本件第二準委任契約を解除したとして本件交付金の返還を請求するのはその前提を欠くものであって,理由がない。」
後見開始の審判の申立てを認容する審判と同時にされた成年後見選任の審判に対する不服申立ての可否
1 事実の概要
〔@事件:東京高戴平成12年9月8日決定〕
本件の原審判および決定からは、事案の具体的な状況は明らかでないが、平成1l年5月l3日に、事件本人(明治40年4月l3日生)について禁治産または準禁治産の宣告および後見人または保佐人の選任を求める申立てが事件本人の子からされ、平成12年4月1日に改正成年後見制度が施行されたことを受けて、同年5月l7日、後見人または保佐人の選任を求める中立てが取り下げられ(民法および家事審判規則の改正により、成年後見人の選任には申立てを要しないこととされた)、同年6月l5日、事件本人について後見を開始する旨の審判および成年後見人として弁護士である第三者を選任する旨の審判がされた。これに対して、申立人から即時抗告の申立て(原審判主文第2項(成年後見人の選任の部分)の取消しおよび事件の原審ヘの差戻しを求める)がされたものである。
〔A事件:広島高裁岡山支部平成18年2月17日決定〕
本件についても、事案の概要は明らかでないが、抗告の理由からは、後見開始の審判の申立人は事件本人の先妻の子であること、抗告人と事件本人との身分関係は不明であるが、抗告人は事件本人が受給する年金を生活費として生活しており、病気入院などの予定外の支出がある場合には事件本人の蓄えを使うことを期待していることがうかがわれる。
抗告人は、申立人が事件本人の所有する宅地を企業に賃貸して同地で事業を行おうとしていることから、申立人が事件本人の財産を独り占めしようとしていると関係者が疑いを抱いていること、抗告人と申立人とが話し合った結果、申立人は成年後見人となることを辞退することを約束していたにもかかわらず、原審判において成年後見人に選任されているのは約束違反であること、このような申立人の行動からは、事件本人の財産管理を任せると抗告人自身の生活に支障を来すおそれがあることを理由として、成年後見人選任の審判に対して即時抗告の申立て(原審判を取り消して申立人とは別の者を成年後見人に選任することを求める)がされたものである。
2 決定要旨
〔@事件〕
抗告却下(確定)。「本件成年後見人の選任は後見開始に付随してされた審判というベきものであり、成年後見人選任に関する審判に対して不服申立てを認める旨の規定がないこと(家事審判規則27条2項は、後見開始の審判を申し立てた者について、同申立てを却下する審判に対して抗告することができる旨を規定するにとどまる。)からすれば、成年後見人選任の審判に対しては独立して不服申立てをすることができないと解される」。
(なお書きとして)「本件抗告の理由によれば、抗告人は、成年後見人を2名とし、前記弁護士を財産管理担当に、抗告人を介護担当に選任することを求めているが、これについては、成年後見制度の新設に伴う改正後の民法によって、家庭裁判所に対し成年後見人の追加的選任を関する申立てをすることが可能となった(民法843条3項)のであるから、その審判手続において、複数の成年後見人の要否並びに選任する場合における相互の事務ないし権限の各内容、範囲及び相互の関係等を具体的に審理したうえで判断されるベき事項であり(民法859条の2第l項参照)、これらの点について抗告の対象とすることは許されない」。
〔A事件〕
抗告棄却(確定)。「抗告人は、原審判が、本人の成年後見人として、本人の先妻の子である甲野一郎を選任したのは不当であると主張する。
しかし、審判に対しては最高裁判所の定めるところにより即時抗告のみをすることができるところ(家事審判法14条)、成年後見人選任の審判に対し即時抗告をすることができる旨の規定はない。家事審判規則27条1項は、民法7条に掲げる者は後見開始の審判に対し即時抗告をすることができる旨を規定しているが、その趣旨は、民法7条に掲げる者で後見開始の審判に不服のある者に即時抗告の権利を認めたものであり、これと同時にされた成年後見人選任の審判に対し即時抗告を認めたものではない。
したがって、後見開始審判に対する即時抗告において、後見人選任の不当を抗告理由とすることはできず、抗告裁判所も原審判中の成年後見人選任部分の当否を審査することはできない。法は、後見人にその任務に適しない事由があるときには、家庭裁判所は、被後見人の親族等の請求又は職権により、これを解任することができる(民法846条)などと定めるにとどめているものである」。
後見人の横領行為と親族相盗例―最高裁平成20年2月1日
本事案の概要
Xは未成年者A(平成3年7月生)の母B(平成l3年6月死亡)の母であり、平成l3年8月、福島家庭裁判所によってAの後見人に選任され、Aの預貯金の出納、保管等の業務に従事していたところ、Aの伯父であるY、Yの妻であるZと共謀のうえ、平成l3年8月から平成15年11月までの間、前後5回にあたり、Xが預り保管中のA相続に係るB名義定額郵便貯金口座ほか2口の貯金口座から約670万円を引き出し、横領した。
Xらは、Aの直系血族に当たるXは刑法255条・244条l項により刑が免除されるべきであり、同居の親族ではないがAの伯母であるZについては告訴がなされていないので本件公訴は棄却されるべきであることなどを主張した。これに対して第l審判決(福島地裁平成18年10月25日判決)はおおむね以下のように述べたうえでXらの主張を斥けて、業務上横領罪の共同正犯(刑法253条・60条)の成立を認めた(以下、記載中における〇付数字はすべて筆者が付したものである)。すなわち、@親族相盗例が規定された趣旨は、「法は家庭に入らず」との思想の下、親族間の財産犯については国家刑罰権の発動を差し控え、親族間の規律に委ねるほうが望ましいという政策的配慮にあるから、そのような配慮の働かない領域には刑法244条の適用を認めるベきではない。A後見人は、たとえ被後見人の親族であるとしても、遺言あるいは家庭裁判所の選任によってはじめて被後見人の財産を管理・処分する権限を取得し、家庭裁判所の管理の下で職務を行うのであるから、その地位は被後見人自身との間の信任関係に基づくというよりも、家庭裁判所との信任関係に基づくというベきである。したがって、被後見人の財産を横領した場合には、単に被後見人の財産を違法に処分したというだけでなく、家庭裁判所との間の信任関係を破って違法行為に及んだものということができる。B横領罪は、信任関係を伴わない占有離脱物横領罪と異なり、財産権の侵害に加えて信任関係の侵害をも保護法益としているところ、後見人が家庭裁判所との間の信任関係を裏切って横領に及んだ場合には、家庭裁判所という親族でない第三者を巻き込んだことが明らかであるから、「法は家庭に入らず」との考えに基づき親族相盗例を準用する余地はない、という(また、X、Yに対して公訴がなされているから、その公訴の効力は後見人となっていないZにも及ぶとしている)。Xらは控訴した。
控訴審判決(仙台高裁平成19年5月31日判決)もおおむね以下のように述べたうえで控訴を棄却した。すなわち、@1審判決がいうとおり、親族相盗例は「法は家庭に入らず」との思想の下に、親族間の一定の財産犯罪につき刑罰権による干渉を差し控え、親族間の自律に委ねるほうが望ましいという政策的考慮に基づくものであるから、もっぱら親族間の親族関係に基づく関係において行われた場合にのみその適用がある。A未成年者の後見は、親族間の親族関係のみによったのでは未成年者の身上および財産の保護ができない場合に利用されるものであり、本件のように未成年者の親族であっても、後見人の地位につくことで、もっぱら未成年者の保護の一環として民法により財産管理の権限を付与されるとともに家庭裁判所の監督を受けるなどするのであって、親族が親族間で親族関係に基づきその財産管理を委託等されているものではなく、親族だからといって法益侵害の程度が低くなる理由も、犯罪ヘの誘惑が高くなる理由もなく、前記のような政策的配慮をする必要性は実質的にもない。したがって、たとえ後見人や共犯者が親族であっても、親族相盗例を準用する余地はない。B1審判決が横領罪における信任関係違背について言及している部分(上記l審判決B部分)の趣旨は、後見人は親族間の親族関係の自律外のものであることをいう趣旨として理解できる、という(なお、後見人でないZに親族相盗例の準用がないのは上記の理由に基づくものであり、告訴の必要はない、としている)。Xらは上告した。
決定要旨
上告棄却。
「……刑法255条l項が準用する同法244条1項は、親族間の一定の財産犯罪については、国家が刑罰権の行使を差し控え、親族間の自律にゆだねる方が望ましいという政策的な考慮に基づき、その犯人の処罰につき特例を設けたにすぎず、その犯罪の成立を否定したものではない(最高裁昭和25年倦1284号同年12月12日第三小法廷判決)。
一方、家庭裁判所から選任された未成年後見人は、未成年被後見人の財産を管理し、その財産に関する法律行為について未成年被後見人を代表するが(民法859条1項)、その権限の行使に当たっては、未成年被後見人と親族関係にあるか否かを問わず、善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務を負い(同法869条、644条)、家庭裁判所の監督を受ける(司法863条)。また、家庭裁判所は、未成年後見人に不正な行為等後見の任務に適しない事由があるときは、職権でもこれを解任することができる(同法846条)。このように、民法上、未成年後見人は、未成年被後見人と親族関係にあるか否かの区別なく、等しく未成年被後見人のためにその財産を誠実に管理すべき法律上の義務を負っていることは明らかである。
そうすると、未成年後見人の後見の事務は公的性格を有するものであって、家庭裁判所から選任された未成年後見人が、業務上占有する未成年被後見人所有の財物を横領した場合に、上記のような趣旨で定められた刑法244条l項を準用して刑法上の処罰を免れるものと解する余地はないというべきである。・・・・」
補助開始の審判における「本人の同意」―札幌高裁平成13年5月30日決定-棄却(確定)
  補助開始の申立てを却下した審判に対する即時抗告書において、本人が補助開始に同意していない以上、仮に本人の財産管理に関して抗告人が危惧するような事情があったとしても、補助開始の要件を欠くとして抗告を棄却した事例件(札幌高裁平成13年5月30日決定-棄却(確定)である。
1 事実の概要
A(事件本人)は、昭和61年頃まで鉄工場に勤務していたが、昭和61年頃から被害妄想がみられるようになり、母Bと同居しながらC病院で入退院を繰り返していた。Aは、その後C病院の紹介で、平成5年6月頃から精神薄弱者援護施設であるD学園に通所するようになり、E心身障害者総合相談所長は平成6年9月6日、Aが精神薄弱(軽度)であることおよびBの年齢等を総合考慮してAを精神薄弱者援護施設に入所させることが適当であるとの判定をし、平成6年10月5日、AはD学園に入所した。なお、Aの預貯金通帳等は、D学園が保管し、Aの定時の収入としては、障害基礎年金(2カ月で約10万円)およびF学園での作業報酬(lカ月約8000円)がある。
X(申立人、抗告人)は、Aの弟に当たり、Aの財産を守るため、Aにつき補助開始の審判と、これに伴い補助人の同意を要する行為の定めおよび代理権の付与の各審判を求めた。Aは、原審の第l回期日(平成l2年9月21日)の本人尋問において、Aに対する本件補助開始の申立てがなされていることを知っているが、Aとしては、D学園による金銭の管理を第lに希望しており、日常の金銭の需要に痛捧は感じていない旨陳述した。
原審判はXの申立てを却下した。Aは本件申立てに同意していないといわざるを得ず、補助開始につき本人の同意がない本件申立てについては却下するほかないという。Xは即時抗告を行った。Xの即時抗告申立書には、Aの預金の出し入れに不明な点がある旨述ベられており、具体例として、Aは4万5000円のカセットを28万円で購入させられたことが指摘されている。
2 決定要旨
抗告棄却(確定)。
「認定した事実によれば、Aの判断能力が不十分であることが認められるものの、D学園に入所してから現在に至るまでの生活状況は、十分に安定していること及びAは、Xによる本件申立ての事実をも理解した上で、Xによる補助開始に同意しない旨の意思を表明したことが認められる。
ところで、補助の制度は、軽度の精神障害のため判断能力が不十分な者を保護の対象とする制度であって、本人の申立て又は本人以外の者による申立てによって開始されるが、本人以外の者による申立てにおいては、本人の同意があることを要するところ、本件では、Aが補助開始に同意していないことは明らかであるから、補助開始の要件を欠いている。このことは、仮に、Aの財産についてXが危惧するような事情が認められるとしても、結論を異にしない。したがって、Xが主張するAの財産の管理に関する疑念・危惧について判断するまでもなく、本件補助開始の申立ては理由がない」。
任意後見契約の締結、解除の効力と委任者の意思能力―東京地裁平成18年7月6日判決-認容
1 事案の概要
(1)事件の背景−養子縁組、美容室の経営・遺書公正証書、離縁調停をめぐる問題
Y1(大正2年生)は、美容院の経営などを目的とする株式会社甲野美容室の代表取締役として、長年にわたり、その経営にあたってきた。Y1とA(Y1の夫、大正12年生、平成11年死亡)は、昭和l8年、Y2(昭和l3年生)を養子とした。Y2は、美容師の資格を取得して、甲野美容室の経営する美容院に勤務してきた。Y1は、Y2に甲野美容室の経営を委ねたいと考え、平成12年1月20日、Y1の保有する甲野美容室の株式をY2に相続させることなどを内容とする公正証書遺言を作成した。
だが、その後、Y2の女性問題や、Y2が店長を務めていた関連美容案の経営不振などを理由として、Y1は次第にY2に甲野美容室の経営を委ねる意思を失い、平成12年5月頃には、喪失するに至った。そこで、Y1は、出勤がままならない自分に代わって甲野美容室を監視してもらうべく、同年5月26日付けで、甲野美容室の代表取締役として行う一切の行為についてY3に委任する旨の委任状を作成し、これをY3(弁護士)に対し交付した。同年7月26日、甲野美容室の取締役会が開催され、同取締役会において、Y2を排除した形での役職者の選任手続等が決定された。
これと前後する平成l2年7月11日、Y1は、X(Y:の甥。昭和30年生)およびB(昭和31年生)と、それぞれ養子縁組を行った(この縁組について、Y2による、Y1-X間の養子縁組の無効確認請求が申し立てられ、棄却、Y2が控訴)。さらに、同月25日、Y1の保有する甲野美容室の株式をXとBに相続させることなどを内容とする公正証書遺言を作成した。また、同日、Y1はY3との間で、委任契約および任意後見契約を締結し、公正証書を作成した。
平成l2年11月15日、YIは、Xとの間で、Y1の保有する甲野美容室の株式を贈与するとの契約を締結し、その旨の公正証書を作成した(これについては、後日、Xに売却する形で契約を締結し直した)。同年12月1l日、Y1は、Xに対する甲野美容室の株式の全部譲渡を踏まえて、再度、公正証書遺言を作成した。
平成l2年12月24日、甲野美容室の取締役会が開催され、Y2は、前記Y1からXヘの株式売却の事実を知ることになった。平成13年1月l7日に開催された取締役会では、Y2は、Ylを代表取締役から解任した。
Y1は、平成13年l月29日、Y2との間の養子縁組を解消し、Y2を相続人から廃除する旨の公正証書を作成した。そして、Y1は、同年3月3日頃、Y2との離縁調停の申立てをY3に委任し、同年6月l2日、離縁調停が申し立てられた(ただし、同年6月28日に調停取下書が提出され、Yl本人の意思によるものとして、同年11月28日、同調停終了)。
甲野美容室の経営をめぐっては、今後の方針を協議するための場などが関係者によって設けられたものの、Y2の協力を得られず(むしろ、X、Y3とYIとの接触を妨害した)、決裂した。
(2) 本件(任意後見契約をめぐる問題)の概要
Y1,Y3は、前述のとおり、平成l2年7月25日、Y1を本人(任意後見委任者)、Y3を任意後見受任者とする任意後見契約(以下、「第1任意後見契約」という)を締結する旨、および、Y1を委任者、Y3を受任者として、Ylの生活、療養看護および財産の管理に関する事務の委任契約を締結する旨を合意し、公証人により、その旨の公正証書が作成された(以下、「本件公正証書1」という)。同月3l日、Y1とY3との間の任意後見契約について、登記(以下、「本件登記l」という)がなされた。
その後、Y1は、Y3に対し、平成13年6月13日付けの解除通知書をもって、第1任意後見契約および委任契約を解除する旨の意思表示をし、同通知書は、同月14日、Y3に到達した。同月20日、Y1とY3との間の第l任意後見契約について、解除による終了登記がなされた。
Y3は、平成13年6月l9日、Xの代理人として、Y1の任意後見監督人選任を申し立てたが、同申立ては、Y1とY3との間の任意後見契約の終了登記がなされたため、その前提を欠くに至ったという理由により、却下された。
平成l3年6月27日、Y1とY2は、YIを本人(任意後見委任者)、Y2を任意後見受任者とする任意後見契約(以下、「第2任意後見契約」という)を締結する旨合意し、公証人により、その旨の公正証書が作成された(以下、「本件公正証書2」という)。同月29日、Y1とY2との間の任意後見契約について、登記(以下、「本件登記2」という)がなされた。
平成l7年3月15日、Y1につき、成年後見を開始する旨、および、同人の成年後見人にCを選任する旨の審判がなされ、同審判は確定した。
この一連の経緯について、Xは、第1任意後見契約の解除当時、Y1には意思能力がなく、解除が無効であること、したがって、本件登記1の終了登記は無効であると主張し、Y1およびY2に対し、Y3がY1の任意後見人受任者の地位を有することの確認を求めた。
さらに、Xは、Y1とY2との間でなされた第2任意後見契約が無効であること、および、本件登記2に無効原因があることの確認を求めた。
本件における主たる争点は二つある。@Xについて、本件訴えの確認の利益の有無と、AY1各行為時における意思能力の有無である。以下、本稿では、これまであまり詳細に論じられてこなかった争点Aに焦点をあてて、考察を進める。
2 判旨―請求認容
本事例においては、Y1に関する事柄を段階的に、(1)第l任意後見契約締結時、(2)解除時、(3)第2任意後見契約締結時、(4)後見開始の審判時、と分けて考えるとき、Y1は、いつまで意思能力を保持し、どの段階で意思能力を喪失したのか、(1)(2)(3)のそれぞれの時期におけるY1の意思能力の有無が問題となった。
(1) 第1任意後見契約締結(平成12年7月25日)時におけるY1の意思能力および契約意思の存否
(A) Y1の意思能力−認定された事実
Y1は、平成6年頃から歩行障害を有していたが、長谷川式簡易知能評価スケール(平成10年1月実施)、脳MRI検査(平成11年8月実施)、診断書(平成l2年8月7日付け)において、認知機能に障害はみられなかった。特に、診断書においては、遺言書作成能力があると認められていた。
Y1は、平成l2年10月25日、頭部CT像によって軽症のアルツハイマー病類縁の病態と診断されたが、症状は軽度であり、その後、投薬治療による改善効果も得られた。同年11月15日、贈与契約作成能力があると認める旨の診断書が、同年l2月11日、遺言能力ありとする診断書が、それぞれ作成された。
平成l3年3月29日、Y1には脳MRI画像によって脳に顕著な委縮(側頭葉海馬付近。アルツハイマー病の特徴の一つ)が認められ、さらに、前頭葉の明確な委縮(前頭側頭型認知症パーキンソニズムの要素の存在)が確認された。担当医師は、臨床症状をあわせて考慮し、Ylを脳血管性バーキンソニズムと診断し、同年4月6日、「認知機能障害があり、意思決定に支障を認む。遺言能力及び贈与、委任等の契約能力についでも支障があると判断する」旨の診断書を作成した。
Ylは、同年7月3日および24日、同医師の診断を受け、認知機能の検査を行ったところ、両日とも、長谷川式簡易知能評価スケールの結果は14点であり、症状の改善はみられなかった。
以上の臨床経過のほか、Y1の提起した株主権確認請求訴訟における鑑定結果や鑑定人の証言をあわせ考慮して、「Y1は、第l任意後見契約を締結した平成l2年7月25日当時は意思能力を有していたが、平成13年4月以降、これを喪失するに至ったものと認めるのが相当である」とされた。
(B) Y1の契約意思−認定された事実
平成12年5月頃から、Y1は、女性問題や経営問題を引き起こしたY2に代わって、Y3に甲野美容室の経営等の相談や協力を依頼し、同月26日付けで甲野美容室の代表取締役としての行為を委任する旨の委任状を作成するなど、Y3に対する信頼を深めていった。
同年7月には、Y3と相談のうえで、XおよびBと養子縁組をした。また、同月25日には、甲野美容室の経営を両名に委ねる趣旨で、Y1の保有する甲野美容室の株式をXおよびBに相続させることを内容とする公正証書遺言を作成した。その際、加齢や病気などにより自分の意思能力が衰えた場合に備えて、Y3との間で、任意後見契約および委任契約を締結して、本件公正証書1を作成した。
これらの経緯から、「Y1とY3との間の任意後見契約は、Y1の意思に基づいて締結されたものであることが認められる」とされた。
(C) 結 論
「以上のとおりであるから、本件公正証書1に基づく任意後見契約締結時に、Y1に意思能力はなかったとするY1の主張及びY1には前記任意後見契約締結の意思はなかったとするY2の主張は、いずれも理由がない」。
(2) 本件解除時(平成13年6月13日)のYIの意思能力の存否
前記認定のとおり、「平成l3年4月以降、Y1は意思能力がなかったと認められる」ことから、第1任意後見契約の解除時である同年6月13日には、「YIには意思能力はなかったものと認められる。したがって、本件解除は、効力を生じない」とされた。
(3) 第2任意後見契約締結(平成13年6月27日)時のY1の意思能力の存否 前記認定のとおり、「平成13年4月以降、YIは意思能力がなかったと認められる」ことから、本件公正証書2に基づく任意後見契約が締結された同年6月27日には、「Y1に意思能力はなかったものと認められる。したがって、前記任意後見契約は、無効である」とされた。
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