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裁判事例

最高裁判所第一小法廷平成24年01月26日―遺産分割審判に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件
原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) 相手方Y1はAの妻であり,相手方Y2及び同Y3はAと同Y1との間の子であり,抗告人ら3名はAと先妻との間の子である。
(2) Aは,平成17年12月23日に死亡した。Aの法定相続人は,相手方ら及び抗告人らである。
(3) 本件において遺産分割の対象となるAの遺産(以下「本件遺産」という。)は,現金3020万円並びに原々審判別紙遺産目録記載の株式及び宝飾品である。
(4) Aは,平成16年10月から平成17年12月にかけて,相手方Y2に対し,生計の資本として,株式,現金,預貯金等の贈与(以下「本件贈与」という。)をするとともに,Aの相続開始時において本件贈与に係る財産の価額をその相続財産に算入することを要しない旨の意思表示(以下「本件持戻し免除の意思表示」という。)をした。
(5) Aは,平成17年5月26日,相手方Y1の相続分を2分の1,その余の相手方らの相続分を各4分の1,抗告人らの相続分を零と指定する旨の公正証書遺言(以下「本件遺言」という。)をした。
(6) 抗告人らは,平成18年7月から9月までの間に,相手方らに対し,遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示(以下「本件遺留分減殺請求」という。)をした。
判示事項
1 相続分の指定が遺留分減殺請求により減殺された場合の効果
2 特別受益に当たる贈与についてされたいわゆる持戻し免除の意思表示が遺留分減殺請求により減殺された場合における具体的相続分の算定方法
裁判要旨
1 遺留分減殺請求により相続分の指定が減殺された場合には,遺留分割合を超える相続分を指定された相続人の指定相続分が,その遺留分割合を超える部分の割合に応じて修正される。
2 特別受益に当たる贈与についてされた当該贈与に係る財産の価額を相続財産に算入することを要しない旨の被相続人の意思表示が遺留分減殺請求により減殺された場合,当該贈与に係る財産の価額は,上記意思表示が遺留分を侵害する限度で,遺留分権利者である相続人の相続分に加算され,当該贈与を受けた相続人の相続分から控除される。
最高裁判所第三小法廷平成23年3月9日―遺産分割審判に対する抗告審の変更決定に対する特別抗告事件
1 本件は,Aが平成14年▲月▲日に死亡し,その遺産分割が未了の間に,Aとその夫であるB(昭和▲年▲月▲日死亡)との間の子の一人であるCが平成19年▲月▲日に死亡したため,Aの遺産である原々審判別紙遺産目録1記載の遺産及びCの遺産である同遺産目録2記載の遺産につき,AとBとの間の子である相手方が,Aとその夫ではない者との間の子である抗告人に対し,遺産分割の審判を申し立てた事件であり,抗告理由は,Aの遺産相続及びCの遺産相続につき適用される民法900条4号ただし書の規定は憲法14条1項等に違反するというものである。
2 本件は,当小法廷から大法廷に回付され,大法廷において弁論期日を指定するために,相手方と連絡を取ったところ,相手方は,本件抗告がされた後に,抗告人との間でAの遺産相続及びCの遺産相続に関する紛争を全面的に解決する旨の和解が成立しており,本件抗告事件は終了しているはずであると申し立てた。その趣旨は,本件抗告の適法性を争うものと理解することができる。
3 職権により調査したところによれば,本件抗告以降の事実経過は,以下のとおりである。
(1) 抗告人は,抗告代理人弁護士に委任して本件抗告を申し立てたものの,争いを続けるよりも本件を早期に解決した方がよいと考え,抗告代理人弁護士に相談することなく,相手方との間で直接和解交渉を行い,平成22年6月頃,相手方が支払う代償金の額を原決定が定めた867万0499円から増額し,1050万円とするなどの合意をし(以下「本件和解」という。),相手方は,同月7日頃,抗告人に対し,本件和解の履行として,原々審判別紙遺産目録2,2A記載の定期預金につき,所要の手続を執った上,その預金通帳(預金額1000万円)を交付するとともに,現金50万円を交付した。本件和解に際し,抗告人は,これが成立しても本件抗告を維持するなどの発言をすることはなく,相手方は,本件和解によって本件抗告事件は終了するものと考えていた。
(2) 抗告人は,平成22年7月,抗告代理人弁護士から本件が大法廷に回付された旨の連絡を受けた際,同弁護士に対し,初めて,相手方との間で和解が成立し,和解の履行として代償金も既に受領した旨を告げたが,本件抗告が取り下げられることはなかった。本件和解が成立したにもかかわらず本件抗告を維持することにつき,合理的な理由があることはうかがわれない。
4 以上によれば,本件和解は,Aの遺産相続及びCの遺産相続に関する紛争につき,原決定を前提とした上,相手方が支払う代償金を増額することなどを合意してこれを全面的に解決する趣旨に出たものであることは明らかであって,抗告人において本件抗告事件を終了させることをその合意内容に含むものであったというべきである。仮に,抗告人が,本件抗告の結果,自らの主張が容れられる可能性の程度につき見通しを誤っていたとしても,本件和解が錯誤により無効になる余地はない。
そして,抗告人と相手方との間において,抗告後に,抗告事件を終了させることを合意内容に含む裁判外の和解が成立した場合には,当該抗告は,抗告の利益を欠くに至るものというべきであるから,本件抗告は,本件和解が成立したことによって,その利益を欠き,不適法として却下を免れない。
最高裁判所第三小法廷平成23年2月22日―土地建物共有持分権確認請求事件(遺言書の無効)
1 本件は,被相続人Aの子である被上告人が,遺産の全部をAのもう一人の子であるBに相続させる旨のAの遺言は,BがAより先に死亡したことにより効力を生ぜず,被上告人がAの遺産につき法定相続分に相当する持分を取得したと主張して,Bの子である上告人らに対し,Aが持分を有していた不動産につき被上告人が上記法定相続分に相当する持分等を有することの確認を求める事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) B及び被上告人は,いずれもAの子であり,上告人らは,いずれもBの子である。
(2) Aは,平成5年2月17日,Aの所有に係る財産全部をBに相続させる旨を記載した条項及び遺言執行者の指定に係る条項の2か条から成る公正証書遺言をした(以下,この遺言を「本件遺言」といい,本件遺言に係る公正証書を「本件遺言書」という。)。本件遺言は,Aの遺産全部をBに単独で相続させる旨の遺産分割の方法を指定するもので,当該遺産がAの死亡の時に直ちに相続によりBに承継される効力を有するものである。
(3) Bは,平成18年6月21日に死亡し,その後,Aが同年9月23日に死亡した。
(4) Aは,その死亡時において,第1審判決別紙目録1及び2記載の各不動産につき持分を有していた。
3 原審は,本件遺言は,BがAより先に死亡したことによって効力を生じないこととなったというべきであると判断して,被上告人の請求を認容した。
4 所論は,本件遺言においてAの遺産を相続させるとされたBがAより先に死亡した場合であっても,Bの代襲者である上告人らが本件遺言に基づきAの遺産を代襲相続することとなり,本件遺言は効力を失うものではない旨主張するものである。
5 被相続人の遺産の承継に関する遺言をする者は,一般に,各推定相続人との関係においては,その者と各推定相続人との身分関係及び生活関係,各推定相続人の現在及び将来の生活状況及び資産その他の経済力,特定の不動産その他の遺産についての特定の推定相続人の関わりあいの有無,程度等諸般の事情を考慮して遺言をするものである。このことは,遺産を特定の推定相続人に単独で相続させる旨の遺産分割の方法を指定し,当該遺産が遺言者の死亡の時に直ちに相続により当該推定相続人に承継される効力を有する「相続させる」旨の遺言がされる場合であっても異なるものではなく,このような「相続させる」旨の遺言をした遺言者は,通常,遺言時における特定の推定相続人に当該遺産を取得させる意思を有するにとどまるものと解される。
したがって,上記のような「相続させる」旨の遺言は,当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には,当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係,遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから,遺言者が,上記の場合には,当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り,その効力を生ずることはないと解するのが相当である。
前記事実関係によれば,BはAの死亡以前に死亡したものであり,本件遺言書には,Aの遺産全部をBに相続させる旨を記載した条項及び遺言執行者の指定に係る条項のわずか2か条しかなく,BがAの死亡以前に死亡した場合にBが承継すべきであった遺産をB以外の者に承継させる意思を推知させる条項はない上,本件遺言書作成当時,Aが上記の場合に遺産を承継する者についての考慮をしていなかったことは所論も前提としているところであるから,上記特段の事情があるとはいえず,本件遺言は,その効力を生ずることはないというべきである。
6 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。
最高裁判所第一小法廷平成22年12月16日―持分所有権移転登記手続,遺産確認,共有物分割請求本訴,持分所有権移転登記手続請求反訴事件
1 本件の本訴請求は,上告人が,被上告人らに対し,上告人及び被上告人らの共有名義で登記されている第1審判決別紙物件目録記載1の土地(以下「本件土地」という。)について共有物分割を求めるなどするものであり,反訴請求は,被上告人X1が,上告人に対し,本件土地につき,真正な登記名義の回復を原因とする上告人持分全部移転登記手続を求めるものである。
2 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1)ア 本件土地は,上告人がもと所有していた。
イ 上告人は,昭和63年9月ころ,Aに対し,本件土地を贈与した(以下,この贈与を「本件贈与」という。)。
ウ Aは,平成17年1月10日,死亡し,その共同相続人の一人である被上告人X1が,遺産分割協議により,本件土地を単独で取得した(以下,この相続を「本件相続」という。)。
(2) 本件土地については,持分10分の3の上告人名義の持分登記がある。
(3) 被上告人X1は,反訴の請求原因として,本件贈与と本件相続の事実を主張する。
3 原審は,上記事実関係等の下において,本件土地は被上告人X1の単独所有であるなどとして,本訴請求を棄却すべきものと判断する一方,被上告人X1の反訴請求を認容すべきものと判断した。
4 しかしながら,原審の上記判断中,反訴請求に関する部分は,是認することができない。その理由は,次のとおりである。
不動産の所有権が,元の所有者から中間者に,次いで中間者から現在の所有者に,順次移転したにもかかわらず,登記名義がなお元の所有者の下に残っている場合において,現在の所有者が元の所有者に対し,元の所有者から現在の所有者に対する真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を請求することは,物権変動の過程を忠実に登記記録に反映させようとする不動産登記法の原則に照らし,許されないものというべきである。
これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,本件土地の所有権は,本件贈与により上告人からAに,本件相続によりAから被上告人X1に,順次移転したにもかかわらず,上告人名義の持分登記がなお残っているというのであるから,被上告人X1としては,上告人名義で登記されている持分につき,上告人からAに対する本件贈与を原因とする移転登記手続を請求し,その認容判決を得た上で,Aから被上告人X1に対する本件相続を原因とする持分移転登記手続をすべきであって,このような場合に,真正な登記名義の回復を原因として,直接上告人から被上告人X1に対する持分移転登記手続を請求することは許されないというべきである。被上告人X1の反訴請求を認容すべきものとした原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法があり,この違法は原判決に影響を及ぼすことが明らかである。
論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決中,反訴請求に関する部分は破棄を免れない。
そして,本件訴訟における被上告人X1の主張立証にかんがみると,被上告人X1の反訴請求は,これを合理的に解釈すれば,その反訴請求の趣旨の記載にかかわらず,予備的に,本件土地について本件贈与を原因とする上告人からAに対する上告人持分全部移転登記手続を求める趣旨を含むものであると理解する余地があり,そのような趣旨の請求であれば,前記事実関係等の下では,特段の事情のない限り,これを認容すべきものである。そうであれば,被上告人X1の反訴請求については,事実審において,適切に釈明権を行使するなどして,これが上記の趣旨の請求を含むものであるのか否かにつき明らかにした上,これが上記の趣旨の請求を含むものであるときは,その当否について審理判断すべきものと解される。したがって,上記の観点から,反訴請求につき,更に審理を尽くさせるため,原判決中,反訴請求に関する部分を原審に差し戻すこととする。
なお,上告人は,本訴請求に関しても上告受理の申立てをしたが,その理由を記載した書面を提出しないから,同部分に関する上告は却下することとする。
最高裁判所第二小法廷平成22年10月8日―遺産確認請求事件
主 文
1 原判決中,第1審判決別紙財産目録記載2のI及びJの定額郵便貯金に係る貯金債権がAの遺産に属することの確認を求める部分につき,本件上告を棄却する。
2 その余の本件上告を却下する。
理 由
上告人Y1の代理人神川洋一の上告受理申立て理由について
1 本件は,被上告人らが,上告人らに対し,第1審判決別紙財産目録記載2のI及びJの定額郵便貯金に係る貯金債権(以下「本件債権」という。)等がAの遺産に属することの確認を求める訴えを提起した事案である。
2 記録によって認められる事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) 上記定額郵便貯金の名義人であるAは,平成15年3月31日に死亡した。
(2) 被上告人ら及び上告人らは,Aの子である。
(3) 上告人らは,本件債権がAの遺産であることを争っている。
3 所論は,定額郵便貯金債権は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されて各共同相続人の分割単独債権となり,遺産分割の対象とならない以上,定額郵便貯金債権が現に被相続人の遺産に属することの確認を求める訴えについては,その確認の利益は認められないはずであるのに,これを認めた原審の判断には,法令解釈の誤りがあるというのである。
(1) 郵便貯金法は,定額郵便貯金につき,一定の据置期間を定め,分割払戻しをしないとの条件で一定の金額を一時に預入するものと定め(7条1項3号),預入金額も一定の金額に限定している(同条2項,郵便貯金規則83条の11)。
同法が定額郵便貯金を上記のような制限の下に預け入れられる貯金として定める趣旨は,多数の預金者を対象とした大量の事務処理を迅速かつ画一的に処理する必要上,預入金額を一定額に限定し,貯金の管理を容易にして,定額郵便貯金に係る事務の定型化,簡素化を図ることにある。ところが,定額郵便貯金債権が相続により分割されると解すると,それに応じた利子を含めた債権額の計算が必要になる事態を生じかねず,定額郵便貯金に係る事務の定型化,簡素化を図るという趣旨に反する。他方,同債権が相続により分割されると解したとしても,同債権には上記条件が付されている以上,共同相続人は共同して全額の払戻しを求めざるを得ず,単独でこれを行使する余地はないのであるから,そのように解する意義は乏しい。これらの点にかんがみれば,同法は同債権の分割を許容するものではなく,同債権は,その預金者が死亡したからといって,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。そうであれば,同債権の最終的な帰属は,遺産分割の手続において決せられるべきことになるのであるから,遺産分割の前提問題として,民事訴訟の手続において,同債権が遺産に属するか否かを決する必要性も認められるというべきである。
そうすると,共同相続人間において,定額郵便貯金債権が現に被相続人の遺産に属することの確認を求める訴えについては,その帰属に争いがある限り,確認の利益があるというべきである。
(2) 前記事実関係によれば,本件訴えのうち,本件債権がAの遺産に属することの確認を求める部分については確認の利益があるというべきである。同部分につき確認の利益を認めた原審の判断は,結論において是認することができる。所論引用の判例(最高裁昭和27年(オ)第1119号同29年4月8日第一小法廷判決・民集8巻4号819頁)は,本件に適切でない。論旨は採用することができない。
なお,上告人Y1は,第1審判決別紙財産目録記載1の各不動産がAの遺産に属することの確認を求める部分についても上告受理の申立てをしたが,その理由を記載した書面を提出しないから,同部分に関する上告は却下することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官古田佑紀,同千葉勝美の各補足意見がある。
裁判官古田佑紀の補足意見は,次のとおりである。
私は,定額郵便貯金債権について,以下のように考えるので,補足的に意見を述べておきたい。
定額郵便貯金は,分割払戻しをしないことが法律上条件とされている貯金であり,分割払戻しをしないことは,定額郵便貯金契約の内容,あるいはその前提をなすものであるから,定額郵便貯金債権は,貯金契約において,分割行使をすることができず,各預入金額ごとに全体として1個のものとして扱われることとされている債権であるというべきである。相続は,その対象となる権利につき,その性質,内容をそのまま承継するものであるのが原則であり,上記貯金債権について,相続が生じたことによって,全体が1個のものとして扱われるという性質が失われると解すべき理由はないと考える。
裁判官千葉勝美の補足意見は,次のとおりである。
私は,法廷意見が,郵便貯金法は定額郵便貯金債権の分割を許容するものではなく,同債権は,その預金者が死亡したからといって,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないとしている点について,次のとおり意見を補足しておきたい。
一般に,債権が複数の者に帰属する場合の法律関係は,準共有(民法264条)ということになるが,債権の共有的帰属については,民法の債権総則中の「第三節多数当事者の債権及び債務第一款総則」では,分割債権関係を原則として規定している(民法427条)。したがって,仮に,定額郵便貯金債権が原則どおり分割債権であるとすると,相続により各相続人に分割承継されることになり,もはや遺産分割の対象にはならないことになる。
ところで,分割債権の属性としては,各債権者は,自己に分割された部分について,独立して履行請求ができるという点が基本的なものであり,そうすると,分割された債権ごとに,相殺,免除,更改等の対象となり,消滅時効の完成の有無も個々的に判断されるということになろう。そこで,定額郵便貯金債権にこのような属性を認めることができるかが問題となる。
この点について,法廷意見は,定額郵便貯金には,法令上,分割払戻しをしないという条件が付されているので,共同相続人が共同して全額の払戻しを求めるしかなく,各相続人が分割承継した部分があると解したとしてもそれを単独で行使する余地はないとしている。また,この趣旨からすると,各相続人は,分割承継した部分を自働債権として相殺をすることもできず,さらに,その消滅時効についても,据置期間経過後,預入の日から起算して10年が経過するまでは,各預金者がその部分についての権利行使が可能であったか否かという観点から考えることはできないことになろう。このように,定額郵便貯金債権は,法令上,預入の日から起算して10年が経過するまでは分割払戻しができないという条件が付された結果,分割債権としての基本的な属性を欠くに至ったというべきである。
以上によれば,定額郵便貯金債権は,分割債権として扱うことはできず,民法427条を適用する余地はない。そうすると,預金者が死亡した場合,共同相続人は定額郵便貯金債権を準共有する(それぞれ相続分に応じた持分を有する)ということになり,同債権は,共同相続人の全員の合意がなくとも,未だ分割されていないものとして遺産分割の対象となると考えるべきである。
なお,定額郵便貯金債権が遺産の重要な部分となっている事案は少なくないものと思われるが,遺産分割をするに当たって,これを対象とすることにより遺産分割の円滑な進行が図られることにもなろう。
名古屋高裁平成22年7月29日―遺産確認請求控訴事件
遺産確認請求訴訟の係属中にその確認の対象となった遺産の一部について被告が原告の請求を一部認諾したが、その効力を否定した上、当該遺産の全部を確認の対象として、その一部が遺産に属することが確認された事例
一 本件は、亡Zの共同相続人であるX1ないしX3及ぴY(本件訴えは、Xらのほか、亡Zの妻が共同原告となって、Yを被告として提起したが、同妻が訴訟係属中に死亡しているので、亡Zの共同相続人はXら及ぴYとなっている。)の間で、Zが生前に関係していたAないしEの各株式会社五社(本件各会社)の株式(本件各株式)が亡Zの遺産であるか否かをめぐって争われている事案である。なお、本件各株式は、A社株九万九九〇〇株、B社株一万六〇〇〇株、C社株二万四○〇○株、D社株二万株、E社株六万株であるが、当該各株式の名義人は、目録上、特定されていない。
二 本牛各株式の帰属につき、Xらは、本件各株式の全部が亡Zの遺産に属すると主張していたが、その後、本件各株式の一部はZないしその妻からXら及ぴその家族に贈与されたと主張し、これに対し、Yは、本件各株式のうち、Zに帰属していたのはD社株五〇〇○株で、その余はZに帰属していたものではないと主張し、その後、本件各株式の一部はZからY及ぴその家族に贈与されたと主張していた。Xら及ぴYの主張それ自体も錯綜しているが、さらに、本件が事案を錯綜させているのは、本件訴訟の弁論準備手続期日において、本件各株式の一部について、YがXらの請求を一部認諾しているためである。なお、Yが認諾したのは、本件各株式のうち、A社株一万人九九五株、B社株一八五O株、C社株七O四O株、D社株五〇○〇株、E社株三万六五〇〇株であるが、当該各株式の名義人は、目録上、D社株についてはZ、その余の株式についてはXら又はその家族である。
三 本判決は、本件各株式のうち、D社株五〇○○株につき、Xらの請求を認容した第一審判決を相当として、第一審判決に対するYの控訴を棄却しているが、その理由(第一審判決も同旨)は、亡Zの相続開始時点において、本件各株式のうち、Z名義であったのは、D社株五〇○○株であって、その余はXら又はその家族、あるいは、Y又はその家族の名義となっていたところ、Z名義以外の株式は、名義株ではなく、実質株であって、当該名義人に属するものであるというのである。
四 以上の認定判断は、遺産確認請求訴訟において、確認の対象となった遺産が被相続人に帰属するものであったか否かに係る事実問題にすぎないが、本件は、弁論準備手続期日においてYがした請求の-部認諾の効力が問題となっている。
本判決(第一審判決)の認定するところによれば、YがXらの請求を一部認諾したのは、本件各株式の名義が、亡Zの相続開始当時、Zだけでなく、Xら又はその家族、あるいは、Y又はその家族であろたところ、Yから提出された証拠(乙九)によってそのような事情を知ったXらにおいて、Xら又はその家族の名義となっている株式は、Zに属する名義株ではなく、当該名義人に属する実質株であるとして、当該株式に係る訴えを取り下げようとしたため、その取下げを不同意とし、当該株式がZに属する名義株であることを確定させるため、Xらの請求中、Z名義であった株式を含め、当該各株式が亡Zの遺産であることの確認を求める部分を一部認諾したようである。
本判決が、「Xらは、・・遅れて乙九が提出されたことで、不十分ながらも、Xらがようやく遺産の範囲の絞り込みができるようになり、Xら名義の株式等を訴訟の対象から除外すぺく、訴えの一部取下げをしようとしていた矢先、これを察知して、これまでの主張を翻す内容の本件認諾書を提出し、Xらの訴えの一部取下げを不同意にして、本件認諾をしたことが認められ、しかも、Yが名義株でありZの遺産であるとして認諾した部分は、名義株ではなくXらの実質株であると認められるものであったのであり、このような経緯での本件認諾は、遺産確定訴訟における訴訟当事者として、訴訟上の信義則(民事訴訟法二条)に著しく反するものであり、無効である」と判示する所以である。
なお、認諾の効力が争われた事案がこれまでにないわけではなく、例えば、貸金請求訴訟の原告が被告の支配人甲の発案で甲を被告の送達先とする訴状を提出した上、甲を口頭弁論期日に出頭させて請求を認諾させ、被告代表者が知らないうちに被告に対する債務名義を取得した場合において、後に右債務名義に基づく強制執行とその請求異議訴訟の被告勝訴を経て、原告の期日指定申立てにより再開された右貸金請求訴訟につき、原告の行為は訴訟上の信義則に反し、訴権を濫用するものであるとして訴えを却下した事例として紹介されている東京地判平13・3・27、甲所有の不動産を賃借していた乙が、甲死亡後その特別縁故者として右不動産の所有権を取得したとする丙を被告として、丙に賃貸人の権利がないことのみの確認を求めるペきところ、乙を賃借人、丙を賃貸人とする賃貸借契約自体の不存在確認訴訟を提起したのに対し、丙が乙の請求内容に右のような不手際のあることを知りながらこれに乗じて直ちに請求を認諾し訴訟を終了させた上、別途乙を被告として右不動産につき所有権に基づく明渡等請求訴訟を提起し、その訴訟中で前訴における認諾の効力を主張して乙の賃借権の抗弁を排除しようとすることは信義則に反し許されないとされた事例として紹介されている大阪高判平6・12・16があるが、いずれも認諾の効力が、その後、別の訴訟において争われている事案であって、本件のように同一の訴訟において、訴訟係属中にした請求の一部認諾の効力が問題となっている事案ではない。同一の訴訟において認諾の効力が問題となるのは、認諾によって訴訟が終了した後、その認諾の効力を争い、訴訟の再開のため、期日指定の申立てをする場合であるが、認諾の効力が否定される場合には、期日が指定され、訴訟が再開され、反対に、認諾の効力が肯定される場合には、いわゆる訴訟の終了宣言判決がされることになる。
錯誤に基づく請求の認藷が無効となるのは、右錯誤が刑事上罰すべき他人の行為に起因する場合に限られるとの判断が示された事例として紹介されている東京地判平5・7・26がその一例である。
五 本判決は、遺産確認請求訴訟において、その確認の対象となった株式の一部が遺産に属するとの判断を示したものであって、その限りにおいては、その認定判断の是非が問題となる一事例にとどまるが、本件訴訟の係属中に確認の対象となった株式の一部について被告が原告の請求を一部認諾したが、原告らがこれを争ったため、本判決に際して、その効力が問題となっただけでなく、その効力が否定されて本判決の判断が示されている事案である。請求認諾の効力が本件事案のような形で争われることはこれまでにないようであって、かつ、認諾の効力が信義則違反を理由に否定されている。
最高裁判所第三小法廷平成22年3月16日―遺言無効確認等請求事件
第1 上告人Y2の代理人天野茂樹及び上告人らの代理人の各上告理由について
1 民事事件について最高裁判所に上告をすることが許されるのは,民訴法312条1項又は2項所定の場合に限られるところ,上告人Y2の代理人の上告理由は,理由の不備をいうが,その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって,上記各項に規定する事由に該当しない。
2 上告人らの代理人北村明美の上告理由は,上告人Y2の関係では,これを記載した書面が民訴規則194条所定の上告理由書提出期間後に提出されたことが明らかであり,上告人Y1との関係では,民訴法312条1項又は2項に規定する事由を主張するものではないことが明らかである。
第2 職権による検討
上告人らの代理人の所論にかんがみ,職権をもって検討する。
1 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) Aは,平成17年12月17日に死亡した。
(2) 上告人Y2,同Y1及び被上告人は,いずれもAの子である。
(3) 上告人Y2は,第1審判決別紙のとおりのA名義の遺言書を偽造した。
2 本件は,被上告人が,上告人らに対し,上告人Y2が民法891条5号所定の相続欠格者に当たるとして,同Y2がAの相続財産につき相続人の地位を有しないことの確認等を求める事案である(以下,上記確認請求を「本件請求」という。)。
3 第1審は,本件請求を棄却したため,被上告人がこれを不服として控訴したところ,原審は,本件請求を棄却した第1審判決を上告人Y2に対する関係でのみ取り消した上,同Y2に対する本件請求を認容する一方,同Y1に対する被上告人の控訴を,控訴の利益を欠くものとして却下した。
4 しかしながら,原審の上記判断は,以下の(1)及び(2)の各点において,是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 被上告人の上告人Y1に対する控訴の適否について
本件請求に係る訴えは,共同相続人全員が当事者として関与し,その間で合一にのみ確定することを要する固有必要的共同訴訟と解するのが相当である(最高裁平成15年(受)第1153号同16年7月6日第三小法廷判決・民集58巻5号1319頁)。したがって,本件請求を棄却した第1審判決主文第2項は,被上告人の上告人Y1に対する請求をも棄却するものであるというべきであって,上記3の訴訟経過に照らせば,被上告人の上告人Y1に対する控訴につき,控訴の利益が認められることは明らかである。
(2) 本件請求に関する判断について
ア 本件請求に係る訴えは,固有必要的共同訴訟と解するのが相当であることは前示のとおりであるところ,原審は,本件請求を棄却した第1審判決を上告人Y2に対する関係でのみ取り消した上,同Y2に対する本件請求を認容する一方,同Y1に対する控訴を却下した結果,同Y1に対する関係では,本件請求を棄却した第1審判決を維持したものといわざるを得ない。このような原審の判断は,固有必要的共同訴訟における合一確定の要請に反するものである。
イ そして,原告甲の被告乙及び丙に対する訴えが固有必要的共同訴訟であるにもかかわらず,甲の乙に対する請求を認容し,甲の丙に対する請求を棄却するという趣旨の判決がされた場合には,上訴審は,甲が上訴又は附帯上訴をしていないときであっても,合一確定に必要な限度で,上記判決のうち丙に関する部分を,丙に不利益に変更することができると解するのが相当である(最高裁昭和44年(オ)第316号同48年7月20日第二小法廷判決・民集27巻7号863頁参照)。
そうすると,当裁判所は,原判決のうち上告人Y2に関する部分のみならず,同Y1に関する部分も破棄することができるというべきである。
5 以上によれば,上記各点に係る原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決は,全部破棄を免れない。そして,上記事実関係によれば,上告人Y2は民法891条5号所定の相続欠格者に当たるというべきところ,記録によれば,同Y2及び同Y1は,第1審及び原審を通じて共通の訴訟代理人を選任し,本件請求の当否につき,全く同一の主張立証活動をしてきたことが明らかであって,本件請求については,同Y2のみならず,同Y1の関係においても,既に十分な審理が尽くされているということができるから,第1審判決のうち同Y2及び同Y1に対する関係で本件請求を棄却した部分を取り消した上,これらの請求を認容すべきである。
なお,上告審は,上記のような理由により原判決を破棄する旨の判決をする場合には,民訴法319条並びに同法313条及び297条により上告審の訴訟手続に準用される同法140条の規定の趣旨に照らし,必ずしも口頭弁論を経ることを要しないものというべきである。
最二小法廷平成21年12月18日―債務不存在確認等,遺言無効確認等請求事件
遺留分減殺請求を受けた受遺者が,民法1041条所定の価額を弁償する旨の意思表示をしたが,目的物の現物返還請求も価額弁償請求も受けていない場合において,受遺者の提起した弁償すべき額の確定を求める訴えに確認の利益があるか
遺留分権利者から遺留分減殺請求を受けた受遺者が,民法1041条所定の価額を弁償する旨の意思表示をしたが,遺留分権利者から目的物の現物返還請求も価額弁償請求もされていない場合において,弁償すべき額につき当事者間に争いがあり,受遺者が判決によってこれが確定されたときは速やかに支払う意思がある旨を表明して,弁償すべき額の確定を求める訴えを提起したときは,受遺者においておよそ価額を弁償する能力を有しないなどの特段の事情がない限り,上記訴えには確認の利益がある。
東京高裁平21.12.18―相続させる旨の遺言における遺言利益の放棄の可否
相続させる旨の遺言により相続財産を相続した相続人が原則として,遺産分割事件の手続中で遺言の利益を放棄する旨述べるだけではこれを放棄することはできない。
1 被相続人Aには,相続人として,B,C及びDがいる。Aの遺産には,不動産・現金及び貯金債権があるが,Aはそのうち不動産全部をCに相続させる旨の公正証書遺言をした。しかし,Cは不動産の取得を望まず,法定相続分の割合による不動産以外の遺産の取得を希望したところ,B及びDも同じ希望を持っていたことから紛争となった。
2 BはC及びDを相手方として,遺産分割及び寄与分の審判の申立てをしたところ,原審は、Cに全不動産,貯金債権及び現金を,B及びDには法定相続分の割合で貯金債権をそれぞれ取得させ、Bの寄与分の申立てを却下する旨の審判をした。そこで、Bは遺産分割及び寄与分の各審判を、Cは遺産分割審判をそれぞれ不服として,即時抗告を申し立てた。
3 本決定は原審を一部変更して,以下のとおりの決定をした。
(1) Cは遺産分割事件において提出された準備書面において,遺言の利益を放棄する旨述ベているが、Cは遺言により被相続人の相続開始時に不動産の所有権を何らの行為を要しないで相続により確定的に取得したものであり,遺言が無効である旨を主張するとまでは解されないので,Cの遺言の利益を放棄する旨の陳述だけによって,不動産が被相続人Aの遺産として遺産分割の対象となるとは解されない。
(2) Bは不動産について,被相続人AがCに相続させる旨の遺言を有効になしているから遺言どおりに権利を承継すべき旨主張しており,遺産分割の全当事者間で不動産を遺産分割の対象財産であるとする合意が成立している場合とも認められないから,不動産を遺産分割の対象財産であるとすることはできない。
(3) したがって,遺産分割の対象となる財産は現金及び貯金債権であるところ,貯金債権は可分債権であって、被相続人の死亡と同時に法律上当然に分割されるので,遺産分割の対象とはならないが、全当事者が遺産分割の対象に含める旨の合意をしているので,遺産分割の対象となる。
(4) 相続させる旨の遺言によりCに帰属した不動産は、民法903条の規定の類推による「生計の資本としての贈与を受けた」ものではなく,また,仮に生計の資本であると認められるとしても,遺言の文言,全相続人の年齢,稼働能力,居住生活関係などの諸事情を総合すると、被相続人Aの持ち戻し免除の意思表示が含まれていると解するのが相当である。したがって、不動産は相続人Cの特別受益財産ではない。
(5) そうすると、相続人B、C及びDの各相続分は3分の1であるから,現金及び貯金債権を相続人B,C及びDにその割合で取得させるのが相当である。
最二小法廷平成21年12月04日―遺留分減殺請求事件(被上告人が,亡Aがその遺産の多くを上告人に相続させる旨の遺言をしたことにより,Aの養子である被上告人の遺留分が侵害されたと主張して,上告人に対し,民法1041条1項に基づく価額の弁償及び遅延損害金の支払を求める事案)
養親自身が婚姻又は養子縁組により家に入った者である場合に,その養親が家を去ったときは,民法(昭和22年法律第222号による改正前のもの)730条2項により,その養親と養子との養親子関係は消滅する
原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) Aは,大正6年9月17日,Bとの間で,同人を養親とする養子縁組をし,同人が戸主である家(以下「B家」という。)に入り,大正8年6月8日,同人の死亡によりその家督を相続した。
(2) 被上告人は,昭和14年8月30日,実姉であるAとの間で,同人を養親とする養子縁組をした。
(3) Aは,同年11月2日,隠居した上,同月29日,Cと婚姻してB家を去った。
(4) Aは,平成10年11月17日,長男である上告人にAの遺産の多くを相続させることなどを内容とする公正証書遺言をした。
(5) Aは,平成15年5月24日,死亡した。
(6) 被上告人は,平成16年5月13日,上告人に対し,遺留分減殺の意思表示をした。
原審は,上記事実関係の下において,被上告人がAの養子であることを前提として,被上告人の上記意思表示による遺留分減殺の効果を認め,被上告人の請求を一部認容した。
しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
昭和22年法律第222号による改正前の民法730条2項は,「養親カ養家ヲ去リタルトキハ其者…ト養子トノ親族関係ハ之ニ因リテ止ム」と定めるところ,養親自身が婚姻又は養子縁組によってその家に入った者である場合に,その養親が養家を去ったときは,この規定の定める場合に該当すると解すべきである(最高裁昭和42年(オ)第203号同43年7月16日第三小法廷判決)。前記事実関係によれば,Aは,Bとの養子縁組によりB家に入った者であって,被上告人と養子縁組をした後,Cと婚姻してB家を去ったというのであり,Aの去家により,同項に基づき,Aと被上告人との養親子関係は消滅したものというべきである。
以上と異なり,被上告人がAの養子であることを前提として,被上告人の前記意思表示による遺留分減殺の効果を認めた原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,被上告人の請求を棄却した第1審判決は結論において正当であるから,上記部分につき,被上告人の控訴を棄却すべきである。
東京地裁平21.11.26―「相続させる」旨の遺言において名宛人たる相続人が遺言者より先に死亡した場合と当該遺言に従った代蹟相続の可否
特定の相続人の相続分を全部と指定し遺産分割方法の指定として遺産全部の権利を当該相続人に移転させようとする「相続させる」旨の遺言は通常、名宛人とされた当該相続人に向けられた趣旨であって,当該相続人が遺言者より先に死亡した場合、代襲相続人に当該遺産を代襲相続させる旨の記載がない限り,原則として失効する。しかしながら,当該遺言書の全記載との関連,遺言書作成当時の事情及び遺言者のおかれていた状況等を考慮して遺言を合理的に意思解釈した上,遺言者の意思が,当該相続人が先に死亡した場合,当該遺産を代襲相続人に相続させるというものであったと認められるような特段の事情があるときには「相続させる」旨の遺言においても代襲相続が認められる。
事案の概要
1 Xら2名は被相続人Aの子たるBの子(Aの孫)であり,Yら4名は,Aの子である。Aは,Bに対しA名義の建物(共有持分権を含む。)その他一切の財産をBに相続させる旨の本件遺言をしていたが、BがAより先に死亡しその後,Aの死亡により本件相続が開始した。
2 そこで,XらはYらに対し本件遺言によりXらがA名義の建物を代襲相続し各2分の1の割合で帰属していると主張して,上記建物の共有持分権を有することの確認を求める訴訟を提起した。
これに対し,Yらは,本件遺言には代襲相続を意図する記載はなく,民法994条1項が適用されるから,本件遺言は無効となると主張してXらの請求を争うとともに本件遺言による代襲相続が認められる場合の予備的抗弁として遺留分減殺請求を主張した。
3 本判決は判旨のとおり判示し,本件遺言の記載にはBの子Xらの代襲相続について言及があるとは認められず,Aが本件遺言に当たりBが先に死亡した場合にXらに代襲相続させる意思を有していたと推認すべき特段の事情を認めることもできないとして,本件遺言は失効しその結果,法定相続分に従い,XらはBを代襲してAの遺産を取得し法定相続分(各10分の1)のとおりの共有持分権を有するとして,Xらの請求を一部認容しその余の部分を棄却した。
東京家裁平21.8.14審判―成年被後見人を祭祀承繕者に指定した事例
成年後見人が成年被後見人を代理してした祭祀財産の承継者の指定申立てについて、申立人以外の被相続人の親族に積極的に祭祀承継者になろうとする者がいないこと,申立人と被相続人は従前親しく交際し被相続人は申立人を同じ墓に埋葬することを希望していたこと,申立人が被相続人の祭祀承継者となり、永代供養の手続をすることによって,申立人自身の死後の祭祀も可能になることにかんがみると.申立人を被相続人の祭祀承継者に指定するのが相当である。
1 本件は弁護士である成年後見人が,被相続人の実妹である成年被後見人を代理して,成年被後見人を被相続人の祭祀財産の承継者と定めることを求めた事案である。
2 事実関係
(1) 被相続人は亡A(明治23年生)と亡B(明治23年生,昭和31年死亡)の長男であり,申立人(大正7年生)は亡Aと亡Bの長女(被相続人の妹)である。亡Aと亡Bは被相続人及び申立人のほか、二女、三女及び二男をもうけたが、二女及び二男はいずれも子をもうけることなく死亡し三女は婚姻して娘C(昭和32年生)をもうけた後に死亡した。
(2) 被相続人は昭和15年にDと婚姻し長女であるE(昭和15年生),長男である相手方(昭和17年生),二男及び二女をもうけたが,二男及び二女は生後間もなく死亡した。被相続人とDは,昭和42年に離婚した。被相続人は、Fとの間に亡G及ぴH(昭和21年生)をもうけ、両名を認知した後,昭和43年にFと婚姻し,昭和45年に同人と離婚した。亡Gは既に死亡しており,子はいない。被相続人は,昭和58年にIと婚姻し,昭和59年に同人と離婚した。
(3) 亡Aは晩年認知症を発症するまで申立人と同居しており、昭和50年に死亡した。
(4) J家の墓は被相続人が承継して管理しており,被相続人は、平成4年に宗教法人K寺の墓地使用許可を受けK寺檀徒誓約書を差し入れた。また,被相続人は従前,自宅に仏壇を置き,J家の祖先の位牌を祀っていた。
(5) 申立人は平成16年ころ,認知症を発症し平成19年に後見開始の審判が確定し,弁護士である成年後見人が付された。申立人は従前,被相続人と親しい交際を続けており、被相続人も成年後見人に対し申立人をK寺のJ家の墓に埋葬したい旨を述ベていた。
(6) 被相続人は平成20年に死亡した。
(7) 被相続人の近親者は妹である申立人,子であるE,相手方及ぴH並びに姪であるCである。このうち,E及びHはいずれも,J家の祭祀を承継する意思がなく,被相続人に係る相続も放棄している。Cは、J家の祭祀を承継するか否かについては即答できないとし,その後何らの連絡もない。相手方は成年後見人からの祭祀承継の意思の有無の確認の問い合わせに対して返答せず、本件審判の呼出しを受けたがこれに出席しなかった。
(8) J家の善提寺であるK寺は同寺にあるJ家の墓をだれも承継しないのであるいは無縁仏とするほかないが、永代供養料60万円及び墓の撤去費用10万円を支払うことにより,現在J家の墓に埋葬されている遺骨を同寺の境内にある永代供養墓地に改葬し永続的に供養する永代供養をすることができ,その場合,申立人が死亡した際に同人を当該永代供養墓地に埋葬することが可能であるとの意向を示している。
3 本件審判
本件審判において,裁判所は判旨のとおり判示して,申立人を被相続人の祭祀承継者に指定した。
最三小法廷平21.6.2―死亡給付金等請求(生命保険の指定受取人と当該指定受取入が同時に死亡した場合)
生命保険の指定受取人と当該指定受取人が先に死亡したとすればその相続人となるべき者とが同時に死亡した場合において,その者又はその相続人は商法676条2項にいう「保険金額ヲ受取ルヘキ者ノ相続人」には当たらない。
(1) 本件は生命保険契約の指定受取人の兄であるXが,指定受取人が死亡したことにより,商法676条2項の規定により保険金受取人になったと主張して,保険会社であるYに対し保険金等の支払を求めた事案である。
(2) 本件の事実関係の概要は次のとおりである。
指定受取人の夫はY保険会社との間で,被保険者を夫,保険金受取人を妻と指定して生命保険契約を締結していた。平成13年7月20日に夫と妻の両名が死亡したが,その死亡の先後は明らかではなかった。両名が死亡した当時,この夫妻に子はなく,いずれの両親も死亡しており,兄弟姉妹も妻には兄が,夫には弟がそれぞれいるのみであった。
(3) Yは1審以来「保険契約者兼被保険者と指定受取人とが同時に死亡した場合には商法676条2項の規定により保険金受取人を確定すべきであるが,同項の規定を適用するに当たっては指定受取人が保険契約者兼被保険者よりも先に死亡したものと扱うベきであるから,本件においては妻の兄であるXと,夫の弟の2人が保険金受取人となるから,Xは保険金の2分の1を取得するにとどまる」などと主張したが,1,2審とも,この主張を採用せず,保険金受取人はXのみであると判断したため,これを不服としたYが上告受理の申立てをした。
(4) 本件を受理した第三小法廷は,商法676条2項の規定が,保険契約者と指定受取人とが同時に死亡した場合にも類推適用されることを明らかにした上で,同項にいう「保険金額ヲ受取ルへキ者ノ相続人」とは最三小判平5.9.7が判示したとおり,「指定受取人の法定相続人又はその順次の法定相続人であって被保険者の死亡時に現に生存する者」のことであり,ここでいう法定相続人は民法の規定に従って確定されるべきものであるとしそうすると,指定受取人の死亡の時点で生存していなかった者はその法定相続人になる余地はないから,指定受取人と当該指定受取入が先に死亡したとすればその相続人となるべき者とが同時に死亡した場合において,その者又はその相続人は,同項にいう「保険金額ヲ受取ルヘキ者ノ相続人」には当たらないと解すべきであるとして,これと異なる見解に立脚するYの上告を棄却した。
最三小法廷平21.6.2―共済金請求事件(死亡給付金の指定受取人と当該指定受取入が先に死亡したとすればその相続人となるべき者とが同時に死亡した場合における死亡給付金受取入の確定方法についての年金共済約款の解釈)
死亡給付金の指定受取人と当該指定受取人が先に死亡したとすればその相続人となるべき者とが同時に死亡した場合においてその者は年金共済約款(普通約款)33条3項にいう「死亡給付金受取人の死亡時の法定相続人」に当たらず,その者の相続人が,同項にいう「その順次の法定相続人」として,死亡給付金受取人になることはない。
(1) 本件は年金共済契約の死亡給付金受取人と指定された者の母であるXが指定受取人が死亡したことにより,自己が死亡給付金受取人になったと主張して,共済者であるYに対し死亡給付金等の支払を求めた事案である。
(2) 本件の事実関係の概要は次のとおりである。
指定受取人の夫は,Y農業協同組合との間で被共済者を夫,死亡給付金受取人を妻と指定して年金共済契約を締結した。この契約に適用される年金共済約款(普通約款)には「死亡給付金受取人の死亡時以後,死亡給付金受取人の変更が行われていない間に死亡給付金の支払事由が発生したときは死亡給付金受取人の死亡時の法定相続人(法定相続人のうち死亡している者があるときはその者についてはその順次の法定相続人)で死亡給付金の支払事由の発生時に生存している者を死亡給付金受取人とします」との規定が設けられている(33条3項・以下「本件条項」という。)。
平成16年3月18日に夫,妻及び両名の子が死亡したが,その死亡の先後は明らかではない。この夫妻にはほかに子はなかった。Xは妻の母であり,Xの父は既に死亡していた。夫の父母は既に死亡しており,夫には,2人の姉,1人の兄,別の兄(既に死亡)の養子がいる(この4名を「夫の兄ら」という。)。
(3) Yは,1審以来.「被共済者と指定受取人とが同時に死亡した場合,本件条項の適用に当たっては指定受取人が先に死亡した場合と同様に扱うべきであるところ,指定受取人である妻の法定相続人である夫が死亡したことにより,夫の法定相続人である夫の兄らは本件条項にいう『順次の法定相続人で死亡給付金の支払事由の発生時に生存している者』として死亡給付金受取人となるので,死亡給付金受取人はXのみではない」などと主張したが,1,2審とも,この主張を採用せず死亡給付金受取人はXのみであると判断したため,これを不服としたYが上告受理の申立てをした。
(4) 本件を受理した第三小法廷は本件条項は,指定受取人と被共済者とが同時に死亡した場合にも適用されるべきものであると指摘した上で,本件条項にいう法定相続人は民法の規定に従って確定されるべきものであるとし,そうすると指定受取人の死亡の時点で生存していなかった者はその法定相続人になる余地はないから,指定受取人と当該指定受取入が先に死亡したとすればその相続人となるべき者とが同時に死亡した場合において,その者は,本件条項にいう「死亡給付金受取人の死亡時の法定相続人」に当たらず,その者の相続人が,本件条項にいう「その順次の法定相続人」として,死亡給付金受取人になることはないと解すべきであるとして,これと異なる見解に立脚するYの上告を棄却した。
さいたま地判平成21年05月15日―遺留分減殺等請求事件
1 被相続人が相続人の1人に対して負っている相続債務は,相続開始後に混同により消滅するとしても,遺留分算定の基礎とされる民法1029条の「債務」に当たる。
2 相続開始時において既に消滅時効の完成している債務は,被相続人が消滅時効を援用していなければ,当該債務を承継した相続人の援用の有無に関りなく,遺留分算定の基礎とされる民法1029条の「債務」に当たる。
3 遺留分減殺を理由とする所有権移転登記手続請求訴訟において,登記名義人である無権利者は,受遺者がした価額弁償の主張を,自らの抗弁として援用することができる。
東京家裁平21.3.30―被相続人の遺骨について民法897条2項の準用により取得者を指定することの可否
遺骨についての権利は通常の所有権とは異なり埋葬や供養のために支配・管理する権利しか行使できない特殊なものであること。既に埋葬された祖先の遺骨は祭祀財産として扱われること関係者の意識としては被相続人の遺骨についても祭祀の対象として扱っていることにかんがみると、被相続人の遺骨については祭祀財産に準じて扱うのが相当であり、被相続人の指定叉は慣習がない場合には,民法897条2項を準用して,遺骨の取得者を指定することができる。
最三小判平21.3.24―1人の相続人に全部相続させる旨の遺言があった場合について,遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算するかどうかが問題となったもの
当該遺言の法的性格,相続分指定による債務の帰属相続分指定と遺産分割方法の指定との関係等についても重要な判断を示している。本件被相続人Aには相続人として子2人があったが,Aは,そのうちの1人(Y)に対して財産全部を相続させる旨の遺言をした。Xから,遺留分減殺請求権を行使したとして,相続財産である不動産について所有権の一部移転登記手続を求めたところ,Xについての遺留分の侵害額の算定に当たり,第一審,原審ともに遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することを否定し,最高裁も,原審の判断を正当として上告を棄却した。判旨は相続分指定がある場合の相続債務の帰趨について,「相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言により相続分の全部が当該相続人に指定された場合,遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り,当該相続人に相続債務もすべて相続させる旨の意思が表示されたものと解すべきであり,これにより,相続人間においては,当該相続人が指定相続分の割合に応じて相続債務をすべて承継することになる」としたうえで,「当該相続人が相続債務もすべて承継したと解される場合,遺留分の侵害額の算定においては.遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは許されないものと解するのが相当」とした。本件事案では,積極財産の価額と消極財産の価額がいずれも4億数千万円と多額であるため,積極財産から消極財産を差し引いた額の4分の1は187万円余であるのに対して,相続債務の2分の1相当額は2億1241万円余となり,減殺請求の効果として復帰すべき不動産の持分(これに対応する価額弁償の額)に大きく影響する。
他方,判旨によれば「遺留分権利者が相続債権者から相続債務について法定相続分に応じた履行を求められ,これに応じた場合も,履行した相続債務の額を遺留分の額に加算することはできず,相続債務をすべて承継した相続人に対して求償し得るにとどまる」という。全部財産の指定を受けた相続人(実質的単独相続人の指定)に対する求債権で他の相続人が十分な保護を受けることができるのか問題が残る。そうであればこそ,遺留分権利者を相続債権者の請求から保護する方策をとるべきという批判もある。もっとも,本件の場合は積極財産である不動産の取得のための借入金が相続債務のほとんどを占め,相続債権者も,すべての相続財産を取得する相続人のみへの請求を当然と考えていた事案である。
さいたま家裁川越支部平21.3.24―被相続人の高額の財産を不当に利得した者を特別縁故者と認めなかった事例
申立人が、被相続人の入院中その療養看護にかかわり,被相続人の死後その葬儀を主宰したとしても、被相続人の預金を管理中に多額の預金を不当に利得しているという事情に照らすと、申立人を被相続人と特別の縁故があった者と認めるのは相当でない。
大阪地判平21.3.23―勤務先の机の中から発見された,私に万一の事あれば本件全てを実弟にお渡し下さい,との記載がされた書面につき,自筆証書遺言として有効とされた事例
本件遺言者Aは昭和47年に婚姻した妻X1との間に子X2(昭和48年生),X3(昭和52年生),X4(昭和53年生)があり,B社の常務取締役として勤務していたが,平成16年4月下旬から急性心筋梗塞高脂血症,急性アルコール性肝炎,アルコール依存症等で入退院を繰り返している中,X1との間で不和が生じ,平成17年1月からX1らと別居した。Aは,疎遠となっていた双子の弟Yに援助を求め兄弟関係を修復する一方で,X1から平成17年2月に夫婦関係調整の調停が申し立てられるなど家族との関係が悪化し慢性肝炎等病状も進行した。Aは平成17年9月1日に自殺しそのB社の執務机の中から,「私に万一の事あれば本件全てを実弟Yにお渡し下さい。平成17年1月17日A印」と記載された書面が発見された。また同書面の下部には,Yの住所と電話番号が記載されていた。Xらは,Yに対して同書面の記載は明確性に欠け,遺贈を内容とする遺言の効力を有しないと主張して,自筆証書遺言の無効確認を請求した。Xらは書面中の「万一の事」「本件全て」の意味が不明であり,また,かつて銀行に勤務し遺言信託の知識のあるAが「お渡し下さい」という曖昧な言葉を遺贈の趣旨で記載することはないと主張したが,東京地裁は最二小判昭58.3.18に従い,遺言解釈に当たっては遺言書の文言を形式的に判断するだサではなく,遺言書の全記載との関連,遺言書作成当時の事情および遺言者の置かれていた状況等を考慮して遺言者の真意を探求し,遺言書の条項の趣旨を確定すべきであるとして,本書面をAが執務机の引き出しの中に保管していた私物(現金5万円の入った財布,銀行の預金通帳キャッシュカード等の財産的価値のあるものを含む)をYに遺贈する趣旨の自筆証書遺言として有効であると判示した。
東京家裁平21.1.30―1 被相続人からの継続的な金銭交付の一部が生計の資本としての贈与と認められた事例、2 被相続人による相続人の子に係る養育費用の負担が生計の資本としての贈与とは認められないとされた事例
1 遺産総額や被相続人の収入状況からすると,相続人である相手方が被相続人から2年余にわたり送金を受けていた毎月2万円から25万円のうち,一月10万円に満たない送金は親族間の扶養的金銭援助にとどまり, これを超える送金のみが生計の資本としての贈与と認められる。
2 被相続人が、相続人である相手方の子を3歳のころから高校卒業までの約15年間現実に養育しその費用を負担したことは,被相続人から相手方に対する生計の資本としての贈与とは認められない。
最一小判平21.1.22―同相続人の一人が金融機関に対して被相続人名義の預金口座の取引経過の開示を求めた事案
本件第一審判決は最三小決平17.5.20を引用して,共同相続人の一人が金融機関に対して開示を強制できる法律上の根拠はないとして,請求を棄却したが原審判決は上記最決が上告不受理決定にとどまることを理由に「判例性」を否定するとともに金融機関は預金契約に付随する義務として,信義則上,預金取引経過を開示すべき義務を負うとし他方,預金債権は各共同相続人に当然分割帰属するから,各相続人は金融機関に対し自己の預金に関する取引経過の開示を求める権利を有すると判示して原判決を取り消し請求を認容した。
本判決は結論において原審判決を支持したがその理論構成は異なる。すなわち,本判決は預金契約が消費寄託の性質を有するものであるとする一方,預金契約に基づいて金融機関の処理すべき事務には振込入金の受入れ,各種料金の自動支払い,利息の入金,定期預金の自動継続処理等,委任事務ないし準委任事務の性質を有するものも多く含まれるとし委任契約や準委任契約においては,受任者は委任者の求めに応じて委任事務等の処理の状況を報告すベき義務を負うが(民法645条656条),このことは預金契約において金融機関が処理すべき事務についても同様であり,預金口座の取引経過は預金契約に基づく金融機関の事務処理を反映したものであるから,預金者にとって,その開示を受けることが,必要不可欠であり,したがって,金融機関は預金契約に基づき,預金者の求めに応じて預金口座の取引経過を開示すべき義務を負うと解すべきとした。
その上で,預金者が死亡した場合,その共同相続人の一人は,預金債権の一部を相続により取得するにとどまるが,これとは別に共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき,被相続人名義の預金口座についてその取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができ(同法264条,252条但し書),他の共同相続人全員の同意がないことは,この権利行使を妨げる理由とはならないと判示した。
要するに本件においては,原審が,預金債権が各共同相続人に当然分割帰属することを根拠にして,各相続人の取引経過開示請求権の単独行使を肯定したのに対し本判決は,預金契約につき委任ないし準委任契約的機能があることを指摘し各共同相続人への預金債権の帰属問題とは別に各共同相続人が預金契約上の地位を準共有するとの立場に立って,取引経過開示請求権の単独行使を肯定した。
東京高決平20.12.26は危急時遺言の確認(民法976条4項)について家庭裁判所が得るべき心証は,遺言者の真意に出たものであることについて確信の程度に及ぶ必要はないとした事例である(遺言確認申立却下審判に対する抗告事件)。
遺言者Aは,病院を退院偽装姉Bの世話になっていたところ,その後様態が悪化しBはAの居室の管理人Xに危急時遺言の作成を依頼した。
Xは同じ管理会社の社員C・DとともにAの居室に赴き,Aがその財産すべてをBに贈りたいと述べたので,これをメモとして書き取った上,このメモをAに読み聞かせるなどして,危急時遺言を作成した。Xは,本件遺言の確認を家庭裁判所に求めた。
原審判は,AがXにした遺言の口授の状況が明らかでなく,C・Dによる本件遺言書の記載の正確性に対する承認にも信頼できない点があるなどとして,遺言を無効としたが,本決定は,危急時遺言が本人の真意に出たものであるとの心証の程度は確信の程度に及ぶ必要はないとした上で,本件では,X・DはAカ体件遺言の内容を話したと述べる一方,CはAは話をしなかったと述べており,証人らの供述に微妙な違いはあるものの,証人となった3人が遺言者と特別の利害を有していることはないから,これが遺言者の真意に出たものであると認めるのが相当であるとした。
最一小判平20.12.11―遺産分割調停調書に相続人が遺産取得の代償としてその所有する建物を他の相続人に譲渡する旨の条項がある場合について,この調書を添付してされた当該建物の所有権移転登記申請を却下した法務局の処分を違法とした事例
本件の原告X(上告人)は他の4名とともに被相続人の遺産を相続しその後高知家庭裁判所において,遺産分割調停が成立して調停調書が作成された。調停調書には,Xが,被相続人の遺産である土地を取得した代償として,他の相続人2名に対し,X所有の建物を持分二分の一ずつの割合で譲渡する旨の条項があった。そこで,Xは上記2名の相続人と共同で,X所有建物につき,登記原因を「遺産分割による代償譲渡」とし登記原因証明情報として本件調書を添付して,所有権移転登記の申請をした。ところが,法務局登記は本件調書には登記原因となる事実または法律行為(不登法5条2項)の記載がなく,登記原因証明情報(不登法61条)の提供がないことを理由に本件申請を却下したため(不登法25条9号),Xより本件却下処分の取消しを求めて本訴が提起された。
原審は本件調停調書では,Xが遺産取得の代償として本件建物を譲渡することは明らかであるものの,その譲渡が有償か無償か,有償であるとすると誰との間で対価関係があるのかが明らかでなく,いかなる法律行為によるものか特定されていないとして,本件却下処分を適法とした。
これに対し本判決は本件条項による合意の内容からすればXが本件建物の譲受相続人に対し,遺産取得の代償として本件建物を無償で譲渡する内容(いわゆる代償物の無償譲渡型)と解することができるとしそうである以上,本件条項の記載は,登記の原因となる法律行為の特定に欠けるところがなく,当該法律行為を証する情報ということができるから,登記原因証明情報の提供を欠くことを理由に本件申請を却下した処分は違法と判示した。
遺産分割の調停実務においては,特定の相続人が遺産を取得するのに代えて,その相続人所有の不動産が他の相続人に譲渡されることも少なくないようであり,こうした分割も可能と解するのが一般である。本件は,こうした調停実務と不動産登記実務が交錯する問題を扱った事例判例である。
東京地判平20.11.13―弁護士が関与して作成された公正証書遺言につき,遺言能力がなく,民法969条2号のロ授の要件も満たさないとして,無効とされた事例
原告Xは亡Aと先妻との間の長女であり,被告Y1はAの後妻,被告Y2はAとY1との間の長男である。弁護士の立会いの下で作成されたAの公正証書遺言について,Xは,Yらに対して無効確認を求めた。
本件の争点は@Aの遺言能力の有無.Aロ授の要件の該当性であった。本判決は,@については,遺言者Aは本件遺言書作成日の約1週間前には閉眼して傾眠傾向の状態になり,呼びかけてもあまり反応しないような意識レベルに陥っていたこと,本件遺言書の作成当日も,公証人による読み聞かせの最中に首を大きく横に振って非常に苦しそうな態度をしてそのまま眠ってしまい,公証人が一旦は遺言作成を断念するほどの状況になり,AはY1から何度も揺すられ声をかけられてようやく目を覚ましたこと,Aの主治医も,本件遺言書作成目の前日にAが陥った見当識障害のような症状が現れた患者の意識レベルが翌日になって鮮明になる可能性は低いと供述していることなどから,Aは遺言の意味内容を理解し遺言の効果を判断するに足りる精神能力を欠いていたとした。
さらにAについても,本件遺言書作成の際にAは公証人と手を握り公証人による公正証書遺言の案文の読み聞かせに対し手を握り返したにすぎず,言語をもって陳述していないから,ロ授があったものとは認められないとした。
大阪高決平20.10.24―被相続人の父の妹の孫およびその配偶者である被相続人の成年後見人に対し特別縁故者として相続財産の分与をした事例
被相続人A(明治43年生)は平成19年に死亡した。Aには兄弟はおらず,生涯独身だったため,両親の死亡後は一人暮らしをしていた。申立人X1はAの父の妹の孫に当たり,申立人X2はX1の夫である。平成11年,Aについて施設への入所が必要となったため,X2が身元保証人となって,Aを老人ホームに入所させた。その後,X1・X2は遠距離にもかかわらず多数回にわたり老人ホームや入院先を訪れ親身になってAの療養看護に尽くした。平成12年にはX2はAの成年後見人に選任されて無報酬で財産管理等にも尽力した。また,Aが死亡した際には相当額の費用を負担してAの葬儀の主宰や供養を行っている。 本決定は,X1・X2とAとの関係はAが老人ホームに入所するまでの間は親しい親戚関係の範囲ではあるものの,財産の分与を相当とする関係にまでは達していないと評価すべきであるがAがホームに入所してからは,通常の親族としての交際ないし成年後見人の一般的職務の程度を超える親しい関係にあるとして,動産ほか預金約6283万円の相続財産のうち,X1に対し動産および500万円,X2に対し500万円をそれぞれ分与することを認めた。
鳥取家審平20.10.20―被相続人の又従兄弟の配偶者に対し特別縁故者として相続財産の分与をした事例
被相続人A(大正15年生)は平成18年に死亡した。申立人X(昭和10年生)は,昭和30年に夫Bと結婚した。Bは,被相続人Aの又従兄弟(Aの父とBの父が従兄弟)であるところ,平成14年老人ホームの担当者から依頼されAの身元引受人となり,その後老人ホームの行事に参加するなどしていた。平成18年にBが死亡した後はXが身元引受人となり,Aのために再々,下着等の衣類を自費で購入して届けるなどしていた。また,同年,XはAから後見人になることを依頼され任意後見契約を締結した。Xは従前よりAの実家であるC家の墓守も続けている。Aの死亡に際してはXがAの葬儀や納骨を行った。
Aの遺品からは,「自分が死亡した後全財産を成年後見人おゆずりします X氏に」などと記載されたメモ書きも発見されている。
本審判は,XがAから厚い信頼を得ており,XがAの精神的支えとなっていたことが窺われること,Aの残したメモ書きは有効な遺言の方式を備えていないものの,相続財産を遺贈する意向を明確に表示しているとして,XはAと特別の縁故があったと認め,預金約2500万円の相続財産のうち,600万円を分与するのが相当であると判断した。
神戸家伊丹支書平20.10.17―被相続人(父)の遺言執行者が遺言による相手方(長男)の推定相続人からの廃除を申し立てた事例
被相続人Aには妻B(昭和13年生)がおり,Bとの間に長女C(昭和39年生)と長男Yをもうけていた。長男Yは高校卒業後,2浪して予備校に通っていたころから遊興に金銭を費やすようになり,進学しないまま就職した後も同様で,競馬パチンコや車の購入,女性との交際費等で借財を重ねるようになり,自動車販売の仕事や交通事故で借財が増えることもあった。このため,父Aは,Yの債権者らをまわって返済をするなど長年にわたってYの尻ぬぐいをさせられ,娘のCからの借金も含め,その出費は2000万円以上に上っていた。また,Yの債権者がA宅に押しかけ,近所にも聞こえるような大声で罵倒し警察を呼ぶ事態なども生じていた。平成14年4月ころ,AはYを「勘当」して自宅から追い出すとともに妻Bに宛てて,自分が倒れても決してYに家の敷居を跨がせないことなどを伝える手紙を書き,さらに同年8月にはYをAの相続人から廃除する自筆証書遺言を作成した。Aは死亡の数か月前に,Cに対して,Yを葬式には呼ばないようにとも伝えていた。
以上の事情から,本審判は,Yの行為はYが成人に達するころから20年間,Aを経済的,精神的に苦しめてきたものといわざるをえず,Yの行為は客観的かつ社会的通念に照らしYとAとの相続的協同関係を破壊しており,民法892条の「著しい非行」に該当するとした。
東京地判平20.10.9―通訳人を介して作成された公正証書遺言について,民法969条の2の各要件を満たすかどうかが争われた事例
遺言者亡A女(平成18年死亡)には長女X1,長男Y1,二男X2がいる。また,Y1の子Y2は平成4年,Aと養子縁組をしている。Xらは,Aが平成16年に作成した公正証書遺言(Yらに複数の不動産を相続させる旨の遺言)の無効確認等を求めた。
本件の争点は,@Aの遺言能力の有無A本件遺言書には民法969条の2に基づく遺言であることの付記(民法969条の2第3項)がないがそれでもよいかB遺言作成に際してAの意思伝達を補助したホームヘルパーBは969条の2の「通訳人」たりうるか通訳人たりうるとして本件における通訳は適切であったかの点である。
本判決は,@については,本人が罹患しているバーキンソン氏病は身体的症状が中心であり,その他遺言内容の合理性などから遺言能力があるとした上で,Aについては,たしかに969条の2に基づいて作成されたことを明記した部分はないが,遺言の内容を全体として検討してみると,その第1頁目に「本公証人は(中略),通訳人兼ホームヘルパーBの意思伝達の補助により遺言者の申述を筆記して,この証書を作成する。」等の記載があるなど,969条の2による遺言であることば明らかで,同条3項所定の要件に欠けるところはないというべきこと,Bについては969条の2にいう「通訳人」は,手話通訳人に限られるものではないし,何らかの資格を持った者である必要もなく,これまで9年間にわたってAの介助に当たってきたBの通訳方法は経験則に裏打ちされた妥当なものであって正確性を認めることができる等として,本件遺言を有効と判断した。
名古屋地裁平20.9.5―「睡眠貯金」として権利消滅の取扱いを受けるに至った定額郵便貯金に係る債権を共同相続した相続人がその払戻しを請求することができるとされた事例
「睡眠貯金」として権利消滅の取扱いを受けるに至った定額郵便貯金に係る債権を共同相続した相続人は相手方の担当職員の説明に誤りがあったため,権利保全の手続を取ることができなかったなど、判示の事実関係の下においては相手方の権利消滅の主張は権利の濫用に当たるので許されないと主張して,その払戻しを請求することができる。
東京地判平20.8.26―口のきけない者のした秘密証書遺言の効力が問題となった事例
脳出血により失語症等を発症した遺言者の遺言能力が認められ秘密証書遺言としての効力が認められた。遺言者A(昭和19年生)は平成9年12月に脳出血で倒れ一命を取り留めたものの,右片麻痺,失語症と診断され,右下肢,体幹機能の著しい障害のため立位保持困難な状態にあったが,リハビリ入院後の平成12年1月にも同様の診断を受けていた。平成15年9月9日,AはAの一切の財産を妻Y(昭和29年生)に相続させる旨の本件秘密証書遺言をした。その際B弁護士がワープロで記載した遺言書にAが署名し,B弁護士がAの承諾を得て,Aの印を押し封紙にはAが「これは私のゆいごんしょです。べんごしのB先生にワープロで打ってもらいました。」と自書したが,続けてB弁護士の事務所所在地を記載しようとして,「虎ノ門」と自書したところで,B弁護士から事務所所在地の記載は不要と言われ,「虎ノ門」の文字を括弧でくくった。
本判決は「民法972条1項によればロのきけない者が秘密証書により遺言をする場合には遺言者はその証書が自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を封紙に自書しなければならないとされているが,このような要式性の要求は特に遺言者と遺言害の筆者が異なる場合に現実に遺言の内容を筆記した者を特定するためのものと解するのが相当であるから筆者の氏名及ぴ住所の一部の記載を欠く場合であっても,遺言書全体の記載内容等により筆者が明確に特定されるような場合には,当該遺言書は有効であると解すべきである。」「遺言者Aは,封紙に筆者がB弁護士であることを自書して上記自書の下部にB弁護士の事務所所在地として「虎ノ門」と記載しているうえ遺言書にはB弁護士の住所も記載されていることを全体としてみれば本件の遺言の筆者がB弁護士であることは明らかである。」
「本件遺言書には筆者の住所の記載において不備があるものの,これによって本件遺言書が無効であるということはできない」とした。また.本件遺言書作成当時のAの遺言能力については平成9年の脳出血以降の入院中の言動,入院後の生活状況.遺言割乍成当時の状況からすれば本件遺言書が全財産をYに相続させるという比較的平易な内容であることを併せて考慮すると,Aは本件遺言に関する意思能力を有していたものと認めるのが相当であるとしている。正当であろう。
福岡地小倉支判平20.3.13―可分債権の扱い
簡易生命保険の還付金請求権と保険金請求につき,相続により夫がその4分の3(その他兄弟姉妹に4分の1)を当然に分割承継するかが争われた。カンポは,簡易生命保険法(平成17年廃止)36条1項が民法427条にいう別段の意思表示を示したものであり,夫が相続人全員の代表者たる地位において請求していないことを理由に支払いを拒んでいた。本判決は次の5点(1)郵便貯金法(平成17年廃止)7条1項3号との対比で,簡易生命保険法36条1項が還付金請求権や保険金請求権の分割行使を一切拒む規定と解するには疑問があること,(2)カンポは同法36条2項で保険契約者の任意の一人に対して解除の意思表示をすれぱ足り,同法37条で相続人の一人に対して債務の全額を請求できると解されるのに対して,相続人が相続分に応じた権利行使さえできないというのは不均衡であること,(3)代表者を定めることが事実上困難な場合には時効中断も困難となること,(4)本件では二重払いの危険性がほとんどないこと,(5)代表者を定めた場合であっても二重払いの危険が生じうること,を理由に夫が4分の3の権利を行使することは妨げられないとした。銀行預金の払戻しなど可分債権の分割承継を認める判例の流れの中ではこのような結論に至るのは当然であろう。
また,裁判例では相続人の合意があれば可分債権を遺産分割の対象とすることもできるとされる。
高松高決平20.3.5―相続放棄に関係して915条1項本文の熟慮期間の起算点を相続人の状況を考慮して遅らせることを認めた
相続人が被相続人の債務の存否を農協に尋ねたが,債務はない旨の回答を得たために熟慮期間を徒過した。しかし,実際には,本件回答をした農協を貸主とする合計3億円の消費貸借契約の連帯保証人と連帯債務者に被相続人がなっていた。その後,農協が担保不動産の競売により貸付金の回収を図る旨を通知したときに相続人は初めて残元金7500万円余の債務の存在を知った。
本決定は,相続人が被相続人の債務について熟慮期間内に調査を尽くしたにもかかわらず,被相続人の債権者からの誤った回答により相続債務が存在しないものと信じたが,後に通知により巨額の保証債務が判明したときは,被相続人の遺産構成に関する錯誤は要素の錯誤にあたるとした。そして,熟慮期間が設けられた趣旨に照らし相続人は,遺産の構成に関して錯誤に陥っていることを認識した後に改めて熟慮期間内に錯誤を理由として単純承認の効果を否定してなされた限定承認または放棄の申述受理の申立てを適法なものとした。915条に関して相続財産に関する錯誤を認めた事案は珍しい(大阪高決昭56.2.9は否定していた)。債権者の言動によって錯誤に陥ったという本件のような事案に限定されるのか,さらに他の場面でも認められるのかこれからの動きが注目される。
京都家審平20.2.28―申立人(父)が相手方(長男)の推定相続人からの廃除を申し立てた事例
申立人X(父)とBは昭和54年に婚姻し,昭和48年に長男Y,昭和57年に二男Cをもうけた。Bは平成13年に死亡した。Yは,中学時代にコンビニで万引きをしたのを手始めとして,以後窃盗等により何度服役し現在も刑事施設に収容中である。このほかにも,交通事故を繰り返したり消費者金融から借金を重ねたりするなどしており,Xは被害者らへの謝罪,被害弁償および借金返済等に苦しめられてきた。Xは,将来の兄弟Y・C間の遺産争いを防ぐためにも,Yとの関係を断ち切るためにも,Yを推定相続人から廃除してほしいと述べる。なおYは,X・Bが成績優秀なCを依枯贔屓し,Yに厳しい態度を示すことに反発し,窃盗等を重ねたと述べている。
本審判は以上のような事実関係から,Yは「Xに対し多大の精神的苦痛と多額の経済的負担を強いてきたことが明らかであって,Xに対する著しい非行があったと認めるべき」として,YをXの推定相続人から廃除するのが相当であるとした。
京都地判平20.2.7―死因贈与
平成11年4月4日頃春子は一郎に死因贈与をしたが,平成15年3月29日一郎が先に死亡しその妻夏子と子原告が相続した。その後平成19年4月7日春子死亡・原告は春子の相続人である被告に対し死因贈与を原因とする所有権移転登記を求めた。本判決は,死因贈与は贈与者と受贈者との間の契約である以上,贈与者の意思で一方的に撤回することはできないうえ,受贈者には期待権が生じている,明文の規定がない以上,受贈者が贈与者より先に死亡した場合,死因贈与は効力を生じないとはいえない,したがって当該死因贈与の目的物は受贈者の遺産になるとして,原告の訴えを認めた。
死因贈与と994条1項との関係について,東京高判平15.5.28が本件とは対照的に同条項準用を肯定している。
最一小判平20.1.24―遺留分権利者による価額弁償請求権の取得時期
平成8年,Xら(原告・控訴人・上告人)は,Yら(被告・被控訴人・被上告人)に対して,遺留分減殺請求権を行使して,遺留分に相当する部分の返還を求めた。
平成9年,Xらは本訴で遺留分減殺を原因とする不動産の持分移転登記を求めた。Y1は平成15年にY2は平成16年にXらに対して価額弁償の意思を表示した。平成16年7月16日の口頭弁論期日において,Xらは訴えを交換的に変更して,価額弁償請求権に基づく金員の支払を求めるとともに附帯請求として,相続開始日から支払済みまで,民事法定利率による遅延損害金の支払を求めた。原々審(名古屋地判平16.11.5)は減殺請求日の翌日から支払済みまでの遅延損害金を認容した。原審(名古屋高判平18.6.6)は,判決確定日の翌日から支払済みまでの遅延損害金を認容した。本判決は,「遺留分権利者が受遺者に対して価額弁償を請求する権利を行使する旨の意思表示をした場合には,当該遺留分権利者は,遺留分減殺によって取得した目的物の所有権及ぴ所有権に基づく現物返還請求権をさかのぼって失い,これに代わる価額弁償請求権を確定的に取得すると解するのが相当である」から,「民法1041条1項に基づく価額弁償請求に係る遅延損害金の起算日は…遺留分権利者が価額弁償請求権を確定的に取得しかつ,受遺者に対し弁償金の支払を請求した日の翌日ということになる」として,遅延損害金の起算日を平成16年7月17日とした。
最三小決平19.12.11―兄弟姉妹間における遺留分減殺請求に関連して,遺留分権利者が遺留分侵害者の取引金融機関に対して,遺留分侵害者名義の預金口座の取引履歴にかかる文書の提出を求めた
原々審(名古屋地決平18.12.19)は取引明細表の提出を命じた。原審(名古屋高決平19.3.14)は,取引明細表が金融機関の「職業の秘密」(民訴2別条4号ハ)にあたるとして,原決定を取り消した。本決定は,取引明細表が「職業の秘密として保護されるべき情報が記載された文書とはいえない」として,取引明細表の提出を命じた。
大阪高決平19.12.6―寄与分が問題となった遺産分割事件
被相続人である父親の死亡による相続人は子5名(A〜E)で,そのうちの2名が法定相続分各5分の1をCに譲渡したので,Cが5分の3,ABが各5分の1となった。原審京都家宮津支判平18.10.24は,学費,同居,株券,家の援助等についてそれぞれ特別受益には当たらず,寄与分についてはCが不動産の取得維持管理に3488万円支出したとした。これに対し本決定は本件の遺産の形成や維持のために相応の貢献をしたものと評価できるが,本件建物の補修費関係の出費は,そこに居住するC自身も相応の利益を受けている上に評価額の30%もの寄与があるとはいえないこと,農業については,公務員の兼業で行っており専業として貢献した場合と同視することはできないこと,介護については,平成10年頃から平成14年に亡くなるまで,被相続人の排泄等の介助をし自宅で介護したCの負担は軽視できなぃことなどを認め,原審を変更し,自宅での介護や遺産の形成維持に貢献した支出により,寄与分を15%と定めた。
東京地判平19.12.3―遺言執行者および遺言執行補助者(信託銀行)の遺言執行行為
Aは信仰している宗教団体Bに土地建物の換価代金を遺贈する,遺言執行者として同団体の関係者Y1・Y2(被告)の2名を指定する旨の公正証書遺言を作成した。
Aの相続人は弟X1と甥姪X2・X3(原告)の3名である。Aが死亡し,Yらは遺言執行補助者としてY3信託銀行(被告)を選任して土地建物を売却した。Xらが土地建物の売却に気付き弁護士を通じてYらの弁護士に問い合わせるなどしたが,十分な説明を受けられなかった。Xらは遺言執行者の財産目録交付義務違反,執行状況の報告義務違反によって「精神的なダメージ」を受けたとして,Yらに慰謝料を求めた。本判決は,「遺言執行者は,……遺言執行者の善管注意義務……の一内容として,相続人に対し遅滞なく遺言執行者に就任したこと…又は…相続財産に属する不動産……を遺言により換価処分する旨を通知しなければならない」と判示して,Xらの請求を認容した。
福島家審平19.10.31―被相続人(母)の遺言執行者が遺言による相手方(長男)の推定相続人からの廃除を申し立てた事例
被相続人A(大正13年生)は夫Bとの間に長女C,長男Y,二男Dの3人の子をもうけたが,Bは昭和54年に死亡しその後,しばらくは二男Dと同居したが,昭和55年から,長男Yの家族がAと同居した。長男Yは昭和51年にEと婚姻し,4人の子をもうけたが,平成11年にEと調停離婚した。Aは,Y・Eの離婚後も,そのままEとその子どもたちと同居し,Eの介護を受けた。Yは離婚後は,Eらに扶養料を一切払わなかったため,AがEに生活費を渡しYの子らも就職後Aらの家計を援助した。Yは,Eとの離婚後,韓国人女性と婚姻して2子をもうけ,韓国で生活しているようである。Aは,平成11年,長男YをAの推定相続人から廃除する公正証書遺言を作成し,平成18年に死亡した。
本審判は被相続人Aが70歳を超えた高齢であり,介護が必要な状態であったにもかかわらず,Aの介護を妻Eに任せたまま出奔した上,父Bから相続した田畑を被相続人Aや親族らに知らせないまま売却しEとの離婚後,Aや子らに自らの所在を明らかにせず,扶養料も全く支払わなかったものであるから,これらYの行為は,悪意の遺棄に該当するとともに相続的共同関係を破壊するに足りる「著しい非行」に該当するとして,Yの廃除を認めた。
東京家審平19.10.31―被相続人の長男と妻の間で祭祀承継
被相続人A(明治40年生〜平成4年没)と妻Y(相手方,大正4年生)の間には長男X(申立人,昭和9年生)のほか4子がいる。Aは某社の代表取締役社長の地位をXに護り渡したが,Xはそれに祭祀承継指定も含まれると主張した。本審判は「A死亡後の祭祀財産の管理状況及び祭祀の執行状況,X及びYの祭祀を主宰する意思の堅固性及び継続性並びにAに対する慕情,愛情,感謝の気持ちの程度の相違,今後の祭祀を円滑に執り行う見通し関係者の意見を総合すると,その年齢を考慮してもなおYが承継者として最も適任である」と判示した。
広島高決平19.9.27―遺留分権利者から遺留分侵害者に対する仮処分
XはYに対して不動産の処分等の禁止の仮処分を求めた。原審(広島地尾道支決平19.8.6)は仮処分の申立てを却下したようである。本決定は「本件遺言では不動産の管理等が遺言執行者の職務とはされていない…判例理論〔最判平3.4.19・最判平10.2.27〕からすれば,本件各不動産についての訴訟に関する当事者適格を有する者は,遺言執行者ではなく,Yである…本件記録によれば,Xには保全の必要性がある」と判示して,原決定を取り消し仮処分の申立てを認容した。
広島高決平19.9.21―遺留分権利者から遺留分侵害者に対する仮処分
XはYに対して有価証券等の処分等の禁止の仮処分を求めた。原審(広島地尾道支決平19.8.6)は仮処分の申立てを却下したようである。本決定も,「換価に必要な処分……をする権限はすべて遺言執行者に帰属する」から「Yが……Xの権利を害するおそれがあるとはうかがうことができ」ないと判示して,Xの抗告を棄却した。
東京高決平19.8.22―相続放棄
Aの死亡によって,妻X(申述人・抗告人)と子BらがAの遺産を相続した。平成17年12月,Bが死亡した。Bの相続人はXである。
しばらくして,Bが約1200万円の債務について連帯保証していたこと,主債務者が自己破産していたことが判明した。平成18年6月,Xが相続放棄の申述をしたところ,原審(東京家審平18.10.17)は申述を却下した。
本決定は最二小判昭59.4.27「の趣旨は本件のように相続人において被相続人に積極財産があると認識していてもその財産的価値がほとんどなく,一方消極財産について全く存在しないと信じかつそのように信ずるにつき相当な理由がある場合にも妥当するというべきであ」ると判示して,原審判を取り消し相続放棄の申述を受理した。
東京地判平19.7.12―自筆証書遺言の訂正方法
遺言者Aは平成14年8月25日に物件1を三男Y2(被告)に物件2を二男X(原告)に物件3〜5を長男Y1(被告)にそれぞれ分け与える旨の自筆証書遺言を作成した(第1遺言)。平成15年11月18日,Aは物件2をY2に物件1・3〜5をY1に分け与える旨の自筆証書遺言を作成した(第2遺言)・平成15年12月1日ころ,XとY1はAの許を訪れ.第1遺言の日付を平成15年12月1日に変更するよう依頼した。Aは同意しY1が第1遺言の日付を抹消して「訂正」と記入しAがその箇所に実印を押し新たな日付を自書した(第3遺言)。Xが第2遺言の無効とY1の相続欠格を主張した(本訴)。Yらは,第2遺言による第1遺言の撤回と第3遺言の要式違反を主張した(反訴)。本判決は「要式性の欠如は,変更場所の指示及び変更した旨の附記及びこれへの署名の欠如の点にとどま」ると判示して,第3遺言を有効とし第2遺言を無効とした。
名古屋高決平19.6.25―相続放棄
遺言者Aが長女Bに全財産を「相続させる」旨の公正証書遺言を作成した。二女X(申述人・抗告人)は相続放棄をしなかった。Aの死から約1年後,Xは,訴状によって,AがBの夫の会社の債務について連帯保証していたことを知った。Xが相続放棄の申述をしたところ,原審(岐阜家審平19.4.19)は申述を却下した。本決定は「Aが…一切の財産をBに相続させる旨の本件公正証書遺言を遺していること等からすればXがAの死亡時において,Aの遺産をすべてBが相続し自らには相続すべき財産はないと信じたことについて,相当の理由があったものと認めることができる」と判示して,原審判を取り消し相続放棄の申述を受理した。
福岡高判平19.6.21―Aが自己の全財産を共同相続人の一人であるYに相続させる趣旨の遺言をしたところ、Aの死亡後,もう一人の共同相続人であるXが、Yに対し,遺留分減殺請求権を行使したことを理由に,相続財産中の土地建物について,所有権の一部移転登記手続を求めた事案の控訴審判決
相続開始時におけるAの遺産は,積極財産として,福岡市内の地上建物とその敷地を含む4億3231万7003円,消極財産として、長期借入金4億523万8713円を含む4億2483万2503円であった。本件のように、被相続人が相続開始時に債務を有していた場合における遺留分の侵害額の算定方法については最判平8.11.26が次のように判示している。すなわち,「被相続人が相続開始の時に債務を有していた場合の遺留分の額は民法1029条,1030条,1044条に従って,被相続人が相続開始の時に有していた財産全体の価額にその贈与した財産の価額を加えその中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し,それば同法1028条所定の遺留分の割合を乗じ複数の遺留分権利者がいる場合は更に遺留分権利者それぞれの法定相続分の割合を乗じ、遺留分権利者がいわゆる特別受益財産を得ているときはその価額を控除して算定すべきものであり,遺留分の侵害額はこのようにして算定した遺留分の額から,遺留分権利者が相続によって得た財産がある場合はその額を控除し,同人が負担すべき相続債務がある場合はその額を加算して算定するものである」と。それゆえ,Xの遺留分侵害額を算定するにあたってはXが負担すべき相続債務の有無を判断しなけれぱならないが,原審の福岡地判平19.2.2はAの遺言が相続分の指定と遺産分割方法の指定の両方の性質を有することを前提に相続人間においては指定相続分に応じて相続債務が承継されたものとしてその法律関係が律せられることから、当該遺言により相続分が全部と指定されたYが相続債務をすべて承継し,Xが負担すべき相続債務はないことになると判断した。この判断を前提に,原審はXが求めた持分4億3213万7003分の2億1428万7377の所有権移転登記手続ではなく,持分4億3213万7003分の187万1125のそれを命じた。Xが控訴したが,本判決は原審と同様の理由で,Xの請求は原審が認容した限度で理由があるとし,Xの控訴を棄却した。
東京高判平19.5.30―遺言事項と親権者の財産管理権
夫Aと妻X(原告・被控訴人)の間には3子がいる。A・Xは別居し,離婚調停継続中にAが自殺した。Aは自筆証書遺言に「4 私の財産と生命保険等によって受け取る金員の全ては3人の子供の養育の為のみに使用して下さい。その他の目的の為には一切遣わないこと。」「6 4に述べた全員の管理は,K家(広島)によって行われるものとして下さい。」等と記載していた。
Aの相続財産等をめぐり,XとYら(被告・控訴人,広島に居住するAの両親=K家)の間で紛争となった。Xは,Aの相続財産について2分の1の相続権を有すること,遺言によって3子に帰属する財産についてXが管理権を有すること等の確認を求めた。原審(長野地判平18.2.24)はXの請求を認容したようである。本判決は,「遺言事項は原則として法定されているが、被相続人は民法897条1項に基づく祖先の祭祀を主宰すべき者の指定を遺言によりすることができるものと解釈されており,遺言事項として明文の規定のない事項も遺言によりすることができる例がある。…親権を行う父母の一方が未成年の子に遺贈した財産の管理を生存配偶者以外の者に委託することを望む場合は,これを肯定すべきである」として,Yらが管理権を有するとした。
大阪高判平19.4.26―認知症等で入院中の91歳の老人がした公正証書による遺言について,遺言者の遺言能力を否定するとともに遺言者が遺言の趣旨を公証人にロ授したり,公証人が遺言者に読み聞かせた本件遺言の内容を理解して筆記の正確なことを承認したりすることは不可能であり民法969条を適用する前提を欠いていたとして,無効であるとされた事例
遺言者は遺言を作成する2か月前の入院当時から,認知症と判断されて,その後、記憶、見当識,判断力などの知能障害が生じ,混乱反応,せん妄等の認知症に基づく異常行動が度々見られ,増悪傾向にあったこと遺言作成前後の遺言者の健康状態、とくに酸素飽和度や大脳の状態などから,遺言当時、遺言者は「91歳という高齢により衰弱していたところ,認知症の症状が増悪しかつ体調が悪化していたため,本件遺言をするに足りる意思能力を有していなかった」と判断された。また,公正証書を作成した公証人や作成に立ち会い証人となった信託銀行の従業員の供述、公正証書の作成経緯に不明かつ不自然な点が多いことから,遺言者が本件遺言の趣旨を公証人に口授したり,公証人が遺言者に読み聞かせた本件遺言の内容を理解して筆記の正確なことを承認することは,不可能であったことが認められ,本件遺言は民法969条を適用する前提を欠いていると判断した。遺言者の遺言能力が問題となる時点では遺言者が既に死亡しているため,その認定に困難を伴うことが少なくないが,本判決が、遺言者が認知症の悪化を理由に入院しており,遺言者の判断能力の程度をかなり明確に示す資料が存在している事案であった。
東京地判平19.3.27―死因贈与の執行につき遺言執行者に関する規定が準用されるか否か,そして,準用を肯定した場合に真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を死因贈与執行者が求めることができるか否かが問題となった事例
Aは,重婚的内縁関係にあったBとの間で,所有する土地及び建物(以下,「本件不動産」という。)を負担付で死因贈与する契約を締結しその旨の公正証書が作成された。Aの死亡後,本件不動産について,妻C並びにAとCの子であるY1,Y2及びY3により相続を原因とする所有権移転腎記が経由された(のちにCが死亡)。そこで,本件公正証書中で執行者に指定された弁護士Xは,Yらに対し,Yらが本件不動産につき実体を伴わない不実の所有権移転登記を経由しているとして,本件死因贈与契約に基づき,本件不動産につきBに対する真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続等を求めて,訴えを提起した。これに対しYらは本案前の主張として,Xは原告適格を欠くから,本件訴えを却下することを求めた。本判決は少なくとも本件のように公正証書により死因贈与契約がされ、その執行者が指定される場合」には、遺言執行者に関する民法の規定が準用されると解するのが相当であるとしたうえで、「受贈者ヘの所有権移転登記がなされる前に相続人が当該不動産につき自己名義の所有権移転登記を経由したため,死因贈与の実現が妨害される状態が出現したような場合には死因贈与執行者は死因贈与執行の一環として,上記妨害を排除するため、当該所有権移転登記の抹消登記手続を求めることができ,さらには受贈者への真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めることができるというべきである。」とした。本判決の囲み記事でも紹介されているが、公証実務および家裁実務では,死因贈与の執行につき遺言執行者に関する規定の準用を肯定することを前提としており,学説上もこれを肯定する見解が多数を占めている。本判決はこれらと同様の判断を示すはじめての公表裁判例であると思われる。また真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を死因贈与執行者が求めることができるか否かについては最判平11.2.6が,一特定の不動産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言がされた場合につき,遺言執行者は,右相続人への真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めることができるとしているところ,本判決は同判決を引用しその判例理論を死因贈与執行者にあてはめたものとなっている。
大阪家審平19.2.26―被相続人に対する介護を理由とする寄与分の申立て
被相続人に対する介護を理由とする寄与分の申立てに対し,申立人の介護の専従性を認めた上で,申立人が被相続人から金銭を受領しているものの他の相続人らも同様に金銭を受領していた事実があるから,その介護の無償性は否定されず,寄与分を評価する上で評価すベき事情としてその他の事情と併せ考慮し申立人の寄与分を遺産総額の3.2%強である750万円と定めた事例である。被相続人が所有していた資産を運用し株式や投資信託により遺産を増加させたことを理由とする寄与分の申立てに対しては,株式,投資信託による資産運用は利益の可能性とともに常に損失のリスクを伴うことから,単に株価が偶然上昇した時期を捉えて被相続人の保有株式を売却した行為のみで特別の寄与と評価するには値しないとして、寄与分の申立てを却下した。
大阪家審平19.2.8―寄与分
父親の死亡により4名の子どもが相続人となり,その1人である相手方は,被相続人の17年間の家事の面倒,3年間の介護支援と駐車場の管理経営により,7366万7600円の寄与分を主張している。本審判は,日常生活上の世話は親族間の扶養協力義務の範囲であり特別の寄与とはいえないが,介護については特別の寄与を認め,駐車場管理は報酬として月額5万円を取得していたことから寄与分は認めないとした。介護については親族介護であるので1日当たり8000円とし,その3年分をかけて876万円とした。また.相手方の土地の無償使用は特別受益に当たらないとした。遺産総額は2億1828万7307円であり,不動産を含めた遺産の分割計算が詳述されている。
福岡高決平19.2.5―被相続人の祭祀承継者について,実母が排斥され長男が指定された事例
被相続人A(昭和19年生)の母であるX(大正5年生)は昭和16年にB(昭和26年に死亡)と婚姻し長男C,二男A.長女D,二女Eの4人の子をもうけた。Aは,昭和46年1月にFと婚姻し,長女Y1(昭和47年生)と長男Y2(昭和48年生)をもうけたが,平成10年11月にFと協議離婚しそれ以来YらとD交流は途絶えてしまった。しかし,Aは平成14年8月に末期がんで入院すると,Yらとの面会を強く希望するようになり,3回にわたってYらとの面会が行われ「父子の親密な関係が再確認された」(本判決の表現)。同年10月にAが死亡すると,XとD・Eとの間で、喪主や葬儀場所等について紛争を生じたため,XはAの葬儀等に関与せず、D・Eが主になって葬儀等を執り行った。
その後,Aの遺骨はDからY1に引き渡された。
Xが、平成17年5月,Y1・Y2・Dを相手方として、祭祀承継者指定・遺骨の引渡調停を申し立てたが、不調に終わり,祭祀承継者指定の部分が審判手続に移行した。Aは,Fと離婚する直前の平成10年8月に「遺産の全てをXに包括遺贈し遺言執行者をXに指定する。」旨の公正証書遺言を作成していたことから,Xは,その趣旨から考えると,自分がAの祭祀承継者の指定を受けているといえる等主張したが、原審の大分家審平18.10.20は,同遺言は遺産の帰属について定めているに過ぎず,祭祀承継者の指定まで含むときは到底解することはできないと判断した。そして,本件においては被相続人による指定も,慣習も存在しないから、「家庭裁判所が祭祀承継者を指定することになるが,家庭裁判所はその際,祭祀承継候補者と被相続人との血縁関係・生活関係、被相続人の意思の推認,同候補者の祭祀承継の意思・能力,職業,年齢,生活状況家業承継の有無,利害関係人の意見その他一切の事情を総合的に考慮して指定することになる」ところ,本件において一切の事情を総合的に考慮すると,Y2をAの祭祀承継者と定めることが相当であると判断した。なお,Y2は、FがAとの離婚後すぐに実家の氏に復したのに伴い,子の氏の変更手続をとって,Fの氏に変更しているが、原審判は,「Xが主張するような『異姓を祀らず。』という慣習や原則の存在は認められないうえ,祭祀承継者となるには必ずしも被相続人と氏を同じくする必要はないというほかない」と判示している。Xが抗告。
本決定はまず,Aの祭祀承継者指定についての意思は不明であり,格別の慣習も認められないので.家庭裁判所が祭祀承継者を定めるほかなく、「家庭裁判所としては被相続人との身分関係が近く、その生前において生活をともにするなど被相続人との間に密接な生活関係が形成されていて,被相続人に対して思慕の念を強く持ち,末永くその祭嗣を主宰していぐにふさわしい者を祭祀承継者として指定すべきである」との一般論を述べたうえで,「被相続人との身分関係という点からすれば,Xに分があるようにも考えられるものの、祭祀の将来的な継続性という観点からすれば既に高齢のXよりもY2の方が優っているのは明らかである。Xを祭祀承継者と指定した場合にはX亡き後は,Cやその子孫が承継するというのであって、むしろ、実子であるY2が祭祀を承継した方が長期にわたり安定した祭祀が執り行えることは見易いところであ」り,「甚だ微妙なところであるが,Y2の方が祭祀承継者としてよりふさわしいものというべきである」として,Xの抗告を棄却した。
原審判および本決定が一般論として示す基準は,これまでの裁判例と同様のものであるが,具体的な判断において「祭祀の将来的な継続性」という要素が重視されている点に特徴がある。単純に「財産の承継」という点のみから考えると候補者の年齢や「将来的な継続性」という点はさほど重要視すべきではないように思われるが、祭祀承継者が「祭祀の主宰者」としての役割を担うことにかんがみれば本決定時に91歳のXよりはY2の方が望ましいように思われる。ただXはAの死後Aが経営する病院の関係者を集めて「お別れ会」を開き,四十九日法要,一周忌法要も行っており,祭祀の主宰に強い意欲を持ち,それだけの能力を有しているように伺われる。祭祀の承継者は原則として1名に限られるが,特別の事情がある場合には分割承継ないし共同承継を認めて差し支えないと解されているところ,YらはXを相手方として,遺留分減殺の調停を申し立てたが,不調に終わり,訴訟に移行しているなど,XとYらの関係は悪化しており,分割承継ないし共同承継を認めると,円滑な祖先祭祀が期待できないように思われる。本決定が述べるように「甚だ困難な判断を迫られる」事案であった
福岡高裁平19.1.26―危急時遺言が普通の方式による遺言が可能となった時から6か月間経過
危急時遺言が普通の方式による遺言が可能となった時から6か月間経過したとした無効とされた事例
東京地判平18.12.26―添え手遺言
A男は,多発性脳梗塞で入院し病床でY女(被告)との婚姻届を記入し,また,預金等を「Yへじょうとする」旨の自筆証書遺言を作成した。Aの兄弟姉妹Xら(原告)が遺言無効確認を求めたところ,YはAがYの添え手を得て本件遺言を作成したと反論した。本判決は,「Aが本件遺言書作成当時,自書能力を有していたとは断じ難い上,‥‥‥筆跡上,Yの意思が介入した形跡のないことが判定できるようなものではない」と判示して,本件遺言を無効とした。
東京高判平18.10.25―遺言内容の記載された書面には遺言者の署名押印を欠き,検認時に既に開封されていた封筒には遺言者の署名押印があるという遺言が,自筆証書遺言として無効とされた事例
遺言者死亡後,遺言者(父)と同居していた長男Yが,亡父の法要の時に,遺言書を発見したと言い,検認を受けたが,右のような状況であり,遺言者の妻XがYに対して遺言無効確認の訴えを起こした。裁判では,@相続人の一部から,相続人の一部に対して提起された訴えの適法性(固有必要的共同訴訟に当たるかどうか),A遺言の効力が争われた。@については,本件訴えが,Yが本件遺言に基づいては特定の不動産を取得しないとして,当該不動産に係るYの所有権の不存在確認を求める訴えに類似したものと解されるので,本件の事実関係のもとでは,固有必要的共同訴訟に当たらないとし,Aについては,文書と封筒が一体のものとして作成されたと認めることができれば,有効となる余地があるが,本件の事実関係からは,一体のものとはいえず,本件文書に遺言者の署名・押印を欠くから,無効だとした。
@については,検討の余地があるように思われる。日本には遺言の有効性を確認するシステムがないことから,(1)遺言によって不利益を受ける者が,利益を受ける者に対して無効確認訴訟を起こす場合と,(2)訴訟物が所有権移転登記抹消請求などで,その原因として遺言無効を主張する場合がある。夫婦共同遺言が問題になった最二小判昭56.9.11に従い,固有必要的共同訴訟としなかった。
横浜地判平18.9.15―遺言者である高齢者の遺言能力が否定された事例
信託銀行の行員の主導のもと作成された高齢者(遺言当時85歳)の公正証書遺言につき,遺言能力を欠いていたものとして無効とされた事例である。本件遺言内容は多数の不動産やその他の財産について複数の者に相続させ,しかもその一部の財産は共同して相続させ,遺言執行者についても項目ごとに相続人のうちの一人と本件信託銀行とに分けて指定し後者の報酬については細かく料率を分けるなどというものであった。しかし本判決で認定された事実によると,公正証書遺言の前後の遺言者の生活状況,精神状態,担当医師らの診断内容等から,本件遺言当時,遺言者は中等度から高度に相当するアルツハイマー型の認知症に陥っていたという。そのため,たとえ遺言者が「はい」、「その通りで結構です」などの肯定の返事をしていたとしても,上記のような複雑な遺言内容を理解し判断したうえでの返事であったとは認め難いと本判決では判断されている。
大阪高判平18.8.29
包括遺贈を受けた者が民法177条にいう「第三者」に該当するとした事例
大阪地判平18.8.29―「平成二千年一月十日」との日付があり,かつ,所定の方式でない加筆のある自筆証書遺言の無効確認訴訟が提起された事案
本判決は,暦上の特定の日を表示するといえるような記載がなされていればそのような自筆証書遺言は証書上における日付の記載を欠くものとはいえず、本件「平成二千年一月十日」との記載から西暦2000年に対応する「平成12年1月10日」を表示するものといえその頃のAの介護の状況などから当該遺言をする動機も伺えることから,本件遺言を有効と解するのが相当であると判断した。
判例上,「昭和四拾壱年七月吉日」のように日を特定できない遺言については無効と判断される壱方で(最壱小判昭54.5.31),遺言作成時の客観的状況や遺言者の合理的意思に照らし,遺言書表記の文言から「暦上の特定の日を表示するもの」と自然かつ合理的に解釈できる場合は,当該遺言書は「日附」の記載を欠くものでないとして有効とされている。たとえば「平成元年11月末」は「平成元年11月30日」を表示したものと解した事例(東京地判平6.6.28)や「正和」の記載がT昭和」の明らかな誤記として有効とした事例(大阪高判昭60.12.11),「昭和五拾四拾年壱月三拾壱日」を「昭和54年1月31日」の誤記として有効とした事例(東京地判平3.9.13)がある。本件もこれに属する新たな事例といえよう。
また,所定の方式でない加筆に関しては最二小判昭56.12.18にならい。民法968条2項が遺言者自身による加除その他の変更であることを担保するために加除その他の変更の方式を定めていることから,たとえ同項所定の方式に従わず加筆した場合であっても,遺言者の意思を確認することについて支障がない場合には,その方式違背は遺言の効力に影響を及ぼすものではないと解するのが相当であり,本件遺言では,加筆により加筆前の遺言内容を実質的に変更するものでないから遺言者の意思を確認することができると判示している。
東京地判平18.7.25―遺言者である高齢者の遺言能力が否定された事例
記憶障害などの認知症が悪化した高齢者(遺言当時92歳)の自筆証書遺言について、遺言時に遺言者が医者にかかっておらず,遺言能力鑑定のための有力な判断資料が欠如していた。しかし遺言書作成の経緯,その前後の遺言者の健康状態・生活状態から推認される判断能力,相続財産の資産的価値遺言をする相応の理由の有無や他の推定相続人との関係などを総合的に判断し,自らの意思で本件遺言書を作成したものとは認められず,受遺者の求めるままに作成したものと推認するのが相当であり,遺言者が遺言能力を有していたと認められず,本件遺言は無効であると判断した。
大阪地裁平18.7.21判決―投資信託を共同相続した相続人の一部が、当該投資信託の受益証券を保管する証券会社に対し法定相続分に応じた受益証券の返還、解約金の支払等を請求できるとされた事例
被告と顧客の関係を規定する取引約款の定め(被告に投資信託の受益証券を寄託した者は被告が混蔵して保管する当該銘柄の受益証券全体について、寄託数量に応じた共有権または準共有権を取得しつつ、他の受益者と協議せずに受益証券の返還を請求できる)および,本件投資信託は1ロ(1口の価額は1円)単位で解約を請求できることに照らせば、これらの請求権は可分債権と解するのが相当である。そして,これを相続した者が数人いる場合、その債権は法律上当然に分割され各相続人がその相続分に応じて権利を承継し,単独で行使することができる。
広島高裁岡山支決平18.7.20―相続放棄をした相続人Aが特別縁故者にあたるとして,Aに相続財産を分与した事例
相続人は子のAだけであり,Aは被相続人死亡後,相続債権者Bから執拗に債務の弁済を求められたため,相続開始から8日目に相続放棄の申述をし,それから1年3か月後に,Bが債権者として相続財産管理人の選任を申し立て,清算が行われ,相続人捜索の期間も満了したため,Aが,特別縁故者として相続財産の分与を申し立てたという事案である。本決定は,原審判を取り消し,被相続人の子であり,親密に親子として交流し,入院費用を負担し,世話をしていたことから,Aを特別受益者と認め,相続財産である別紙財産目録記載の財産全部をAに分与した。結果として,限定承認のめんどうな手続を回避し,特別縁故者として残余の相続財産を取得することができたものである。
東京地判平18.7.14―共同相続人の合意により遺産に属する普通預貯金債権を遺産分割協議の対象にすることができるとしても,共同相続人の一部から払戻請求訴訟
共同相続人の合意により遺産に属する普通預貯金債権を遺産分割協議の対象にすることができるとしても,共同相続人の一部から払戻請求訴訟が提起されている場合にはその可能性は存しないから,金融機関は,その払戻請求を拒絶することができないし,共同相続人全員の同意に基づきその全員に対して一括して払戻しを行う旨の金融機関による運用は,可分債権である預貯金払戻請求権の性質を軽視するものであり,また、預貯金者に訴訟提起といった時間と経済的負担を強いるもので,不適当な運用というべきであって,このような運用が商慣習として確立しているものとは認められないとして,遺産に属する預貯金債権は可分債権であるから法律上当然に分割されるという原則どおり,各共同相続人はその相続分に応じて権利を承継し,その払戻請求権を行使できるとした事例である。共同相続人が存する場合の相続財産中の預貯金(債権)の払戻しについては,これまでから,(a)裁判実務(各相続人が,単独で,自己の法定相続分相当額の払戻請求ができるとする),(b)金融機関実務(遺産分割協議書の提示,あるいは遺産分割協議の成立前の場合には,共同相続人全員の同意書等の提示がなけれぱ払戻しに応じない),(c)家裁実務(預貯金は可分債権であるが(=原則的には,遺産分割の対象財産とはならないが),共同相続人全員の合意がある場合には遺産分割協議の対象となる),というように立場が分かれている。
東京地判平18.7.4―遺言者が遺言能力を欠いていたことを理由に,公正証書遺言が無効とされた事例
遺言者Aは,84歳の時に,二男と同居中に,二男に有利な内容の第1遺言(公正証書)を作成したが,3年後にアルツハイマー症と診断され,妄想、物忘れ,俳徊などが始まった。87歳の時,長男と同居中に,長男に有利な内容の第2遺言(公正証書)を作成した。その後,Aは特別養護老人ホームに入所し,アルツハイマー症の後期の症状と判断されたが,90歳の時,二男方に外泊した時,第1遺言と同じ内容である第3遺言(公正証書)を作成した。本訴訟では,第3遺言の有効性が問題となり,本判決は,遺言者は,重度のアルツハイマー型認知症のため,遺言能力を失っていたと判断した。
東京高判平18.6.29―「相続をさせる」趣旨の遺言による受益相続人が,遺言者の死亡前に亡くなった場合に,代襲相続ができるとした事例
遺言者Aは,1987年12月に公正証書遺言を作成した。その内容は,@ある土地建物を除いた残りの不動産の2/5を子Yに,1/5を子B・C・Dに相続させる,A預貯金の1/5をY・B・C・Dに相続させ,1/5をYの子Eに遺贈するなどだった。1992年Bが死亡した。Bには子Xがいたため,Aは1996年1月,Xを他の子らと同じく扱う内容の自筆証書遺言を作成しようとしたが,完成せず,2004年に死亡した。Xは,「相続させる」旨の遺言には,代襲相続が適用されるとし,各財産につき共有持分の確認請求をした。
本判決は,相続人に対する遺産分割方法の指定による相続がされる場合においても,この指定により同相続人の相続の内容が定められたにすぎず,その相続は法定相続分による相続と性質が異なるものではなく,代襲相続の規定が適用ないし準用されると解するのが相当だとして,Xの請求を認めた。これまで登記先例は,受益相続人が,被相続人死亡時点ですでに死亡していた場合において,相続人である子に代わって相続させる旨の文言がないときは,遺贈と同視して,遺言が効力を失うとしており,判例(東京家審平3.11.5,東京高判平11.5.18)にも同趣旨のものがあった。しかし,本判決は,「相続させる」旨の遺言は,財産処分である遺贈とは異なり,相続であると性質決定している。
大阪地判平18.5.15―遺産分割協議に非相続人が参加した場合において,当該非相続人に対する遺産分割協議無効確認の訴えを不適法としたうえで,遺産分割協議のうち非相続人が取得するとされた部分のみを無効とした事例
本件では,被相続人の死亡直前にその相続人(X1・X2・Y1の3人)の一人であるY1の妻Y2が被相続人と養子縁組をした。被相続人の死亡後、相続人X1・X2・Y1・Y2の4人で遺産分割協議がなされた。ところが,当該遺産分割協議から8年経過して,X1・X2がY2を相手方として養子縁組が無効であることの確認を求める訴訟を提起しその2年後養子縁組無効確認判決が確定した。そこで,XらがYらに対し遺産分割協議無効確認訴訟を提起したのが本件である。
本件の争点は次の二点である。(ア)相続人でないことが養子縁組無効確認判決ですでに確定しているY2に対して遺産分割協議無効確認のみを求めるのは重複訴訟に該当しないか。(イ)本件遺産分割協議はY2の部分のみならず、遺産分割協議全体が無効となるのか。
本判決では,まず(ア)に関し本件では対世的効力を有する養子縁組無効判決が確定しており,その結果本件遺産分割協議によりY2が取得するとされた部分が無効であることをY2も争っていないことなどから,Y2に対する本件訴えは確認の利益を欠くと判断した。そして、(イ)関しては,共同相続人でない者が参加して遺産分割協議が行われた場合,共同相続人でない者に分配された相続財産のみを未分割の財産として再分割すれぱ足りるとするのが当事者の通常の意思であり,法律関係の安定性や取引安全の保護の観点からしても,原則として,当該共同相続人でない者の遺産取得に係る部分のみが無効となるのであり,ただ,当該共同相続人でない者が取得するとされた財産の種類や重要性,当該財産が遺産全体に占める割合やその他諸般の事情を考慮して,当該共同相続人でない者が協議に参加しなかったとすれば、当該協議の内容が大きく異なっていたであろうと認められる場合など,当該共同相続人でない者の遺産取得に係る部分に限って無効となると解するときは著しく不当な結果を招き,正義に反する結果となる場合には当該遺産分割協議の全部が無効となると解するのが相当であるとした。本件では,分割協議に瑕疵が存する結果を招いたことにYらにもっぱら責任はあるが、Y2が取得するとされた財産は全体の8%ほどにすぎず,遺産全体に占めるその重要度も低く,たとえY2が遺産分割協議に参加していなかったとしても、Xらの取得する財産の内容及びその取得割合に大きな相違があったと認められず,さらにY1がすでにAから相続した債務を全額弁済し相続財産中の不動産もすでに第三者に処分されていることから,遺産分割協議を全部無効とすべき場合でないと判断した。
東京高裁平18.4.19決定―墓地使用権及び墓碑等の承継者
墓地使用権及び墓碑等の承継者を原審判が被相続人の長男と定めたのに対し、抗告審が長女に変更した事例
大阪家裁堺支部平18.3.27審判―死亡保険金を民法903条の類推適用により持戻しの対象とすべきであるとはいえないとした事例
保険契約に基づき保険金受取人とされた二男が取得した死亡保険金の合計額は約430万円で,相続財産合計額の6パーセント余りにすぎないこと,二男は被相続人と長年生活を共にし被相続人の入通院時の世話をしていたことなどの事情にかんがみると,保険金受取人である二男と他の相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らして到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存するとは認めがたいとして,同条の類推適用により死亡保険金を持戻しの対象とすべきであるとはいえないとした事例
名古屋高裁平18.3.27決定―死亡保険金が民法903条の類推適用により持戻しの対象とされた事例
保険契約に基づき保険金受取人とされた妻が取得する死亡保険金等の合計額は約5200万円とかなり高額で、相続開始時の遺産価額の61パーセントを占めること,被相続人と妻との婚姻期間が3年5か月程度であることなどを総合的に考慮すると,保険金受取人である妻とその他の相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存するとして,同条の類推適用により死亡保険金等を持戻しの対象とした事例
大阪家堺支審平18.3.22―保険契約
保険契約に基づき保険金受取人とされた妻が取得する死亡保険金等の合計額は約5,200万円とかなり高額で,相続開始時の遺産価額の61パーセントを占めること,被相続人と妻との婚姻期間が3年5か月程度であることなどで死亡保険金等を持戻しの対象とした事例
福岡高決平17.12.28―定額郵便貯金につき共同相続人全員の合意がなくても遺産分割の対象となることを認める
被相続人をその夫および5名の子が相続し,その遺産として合計1000万円の定額郵便貯金のみが存在しているところ,夫および4名の子が残り1名の子に対して遺産分割の申立てをした事案である。原審判は,遺産はすべて金銭債権であり,各共同相続人が相続開始とともに相続分の割合で取得しているから遺産分割の対象とならないとして,申立てを却下。これに対して本決定は,「郵便貯金法7条1項3号は,一定の据置期間を定め,分割払戻しをしない条件で一定の金額を一時に預入するものと定めており,共同相続人がその法定相続分に応じて承継取得しても,そのうちの一人がする払戻請求は許されないから,同法57条1項の定めにより通常預金となる預入の日から10年が経過するまでの間は,遺産の共有状態解消の手続である遺産分割の対象となる」とした上,本件定額郵便貯金は,いずれも預入の日から10年を経過していないから,遺産分割の対象として扱うのが相当であるとして,原審判を取り消し,遺産分割審判に代わる裁判をした(4人の子が夫にその相続分の全部を譲渡し,相続分が夫10分の9,相手方10分の1となったことを踏まえて,額面額100万円の定額郵便貯金を相手方に,額面額550万円および350万円の定額郵便貯金を夫に取得させる)。
共同相続人の一人が相続分に応じた定額郵便貯金の払戻請求をできるかについては,これまでにも幾つかの判例がみられるが(肯定・否定の両方があるが,否定するのが判例の最近の傾向のように思われる)
最判平17.12.15―A名義の不動産につきB,Yが順次相続したことを原因として直接Yに対して所有権移転登記がされている場合において,Aの共同相続人であるXが上記登記の全部抹消を求めることできるとされた事例
原審は,このような場合,全部抹消ではなく,Yの共有持為を除くその余の部分についてのみ一部抹消のための更正管記手続を求めることができるにすぎないとした。これに対して,本判決は,Yを登記名義人とする本件登記を,@(Yが含まれない)Aの相続人を名義人とする登記と,ABの相続人を名義人とする登記に更正することは,@の登記と本件登記名義人が異なることになり,また,更正によって登記の個数が増えることにもなるため,本件登記と更正後の登記は「同一性」(最判平12.1.27)を欠くといわざるを得ず,上記更正登記手続は認められないと判示した。
大阪高裁平17.11.9―遺言執行者の解任事由
相続財産目録作成義務及ぴ事務処理状況報告義務を懈怠し、かつ公平性及び信頼性に疑問がある遺言執行者について、民法1019条により遺言執行者の任務を解任すべき正当な事由があるとして、解任の裁判をした事例
東京高決平17.10.27―共同相続人の1人が受領した巨額の死亡保険金が,特別受益に準じて持戻しの対象となるとされた遺産分割審判事例
被相続人Aの子であるX(抗告人)は,Aが契約した複数の生命保険により1億円余の保険金を受領したが,本決定は,@この額は遺産の総額(1億円余)に匹敵する巨額であること,A受取人がAの妻からXに変更がなされた当時,XがAと同居しておらず,A夫婦の扶養や療養介護を託するといった明確な意図も認められないことなどから,当該保険金は,特別受益に準じて持戻しの対象となるとして,Xの抗告を棄却した。
長崎地判平17.10.18―遺産分割前における可分債権の行使は許されるかについての事例
相続財産中の可分債権について,その帰属者および帰属の範囲が未確定であったとしても,共同相続人の一人が調停期日に出頭せず,遺産分割の対象とされる余地がないときは,各共同相続人は,その法定相続分に応じて独立にその債権を取得し,行使することができると判示。
最三小判平17.10.11―相続が開始して遺産分割未了の間に第2次の相続が開始した場合において第2次被相続人から特別受益を受けた者があるときの持戻しの要否
共同相続人であるXとYの父親Aが死亡し,未だその遺産分割が未了の間に母親Bが死亡した。Aは,Xに対し特別受益財産を与えていた。Bは,その固有財産である不動産をYに遺贈したため,Aからの相続財産以外には,固有財産を有しなくなっていた。このような事案において,原審裁判所は,Aの遺産に対するBの相続分はAの遺産を取得することができるという抽象的な法的地位であって,遺産分割の対象となり得る財産権ではないので,遺贈により固有財産が皆無となったBに係る遺産分割の申立ては不適法であり,Yの特別受益を考慮する場面はないとして却下し,Aの遺産についてのみ,Xの特別受益を考慮して遺産の分割を行った。Xから許可抗告がなされ,最高裁は,「Bは,Aの相続の開始と同時に,Aの遺産について相続分に応じた共有持分権を取得しており,これはBの遺産を構成するものであるから,これをBの共同相続人である抗告人及び相手方らに分属させるには,遺産分割手続を経る必要があり,共同相続人の中にBから特別受益に当たる贈与を受けた者があるときは,その持戻しをして各共同相続人の具体的相続分を算定しなければならない。」と判示した。
最一小判平17.9.8―共同相続に係る不動産から生ずる賃料債権と遺産分割
・概要
X〔原告〕は平成八年一○月に死亡したAの後妻であり、Y、B、C、D(以下ではYら〔被告〕と呼ぶ)は、Aとその前妻との間の子である。Aの遺産としては別紙遺産目録記載の各不動産がある。XおよびYらは、本件各不動産から生ずる賃料、管理費等について、遺産分割により本件各不動産の帰属が確定した時点で清算することとし、それまでの期間に支払われる賃料等を管理するための銀行口座(本件口座)を開設し、本件各不動産の貸借人らに賃料を本件口座に振り込ませ、またその管理費等を本件口座から支出してきた。大阪高裁は平成一二年二月二日に、本件各不動産につき遺産分割をする旨の決定をし、翌日、本件遺産分割決定は確定した。
本件口座の残金二億円の清算方法についてXとYらとの間に紛争が生じた。Xは本件各不動産から生じた賃料債権は、相続開始の時に遡って、本件遺産分割決定により本件各不動産を取得した各相続人にそれぞれ帰属するものとして分配額を算定すべきであると主張した。これによれば、残金のうち一億九千万円がXの取得すベきものとなる。Yらは、本件各不動産から生じた賃料債権は、本件遺産分割決定確定の日までは法定相続分にしたがって各相続人に帰属し、本件遺産分割決定確定の日の翌日から本件各不動産を取得した各相続人に帰属するものとして分配額を算定すベきであると、主張した。これによればXの取得すベきものは約一億円となる。
XとYらは、本件口座の残金につき、各自が取得することに争いのない金額の範囲で分配し、争いのある金員をXが保管し、その帰属を訴訟で確定することを合意した。XはYらに対し、X主張の計算方法によれば、本件保管金はXの取得すべきものであると主張して、本件保管金および遅延損害金の支払を求めた。
第一審大阪地裁判決は、「遺産から生じる法定果実は、それ自体は遺産でないが、遺産の所有権が帰属する者にその果実を取得する権利もまた帰属するのであるから(民法八九条二項)、遺産分割が遡及効を有する以上、遺産分割の結果、ある財産を取得した者は、被相続人が死亡した時以降のその財産から生じた法定果実を取得することができる」として、Xの請求を認容した。原審大阪高裁も、同様に「特段の事情のない限り、上記遺産分割の審判(本件決定)が確定したことにより、本件不動産に係る賃料は、民法の規定(八九六条、九〇九条本文、八九条二項)に従い、当該各不動産の取得者に確定的に帰属するに至ったものと解するのが相当」と述べた。
・裁判所の判断
Yらが上告し、最高裁は原審判決を破棄差し戻した。「遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として、確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力費生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというベきである。
したがって、相続開始から本件遺産分割決定が確定するまでの間に本件各不動産から生じた賃料債権は、X及びYらがその相続分に応じて分割単独債権として取得したものであり、本件口座の残金は、これを前提として清算されるべきである。」
最判平17.7.22―遺言の解釈をめぐって,遺言者のいわゆる「藁の上の養子」が受遺者と解しうるかが争われた事例
AB夫婦は子に恵まれなかったため,Aの兄C夫婦に生まれたYを実子として養育する意図で,AB夫婦の嫡出子として出生の届出をした。Aは,B死亡後,自筆証書遺言を作成しており,その1項から3項までには,Aの遺産のうち特定の不動産等について特定の親族を指定して贈与する等の記載がされていたが,4項には「遺言者は法的に定められたる相続人を以って相続を与へる。」と記載されていた。
Aが死亡したところ,Aの弟ら(Xら)がYに対して,Aの遺産のうち遺贈等の対象外とされたものについて相続により取得したと主張して持分の確認を求めた。これに対して,Yは,Aの自筆証書遺言によってAの遺産を遺贈されたと主張して遺産に属する土地の所有権確認等を求めた。
原判決は,Aの遺言書中「法的に定められたる相続人」は,Yを指すものでもYを積極的に排斥するものでもなく,単に法定相続人を指すものと解するのが相当として,Xらの請求を認容した。
これに対して本判決は,AがYをA夫婦の実子として養育する意図で嫡出子としての出生届を出したこと,YはA夫婦に引き取られた後Aが死亡するまでの約39年間,実の親子同様の生活をしていたこと,本件遺言書作成時,Yが戸籍上Aの唯一の相続人であったことに鑑みると,Aとしては,相続人はYのみであるとの認識で,Aの遺産のうち遺言害1項から3項までに記載のもの以外はすべてYに取得させるとの意図の下に本件遺言書を作成したと解する余地が十分にあるとして,原判決を一部破棄し,原審に差し戻した。
最二小判平17.7.11―相続財産の事例
銀行が相続財産である預金債権の全額を共同相続人の一部に払い戻した場合について,他の共同相続人にその法定相続分相当額の預金の支払いをした後でなくても,当該銀行には民法703条所定の「損失」が発生するものとされた事例
東京高裁平18.6.29―遺言者が公正証書遺言を取り消すとの死亡危急遺言をしてから6か月以上生存していた
遺言者が公正証書遺言を取り消すとの死亡危急遺言をしてから6か月以上生存していたが,死亡危急遺言は失効せず、公正証書遺言の効力が復活するものではないとされた事例
東京高判平17.6.22―被相続人名義で契約されていた養老保険が遺言書記載の「預託財産」に該当するとされた事例
不動産についてそれぞれの相続人に相続させる旨の条項があり,「金融機関に預託中の預貯金・信託・有価証券・その他遺言者名義の一切の預託財産を金銭に換価し,遺言執行費用を控除した残余額を各共同相続人に特定の割合で相続させる」旨の条項,および「その他の財産はすべて控訴人に相続させる」。旨の条項があったため,養老保険は前者に属して各共同相続人が一定割合で相続するのか,後者に属して控訴人が単独で相続することになるのかが問題となり,養老保険の満期保険金や解約返戻金の全額を取得していた控訴人に対して,その他の共同相続人から,不当利得を理由とする返還請求が提起されたのである。ところで,本件では遺言執行者(信託銀行)の指定がなされている。判決文からは事案の詳細が不明であるが,おそらく遺言執行者は,養老保険は「預託財産」に属さないと判断して,控訴人に取得させたのであろうと思われる。しかし,本件判決は,遺言執行者の判断を否定した結果となっている。
最決平17.5.20―預金者の共同相続人の1人が預金先の銀行に対して預金口座の取引経過明細の開示を求めた事例において,これを否定した原判決に対する上告・上告受理申立てを棄却・不受理とした事例
原審決定(東京高決平14.12.4)は,預金口座の取引経過明細の開示を受け得る地位は,一個の預金契約ごとに一個であって,これを可分のものと観念することはできないから,いまだ遺産分割等が行われていない段階においては,共同相続人の1人が単独で銀行に対しその開示を請求することはできない,としていた。
本決定は,本件上告理由が民訴312条1項または2項に規定する事由に該当せず,また,上告受理申立てについて,民訴318条1項により受理すべきものとは認められないとした。これにより,取引経過明細開示請求に関して最高裁の判断が示されたことになる。
同種の事件につき,東京地判平15.8.29は,各共同相続人単独での開示請求を認めていた。
東京地判平17.4.27―被相続人の死亡による退職金の請求とその帰属が争点の一つとされた事例
Aは,義兄Yが経営するT病院で事務長として働いていたが,平成13年10月に死亡した。そこで,Aの妻子であるXらは,Yに対して退職金の支払い等を求めたところ(退職金に関しては,その受給権は妻Xにあると主張),Yは,退職金支払規程が存在しないなどとして支払い存拒否したため,本訴が提起された。
本判決は,Yにおいて退職金支払規程が作成されていないと認定し,就業規則に基づく退職金の支払い請求には理由がない,としたが,現に退職者の大半が退職金を受領していることから,「退職金を支払う慣行が存在していたと推認するのが相当」と判示した。その上で,退職金の受領権者を定めた規定又は慣行が存在しない場合は,亡Aの退職金支払請求権は亡Aの相続人に帰属すると解するのが相当とした。
広島高裁岡山支決平17.4.11―遺産分割事件における抗告審決定である。(本件では,いわゆる「相続させる」旨の遺言により相続人の1人が承継した財産が特別受益にあたるかが争点とされた。)
原審判が,「相続させる」旨の遺言は遺贈ではないとして,これを否定したところ,本決定は,「相続させる」趣旨の遺言による特定の遺産承継について,特定遺贈がある場合と状況が類似しているから,903条1項の類推適用により,特別受益の持戻しと同様の処理をすべきであると判示して,原審判を変更した。
長野地諏訪支判平17.1.27―遺留分権利者の価額弁償請求訴訟において,弁償金に対する遅延損害金の起算点は,弁償金の支払いを命じた判決が確定した時であると判示したもの
「遺留分減殺請求権者(原告)が価額弁償を求めることができるのは,受遺者(被告)が価額弁償による清算を求めたことが前提となるから,遺留分減殺請求権を行使したとき…から清算金について遅滞に陥ると考えるのは相当でない。また,受遣者が価額弁償を申し出た場合,裁判所は,事実審口頭弁論終結時を算定基準として弁償額を定めた上,受遺者が弁償額を支払わなかったことを条件として, 目的返還請求を命ずるのが原則であるから,かかる原則との均衡を考えるならぱ,受遺者が価額弁償を申し出たときに清算金について遅滞に陥ると考えるのも相当でない。,「弁償額は事実審口頭弁論終結時を基準として算定され,かつ,清算金の支払は裁判所が判決により命ずることになること,また,原則的な判決主文の場合には遅延損害金は付されることはなく,受遺者は判決確定後直ちに弁償額を支払えば足りることになっていることとの均衡を考えるなら,遅延損害金の起算点は,清算金の支払を命じた判決が確定した時とするのが相当と考え」るとして,遺留分減殺請求をした時からの遅延損害金の請求を一部棄却している。
釧路家北見支審平17.1.26―遺言執行者による推定相続人廃除請求を認めた事例
妻の遺言執行者が夫を相手方として申し立てた推定相続人廃除申立事件において,夫は,末期がんを宣告された妻が手術後自宅療養中であったにもかかわらず,療養に極めて不適切な環境を作出し,妻にこの環境の中での生活を強いたり,その人格を否定する発言をするなどしており,このような行為は虐待と評価するほかなく,その程度も甚だしいところ,妻は死亡するまで夫との離婚につき強い意思を有し続けていたといえるから,廃除を回避すべき特段の事情も見当たらないとして,その申立てを認容した。
福岡高決平16.12.28―特別縁故者への相続財産分与申立事件における抗告審決定
本件抗告人(申立人)は,死亡したBの叔母であるが,Bに相続人のあることが明らかでないとして,相続財産管理人の選任を申し立てた。その申立書には,「申立人は,Bと姉弟のように暮らし,Bが死亡するまで生活上の世話をし,死亡後は葬儀を行ったり,遺産の管理もしている。今後,特別縁故者として相続財産の分与を請求する予定である。」旨記載されていた。しかし,最終的に本件の財産分与の申立てがあったのは,958条の公告期間満了日から3ケ月(958条の3第2項)以上を経過した時点であったため,原審判は申立てを却下した。これに対して抗告人は,特別縁故者の資格で相続財産管理人の選任申立てを行っているから,その選任申立てをもって相続財産分与の申立てと評価すべきである等と主張して即時抗告をした。
本決定は,相続財産管理人の選任と特別縁故者への相続財産分与が法律上も明らかに別個の手続とされており,手続の明確性,安定性の見地からも,抗告理由は採用できないとして,本件抗告を棄却した。
高松高判平16.12.17―遺産確認請求事件の控訴審判決
被相続人の占有により土地の取得時効が完成した場合において,共同相続人の1人が取得時効を援用したとき,その相続分の限度で時効取得された権利(土地の持分)は,遺産分割までは共同相続人全員の共有になると判示した。すでに最判平13.7.10が,共同相続人の1人は自己の相続分の限度においてのみ取得時効を援用できるとしていた。
福岡高決平16.11.30―相続放棄申述が錯誤により無効であることを理由とする相続放棄の取消しの申述を不適法とした例
相続財産のすべてを被相続人の妻(他の共同相続人の母親)が相続する旨の協議がまとまり,子らは相続放棄の申述を行った。ところが被相続人の生前交流がほとんどなかった兄弟がおり,子らの相続放棄の結果この者が相続することとなった。そこで,相続放棄をした子の1人が,相続放棄は錯誤であるという理由で家裁に放棄の申述の取消しを求めた。家裁が却下したので抗告。
高裁は次のように判示する。「相続放棄の無効事由を主張して,家庭裁判所にその相続放棄の取消しの申述の受理を求めることができないと解しても,相続放棄に法律上無効原因があるとしてその無効を主張する利益がある者は,別途訴訟でそれを主張して争う途が用意されているのであるから,同人に,実体法上も,手続法上も,看過すべからざる格別の不利益をもたらすものではない。
実体法上の規定がないにもかかわらず,敢えて,解釈上,民法919条1,3項および家事審判法9条1項甲類25号の2を類推適用して,相続放棄の無効の申述を受理すべきであるとしなければならない必要性は見当たらない」と。
確かに遺産分割の前提問題として相続人の確定があり,相続人であることの確認をすればよい。
福岡高判平16.11.30―相続財産である預金債権につき,相続人の1人が他の相続人に対して,法定相続分に応じた帰属の確認を求めた事件の控訴審判決
本判決は,被告が原告の相続権を争っていないこと,可分債権は相続開始と同時に当然に相続分に応じて各共同相続人に分割帰属するから,原告としては,その相続分に応じて債務者である金融機関に直接支払いを求めれば十分であること,などを理由として,確認の利益がないとし,訴えを却下している。
本判決は,金融機関が相続人から預金の払戻請求を受けた場合について,預金者の死亡の記載がある戸籍謄本,相続人全員の戸籍謄本(相続関係を確認できる除籍謄本を含む)等の提出があれば、それ以上に金融機関には調査義務はないと説示している。
和歌山家審平16.11.30―母が長男を推定相続人から廃除する申立てが認容された事例
@相手方Y(長男)は申立人X(母)の承諾なくその郵便貯金3500万円余の払戻しを受け(著しい非行),AYは,Xに対して継続的に暴力を加えており(虐待),BYは,根拠もなく,Xの精神障害ないし人格異常という主張ないし行動を続けていること(重大な侮辱)からすれば,XとYの相続的協同関係は破壊されたものと評価することができるとし,Xの申立てを認容した。
和歌山家裁16.11.30審判―推定相続人の廃除事由
推定相続人廃除申立事件において、相手方は,過去に申立人に対し継続的に暴力を加え、現在に至るまで申立人に精神障害ないし人格異常があるとの主張や行動を繰り返すほか申立人に無断で同人の3500万円を超える多額の貯金を払い戻し,これを取得しているのにもかかわらず返済する意思もないことなどからすると,これらの行為により相続的協同関係は破壊されるに至ったことば明らかであり,上記行為は、申立人に対する虐待,重大な侮辱及び著しい非行に該当するとして,その申立てを認容した事例
最高裁平16.10.29第二小法廷決定―被相続人を保険契約者およぴ被保険者とし共同相続人の1人または一部の者を保険金受取人とする養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権
被相続人を保険契約者およぴ被保険者とし共同相続人の1人または一部の者を保険金受取人とする養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権は民法903条1項に規定する遺贈または贈与に係る財産には当たらないが、保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率、保険金受取人である相続人および他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して,保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,同条の類推適用により,特別受益に準じて持戻しの対象となる
京都地裁平16.8.9―遺言書が数葉にわたる場合であっても,その数葉が1通の遺言書として作成されている
遺言書が数葉にわたる場合であっても,その数葉が1通の遺言書として作成されているときは,そのうちの1葉に日付、署名、押印がされていれば足りるとされた事例
東京地判平16.7.7―弁護士の立会いのもとで作成された自筆証書遺言につき,遺言者に遺言能力が欠けていたとして,遺言の無効等が争われた事例
本判決は,本件遺言前後の遺言者の生活状況,遺言の作成経緯,鑑定意見書を検討し,遺言者が脳血管性痴呆により遺言能力を欠いていたとして,本件遺言は無効と判示している。
名古屋地裁平16.6.18―相続開始後に遺産から生ずる賃料および厚生年金を原資とする預金
相続開始後に遺産から生ずる賃料および厚生年金を原資とする預金は遺産と別個の財産であり可分債権であるから共同相続人はその相続分に応じ分割取得するとされた事例
東京高裁平16.5.7―遺言執行者に対する報酬付与の申立てを認容した原審判に対する即時抗告審
遺言執行者に対する報酬付与の申立てを認容した原審判に対する即時抗告審において,家事審判法14条は家事審判に対する不服申立ての方法を即時抗告のみとしそれを最高裁判所規則の定める場合に限定しているところ,家事審判規則は家事審判法9条1項甲類36号による遺言執行者に対する報酬付与審判については即時抗告を認めていないので,同審判に対して即時抗告をすることは許されないとして、遺言者の相続人からの即時抗告を却下した事例
福岡高裁平16.3.16―被相続人の死亡後,1年2か月経過した後にした相続放棄の申述
被相続人の死亡後,1年2か月経過した後にした相続放棄の申述が、抗告審において認められた事例
東京地裁平15.11.17判決―被相続人の子(原告)が、被相続人から本件土地を遺贈された子(被告)に対して遺留分の減殺を求めた事案
被相続人の子(原告)が、被相続人から本件土地を遺贈された子(被告)に対して遺留分の減殺を求めた事案において,原告と被相続人との間には本件土地等につき建物所有を目的とする使用貸借契約が成立しており、その使用期間中の使用による利益(賃料相当額)については,使用賃借権の価格に織り込まれていると見るのが相当であるが、相続開始時における同使用賃借権の評価額等からすれば、このような使用貸借契約の締結(使用賃借権の贈与)はまさに原告に対する生計の資本の贈与であり、特別受益に当たるとした上、その価額を遺留分算定の基礎となる相続財産に加えると、原告の持戻し分は同人の遺留分価格を上回っており,その遺留分は侵害されていないとして、原告の請求を棄却した事例
金沢地裁平15.9.8―相続人から遺留分減殺請求
相続人から遺留分減殺請求により価額弁償を受けた者に対する相続税法34条1項の相続税連帯納付義務に基づく督促処分の取消請求が棄却された事例
名古屋高決平15.3.17―遺産全部について,民法907条3項の「特別の事由」があるとされた事例
「特別の事由」とは以下のような事情がある場合であると解している。(1)事件全体からみて重要な前提事項に争いがあり,その前提問題に非訟手続にはなじまないような紛争性が認められること,(2)前提問題の訴訟が相当程度長期化することが予想されること,(3)前提問題の訴訟がその判決の確定など一定の段階に達した後に,遺産分割について解決を図ることが当事者の共通の利益となること,(4)一部分割を行うことが相当である場合に当たらないこと。
本件においては,これらのすべての事情が認められるとして,遺産分割を禁じた原審判は正当であると判示している。本件は,昭和62年9月に開始した相続につき,翌昭和63年2月に東京家庭裁判所へ遺産分割調停の申立てがなされ,5回の調停期日ののち,同年10月に審判へ移行したが,同年11月に津家庭裁判所へ移送され,平成14年12月20日に分割禁止の審判が出され,その審判に対する即時抗告事件である。津家庭裁判所で分割禁止の審判が出されるまでに14年間を要している。
最高裁第三小平成12.7.11―土地建物共有物分割等請求事件(価額弁償―目的財産の各個につき許される)
一 遺留分減殺の対象とされた贈与等の目的である各個の財産について価額弁償をすることの可否
受贈者又は受遺者は、遺留分減殺の対象とされた贈与又は遺贈の目的である各個の財産について、民法一〇四一条一項に基づく価額弁償をすることができる。
二 共有株式につき新たに単位未満株式を生じさせる現物分割を命ずることの可否
いわゆる単位株制度の適用のある株式の共有物分割において、新たに単位未満株式を生じさせる現物分割を命ずることはできない。
「受贈者または受遺者は,民法1041条1項に基づき,減殺された贈与又は遺贈の目的たる各個の財産について,価額を弁償して,その返還義務を免れることができるものと解すペきである。」「なぜならば,遺留分権利者のする返還請求は権利の対象たる各財産について観念されるのであるから,その返還義務を免れるための価額の弁償も返還請求に係る各個の財産についでなし得るものというぺきであり,また,遺留分は遺留分算定の基礎となる財産の一定割合を示すものであり,遺留分権利者が特定の財産を取得することが保障されているものではなく(民法1028条ないし1035条参照),受贈者又は受遺者は,当該財産の価額の弁償を現実に履行するか又はその履行の提供をしなければ,遺留分権利者からの返還請求を拒み得ないのであるから(最高裁昭和54年7月10日第三小法廷判決),右のように解したとしても,遺留分権利者の権利を害することにはならないからである。このことは,遺留分減殺の目的がそれぞれ異なる者に贈与又は遺贈された複数の財産である場合には,各受贈者又は各受遺者は各別に各財産について価額の弁償をすることができることからも肯認できるところである。そして,相続財産全部の包括遺贈の場合であっても,個々の財産についてみれば特定遺贈とその性質を異にするものではないから(最高裁平成8年1月26日第二小法廷判決),右に説示したことが妥当するのである。」
東京高裁平成12.3.8―遺留分減殺請求事件(減殺の順序―死因贈与の取扱い)
死因贈与は、遺贈に次いで、生前贈与より先に、遺留分減殺の対象とすべきである。
「解する余地もないではないが,他方,死因贈与も,生前贈与と同じく契約締結によって成立するものであるという点では,贈与としての性質を有していることは否定すべくもないのであるから,死因贈与は,遺贈と同様に取り扱うよりはむしろ贈与として取り扱うのが相当であり,ただ民法1033条及ぴ1035条の趣旨にかんがみ,通常の生前贈与よりも遺贈に近い贈与として,遺贈に次いて,生前贈与より先に減殺の対象とすべきものと解するのが相当である。そして,特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言(以下「相続させる遺言」という。)による相続は,右の関係では遺贈と同様に解するのが相当であるから,本件においては,まず,Bに対する相続させる遺言による相続が減殺の対象となるぺきものであり,それによってXらの遺留分が回復されない場合に初めて,Yに対する死因贈与が減殺の対象になる」。
最高裁第一小平成12.2.24―具体的相続分確認請求事件(具体的相続分の価額又は割合の確認の利益)
「民法903条1項は,共同相続人中に,被相続人から,遺贈を受け,又は婚姻,養子縁組のため若しくは生計の資本としての贈与を受けた者があるときは,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし,法定相続分又は指定相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除し,その残額をもって右共同相続人の相続分(以下「具体的相続分」という。)とする旨を規定している。具体的相続分は,このように遺産分割手続における分配の前提となるべき計算上の価額又はその価額の遺産の総額に対する割合を意味するものであって,それ自体を実体法上の権利関係であるということはできず,遺産分割審判事件における遺産の分割や遺留分減殺請求に関する訴訟事件における遺留分の確定等のための前提問題として審理判断される事項であり,右のような事件を離れて,これのみを別個独立に判決によって確認することが紛争の直接かつ抜本的解決のため適切かつ必要であるということはできない。
したがって,共同相続人間において具体的相続分についてその価額又は割合の確認を求める訴えは,確認の利益を欠くものとして不適法であると解すぺきである。」
最高裁第一小平成11.12.16―土地所有権移転登記手続請求及ぴ独立当事者参加並びに土地共有持分存在確認等請求事件(相続させる」旨の遺言ある場合の遺言執行者の職務権限)
特定の不動産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言がされた場合において他の相続人が相続開始後に当該不動産につき被相続人からの所有権移転登記を経由しているときの遺言執行者の職務権限
特定の不動産を特定の相続人甲に相続させる趣旨の遺言がされた場合において、他の相続人が相続開始後に当該不動産につき被相続人から自己への所有権移転登記を経由しているときは、遺言執行者は、右所有権移転登記の抹消登記手続のほか、甲への真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めることができる。
「特定の不動産を特定の相続人甲に相続させる趣旨の遺言(相続させる遺言)は,……即時の権利移転の効力を有するからといって,当該遺言の内容を具体的に実現するための執行行為が当然に不要になるというものではない。
そして,不動産取引における登記の重要性にかんがみると,相続させる遺言による権利移転について対抗要件を必要とすると解すると否とを問わず,甲に当該不動産の所有権移転登記を取得させることは,民法1012条1項にいう『遺言の執行に必要な行為』に当たり,遺言執行者の職務権限に属するものと解するのが相当である。もっとも,登記実務上,相続させる遺言については不動産登記法27条により甲が単独で登記申請をすることができるとされているから,当該不動産が被相続人名義である限りは,遺言執行者の職務は顕在化せず,遺言執行者は登記手続をすべき権利も義務も有しない(最高裁平成7年1月24日第三小法廷判決)。しかし,本件のように,甲への所有権移転登記がされる前に,他の相続人が当該不動産につき自己名義の所有権移転登記を経由したため,遺言の実現が妨害される状態が出現したような場合には,遺言執行者は,遺言執行の一環として,右の妨害を排除するため,右所有権移転登記の抹消登記手続を求めることができ,さらには,甲への真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めることもできると解するのが相当である。この場合には,甲において自ら当該不動産の所有権に基づき同様の登記手続請求をすることができるが,このことは遺言執行者の右職務権限に影響を及ぼすものではない。」
最高裁第一小平成11.6.24―遺留分減殺請求事件(遺留分減殺の目的物についての取得時効の援用と減殺請求)
遺留分減殺の対象としての要件を満たす贈与に基づき目的物を占有した者の取得時効の援用と減殺請求による遺留分権利者への右目的物についての権利の帰属
遺留分減殺の対象としての要件を満たす贈与を受けた者が、右贈与に基づいて目的物の占有を取得し、民法一六二条所定の期間、平穏かつ公然にこれを継続し、取得時効を援用したとしても、右贈与に対する減殺請求による遺留分権利者への右目的物についての権利の帰属は妨げられない。
「被相続人がした贈与が遺留分減殺の対象としての要件を満たす場合には,遺留分権利者の減殺請求により,贈与は遺留分を侵害する限度において失効し,受贈者が取得した権利は右の限度で当然に右遺留分権利者に帰属するに至るものであり(最高裁昭和41年7月14日第一小法廷判決,最高裁昭和51年8月30日第二小法廷判決),受贈者が,右贈与に基づいて目的物の占有を取得し,民法162条所定の期聞,平穏かつ公然にこれを継続し,取得時効を援用したとしても,それによって,遺留分権利者への権利の帰属が妨げられるものではないと解するのが相当である。けだし,民法は,遺留分減殺によって法的安定が害されることに対し一定の配慮をしながら(1030条前段,1035条,1042条等),遺留分減殺の対象としての要件を満たす贈与については,それが減殺請求の何年前にされたものであるかを問わず,減殺の対象となるものとしていること,前記のような占有を継続した受贈者が贈与の目的物を時効取得し,減殺請求によっても受贈者が取得した権利が遺留分権利者に帰属することがないとするならば,遺留分を侵害する贈与がされてから被相続人が死亡するまでに時効期間が経過した場合には,遺留分権利者は,取得時効を中断する法的手段のないまま,遺留分に相当する権利を取得できない結果となることなどにかんがみると,遺留分減殺の対象としての要件を満たす贈与の受贈者は,減殺請求がされれば,贈与から減殺請求までに時効期間が経過したとしても,自己が取得した権利が遺留分を侵害する限度で遺留分権利者に帰属することを容認すべきであるとするのが,民法の趣旨であると解されるからである。」
最高裁第ニ小平成11.6.11―貸金及ぴ詐害行為取消請求事件(遺産分割協議と債権者取消権)
遺産分割協議と詐害行為取消権
共同相続人の間で成立した遺産分割協議は、詐害行為取消権行使の対象となる。
「共同相続人の間で成立した遺産分割協議は,詐害行為取消権行使の対象となり得るものと解するのが相当である。けだし,遺産分割協議は,相続の開始によって共同相続人の共有となった相続財産について,その全部又は一部を,各相続人の単独所有とし,又は新たな共有関係に移行させることによって,相続財産の帰属を確定させるものであり,その性質上,財産権を目的とする法律行為であるということができるからである。そうすると,前記の事実関係の下で,Xは本件遺産分割協議を詐害行為として取り消すことができるとした原審の判断は,正当として是認することができる。……所論引用の判例は,事案を異にし本件に適切でない。」
最高裁第一小平成11.1.21―根抵当権設定仮登記本登記手続請求事件(相続財産法人に対する相続債権者からの抵当権設定登記手続請求の可否)
民法929条但書にいう「『優先権を有する債権者の権利』に当たるというためには,対抗要件を必要とする権利については,被相続人の死亡の時までに対抗要件を具備していることを要すると解するのが相当である。相続債権者間の優劣は,相続開始の時点である被相続人の死亡の時を基準として決するのが当然だからである」。
「したがって,相続人が存在しない場合には(限定承認がされた場合も同じ。),相続債権者は,被相続人からその生前に抵当権の設定を受けていたとしても,被相続人の死亡の時点においぜ設定登記がされていなければ,他の相続債権者及ぴ受遺者に対して抵当権に基づく優先権を対抗することができないし,被相続人の死亡後に設定登記がされたとしても,これによって優先権を取得することはない」。
「相続財産の管理人は,すべての相続債権者及ぴ受遺者のために法律に従って弁済を行うのであるから,弁済に際して,他の相続債権者及ぴ受遺者に対して対抗することができない抵当権の優先権を承認することは許されない。そして,優先権の承認されない抵当権の設定登記がされると,そのことがその相続財産の換価(民法957条2項において準用する932条本文)をするのに障害となり,管理人による相続財産の清算に著しい支障を来すことが明らかである。したがって,管理人は,被相続人から抵当権の設定を受けた者からの設定登記手続請求を拒絶することができるし,また,これを拒絶する義務を他の相続債権者及ぴ受遺者に対して負うものというぺきである」。
民法は,相続人のあることが明らかでないときは,相続財産を法人とし(951条),利害関係人または検察官の請求によって家庭裁判所の選任する相続財産の管理人(952条)が相続財産の清算を行うこととしている。法定相続人全員の放棄等のために相続人が不存在となった場合も同様に扱われる(939条参照)。
相続財産の清算については,限定承認者による配当弁済に関する規定が準用される(957条2項)。すなわち,相続財産から各相続債権者にはその債権額の割合に応じて弁済がなされるが,そのさいには優先権を有する債権者の権利を害することができないとされる(929条)。
相続債権者は、被相続人から抵当権の設定を受けていても、被相続人の死亡前に仮登記がされていた場合を除き、相続財産法人に対して抵当権設定登記手続を請求することができない。
最高裁第三小平成10.3.24―遺留分滅殺請求本訴,損害賠償請求反訴事件(特別受益者ヘの贈与と遺留分減殺の対象)
特別受益となる贈与が相続人に対し相続開始の1年以上前に遺留分権利者を害することを知らずになされたという事案。,「相続人に対する贈与は右贈与が相続開始よりも相当以前になされたものであって,その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化をも考慮するとき,減殺請求を認めることが右相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り,民法1030条の定める要件を満たさないものであっても,遺留分減殺の対象となる。」「(持ち戻される)贈与のうち民法1030条の定める要件を満たさないものが遺留分減殺の対象とならないとすると,遺留分を侵害された相続人が存在するにもかかわらず、減殺の対象となるべき遺贈,贈与がないために右の者が遺留分相当額を確保できないことが起こり得るが,このことは遺留分制度の趣旨を没却する。」と判示
最高裁第一小平成10.2.26―遺留分減殺請求事件(相続人に対する遺贈と1034条の目的の価額)
相続人に対する遺贈が遺留分減殺の対象となる場合においては、右遺贈の目的の価額のうち受遺者の遺留分額を超える部分のみが、民法一〇三四条にいう目的の価額に当たる。
「相続人に対する遺贈が遺留分減殺の対象となる場合においては,右遺贈の目的の価額のうち受遺者の遺留分類を超える部分のみが,民法1034条にいう目的の価額に当たるものというべきである。ただし,右の場合には受遺者も遺留分を有するものであるところ,遺贈の全額が減殺の対象となるものとすると減殺を受けた受遺者の遺留分が侵害されることが起こり得るが,このような結果は遺留分制度の趣旨に反すると考えられるからである。そして,特定の遺産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言による当該遺産の相続が遺留分減殺の対象となる場合においても,以上と同様に解すぺきである。以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。」
最高裁第ニ小平成10.2.13―請求異議事件(限定承認をした相続人が死因贈与による不動産取得を相続債権者に対抗できるか)
不動産の死因贈与の受贈者が贈与者の相続人である場合において、限定承認がされたときは、死因贈与に基づく限定承認者への所有権移転登記が相続債権者による差押登記よりも先にされたとしても、信義則に照らし、限定承認者は相続債権者に対して不動産の所有権取得を対抗することができない。
「不動産の死因贈与の受贈者が贈与者の相続人である場合において,限定承認がされたときは,死因贈与に基づく限定承認者への所有権移転登記が相続債権者による差押登記よりも先にされたとしても,信義則に照らし,限定承認者は相続債権者に対して不動産の所有権取得を対抗することができないというべきである。けだし,被相続人の財産は本来は限定承認者によって相続債権者に対する弁済に充てられるべきものであることを考慮すると,限定承認者が,相続債権者の存在を前提として自ら限定承認をしながら,贈与者の相続人としての登記義務者の地位と受贈者としての登記権利者の地位を兼ねる者として自らに対する所有権移転登記手続をすることは信義則上相当でないものというベきであり,また,もし仮に,限定承認者が相続債権者による差押登記に先立って所有権移転登記手続をすることにより死因贈与の目的不動産の所有権取得を相続債権者に対抗することができるものとすれば,限定承認者は,右不動産以外の被相続人の財産の限度においてのみその債務を弁済すれば免責されるばかりか,右不動産の所有権をも取得するという利益を受け,他方,相続債権者はこれに伴い弁済を受けることのできる額が減少するという不利益を受けることとなり,限定承認者と相続債権者との間の公平を欠く結果となるからである。そして,この理は,右所有権移転登記が仮登記に基づく本登記であるかどうかにかかわらず,当てはまるものというぺきである。」
最高裁第三小平成9.1.28―相続権不存在確認等,所有権移転登記抹消登記手続請求事件(遺言書の破棄・隠匿行為と相続欠格)
「相続人が相続に関する被相続人の遺言書を破棄又は隠匿した場合において,相続人の右行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、右相続人は,民法891条5号所定の相続欠格者には当たらないものと解するのが相当である。けだし,同条5号の趣旨は遺言に関し著しく不当な干渉行為をした相続人に対して相続人となる資格を失わせるという民事上の制裁を課そうとするところにあるが(最高裁昭和55年(オ)第596号同56年4月3日第二小法廷判決),遺言書の破棄又は隠匿行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは,これを遺言に関する著しく不当な干渉行為ということはできず,このような行為をした者に相続人となる資格を失わせるという厳しい制裁を課することは,同条5号の趣旨に沿わないからである。」
遺言書を破棄し,または隠匿する行為であっても,相続に関して不当な利益を目的とするものでないときは相続欠格事由(民法891条5号)にあたらないと判示した
最高裁第三小平成8.12.17―土地建物共有物分割等請求事件(遺産たる建物の相続開始後の使用関係)
遺産である建物の相続開始後の使用について被相続人と相続人との間に使用貸借契約の成立が推認される場合
共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右の相続人との間において、右建物について、相続開始時を始期とし、遺産分割時を終期とする使用貸借契約が成立していたものと推認される。
「共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは,特段の事情のない限り,被相続人と右同居の相続人との間において,被相続人が死亡し相続が開始した後も,遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は,引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって,被相続人が死亡した場合は,この時から少なくとも遺産分割終了までの間は,被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり,右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続することになるものというぺきである。けだし,建物が右同居の相続人の居住の場であり,同人の居住が被相続人の許諾に基づくものであったことからすると,遺産分割までは同居の相続人に建物全部の使用権原を与えて相続開始前と同一の態様における無償による使用を認めることが,被相続人及ぴ同居の相続人の通常の意思に合致するといえるからである。
本件についでこれを見るのに,Yらは,Aの相続人であり,本件不動産においてAの家族として同人と同居生活をしてきたというのであるから,特段の事情のない限り,AとYらの間には本件建物について右の趣旨の使用貸借契約が成立していたものと推認するのが相当であり,Yらの本件建物の占有,使用が右使用貸借契約に基づくものであるならば,これによりYらが得る利益に法律上の原因がないということはできないから,Xらの不当利得返還請求は理由がないものというべきである。」
最高裁第三小平成8.11.26―遺留分減殺請求に基づく持分権確認並びに持分権移転登記手続請求事件
被相続人が相続開始時に債務を有していた場合における遺留分の侵害額の算定
被相続人が相続開始時に債務を有していた場合における遺留分の侵害額は、被相続人が相続開始時に有していた財産の価額にその贈与した財産の価額を加え、その中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し、それに法定の遺留分の割合を乗じるなどして算定した遺留分の額から遺留分権利者が相続によって得た財産の額を控除し、同人が負担すべき相続債務の額を加算して算定する。
「被相続人が相続開始の時に債務を有していた場合の遺留分の額は,民法1029条,1030条,1044条に従って,被相続人が相続開始の時に有していた財産全体の価額にその贈与した財産の価額を加え,その中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し,それに同法1028条所定の遺留分の割合を乗じ,複数の遺留分権利者がいる場合は更に遺留分権利者それぞれの法定相続分の割合を乗じ,遺留分権利者がいわゆる特別受益財産を得ているときはその価額を控除して算定すべきものであり,遺留分の侵害額は,このようにして算定した遺留分の額から,遺留分権利者が相続によって得た財産がある場合はその額を控除し,同人が負担すべき相続債務がある場合はその額を加算して算定するものである。」
最高裁第二小平成8.1.26―遺留分減殺請求事件(包括全部遺贈が減殺された場合に遺留分権利者に帰属する権利の性質)
遺言者の財産全部の包括遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しない。
「遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合,遺贈は遺留分を侵害する限度において失効し,受遺者が取得した権利は遺留分を侵害する限度で当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属するところ〔最判昭和51・8・30〕,遺言者の財産全部についての包括遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は,遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しないと解するのが相当である」。なぜなら,「特定遺贈が効力を生ずると,特定遺贈の目的とされた特定の財産は何らの行為を要せずして直ちに受遺者に帰属し,遺産分割の対象となることはなく,また,民法は,遺留分滅殺請求を減殺請求をした者の遺留分を保全するに必要な限度で認め(1031条),遺留分減殺請求権を行使するか否か,これを放棄するか否かを遺留分権利者の意思にゆだね(1031条,1043条)・減殺の結果生ずる法律関係を,相続財産との関係としてではなく,請求者と受贈者,受遺者等との個別的な関係として規定する(1036条,1037条,1039条,1040条,1041条参照)など,遺留分減殺請求権行使の効果が減殺請求をした遺留分権利者と受贈者,受遺者等との関係で個別的に生ずるものとしていることがうかがえるから,特定遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は,遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しなぃと解される。そして,遺言者の財産全部についての包括遺贈は,遺贈の対象となる財産を個々的に掲記する代わりにこれを包括的に表示する実質を有するもので,その限りで特定遺贈とその性質を異にするものではないからである」。よって,「原審の判断は結論において正当であ」る。
最高裁第ニ小平成6.6.24―遺言無効確認請求判決に対する上告申立事件(自筆証書遺言の方式―押印)
「遺言書本文の入れられた封筒の封じ目にされた押印をもって民法968条1項の押印の要件に欠けるところはないとした原審の判断は,正当として是認することができ」る。
民法968条1項によれば,自筆証書によって遺言をするには,遺言者が,その全文,日付及ぴ氏名を自署し,これに押印することを要するが,同条項が自筆証書遺言の方式として自署のほか押印を要するとした趣旨は,遺言の全文等の自署とあいまって遺言書の同一性及ぴ真意を確保するとともに,重要な文書については作成者が署名した上その名下に押印することによって文書の作成を完結させるという我が国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保するところにあると解されるから,押印を要する前記趣旨が損なわれない限り,押印の位置は必ずしも署名の名下であることを要しないものと解するのが相当であるとしたうえで,本件遺言書は,書簡形式の特殊な形熊のものであるところ,一般に書簡の場合,通常の手紙であれば封筒の封じ目に押印まではしないが,在中物が重要文書等であるときには封筒の封じ目に押印することがあり,この場合の押印の趣旨も,在中の重要文書等について差出人の同一性,真意性を明らかにするほか,文書等の在中物の確定を目的とし,かつ,それを明示することにあり,本件遺言書は書簡形式をとったため,本文には自署名下に押印はないが,それが遺言書という重要文書であったため封筒の封じ目の左右に押印したものと考えられるとして,本件遺言書は自筆証書遺言の性質を有するものであるということができ,かつ,その封筒の封じ目の押印は,これによって,直接的には本件遺言書を封筒中に確定させる意義を有するが,それは同時に本件遺言書が完結したことをも明らかにする意義を有しているものと解せられ,これによれば,前記押印は,自筆証書遺言方式として遺言書に要求される押印の前記趣旨を損なうものでないと判示
最高裁第三小平成5.10.19―遺言無効確認請求事件(カーボン複写による自筆証書遺言と自書の要件)
「本件遺言書は,Aが遺言の全文,日付及ぴ氏名をカーボン紙を用いて複写の方法で記載したものであるというのであるが,カーボン紙を用いることも自書の方法として許されないものではないから,本件遺言書は,民法968条1項の自書の要件に欠けるところはない。」
最高裁第一小平成5.1.21―貸金請求事件(無権代理人が本人を共同相続した場合における無権代理行為の効力)
無権代理人が本人を共同相続した場合には、共同相続人全員が共同して無権代理行為を追認しない限り、無権代理人の相続分に相当する部分においても、無権代理行為が当然に有効となるものではない。
「無権代理人が本人を他の相続人と共に共同相続した場合において,無権代理行為を追認する権利は,の性質上相続人全員に不可分的に帰属するところ,無権代理行為の追認は,本人に対して効力を生じていなかった法律行為を本人に対する関係において有効なものにするという効果を生じさせるものであるから,共同相続人全員が共同してこれを行使しない限り,無権代理行為が有効となるものではないと解すべきである。そうすると,他の共同相続人全員が無権代理行為の追認をしている場合に無権代理人が追認を拒絶することは信義則上許されないとしても,他の共同相続人全員の追認がない限り,無権代理行為は,無権代理人の相続分に相当する部分においても,当然に有効となるものではない。」
最高裁第三小平成5.1.19―地建物所有権移転登記抹消登記,遺言執行者の地位不存在確認請求事件(受遺者の選定を遺言執行者に委託した遺言の効力)
受遺者の選定を遺言執行者に委託する旨の遺言が有効とされた事例
受遺者の選定を遺言執行者に委託する旨の遺言は、遺産の利用目的が公益目的に限定されているため、右目的を達成することができる被選定者の範囲が国又は地方公共団体等に限定されているものと解されるときは、有効である。
「遺言の解釈に当たっては遺言書に表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すベきであるが,可能な限りこれを有効となるように解釈することが右意思に沿うゆえんであり,そのためには,遺言書の文言を前提にしながらも,遺言者が遺言書作成に至った経緯及ぴその置かれた状況等を考慮することも許されるものというぺきである。」「本件遺言は,右目的を達成するこどのできる団体等(原判決の挙げる国・地方公共団体をその典型とし,民法34条に基づぐ公益法人あるいは特別法に基づく学校法人,社会福祉法人等をも含む。)にその遺産の全部を包括遺贈する趣旨であると解するのが相当である。」「本件遺言執行者指定の遺言及ぴこれを前提にした本件遺言は,遺言執行者に指定したXに右団体等の中から受遺者として特定のものを選定することをゆだねる趣旨を含むものと解するのが相当である。」
「本件遺言は,本件遺盲執行者指定の遺言と併せれば,遺言者自らが具体的な受遺書を指定せず,その選定を遺言執行者に委託する内容を含むことになるが,〔中略〕本件においては,遺産の利用目的が公益目的に限定されている上,被選定者の範囲も前記の団体等に限定され,そのいずれが受遺者として選定されても遺言者の意思と離れることばなく,したがって,選定者における選定権濫用の危険も認められないのであるから,本件遺書は,その効力を否定するいわれはないものというべきである。」
東京高裁平成4.12.11―推定相続人廃除申立却下審判に対する抗告事件(廃除原因としての「重大な侮辱」)
本件は,夫婦であるX1(父-抗告人)及ぴX2(母-抗告人)が,その二女Y(相手方)に対し,Yの行状はたちの悪い親泣かせであり,廃除原因である「重大な侮辱」,「著しい非行」に当たるとして,推定相続人からの廃除を申し立てた事案である。
民法892条は「遺留分を有する推定相続人が,被相続人に対して虐待をし,若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき,又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは,被相続人は,その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる」と定める。被相続人は遺言で廃除の意思を表示することもできる(民法893条)。
「民法第892条にいう虐待又は重大な侮辱は,被相続人に対し精神的苦痛を与え又はその名誉を毀損する行為であって,それにより被相続人と当該相続人との家族的協同生活関係が破壊され,その修復を著しく困難ならしめるものをも含むものと解すべきである。」
「Yの小・中・高等学校在学中の一連の行動について,X1らは親として最善の努力をしたが,その効果はなく,結局,Yは,X1ら家族と価値観を共有するに至らなかった点はさておいても,右家族に対する帰属感を持つどころか,反社会的集団への帰属感を強め,かかる集団である暴力団の一員であった者と婚姻するに至り,しかもそのことをX1らの知人にも知れ渡るような方法で公表したものであって,Yのこれら一連の行為により,X.らが多大な精神的苦痛を受け,また,その名誉が毀損され,その結果X1らとYとの家族的協同生活関係が全く破壊されるに至り,今後もその修復が著しく困難な状況となっているといえる。」
最高裁第一小平成4.11.16―所得税再更正処分等取消請求事件(遺留分減殺請求に対する債額弁償の効力)
「原審の適法に確定した事実関係下において,本件土地の遺贈に対する遺留分減殺請求について,受遺者が価額による弁償を行ったことにより,結局,本件土地が遺贈により被相続人から受遺者に譲渡されたという事実には何ら変動がないこととなり,したがって,右遺留分減殺請求が遺贈による本件土地に係る被相続人の譲渡所得に何ら影響を及ぼさないこととなるとした原審の判断は,正当として是認することができ,原判決に所論の違法はない。」
「遺留分の減殺請求がされたことによりいったん失効した遺贈の効果が,価額弁償によって再度相続開始時にまで遡って復活し,遺贈の目的が被相続人から受遺者に直接移転することになるとする考え方の方が,価額弁償の効果について定めた民法1041条1項の規定の文書にも,遺贈の遺言をした被相続人の意思にもよく合致し,また,法律関係を簡明に処理し得るという点でも優れているものといえよう。価額弁償の価額算定の基準時の点については,公平の理念に基づく実質的な配慮から,特に現実の価額弁償時の価額をもって弁償を行わせるぺきこととしたものと考えることで足りるものというぺきであろう。」
最高裁第二小平成4.4.10日―保管金返還請求事件(遺産たる金銭と遺産分割前の相続人の権利)
「相続人は,遺産の分割までの間は,相続開始時に存した金銭を相続財産として保管している他の相続人に対して,自己の相続分に相当する金銭の支払を求めることはできないと解するのが相当である。……X1らの本訴請求を失当であるとした原審の判断は正当であって,その過程に所論の違法はない。論旨は採用することができない。」
「現金は,被相続人の死亡により他の動産,不動産とともに相続人らの共有財産となり,相続人らは,被相続人の総財産(遺産)の上に法定相続分に応じた持分権を取得するだけであって,債権のように相続人らにおいて相続分に応じて分割された額を当然に承継するものではないから,X1らの自ら認めるとおり相続人らの間でいまだ遺産分割の協議が成立していない以上,X1らは,本件現金(たとえ,相続開始後現金が金融機関に預けられ債権化されても,相続開始時にさかのぼって金銭債権となるものではない。)に関し,法定相続分に応じた金員の引渡しを求めることはできない。」とされた。
最高裁第二小平成3.4.19―土地所有権移転登記手続請求事件(相続させる」旨の遺言の解釈)
一 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言の解釈
特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情のない限り、当該遺産を当該相続人をして単独で相続させる遺産分割の方法が指定されたものと解すべきである。
二 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言があった場合における当該遺産の承継
特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言があった場合には、当該遺言において相続による承継を当該相続人の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、当該遺産は、被相続人の死亡の時に直ちに相続により承継される。
「被相続人の遺産の承継関係に関する遺言については,遺言書において表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきものであるところ,遺言者は,……その者と各相続人との身分関係及ぴ生活関係,各相続人の現在及ぴ将来の生活状況及ぴ資力その他の経済関係・特定の不動産その他の遺産についての特定の相続人のかかわりあいの関係等各般の事情を配慮して遺言をするのであるから,遺言書において特定の遺産を特定の相続人に『相続させる』趣旨の遺言者の意思が表明されている場合,当該相続人も当該遺産を他の共同相続人と共にではあるが当然相続する地位にあることにかんがみれば,遺言者の意思は,右の各般の事情を配慮して,当該遺産を当該相続人をして,他の共同相続人と共にではなくして,単独で相続させようとする趣旨のものと解するのが当然の合理的な意思解釈というべきであり,遺言書の記載から,その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すぺき特段の事情がない限り,遺贈と解すべきではない。そして‥…民法908条において被相続人が遺言で遺産の分割の方法を定めることができるとしているのも,遺産の分割の方法として,このような特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させることをも遺言で定めることを可能にするために外ならない。したがって,右の『相続させる』趣旨の遺言は,正に同条にいう遺産の分割の方法を定めた遺言であり,他の共同相続人も右の遺言に拘束され,これと異なる遺産分割の協議,さらには審判もなし得ないのであるから,このような遺言にあっては,遺言者の意思に合致するものとして,遺産の一部である当該遺産を当該相続人に帰属させる遺産の一部の分割がなされたのと同様の遺産の承継関係を生ぜしめるものであり,当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り,何らの行為を要せずして,被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである。
そしてその場合,……当該遺産については,右の協議又は審判を経る余地はないものというぺきである。もっとも,……場合によっては,他の相続人の遺留分減殺請求権の行使を妨げるものではない。」
東京高裁平成3.12.24―遺産分割審判等に対する抗告事件(寄与分と遺留分の関係)
「寄与分の制度は,相続人間の衡平を図るために設けられた制度であるから,遺留分によって当然に制限されるものではない。しかし,民法が,兄弟姉妹以外の相続人について遺留分の制度を設け,これを侵害する遺贈及ぴ生前贈与については遺留分権利者及ぴその承継人に減殺請求権を認めている(1003l条)一方,寄与分について,家庭裁判所は寄与の時期,方法及ぴ程度,相続財産の額その他一切の事情を考慮して定める旨規定していること(904条の2第2項)を併せ考慮すれば,裁判所が寄与分を定めるにあたっては,他の相続人の遺留分についても考慮すべきは当然である。
確かに,寄与分については法文の上で上限の定めがないが,だからといって,これを定めるにあたって他の相続人の遺留分を考慮しなくてよいということにはならない。むしろ,先に述ペたような理由から,寄与分を定めるにあたっては,これが他の相続人の遺留分を侵害する結果となるかどうかについても考慮しなければならないというぺきである。」「ただ家業である農業を続け,これら遺産たる農地等の維持管理に努めたり,Aの療養看護にあたったというだけでは,そのようにY1の寄与分を大きく評価するのは相当でなく,さらに特別の寄与をした等特段の事情がなければならない。」「農業経営の承継者のみを格別に扱うことは,その制度の趣旨にそぐわないものといわなければならない。」
最高裁平成元.11.24―不動産登記申請却下決定取消請求事件(特別縁故者への遺産分与対象としての共有持分権)
共有者の一人が相続人なくして死亡したときとその持分
共有者の一人が死亡し、相続人の不存在が確定し、相続債権者や受遺者に対する清算手続が終了したときは、その持分は、民法九五八条の三に基づく特別縁故者に対する財産分与の対象となり、右財産分与がされないときに、同法二五五条により他の共有者に帰属する。
「法255条により共有持分である相続財産が他の共有者に帰属する時期は,相続財産が国庫に帰属する時期と時点を同じくするものであり,…法255条にいう『相続人ナクシテ死亡シタルトキ』とは,相続人が存在しないこと,並びに,当該共有持分が前記清算後なお承継すべき者のないまま相続財産として残存することが確定したときと解するのが相当である。」
958条の3は,「本来国庫に帰属すべき相続財産の全部又は一部を被相続人と特別の縁故があった者に分与する途を開き,右特別縁故者を保護するとともに……そこには,被相続人の合理的意思を推測探究し,いわば遺贈ないし死因贈与制度を補充する趣旨も含まれているものと解される。」
「共有者の一人が死亡し,相続人の不存在が確定し,相続債権者や受遺者に対する清算手続が終了したときは,その共有持分は,他の相続財産とともに,法958条の3の規定に基づく特別縁故者に対する財産分与の対象となり,右財産分与がされず,当該共有持分が承継すペき者がないまま相続財産として残存することが確定したときにはじめて,法255条により他の共有者に帰属することになると解すベきである。」
最高裁第一小平成元.2.9―更正登記手続等請求事件(遺産分割後の負担不履行を理由とする解除)
遺産分割協議と民法五四一条による解除の可否
共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合に、相続人の一人が右協議において負担した債務を履行しないときであつても、その債権を有する相続人は、民法五四一条によつて右協議を解除することができない。
「共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合に,相続人の1人が他の相続人に対して右協議において負担した債務を履行しないときであっても,他の相続人は民法541条によって右遺産分割協議を解除することができないと解するのが相当である。けだし,遺産分割はその性質上協議の成立とともに終了し,その後は右協議において右債務を負担した相続人とその債権を取得した相続人間の債権債務関係が残るだけと解すベきであり,しかも,このように解さなければ民法909条本文により遡及効を有する遺産の再分割を余儀なくされ,法的安定性が著しく害されることになるからである。」
最高裁第三小昭和63.6.21―第三者異議事件(再転相続人の相続放棄)
「民法916条の規定は,甲の相続につきその法定相続人である乙が承認又は放棄をしないで死亡した場合には,乙の法定相続人である丙のために,甲の相続についての熟慮期間を乙の相続についての熟慮期間と同一にまで延長し,甲の相続につき必要な熟慮期間を付与する趣旨にとどまるのではなく,右のような丙の再転相続人たる地位そのものに基づき,甲の相続と乙の相続のそれぞれにつき承認又は放棄の選択に関して,各別に熟慮し,かつ,承認又は放棄をする機会を保障する趣旨をも有するものと解すぺきである。そうであってみれば,丙が乙の相続を放棄して,もはや乙の権利義務をなんら承継しなくなった場合には,丙は,右の放棄によって乙が有していた甲の相続についての承認又は放棄の選択権を失うことになるのであるから,もはや甲の相続につき承認又は放棄をすることはできないといわざるをえないが,丙が乙の相続につき放棄をしていないときは,甲の相続につき放棄をすることができ,かつ,甲の相続につき放棄をしても,それによっては乙の相続につき承認又は放棄をするのになんら障害にならず,また,その後に丙が乙の相続につき放棄をしても,丙が先に再転相続人たる地位に基づいて甲の相続につきした放棄の効力がさかのぼって無効になることはないものと解するのが相当である。そうすると,本件において,C1ら3名がAの相続についてした放棄は,C1ら3名がその後Bの相続について放棄をしても,その効力になんら消長をきたさないものというべきである。」
最高裁第一小昭和62.4.23―第三者異議事件(遺言執行者がある場合の相続人の遺産処分)
一 民法一〇一三条に違反してされた相続人の処分行為の効力
遺言執行者がある場合には、相続人が遺贈の目的物についてした処分行為は無効である。
二 遺言執行者として指定された者が就職を承諾する前と民法一〇一三条にいう「遺言執行者がある場合」
遺言執行者として指定された者が就職を承諾する前であつても、民法一〇一三条にいう「遺言執行者がある場合」に当たる。
三 遺言執行者がある場合と遺贈の目的物についての受遺者の第三者に対する権利行使
遺言者の所有に属する特定の不動産の受遺者は、遺言執行者があるときでも、所有権に基づき、右不動産についてされた無効な抵当権に基づく担保権実行としての競売手続の排除を求めることができる。
「遺言者の所有に属する特定の不動産が遺贈された場合には,目的不動産の所有権は遺言者の死亡により遺言がその効力を生ずるのと同時に受遺者に移転するのであるから,受遺者は,遺言執行者がある場合でも,所有権に基づく妨害排除として,右不動産について相続人又は第三者のためにされた無効な登記の抹消登記手続を求めることができるものと解するのが相当である」。
同第2について,「〔民〕法1013条が…と規定しているのは,遺言者の意思を尊重すぺきものとし,遺言執行者をして遺言の公正な実現を図らせる目的に出たものであり,右のような法の趣旨からすると,相続人が,同法1013条の規定に違反して,……第三者のため抵当権を設定してその登記をしたとしても,相続人の右処分行為は無効であり,受遺者は,遺贈による目的不動産の所有権取得を登記なくして右処分行為の相手方たる第三者に対抗することができるものと解するのが相当である(大審院昭和5年6月16日判決)。そして,前示のような法の趣旨に照らすと,同条にいう『遺言執行者がある場合』とは,遺言執行者として指定された者が就職を承諾する前をも含むものと解する」。
最高裁第三小昭和62.3.3―退職金分割請求事件(法人の決定による死亡退職金の相続性)
「死亡退職金は,Aの相続財産として相続人の代表者としてのYに支給されたものではなく,相続という関係を離れてAの配偶者であったY個人に対して支給されたものであるとしてAの子であるX1らの請求を棄却すべきものとした原審の認定判断は,原判決挙示の証拠関係に照らし,正当として是認することができ」る。
東京高裁昭和62.10.8―遺骨引取妨害差止等本訴請求,祭祀主宰者確認反訴請求控訴事件Z(生存配偶者の婚姻関係終了と祭祀承継)
「夫の死亡後その生存配偶者が原始的にその祭祀を主宰することは,婚姻夫婦(及ぴその閥の子)をもって家族関係形成の一つの原初形態(いわゆる核家族)としているわが民法の法意(民法739条1項,750条,戸籍法6条,74条1号参照)及ぴ近時のわが国の慣習(たとえば,婚姻により生家を出て新たに家族関係を形成したのち死亡した次,三男等の生存配偶者が原始的に亡夫の祭祀を主宰していることに多くその例がみられる。)に徴し,法的にも承認されて然るべきものと解され,その場合,亡夫の遺体ないし遺骨が右祭祀財産に属すぺきものであることは条理上当然であるから,配偶者の遺体ないし遺骨の所有権(その実体は,祭祀のためにこれを排他的に支配,管理する権利)は,通常の遺産相続によることなく,その祭祀を主宰する生存配偶者に原始的に帰属し,次いでその子によって承継されていくぺきものと解するのが相当である。」
最高裁判所第一小法廷昭和62.10.8―遺言不存在確認
運筆について他人の添え手による補助を受けてされた自筆証書遺言と民法九六八条一項にいう「自書」の要件
運筆について他人の添え手による補助を受けてされた自筆証書遺言が民法九六八条一項にいう「自書」の要件を充たすためには、遺言者が証書作成時に自書能力を有し、かつ、右補助が遺言者の手を用紙の正しい位置に導くにとどまるか、遺言者の手の動きが遺言者の望みにまかされていて単に筆記を容易にするための支えを借りたにとどまるなど添え手をした他人の意思が運筆に介入した形跡のないことが筆跡のうえで判定できることを要する。
最高裁第一小昭和61.11.20―遺言無効の確認等請求事件(不倫な関係にある女性に対する包括遺贈と公序良俗)
不倫な関係にある女性に対する包括遺贈が公序良俗に反しないとされた事例
妻子のある男性がいわば半同棲の関係にある女性に対し遺産の三分の一を包括遺贈した場合であつても、右遺贈が、妻との婚姻の実体をある程度失つた状態のもとで右の関係が約六年間継続したのちに、不倫な関係の維持継続を目的とせず、専ら同女の生活を保全するためにされたものであり、当該遺言において相続人である妻子も遺産の各三分の一を取得するものとされていて、右遺贈により相続人の生活の基盤が脅かされるものとはいえないなど判示の事情があるときは、右遺贈は公序良俗に反するものとはいえない。
最高裁昭和61年3月13日第一小法廷―「遺産確認の訴え」の適否
(事実の概要) Aが死亡し,その長男B,次男X1,三男X2,次女Y1と三女Y2,それに,長女C(Aよりも先に死亡)の子X3の6名が共同相続した。その後,Aの遺産についての分割協議が調わない間に,Bが死亡し,その妻X4とその子X5〜X9の6名が、Bを共同相続した。合計11件の不動産ないし不動産の共有持分似下,「本件不動産」という)について,X1〜X9がAの遺産に属すると主張するのに対して,Y1とY2はこれを争っている。そこで,Xl〜X9が,Y1・Y2を被告として,本件不動産がAの遺産に属することの確認を求めて訴えを提起したのが本件である。なお,X3は本件が第1審に係属中に死亡し,その共同相続人であるX10とX11が原告の地位を当然承継している。第1審(京都地裁)と控訴審(大阪高裁)は,いずれも,本件訴えが適法であることを前提として,Xらの請求を認容した(なお,本件不動産の登記名義は全部Aにあったが、その一部についてはAの生前にAから第三者ヘの所有権移転登記が経由されているところ,第1審判決も控訴審判決も.Aから第三者ヘの登記は仮装の登記であるとしている)。
これに対して,Y2が上告したのが本件である。 <判旨>
上告棄却。
「共同相続人間において,共同相続人の範囲及ぴ各法定相続分の割合については実質的な争いがなく,ある財産が被相続人の遺産に属するか否かについて争いのある場合,当該財産が被相続人の遺産に属することの確定を求めて当該財産につき自己の法定相続分に応じた共有持分を有することの確認を求める訴えを提起することは,もとより許される……が,右訴えにおける原告勝訴の確定判決は,…〔原告の共有持分〕の取得原因が被相続人からの相続であることまで確定〔せず〕……,右確定判決に従って当該財産を遺産分割の対象としてされた遺産分割の審判が確定しても,審判における遺産帰属性の判断は既判カを有しない結果,のちの民事訴訟における裁判により当該財産の遺産帰属性が否定され、ひいては,右審判も効力を失うこととなる余地が,それでは,……遺産に属するか否かの争いに決着をつけようとした原告の意図に必ずしもそぐわないこととなる一方,争いのある財産の遺産帰属性さえ確定されれば,遺産分割の手続が進められ〔る〕…のであるから,当該財産について各共同相続人が有する共有持分の割合を確定することは,さほど意味があるものとは考えられない…、これに対し,遺産確認の訴えは,右のような共有持分の割合は問題にせず,端的に,当該財産が現に被相続人の遺産に属すること,換言すれば当該財産が現に共同相続人による遺産分割前の共有関係にあることの確認を求める訴えであって,その原告勝訴の確定判決は,当該財産が遺産分割の対象たる財産であることを既判カをもって確定し,したがって,これに続く遺産分割審判の手続において及びその審判の確定後に当該財産の遺産帰属性を争うことを許さず、もって原告の前記意思によりかなった紛争の解決を図ることができるところであるから,かかる訴えは適法というベきである。もとより,共同相続人が分割前の遺産を共同所有する法律関係は,基本的には民法249条以下に規定する共有と性質を異にするものでもないが,共同所有の関係を解消するためにとるべき裁判手続は、前者では遺産分割審判であり,後者では共有物分割訴訟であって、それによる所有権取得の効力も相違するというよう(な)・・制度上の差異……から生じる必要性のために遺産確認の訴えを認めることは,分割前の遺産の共有が民法249条以下に規定する共有と基本的に共同所有の性質を同じくすることと矛盾するものでない。」
東京高裁昭和59.9.25―土地所有権移転登記手続請求各控訴事件(「相続分不存在証明書」と遺産分割協議の効力)
「亡Aの本件遺産については,遅くとも,Y1に対し,X及ぴ亡Cの相続人らが,自己には亡Aの相続については相続分が存在しない旨の相続分不存在証明書及ぴ各人の印鑑登録証明書を交付した昭和49年5月10日ころまでに,本件遺産を亡Bが単独相続したこととする旨の分割協議が亡Aの相続人ら間で成立し,亡Bの相続人らの間においても,亡B所有の本件遺産はY1がこれを全部取得する旨の分割協議が成立したものと認めるのが相当である(「相続分不存在証明書」は,遺産分割協議の結果本件遺産をY1が取得したことの登記の手続上,右の協議書の提出に代え,これを用いたものと解される。)」
最高裁第二小昭和59.4.27―貸金等請求事件(民法915条1項の「自己のために相続の開始があったことを知った時」の意義)
民法九一五条一項所定の熟慮期間について相続人が相続財産の全部若しくは一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべかりし時から起算するのが相当であるとされる場合
相続人において相続開始の原因となる事実及びこれにより自己が法律上相続人となつた事実を知つた時から三か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかつたのが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように信ずるについて相当な理由がある場合には、民法九一五条一項所定の期間は、相続人が相続財産の全部若しくは一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべかりし時から起算するのが相当である。
「民法915条1項本文が相続人に対し単純承認若しくは限定承認又は放棄をするについて3か月の期間(以下「熟慮期間」という。)を許与しているのは,相続人が,相続開始の原因たる事実及ぴこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った場合には,通常,右各事実を知った時から3か月以内に,調査すること等によって,相続すぺき積極及ぴ消極の財産(以下「相続財産」という。)の有無,その状況等を認識し又は認識することができ,したがって単純承認若しくは限定承認又は放棄のいずれかを選択すべき前提条件が具備されるとの考えに基づいているのであるから,熟慮期間は,原則として,相続人が前記の各事実を知った時から起算すぺきものであるが,相続人が右各事実を知った場合であっても,右各事実を知った時から3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが,被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり,かつ,被相続人の生活歴,被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって,相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められるときには,相続人が前記の各事実を知った時から熟慮期間を起算すペきであるとすることは相当でないものというべきであり,熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきものと解するのが相当である。」「原審が,民法915条1項の規定に基づき自己のために相続の開始があったことを知ったというためには,相続すぺき積極又は消極財産の全部あるいは一部の存在を認識することを要すると判断した点には,法令の解釈を誤った違法があるものというぺきであるが,Yらの本件相続放棄の申述が熟慮期間内に適法にされたものであるとしてXの本訴請求を棄却したのは,結論において正当であ」る。
最高裁第ニ小昭和57.4.30―遺言無効確認請求事件(負担付死因贈与の受贈者による贈与者生前の負担履行と贈与撤回の可否)
負担の履行期が贈与者の生前と定められた負担付死因贈与の受贈者が負担の全部又はこれに類する程度の履行をした場合と民法一〇二二条、一〇二三条の規定の準用の有無
負担の履行期が贈与者の生前と定められた負担付死因贈与の受贈者が負担の全部又はこれに類する程度の履行をした場合には、右契約締結の動機、負担の価値と贈与財産の価値との相関関係、契約上の利害関係者間の身分関係その他の生活関係等に照らし右契約の全部又は一部を取り消すことがやむをえないと認められる特段の事情がない限り、民法一〇二二条、一〇二三条の各規定は準用されない。
「負担の履行期が贈与者の生前と定められた負担付死因贈与契約に基づいて受贈者が約旨に従い負担の全部又はそれに類する程度の履行をした場合においては,贈与者の最終意思を尊重するの余り受贈者の利益を犠牲にすることは相当でないから,右贈与契約締結の動機,負担の価値と贈与財産の価値との相関関係,右契約上の利害関係者間の身分関係その他の生活関係等に照らし右負担の履行状況にもかかわらず負担付死因贈与契約の全部又は一部の取消をすることがやむをえないと認められる特段の事情がない限り,遺言の取消に関する民法1022条,1023条の各規定を準用するのは相当でないと解すぺきである。」
最高裁第二小昭和56.9.11―遺言無効確認請求事件(共同遺言)
「同一の証書に2人の遺言が記載されている場合は,そのうちの一方に氏名を自書しない方式の違背があるときでも,右遺言は,民法975条により禁止された共同遺言にあたるものと解するのが相当である。」
最高裁第一小昭和55.12.4―所有権移転登記等抹消登記手続請求事件(公正証書遺言の方式―盲人の証人適格)
盲人は、公正証書遺言に立ち会う証人としての適格を有する。
「盲人は,…974条に掲げられている証人としての欠格者にはあたらない。のみならず,盲人は,視力に障害があるとしても,通常この一事から直ちに右証人としての職責を果たすことができない者であるとしなければならない根拠を見出し難い…から……事実上の欠格者であるということもできない……。……公証人による筆記の正確なことの承認は,遺言者のロ授したところと公証人の読み聞かせたところとをそれぞれ耳で聞き両者を対比することによってすれば足りる……,公証人の筆記したところを目で見て…‥対比するのでなければ,公証人による筆記の正確なことを独自に承認することが不可能であるような場合は考えられないことではないとしても,……〔本件ではそのような〕特段の事情が存在していたことは窺われない」。
最高裁第一小昭和54.2.22―土地代金返還請求事件(代償財産の帰属の行方)
「共有持分権を有する共同相続人全員によって他に売却された右各土地は遺産分割の対象たる相続財産から逸出するとともに,その売却代金は,これを一括して共同相続人の1人に保管させて遺産分割の対象に含める合意をするなどの特別の事情のない限り,相続財産には加えられず,共同相続人が各持分に応じて個々にこれを分割すべきものであるところ(最高裁昭和52年9月19日第ニ小法廷判決),前記各土地を売却した際本件共同相続人の一部はYに代金受領を委任せずに自らこれを受領し,また,Yに代金受領を委任した共同相続人もその一部はYから代金の交付を受けているなど,原審の適法に確定した事実関係のもとでは,右特別の事情もないことが明らかであるから,X1らは,代金債権を相続財産としてでなく固有の権利として取得したものというぺきであり,したがって,同債権について相続権侵害ということは考えられない。」
最高裁大法廷昭和53.12.20―登記手続等請求事件(共同相続人間における相続回復請求)
共同相続人の一人によつて相続権を侵害された他の共同相続人が右侵害の排除を求める場合と民法八八四条の適用
共同相続人の一人甲が、相続財産のうち自己の本来の相続持分を超える部分につき他の共同相続人乙の相続権を否定し、その部分もまた自己の相続持分に属すると称してこれを占有管理し、乙の相続権を侵害しているため、乙が右侵害の排除を求める場合には、民法八八四条の適用があるが、甲においてその部分が乙の持分に属することを知つているとき、又はその部分につき甲に相続による持分があると信ぜられるべき合理的な事由がないときには、同条の適用が排除される。
「民法884条の相続回復請求の制度は,いわゆる表見相続人が真正相続人の相続権を否定し相続の目的たる権利を侵害している場合に,真正相続人が自己の相続権を主張して表見相続人に対し侵害の排除を請求することにより,真正相続人に相続権を回復させようとするものである。そして,同条が相続回復請求権について消滅時効を定めたのは,表見相続人が外見上相続により相続財産を取得したような事実状態が生じたのち相当年月を経てからこの事実状態を覆滅して真正相続人に権利を回復させることにより当事者又は第三者の権利義務関係に混乱を生じさせることのないよう相続権の帰属及ぴこれに伴う法律関係を早期にかつ終局的に確定させるという趣旨に出たものである。」
最高裁第一小昭和53.7.13―共有物分割請求事件(遺産中の特定財産の持分権の譲受人による分割請求)
「職権をもって調査すると,訴外Bが本件係争地につきY1が有していた共有持分権6分の2を同Y1から買い受け,次いで同訴外人からさらにXがこれを買い受けたことば前記説示のとおりである。そうだとすると,Y1は,本件係争地についてはもはや共有持分権を有しないことに帰するから,その共有物分割の訴につき当事者適格を有しないことは明らかであり,したがって,本件共有物分割の訴を不適法として却下し…‥た第1審判決はY1との関係においては…結局正当であるから,原審は,XのY1に対する控訴をこの点についても棄却すべきものであったというべきである。」
「次に,……Xの…請求のうち,……共有持分権に基づき本件係争地の分割を求める訴及ぴ右分割を前提として共有持分移転登記手続を求める訴についてされた第1審判決を取り消し第1審に差し戻すべきものとした部分に対するY1を除くその余の上告人らの上告は,いずれも理由がないからこれを棄却すべきである。」
最高裁第二小昭和51.8.30―持分権移転登記等請求事件(遺留分減殺請求の目的物の橿額算定の基準時)
遺留分権利者が受贈者又は受遺者に対し民法一〇四一条一項の価額弁償を請求する訴訟における贈与又は遺贈の目的物の価額算定の基準時
遺留分権利者が受贈者又は受遺者に対し民法一〇四一条一項の価額弁償を請求する訴訟における贈与又は遺贈の目的物の価額算定の基準時は、右訴訟の事実審口頭弁論終結の時である。
「民法…1条1項が,目的物の価額を弁償することによって目的物返還義務を免れうるとして,目的物を返還するか,価額を弁償するかを義務者である受贈者又は受遺者の決するところに委ねたのは,価額の弁償を認めても遺留分権利者の生活保障上支障をきたすことにはならず,一方これを認めることによって,被相続人の意思を尊重しつつ,すでに目的物の上に利害関係を生じた受贈者又は受遺書と遺留分権利者との利益の調和をもはかることができるとの理由に基づくものと解されるが,それ以上に,受贈者又は受遺者に経済的な利益を与えることを目的とするものと解すぺき理由はないから,遺留分権利者の叙上の地位を考慮するときは,価額弁償は目的物の返還に代わるものとしてこれと等価であるぺきことが当然に前提とされているものと解されるのである。このようなところからすると,価額弁償における価額算定の基準時は,現実に弁償がされる時であり,遺留分権利者において当該価額弁償を請求する訴訟にあっては現実に弁償がされる時に最も接着した時点としての事実審口頭弁論終結の時であると解するのが相当である。」
最高裁第一小昭和51.3.18―遺留分減殺請求事件(金銭による特別受益と遺留分の算定)
相続人が被相続人から贈与された金銭をいわゆる特別受益として遺留分算定の基礎となる財産の価額に加える場合と受益額算定の方法
相続人が被相続人から贈与された金銭をいわゆる特別受益として遺留分算定の基礎となる財産の価額に加える場合には、贈与の時の金額を相続開始の時の貨幣価値に換算した価額をもつて評価すべきである。
「被相続人が相続人に対しその生計の資本として贈与した財産の価額をいわゆる特別受益として遺留分算定の基礎となる財産に加える場合に,右贈与財産が金銭であるときは,その贈与の時の金額を相続開始の時の貨幣価値に換算した価額をもって評価すペきものと解するのが,相当である。けだし,このように解しなければ,遺留分の算定にあたり,相続分の前渡としての意義を有する特別受益の価額を相続財産の価額に加算することにより,共同相続人相互の衡平を維持することを目的とする特別受益持戻の制度の趣旨を没却することとなるばかりでなく,かつ,右のように解して取引における一般的な支払手段としての金銭の性質,機能を損う結果をもたらすものではないからである。これと同旨の見解に立って,贈与された金銭の額を物価指数に従って相続開始の時の貨幣価値に換算すぺきものとした原審の判断は,正当として是認することができる。」
最高裁第三小昭和48.7.3―貸金請求事件(本人が無権代理人を相続した場合と無権代理行為の効力)
民法一一七条と無権代理人を相続した本人の責任
無権代理人を相続した本人は、無権代理人が民法一一七条により相手方に債務を負担していたときには、無権代理行為について追認を拒絶できる地位にあつたことを理由として、右債務を免れることができない。
「民法117条による無権代理人の債務が相続の対象となることは明らかであって,このことは本人が無権代理人を相続した場合でも異ならないから,本人は相続により無権代理人の右債務を承継するのであり,本人として無権代理行為の追認を拒絶できる地位にあったからといって右債務を免れることはできないと解すぺきである。まして,無権代理人を相続した共同相続人のうちの1人が本人であるからといって,本人以外の相続人が無権代理人の債務を相続しないとか債務を免れうると解すベき理由はない。
してみると,これと同旨の原審の判断は正当として首肯することができる(原判示のいう損害賠償債務,責任は履行債務,責任を含む趣旨であることが明らかである。)。
なお,所論引用の判例……は,本人が無権代理人を相続した場合,無権代理行為が当然に有効となるものではない旨判示したにとどまり,無権代理人が民法117条により相手方に債務を負担している場合における無権代理人を相続した本人の責任に触れるものではないから,前記判示は右判例と抵触するものではない。」
最高裁第ニ小昭和48.6.29―売掛代金請求事件(生命保険金請求権の相続性)
被保険者死亡の場合保険金受取人の指定のないときは保険金を被保険者の相続人に支払う旨の約款のある保険契約の性質
被保険者死亡の場合、保険金受取人の指定のないときは、保険金を被保険者の相続人に支払う旨の保険約款の条項は、被保険者が死亡した場合において被保険者の相続人に保険金を取得させることを定めたものと解すべきであり、右約款に基づき締結された保険契約は、保険金受取人を被保険者の相続人と指定した場合と同様、特段の事情のないかぎり、被保険者死亡の時におけるその相続人たるべき者のための契約であると解するのが相当である。
「右『保険金受取人の指定のないときは,保険金を被保険者の相続人に支払う。』旨の条項は,被保険者が死亡した場合において,保険金請求権の帰属を明確にするため,被保険者の相続人に保険金を取得させることを定めたものと解するのが相当であり,保険金受取人を相続人と指定したのとなんら異なるところがないというべきである。
そして、保険金受取人を相続人と指定した保険契約は,特段の事情のないかぎり,被保険者死亡の時におけるその相続人たるべき者のための契約であり,その保険金請求権は,保険契約の効力発生と同時に相続人たるべき者の固有財産となり,被保険者の遺産から離脱したものと解すべきであることは,当裁判所の判例(昭和40年2月2日第三小法廷判決)とするところであるから,本件保険契約についても,保険金請求権は,被保険者の相続人であるYらの固有財産に属するものといわなければならない。なお,本件保険契約が,団体保険として締結されたものであっても,その法理に変りはない。」
最高裁第二小昭和47.3.17―遺言無効確認請求事件(死亡危急者遺言の方式)
一、いわゆる危急時遺言の遺言書における日附と遺言の効力
いわゆる危急時遺言の遺言書に遺言をした日附ないしその証書の作成日附を記載することは遺言の有効要件ではなく、遺言書に作成の日として記載された日附が正確性を欠いていても、遺言は無効ではない。
二、いわゆる危急時遺言の遺言書に対する証人の署名捺印が遺言者の面前でなされなかつた場合に遺言の効力が認められた事例
いわゆる危急時遺言において、筆記者である証人が筆記内容を清書した書面に遺言者の現在しない場所で署名捺印をし、他の証人二名の署名を得たうえ、全証人の立会いのもとに遺言者に読み聞かせ、その後、遺言者の現在しない、遺言執行者に指定された者の法律事務所で右証人二名が捺印をし、もつて全証人の署名捺印が完成した場合であつても、その署名捺印が、原判示(原判決理由参照)のように、筆記内容に変改を加えた疑いを挾む余地のない事情のもとに遺言書作成の一連の過程に従つて遅滞なくなされたものであるときは、その署名捺印は民法九七六条の方式に則つたものとして、遺言の効力を認めるに妨げない。
(日付について)「日附〔が〕右遺言の方式として要求されていないことは,同〔976〕条の規定に徴して明らかであって,日附の記載はその有効要件ではない。」
(署名押印の順序・場所・時期について)「民法976条所定の…署名捺印は,遺言者の口授に従って筆記された遺言の内容を遺言者および他の証人に読み聞かせたのち,その場でなされるのが本来の趣旨とは解すぺきであるが,本件のように,筆記者である証人が,筆記内容を清書した書面に遺言者Aの現在しない場所で署名捺印をし,他の証人2名の署名を得たうえ,右証人らの立会いのもとに遺言者に読み聞かせ,その後,遺言者の現在しない場所すなわち遺言執行者に指定された者の法律事務所で,右証人2名が捺印し,もって署名捺印を完成した場合であっても,その署名捺印が筆記内容に変改を加えた疑いを挟む余地のない事情のもとに遺言書作成の一連の過程に従って遅滞なくなされたものと認められるときは,いまだ署名捺印によって筆記の正確性を担保しようとする同条の趣旨を害するものとはいえないから,その署名捺印は同条の方式に則ったものとして遺言の効力を認めるに妨げないと解すべきである。…本件遺言書の作成は同条の要件をみたすものというべきである。」
最高裁第三小昭和46.11.16―遺産確認等請求事件(遺贈と登記)
被相続人が同一不動産をある相続人に贈与するとともに他の相続人にも遺贈したのち相続が開始した場合と民法一七七条
被相続人が、生前、不動産をある相続人に贈与するとともに、他の相続人にもこれを遺贈したのち、相続の開始があつた場合、右贈与および遺贈による物権変動の優劣は、対抗要件たる登記の具備の有無をもつて決すると解するのが相当である。
「思うに,被相続人が,生前,その所有にかかる不動産を推定相続人の一人に贈与したが,その登記未了の間に,他の推定相続人に右不動産の特定遺贈をし,その後相続の開始があった場合,右贈与およぴ遺贈による物権変動の優劣は,対抗要件たる登記の具備の有無をもって決すると解するのが相当であり,この場合,受贈者およぴ受遺者が,相続人として,被相続人の権利義務を包括的に承継し,受贈者が遺贈の履行義務を,受遺者が贈与契約上の履行義務を承継することがあっても,このことは右の理を左右するに足りない。」
「ところが,原判決は,右の場合,受贈者およぴ受遺者は,もはや,他方の所有権取得を否定し,自己の所有権取得を主張する権利を失ったものと解すべきであるとして,本件遺贈の効力を否定したが,右は法令の解釈,適用を誤った違法なものであって,この点の違法をいう論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。
……Xは,結局,本件不動産につき15分の7の共有持分を取得するに至ったものというぺきである。」
最高裁第三小昭和46.1.26―持分更正登記手続承諾請求事件(遺産分割と登記)
相続財産中の不動産につき、遺産分割により権利を取得した相続人は、登記を経なければ、分割後に当該不動産につき権利を取得した第三者に対し、法定相続分をこえる権利の取得を対抗することができない。
「遺産の分割は,相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものではあるが,第三者に対する関係においては,相続人が相続によりいったん取得した権利につき分割時に新たな変更を生ずるのと実質上異ならないものであるから,不動産に対する相続人の共有持分の遺産分割による得喪変更については,民法177条の適用があり,分割により相続分と異なる権利を取得した相続人は,その旨の登記を経なければ,分割後に当該不動産につき権利を取得した第三者に対し,自己の権利の取得を対抗することができないものと解するのが相当である。」「論旨は,遺産分割の効力も相続放棄の効力と同様に解すべきであるという。しかし,民法909条但書の規定によれば,遺産分割は第三者の権利を害することができないものとされ,その限度で分割の遡及効は制限されているのであって,その点において,絶対的に遡及効を生ずる相続放棄とは,同一に論じえないものというべきである。遺産分割についての右規定の趣旨は,相続開始後遺産分割前に相続財産に対し第三者が利害関係を有するにいたることが少なくなく,分割により右第三者の地位を覆えすことは法律関係の安定を害するため,これを保護するよう要請されるというところにあるものと解され,他方,相続放棄については,これが相続開始後短期間にのみ可能であり,かつ,相続財産に対する処分行為があれば放棄は許されなくなるため,右のような第三者の出現を顧慮する余地は比較的乏しいものと考えられるのであって,両者の効力に差別を設けることにも合理的理由が認められるのである。そして,さらに,遺産分割後においても,分割前の状態における共同相続の外観を信頼して,相続人の持分につき第三者が権利を取得することは,相続放棄の場合に比して,多く予想されるところであって,このような第三者をも保護すべき要請は,分割前に利害関係を有するにいたった第三者を保護すべき前示の要請と同様に認められるのであり,したがって,分割後の第三者に対する関係においては,分割により新たな物権変動を生じたものと同視して,分割につき対抗要件を必要とするものと解する理由があるといわなくてはならない。」「なお,民法909条但書にいう第三者は,相続開始後遺産分割前に生じた第三者を指し,遺産分割後に生じた第三者については同法177条が適用されるべきことは,右に説示したとおりであ」る。
最高裁大昭和42.11.1―慰籍料請求事件(慰謝料請求権の相続性)
不法行為による慰藉料請求権は相続の対象となるか
不法行為による慰藉料請求権は、被害者が生前に請求の意思を表明しなくても、相続の対象となる。
「ある者が他人の故意過失によって財産以外の損害を被った場合には,その者は,財産上の損害を被った場合と同様,損害の発生と同時にその賠償を請求する権利すなわち慰藉料請求権を取得し,右請求権を放棄したものと解しうる特別の事情がないかぎり,これを行使することができ,その損害の賠償を請求する意思を表明するなど格別の行為をすることを必要とするものではない。そして,当該被害者が死亡したときは,その相続人は当然に慰籍料請求権を相続するものと解するのが相当である。けだし,損害賠償請求権発生の時点について,民法は,その損害が財産上のものであるか,財産以外のものであるかによって,別異の取扱いをしていないし,慰藷料請求権が発生する場合における被害法益は当該被害者の一身に専属するものであるけれども,これを侵害したことによって生ずる慰藷料請求権そのものは,財産上の損害賠償請求権と同様,単純な金銭債権であり,相続の好象となりえないものと解すぺき法的根拠はなく,民法711条によれば,生命を害された被害者と一定の身分関係にある者は,被害者の取得する慰籍料請求権とは別に,固有の慰蒲料請求権を取得しうるが,この両者の請求権は被害法益を異にし,併存しうるものであり,かつ,被害者の相続人は,必ずしも,同条の規定により慰藉料請求権を取得しうるものとは限らないのであるから,同条があるからといって,慰藷料請求権が相続の対象となりえないものと解すぺきではないからである。」
最高裁第二小昭和42.1.20―第三者異議事件(相続放棄と登記)
相続人は、相続の放棄をした場合には相続開始時にさかのぼつて相続開始がなかつたと同じ地位に立ち、当該相続放棄の効力は、登記等の有無を問わず、何人に対してもその効力を生ずべきものと解すべきであつて、相続の放棄をした相続人の債権者が、相続の放棄後に、相続財産たる未登記の不動産について、右相続人も共同相続したものとして、代位による所有権保存登記をしたうえ、持分に対する仮差押登記を経由しても、その仮差押登記は無効である。
「民法939条1項(昭和37年法律第40号による改正前のもの)「放棄は,相続開始の時にさかのぼってその効果を生ずる。」の規定は,相続放棄者に対する関係では,右改正後の現行規定「相続の放棄をした者は,その相続に関しては,初から相続人とならなかったものとみなす。」と同趣旨と解すべきであり,民法が承認,放棄をなすべき期間(同法915条)を定めたのは,相続人に権利義務を無条件に承継することを強制しないこととして,相続人の利益を保護しようとしたものであり,同条所定期間内に家庭裁判所に放棄の申述をすると(同法938条),相続人は相続開始時に遡ぼって相続開始がなかったと同じ地位におかれることとなり,この効力は絶対的で,何人に対しても,登記等なくしてその効力を生ずると解すべきである」。したがって,Y1Y2のした代位による所有権保存登記は実体にあわない無効のものであり,その持分についてなされた仮差押えおよぴその登記も無効であるとして,原判決および第1審判決を破棄取り消し,右仮差押登記の抹消手続を命ずる旨自判した。
最高裁第一小昭和41.7.14―所有権移転登記手続請求事件(遺留分権利者の減殺請求権の性質)
「遺留分権利者が民法1031条に基づいて行う減殺請求権は形成権であって,その権利の行使は受贈者または受遺者に対する意思表示によってなせば足り,必ずしも裁判上の請求による要はなく,また一たん,その意思表示がなされた以上,法律上当然に減殺の効力を生ずる…‥。Xが相続の開始およぴ減殺すべき本件遺贈のあったことを知った昭和36年2月26日から1年以内である昭和37年1月10日に減殺の意思表示をなした以上,右意思表示により確定的に減殺の効力を生じ,もはや右減殺請求権そのものについて民法1042条による消滅時効を考える余地はない」。
最高裁昭和39年3月6日第二小法廷―遺贈と登記
<事実の概要>
本件不動産は,かってAが所有していた。Aは,昭和33年6月11日に作成した遺言書において,本件不動産をB・C・D・E・F・Gに遺贈する旨の意思を表示した。これに先立つ昭和31年8月9日,Y(被告・被控訴人・被上告人)は,Aの推定相続人であるHに対しH・Y間の消費貸借に基づき金銭を貸し渡した。そののちAが昭和33年6月17日に死亡したが,B・C・D・E・F・Gヘの遺贈に基づく所有権移転登記はなされないでいた。Yは,同年7月2日,上記消費貸借に基づく賃金債権を保全するため,Hに代位して,Hが相続により取得したとする本件不動産の持分権について,相続による所有権移転登記をしたうえ,強制競売の申立てをし,裁判所は,同月10日に強制競売開始決定をし,これに伴い,同日に同持分権について競売申立ての登記記入がなされた。そのあと同月28日,X(原告・控訴人・上告人)が遺言執行者に選任されている。このような経過のもと,XがYに対し,本件不動産の強制競売の不許を求め,第三者異議の訴えを提起したのが本件である。原審は,Xの請求を棄却。Xは,上告理由において,特定遺贈が効力を生じた場合に目的物は当然に物権的に受遺者に移転すると解すぺきであるという理論的な理由に加え、遺言執行が厳格な検認手続の後に行われるため相当期間着手し得ない実情にある」という実際的な理由を挙げず,要するにYをもって民法177条の第三者と目すぺきでないということを指摘して上告。
<判旨>
<上告棄却。>
「不動産の所有者が右不動産を他人に贈与しても,その旨の登記手続をしない間は完全こ排他性ある権利変動を生ぜず,所有者は全くの無権利者とはならないと解すぺきところ,遺贈は遺言によって受遺者に財産権を与える遺言者の意思表示にほかならず、遺言者の死亡を不確定期限とするものではあるが、意思表示によって物権変動の効果を生ずる点においては贈与と異なるところはないのであるから,遺贈が効力を生じた場合におぃても,遺贈を原因とする所有権移転登記のなされない間は、完全に排他的な権利変動を生じないものと解すベきである。そして,民法177条が広く物権の得喪変更について登記をもって対抗要件としているところから見れば、遺贈をもってその例外とする理由はないから,遣贈の場合においても不動産の二重譲渡等における場合と同様、登記をもって物権変動の対抗要件とするものと解すぺきである。」
最高裁第ニ小昭和38.2.22―登記抹消澄記手続請求事件(共同相続と登記)
一 共同相続と登記。
甲乙両名が共同相続した不動産につき乙が勝手に単独所有権取得の登記をし、さらに第三取得者丙が乙から移転登記をうけた場合、甲は丙に対し自己の持分を登記なくして対抗できる。
二 共有持分に基づく登記抹消請求の許否。
右の場合、甲が乙丙に対し請求できるのは、甲の持分についてのみの一部抹消(更正)登記手続であつて、各登記の全部抹消を求めることは許されない。
三 当事者が所有権取得登記の全部抹消を求めている場合に更正登記を命ずる判決をすることの可否。
右の場合、甲が乙丙に対し右登記の全部抹消登記手続を求めたのに対し、裁判所が乙丙に対し前記一部抹消(更正)登記手続を命ずる判決をしても、民訴法第一八六条に反しない。
「相続財産に属する不動産につき単独所有権移転の登記をした共同相続人中の乙ならぴに乙から単独所有権移転の登記をうけた第三取得者丙に対し,他の共同相続人甲は自己の持分を登記なくして対抗しうるものと解すぺきである。けだし乙の登記は甲の持分に関する限り無権利の登記であり,登記に公信力なき結果丙も甲の持分に関する限りその権利を取得するに由ないからである(大正8年11月3日大審院判決)。そして,この場合に甲がその共有権に対する妨害排除として登記を実体的権利に合致させるため乙,丙に対し請求できるのは,各所有権取得登記の全部抹消登記手続ではなくして,甲の持分についてのみの一部抹消(更正)登記手続でなければならない(大正10年10月27日大審院判決,昭和37年5月24日最高裁判所第一小法廷判決)。けだし右各移転登記は乙の持分に関する限り実体関係に符合しており,また甲は自己の持分についてのみ妨害排除の請求権を有するに過ぎないからである。
従って,本件において,共同相続人たるXらが,本件各不動産につき単独所有権の移転登記をした他の共同相続人であるY1から売買予約による所有権移転請求権保全の仮登記を経由したY2らに対し,その登記の全部抹消登記手続を求めたのに対し,原判決が,Y1が有する持分9分の2についての仮登記に更正登記手続を求める限度においてのみ認容したのは正当である。また前示のとおりこの場合更正登記は実質において一部抹消登記であるから,原判決はXらの申立の範囲内でその分量的な一部を認容したものに外ならないというぺく,従って当事者の申立てない事項について判決をした違法はないから,所論は理由なく排斥を免れない。」
最高裁第ニ小昭和34.6.19―貸金請求事件(連帯債務の相続)
連帯債務者の一人が死亡し、その相続人が数人ある場合に、相続人らは、被相続人の債務の分割されたものを承継し、各自その承継した範囲において、本来の債務者とともに連帯債務者となると解すべきである。
「連帯債務は,数人の債務者が同一内容の給付につき各独立に全部の給付をなすぺき債務を負担しているのであり,各債務は債権の確保及ぴ満足という共同の目的を達する手段として相互に関連結合しているが,なお,可分なること通常の金銭債務と同様である。ところで,債務者が死亡し,相続人が数人ある場合に,被相続人の金銭債務その他の可分債務は,法律上当然分割され,各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継するものと解すベきであるから(大審院昭和5年(ク)第1236号,同年12月4日決定,最高裁昭和27年(オ)第1119号,同29年4月8日第一小法廷判決),連帯債務者の1人が死亡した場合においても,その相続人らは,被相続人の債務の分割されたものを承継し,各自その承継した範囲において,本来の債務者とともに連帯債務者となると解するのが相当である」。
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