特定商取引の問題及び裁判例

消費者契約にトラブル増大のため法律改正(11回)がたびたび行われている
1. 「訪問販売等に関する法律」との名称で訪問販売、通信販売、連鎖販売取引の販売形態について一定のルールを定めることにより、消費者被害の防止を図ることを目的として、1976(昭和51)年に制定された。
2. 1964(昭和59)年改正
1984(昭和59)年に割賦販売法が改正され、抗弁の接続を認める規定やクーリング・オフ期間を延長する改正が行われた。これに連動して、訪問販売法のクーリング・オフの期間も、従来の「4日間」から「7日間」に延長することとした。
3. 1988(昭和63)年改正
@ 「訪問販売」の定義規定を拡張し、キャッチ・セールス、アポイントメント・セールスを適用対象に加えた。
A 「指定商品」の定義規定を改正し、日常生活に関連する物品・役務・権利を広く指定対象に加えた。
B 不当性が強い勧誘行為に対して禁止行為等を規定し、罰則や行政権限をもって規制することとした。
C クーリング・オフを現金取引にも原則適用し、その行使期間を「7日間」からΓ8日間」に延長した。
D 連鎖販売取引の要件を拡張し、物品の再販売だけでなく、物品・権利・役務の再販売・受託販売・販売のあっせんを規制対象とした。
4. 1996(平成8)年改正
@ 規制対象として「電話勧誘販売」の章を設け、書面交付義務、クーリング・オフ、勧誘行為規制などを行った。
A 「連鎖販売取引」に関する罰則や行政規制の対象者として、下位加盟者である「連鎖販売業を行う者」を加える規定を置いた。
B 「特定負担」の時期および内容については、従来から実質的に判断するというのが実務の取扱いであったことから、法文そのものの改正は行わず、通達において解釈を明確化することとした。
5. 1999(平成11)年改正
@ 規制対象として「特定継続的役務提供」の章を設け、エステティックサロン、外国語会話教室、学習塾、家庭教師の4業種につき、店舗契約も含めて適用対象とした。
A 規制内容として、広告規制、書面交付義務、クーリング・オフ、勧誘行為規制のほか、クーリング・オフ期間経過後の中途解約権の確保と違約金の上限規制を加えた。
B クーリング・オフおよび中途解約権の対象として、役務取引だけでなくこれに伴つて購入する必要があるとして販売した関連商品も一緒に解約できることとした。
C 前払式の継続的役務提供業者は、業務および財務書類の供覧・謄本交付義務を負うものとした。
D なお、これに関連して、割賦販売法の適用対象として特定継続的役務提供に対応する4業種を指定し、抗弁対抗を認めた。
6. 2000(平成12)年10月改正―書面の電子化一括法
7. 2000(平成12)年11月改正
@ 法律の名称を「訪問販売法」から「特定商取引法」に変更した。
A 内職・モニターの取引形態を、業務提供利益を収受しうることをもって誘引し、商品購入等の特定負担を伴う取引として捉え、店舗契約を含めて「業務提供誘引販売取引」という定義規定を置いた。
B 規制内容としては、広告規制、概要書面交付義務、契約書面交付義務、クーリング・オフ(20日)の付与、勧誘行為規制が定められた。
C 営利を目的とする契約であっても、「業務を事業所等によらないで行う個人」の場合は、消費者として保護対象とすることを明記した。
D 連鎖販売取引について、広告規制を一般会員にも拡大し、かつ誇大広告を禁止した。
E 連鎖販売取引の特定負担の要件につき「2万円」の要件を撤廃した。
F インターネット通販について、有料申込みのわかりやすい画面表示と、申込み内容の確認画面を義務づけた。
8. 2002(平成14)年4月改正
事前の承諾のない広告メールには、表題部に「未承諾広告※」の表示を加えること、事業者のメールアドレスを表示すること、広告の送信を希望しない旨の連絡をした消費者には再送信を禁止すること、などを定めた。
9. 2003(平成15)年政令改正
従前は政令指定されていなかった新たな商品、役務の被害への対応のために、改正特定商取引法施行令が2003(平成15)年6月4日に公布され、政令指定商品およぴ役務の追加と同施行令の別表第1およぴ同第3の規定の整理がなされた(同年7月1日施行)。
また、結婚相手紹介サーピスおよぴパソコン教宰の苦情・トラブルの増加を踏まえて、これらを新たに特定継続的役務提供に指定するため、2003(平成15)年7月18日、改正特定商取引法施行令が公布され、2004(平成16)年1月1日に施行された。
10. 2004(平成16)年改正
@ 悪質行為に対する行政規定の強化
・販売目的を隠して接近して勧誘する行為に対し販売目的の明示義務を明確化した。
・販売目的を隠して営業所等に呼び込み閉鎖的場所で勧誘する行為を禁止行為とした。
・不実の告知・重要事項の不告知の対象事項を明確化した。
・誇大広告・不実の告知の行政処分に向けた調査において、合理的根拠資料の提出要求とみなし規定を導入した。
・報告徴収・立入調査等の行政権限行使の対象業者を関連業者にも拡大した。
A 違法行為等に対する民事効果の拡充
・不実の告知・重要事項の不告知に対し契約取消権を付与した。
・クーリング・オフ妨害に対しクーリング・オフ期間を延長した。
・連鎖販売取引につき中途解約権・返品ルール・違約金規制を定めた。
B その他の改正点
・指示対象行為として適合性の原則を規定した。
・連鎖販売取引に関するクレジット契約につき抗弁対抗等の規定が適用されることを割賦販売法で明確化した。
・割賦販売法の準用規定を個別規定に整理した。
・政令指定商品・役務の追加指定も同時に行われた。
11. 2008(平成20)年改正
1 特商法改正の主な事項
@ 政令指定商品・役務制を廃止して、原則適用方式とし(法2条4項)、適用除外となる役務53種類を指定した(法26条政令5条、別表第2)。
A 訪問販売において、勧誘を受ける意思を確認する責務を定め、拒否者に対する勧誘を禁止した(法3条の2)。
B 訪問販売について過量販売解除権(法9条の2)を設けた。
C 事前の承諾を得た顧客以外には電子メール広告の送信を禁止した(法12条の3)。
D 通信販売において、返品の可否や条件を広告に表示していないとき、8日間の解約返品制度(法15条の2)を設けた。
E クーリング・オフの効果につき、商品使用利益の返還不要を明記した(法9条5項)。
F 不実の告知等に対する罰則(法70条)、閉鎖的場所への呼び込み販売に対する罰則(法70条の3)を引き上げた。
G 消費者団体訴訟制度妄、特商法と景品表示法にも適用し(消費者契約法の改正)、特商法6条(罰則対象行為)、9条(クーリング・オフ違反規定)、12条(虚偽誇大表示)等の違反行為を対象とした。
H 展示会商法に対する訪問販売の定義の見直しについては、政省令の改正は行わず、通達において営業所等の定義の解釈につき展示会商法の具体例を掲げることとした。
2 割販法の主な改正事項
@ 信用購入あっせんの適用対象につき、割賦要件を廃止して2カ月を超える後払いとし(割販法2条3項、4項)、指定商品・役務制度を廃止した(割販法2条3項、4項)。
A 個別信用購入あっせん業者の登録制(割販法35条の3の23)、行政処分規定(割販法35条の3の21、35条の3の31)を設けた。
B 個別信用購入あっせん業者の支払可能見込額調査義務等(割販法35条の3の3、35条の3の4)と、適正与信調査義務等倍口販法35条の3の5〜7)を定めた。
C 個別信用購入あっせん業者の書面交付義務(割販法35条の3の9)とクーリング・オフ(割販法35条の3の10〜11)を設けた。
D 個別信用購入あっせん契約について過量販売解除権(割販法35条の3の12)を設けた。
E 個別信用購入あっせん契約について不実の告知等取消権(割販法35条の3の13〜16)を設けた。
F 包括信用購入あっせん業者の支払可能見込額調査義務等(割販法30条の2、30条の2の2)、苦情発生時の調査義務を含む業務適正化義務(割販法30条の5の2)を定めた。
貴金属等の訪問買取りに係るトラブルの現状
・ 貴金属等の訪問買取りに関する年度別相談件数
平成19年度   30件
平成20年度   69件
平成21年度   137件
平成22年度 2,367件
平成23年度 1,742件(9月まで)
・ 国民生活センターからの注意喚起(平成22年12月)において紹介された相談事例(宝飾品、眼鏡、時計、金歯、金貨・古銭)
【事例1】着物の買い取りのはずが、貴金属の買い取りも執拗に要求してきた業者
一人暮らしの母宅へ突然不要な着物を買い取ると電話があり、処分してもよい着物があったので後日来訪するよう伝えた。当日、若い男性が来て着物は300 円で買い取ると言われた。あまりにも安かったが、不要な物なので買い取ってもらうことにした。すると業者が、ついでに貴金属の鑑定をしてあげると言い、母が指につけていた祖母の形見の指輪をいきなり外しにかかった。突然のことに驚いて必死で断ったが、他の物も見せるよう執拗に言われ、怖くて手持ちのネックレス、指輪、ブレスレットを見せた。すると業者は3 点全てを1,700 円で買い取ると一方的に言い、代金と領収書を渡した。他に古銭や切手はないかとなおもしつこく求めてきた。宝石3 点はそれぞれ10 万円以上もしたものなので納得できなかったが、怖くて断れなかった。これ以上業者と関わりたくないので返品は求めないが、情報提供したい。
【事例2】認知症の高齢者の自宅で貴金属を探していた業者
日中一人で家にいる認知症の母(70 歳代)のもとを業者が訪れ、年配の男性1 人が外にいて、若い男性2 人がタンスを開けて中を探していたのをたまたま訪ねた知人が見つけ、出て行くように言い名刺をもらってくれた。インターネットで名刺に書かれていた業者を調べると、貴金属の出張買い取りをしている業者だった。以前にも2 人組の男性が自宅に上がりこみ、タンスの引き出しを開けて探っていたので追い返したとヘルパーから聞いている。情報提供したい。
【事例3】連日、夜間にしつこく勧誘を行う業者
夜8 時〜9 時まで毎日のように金製品の買い取りをしている業者の営業員が各戸をまわっている。ドアチャイムを何度も押し続け、対応するまでドアを激しくドンドンとたたく。何か事件でもあったのかと心配になるほどだったので、先日、仕方なくドアチェーンをつけたまま対応すると、ネックレス等をその場で鑑定し現金で買い取ると言い、断わってもしつこく、ドアチェーンがなければ断わり切れなかったと思うほど怖かった。業者名等はわからない。夜遅いうえ連日なので隣近所とも大変困っている。
【事例4】解約を受け付けない旨の書面を理由に解約を拒否する業者
昨日、金の買い取りをすると自宅に業者から勧誘の電話があった。今まで何度も電話があり全て断っていたが、昨日は、金のグラムを測るだけで良いからと言われ来訪を承諾した。金のネックレスを見てもらい、不要なネックレスであるため深く考えずに買い取りを承諾し代金を受け取った。しかし、知人から他の買い取り業者に比べて買い取り価格が安いと言われた。契約から4 時間後に電話して、契約を解約しネックレスを返品してほしいと伝えたら、「解約は受け付けないと説明し、その旨を書いた書面にも印鑑を押しているので解約には応じられない」と言われた。クーリング・オフできないか。
【事例5】あっという間に買い取り、名前も連絡先もわからない業者
不要な貴金属はないかと業者が訪問してきた。「出せ」「出せ」と急かすので母の形見の指輪等を見せてしまった。業者は重さを量ってはいたが何の説明もなく、あっと言う間に約1 万円を渡されて領収書に氏名と住所を書かされた後、指輪を持ち帰ってしまった。よく考えると安すぎると思うが、書面等は何も残っておらず、業者の名前もわからないので連絡が取れない。
【事例6】消費者の個人情報を書かせておきながら、書面も残さなかった業者
5 日前、貴金属を買い取るという業者が「医療機器の製造に必要なので、不要な貴金属があれば売ってほしい」と突然来訪してきた。医療機器に役立つなら良いと思い、純金の指輪があると伝えると、業者は「現在の相場は1 グラム当たり1,500 円だ」と言いながら、指輪の重さを量ることなく9,000 円で買い取ると言い、保険証番号等の個人情報を書かされた。書面や名刺等は渡されなかったので、業者に関する情報は残っていない。個人情報を伝えたことを思い出し急に心配になった。銀行の預金が狙われたり悪用されたりするのではないか。また、1 グラム当たり1,500円というのは本当なのだろうか。
・ 平成22年度の相談者の内容
契約者の性別:女性が86%
契約者の年齢:80代-12%、70代-23%、60代-26%、50代-15%(50代以上で76%を占めている)高齢者で女性をターゲットにしている。
訪問買取の方式:不意打ち訪問買取で85%である。
貴金属等の訪問買取りに係るトラブルに対する現状の取組み
@ 刑罰法令による対応
・ 貴金属の買い取り目的で訪問した住宅で、家人の隙をうかがって、提示された貴金属を盗んだ押し買い業者の従業員を、被害者からの通報に基づき窃盗罪で検挙した事案。(長野県警、和歌山県警)
・ 貴金属の買い取り目的で住宅を訪問し、家人に執拗につきまとった押し買い業者の従業員を軽犯罪法違反等で検挙した事案。(京都府警)
A 地方公共団体における消費生活条例、及び迷惑防止条例による対応
・ 消費者を勧誘する際に、目的を告げずに訪問した上で、貴金属、家電等を買い取り、その後、消費者が品物を引き渡した翌日に解約を申し出ても解約拒否されたという事例について、勧誘目的を隠匿し、契約解除を不当に制限するものとして、消費生活条例に基づき、事業者を指導した事案。
・ 貴金属を買い取る目的があるにもかかわらず、目的を告げずに消費者を訪問し、長時間にわたり、貴金属の買い取りを迫ったり、消費者が来訪を断ったにもかかわらず訪問して勧誘し、その後解約を申し出ても、「商品を溶解して処分した」と虚偽を言って契約解除を拒んだ事例について、勧誘目的を隠匿し、不当に契約解除を妨害するものとして、消費生活条例に基づき、事業者を指導した事案。
ただし、地方公共団体における条例に基づき行政上講ずることのできる措置は、一般的には、「勧告(違反の是正の勧告、事業者名の情報提供)」までであり、いわゆる「業務停止命令」はできない。また、民事上、クーリング・オフ規定もない。
B 警視庁による取組み
・ 本年1月に、警視庁生活安全総務課長名で管内警察署あてに通知を出し、新たに訪問買取りを行おうとする事業者が古物商の許可申請をしてきた際、古物営業法の遵守、相手方の本人確認の際の注意、買取った品物に係る特徴、金額等を領収書等に明記し相手方に交付することなどを厳守するよう誓約書を提出させるよう指示。
・ 新規の古物商の許可業者の法令講習会の際、訪問買取りについての注意喚起の旨のチラシを配布。
C 消費者庁による取組み
・消費者庁においては、消費者安全法に基づく通知等の内容分析と消費者本人からの聴き取りにより被害実態の把握を行うとともに、これらのうち消費者事故等が疑われる事案に関して、関係する事業者に対し同法に基づく資料提供を要求するなどを行い、収集した情報の分析を踏まえ、本年9月7日付けで、貴金属等の訪問買取りを行う事業者が留意する点を公表して必要な対応を促進。
・全国の消費生活センター、古物営業法を所管する警察庁に上記情報を提供。
貴金属等の訪問買取りに係るトラブルに対する法的措置について(案)―平成24年に特商法を改正予定
・ 訪問買取り事業者に対する行為規制
@事業者名・勧誘目的等の明示義務
A再勧誘・迷惑勧誘の禁止
B契約書面の交付義務
C不実告知・重要事項不告知の禁止
D威迫・困惑を伴う勧誘の禁止
E高齢者など判断力の不足する売渡者(消費者)への勧誘の禁止
F債務不履行などへの是正
・ 訪問買取りに係る売渡者(消費者)によるクーリング・オフ
展示販売の「消費者が自由に選択できる状態」の裁判例
●裁判例-東京地判平成20・3・28
〔事案〕 消費者(X)は、平成15年1月から17年1月にかけて販売業者4社(Y1〜Y4)からホテル等で行われた展示会で勧誘され、着物、宝石など8件(約602万円)をクレジット会社3社のクレジット契約で契約した。Xに交付された書面には、いずれも販売業者の代表者氏名、販売担当者氏名の記載がなく、商品の数量、販売業者の名称、申込年月日の記載がないものもあった。 Xは平成18年6月、Y1〜Y4に対してクーリング・オフを通知し、Y1〜Y4はクレジット立替金を不当利得しているとしてその返還を求めて提訴した。 〔争点〕 販売場所が「店舗に類する場所」に該当するか。 〔判旨〕 本件の販売場所は@いずれも少なくとも2日以上は展示会を開催し、A指定商品を陳列し、Bホテルの宴会場や類似の施設で販売を行つているので、形式的には、店舗に類する場所において販売がされたといえる。 しかし、形式的な要件は満たしていても、Xは販売員に迎えにきてもらい、展示会場に同行し、食事の提供を受け、その後に商品を選ぶという形で商品を購入しており、単に展示会へ招待状を受け取って自ら足を運んでいるとか、食事等(しかも高額の食事代)の接待を受けてはいないとか、販売側のサービスを受けずに自由に商品を選ぺる状況にある場合とは異なる。しかも、販売員が試着を勧め、試着を繰り返しているうちに断り切れない雰囲気になるというのであるから、なおさら自由に商品を選べる状況にあるとはいいがたい。このような状況を考慮すると、(本件の販売は)いずれも「自由に商品を選択できる状態」ではなかったとみるべきである。 判決は、店舗に類する場所に該当しないとして特定商取引法の適用を認め、書面の記載が不備であることからクーリング・オフができ、Y1〜Y4は売買代金を返還する義務がある。Xがクレジット債務を負担しているのに売買代金を利得しているから、Y1〜Y4はXに返還するよう命じた。(控訴)
3日間の展示販売に対して訪問販売法の適用がないとした裁判例。
●裁判例-大阪地判平成6・3・9
〔事案〕 着物の販売業者(Y)が平成3年9月20日から22日まで大和郡山市の料理旅館の2階で呉服の展示販売を行った。Yはこれに先立ち9月上旬ごろ消費者(A)の勤務先を訪れ、販売当日に市価4,800円から12,800円の草履等と交換できる引換券兼来場予約カードを1,000円で販売するなどして来場を勧めた。Aは展示販売会があることを忘れていたが、最終日の16時30分ごろ、Yからの電話を受けて会場に出向き、引換券を使用して草履を受領した後、勧誘を受けて、付け下げ、袋帯、八掛のセットを約36万円で購入し、クレジット会社(X)のクレジット契約をした。Aは帰宅後、不急の商品を購入したと考え直し、27日ごろ、YとXにクーリング‐オフの葉書を郵送した。 Xは27日、Yに立替金を支払ったが、クーリング・オフ通知を受けてAとのクレジット契約を解除し、Yに対して立替金の返金を求めた。しかし、Yが返金を拒絶したため、XがYに立替金の返金を求めるいわゆる加盟店訴訟を起こした。 〔争点〕 この契約の販売場所は営業所か否か。クーリング・オフは有効か。 〔判決〕 「本件契約は、Yの開催した展示販売会場である料理旅館内の2階で締結されたものであるところ、Yは、着物等の右展示販売会を3日にわたって開催していたところであるから、右会場は、訪販法所定の営業所に該当するものと認めることができる。すなわち、訪問販売法立法趣旨は、訪問販売が販売業者からの過度の攻撃性を帯有してなされがちであることから、その攻撃性のある態様による販売方法を規制し、排除することにあると考えられるところ、本件契約では、3日間ではあっても、商品の展示販売のための場所を設けて、購入者の考慮・選択の余地を残していると評価するところであるから、右会場での販売態様については、これを営業所として許容しているものと解するのが、右立法趣旨に合致する」。訪問販売法が適用されないからAのクーリング・オフの効力を否定し、Xの立替金返金請求を認めなかった。
事業者間契約に特定商取引法を適用した裁判例
理髪店に訪問販売された電話機の事案、自動車販売会社に訪問販売された消火器の事案、個人事業者等に訪問販売されたリース契約の事案があり、いずれも「営業のため若しくは営業として」した取引ではないとして特定商取引法の適用を認めた。
●越谷簡判平成8・1・22
(事案)電話機の訪問販売業者(X)が、個人の利用業者(Y)を訪問し、店名の入ったゴム印を持って来させるなどして理容店名で売買契約を締結させた。
Yがクーリング・オフをしたが、Xは取引が営業目的でなされているとしてこれに応じず、売買代金の支払いを求めて提訴した。
(争点) Γ営業のため若しくは営業として」行われた取引か(訪問販売法10条1項1号)。
〔判旨〕 裁判所は、Yが電話機の取引につき一般消費者同然の素人であること、Xがこのような被告のクーリング・オフを予め封じるために営業者を示すゴム印を要求するなどしていること、YがXの右意図を理解していなかったこと、これまで営業用に電話機を利用していなかったこと、Yとその長男で理容店を営んでいるという営業規模等の諸事情から、Yが営業のために本件電話機を購人したものとみることはできないと判断した。その結果、Yのクーリング・オフの主張が認められ、Xの請求が棄却された。
●大阪高判平成15・7・30
〔事案〕 消火器の訪問販売業者(Y)が、自動車販売会社(X)に消火器の出入り業者を装って電話をかけて訪問し、充填整備のためと称して消火器38本を運ぴ出し、Xの従業員に「消防用設備点検作業契約書」を示してサインさせた。
Yが薬剤充填代として53万円余を請求したため、Xが契約の不成立またはクーリング・オフを主張して、消火器を返還するよう提訴した。
一審は、自動車の販売・修理等を業とする会社にとって、消火器の充墳薬剤の購入が営業のためもしくは営業としての購入でないことは明らかとして、特定商取引法の適用を認めた。Yは平成14年11月1日の契約時に法5条の書面を交付していないため、平成14年12月10日のXの訴状送達をもってクーリング・オフの成立を認めた。Yが控訴。
〔争点〕 「営業のため若しくは営業として」行われた取引か。
〔判旨〕 特定商取引法の適用(クーリング・オフの成立)と詐欺取消しを認めた。〔Yは、本件取引に法26条1項l号の適用があるというので検討するに、同法(平成12年に改正される前は訪問販売等に関する法律)は、昭和63年法律第43号による改正前は、訪問販売等における契約の申込みの撤回等についての適用を除外する契約として、『売買契約でその申込みをした者又は購入者のために商行為となるものに係る販売』と規定されていたのであるが、上記改正によって「売買契約又は役務提供契約で、その申込みをした者が営業のために若しくは営業として締結するものに係る販売又は役務の提供」となったものである。これによれば、上記改正の趣旨は、商行為に該当する販売又は役務の提供であっても、申込みをした者、購入者若しくは役務の提供を受ける者にとって、営業のために若しくは営業として締結するものでない販売又は役務の提供は、除外事由としない趣旨であることが明白である。そこで、本件取引についてみるに、Xは、各種自動車の販売、修理及ぴそれに付随するサービス等を業とする会社であって、消火器を営業の対象とする会社ではないから、消火器薬剤充填整備、点検作業等の実施契約(本件取引)が営業のため若しくは営業として締結されたということはできない。消防法上、Xの事務所等に消火器を設備することが必要とされているとしても、これは消防法の目的から要求されるものであって、これによって本件取引を営業のため若しくは営業として締結されたものということばできない」(Xの請求認容。Yの上告は不受理となり確定)。Xは自動車の販売に関してはプロであろうが、消火器の取引には不慣れである。訪問販売業者の一部が、特定商取引法の適用を免れるため個人事業者や法人を狙う傾向に対して、妥当な判断を下した。
(事業者を狙った消火器の訪問販売に関しては、大津地判平成13・12・7のように、勧誘の実態から契約不成立を認定して消火器販売業者の代金請求を棄却した事例もある)
個人の印刷デザイン業者へのビジネスホンのリースの裁判例
●名古量高判平成19・11・19
〔事案〕 個人で印刷デザイン業を行っているXは、通信機器業者Aの勧誘を受け、平成15年12月と16年6月に、リース会社(Y) とビジネスホン(事務所用電話の主装置と電話機のセット)のリース契約をした。リース期間は各84カ月、リース料は計176万4000円(月額21000円)。Xはリース契約書にクーリング・オフの記載がないことから、平成18年7月、Yにクーリング・オフを通知し、既払いリース料55万4400円の返還を求めて提訴した。
〔争点〕 このリース契約は、「営業のために若しくは営業として」締結する取引に当たるか。
〔判旨〕 Yは特定商取引法の役務提供事業者に当たり、特定商取引法の訪問販売に該当するとしたうえで、「営業のために…」の適用除外に該当するかを検討した。
Xは@もっばら賃金を得る目的で1人で印刷デザインを行っていたに過ぎず規模は零細、A平成16年4月には税務署に廃業届を出していた、B事務所は以前は自宅と兼用していた、C事業規模・事業内容から従前から使い続けていた家庭用電話機が1台あれば十分だった、D本件ビジネスホンは複数従業員がいてインターネット接続を念頭に置いた高機能なものだが、Xは1人で手作業で仕事をしパソコンを使えない、Eリース契約書には販売担当者の求めによって屋号のゴム印が押されている、等の事情から、裁判所は、本件契約は「営業のために若しくは営業として締結された」ものと認めることはできないと判断し、特定商取引法を適用した。リース契約書にクーリング・オフの記載がないことから、平成18年7月のクーリング・オフ通知で契約は遡及的に解除され、リース会社に対して、既払いリース料の返還を命じた。(上告)
宅地建物取引業法のクーリング・オフにおいて来訪要請が争点となった裁判例
●名古屋高判平成15・4・2
宅地建物取引業者が消費者宅の郵便受けに「隣地の件でご挨拶に参りました」と記載した名刺を投函し、これを見た消費者が数度、事業者に電話をして事業者が消費者宅に赴くことになった事案であるが、判決は、事業者が消費者宅に名刺を投函してその機縁をつくり、電話を通して土地の売買を巧みに勧誘することによってそのような成り行きになったことが推察されるのであって、実質的には事業者の方から土地の売込みのために消費者宅を訪問したものということもできる、と判断して、宅地建物取引業法によるクーリング・オフの成立を認めた。
●東京地判平成8・4・18
〔事案〕 ゴルフ場会員権販売会社(Y)の販売員が、平成3年6月、消費者(X)あてに会員募集用パンフレットを送付後、Xあてに電話をかけ勧誘した。
7月、Xが販売員に電話をかけ、この会員権を購入する旨の意向を伝えたので、販売員がX経営の鉄工所事務所(自宅と同じ敷地にある)を7月19日に訪問する約束をし、販売員がXの事務所を訪問し入会申込書を作成し、1962万円を支払った。この際、訪問販売法5条の契約書面が交付されず、ゴルフ場開場が2年半以上遅延したため、Xが平成5年12月クーリング・オフを通知し、それを理由の1つとして会員権代金の返還を求めて提訴。
〔争点〕 多岐にわたるが、その1つは、消費者が取引を請求したことにより訪間販売法の適用除外となるか。
〔判旨〕 次のように述べ特定商取引法の適用を肯定した。「販売員がXの経営する会社の事務所に出向いたのは、Xからの請求というより販売代理店としての通常のサービスとして行われたものであると認められるから、X自らが申込みまたは契約締結を請求したとはいえず、また、それが事前のアポイントメントを取った上での訪問であるからといって直ちにXがこれを請求したものとはいえない」。特定商取引法を適用し、書面不交付のためクーリング・オフの成立を認め、X勝訴(確定)。
販売業者が電話をして訪問をしたケースに関して裁判例がある。
●神戸地判平成18・4・28
〔事案〕 平成17年4月13日、80歳の女性(Y)は住宅設備販売業者(X)の訪問を受け、洗面台の取替えを32万円で契約し、頭金5万円を支払った。4月22日に洗面台を設置後、交付された契約書にクーリング・オフの記載等がなかったため、Yは4月25日Xにクーリング・オフを通知した。Xは特定商取引法の適用を認めず、残代金25万円の支払いを求めて提訴した。
〔争点〕 Xの訪問経緯は、Yが住居での取引を請求したことに当たるか。Xは、面識のあったYに4月12日にあいさつの電話をかけ、世間話をしているうちにYから洗面台を取り替える計画をしていた、ちょうどよかったから自宅に来てくれと言われたので翌13日に訪問したと主張した。
〔判旨〕 Xの供述はYの供述と比較すると説得力に欠け信用性があるとはいえない。その理由は、@Xが営業目的なしに世間話をするためだけに電話をしたとは考えにくい、A高齢女性のYが、本件洗面台のように大型で、背が高く、立って化粧をする型の、Yにとって使いやすいとはとても思えない洗面台を欲していたとは到底考えられない、突然訪問してきたXに早く帰ってほしかったためXに言われるままに注文書に署名押印したと考える方が自然である、BYは残代金支払期日(4月27日)が迫った24日に警察署に相談に行き、25日には消費者相談の窓口に助けを求めに行き、助言に従って解除を主張するに至ったのであるが、Yが前々から洗面台の取り替えを計画しており、Xと商談のうえで購入したというのなら、Yがこのような行動をとるとも考えられない、CYのマンションの入口に管理人がほぼ常駐しており「無断入館は堅くお断りいたします」の看板があるが、管理人の許可を得ずに通り抜けることや、入居者の知り合いであると告げて侵入することは十分ありえるから、Yの招き入れがなけれぱ訪問できないとはいえない。
裁判所は25日のクーリング・オフ通知で契約は解除され、代金支払義務は消滅したとして、一審判決(神戸簡裁)を取り消して、Xの請求を棄却した。Xは上告したが上告審の大阪高判平成18・9・13は本判決の認定判断を支持し、上告を棄却した。
知人が事業者から紹介報酬を受け取る立場にある場合は、知人の訪問要請は事業者内部での見込み客の紹介とみられる。消費者が取引を請求したことにならないため、特定商取引法が適用される。
●仙台簡判昭和59・6・14
〔事案〕 消費者(Y)宅に、化粧品代の集金に来たAが「着物屋が来ているから会わないか。社長を知っているので買わないでもいいから一度見てみたら」といい、Yが承諾。Aが呉服販売店(X)の社長と販売員を案内してY宅を訪問し、付け下げと喪服一式を80万円で契約した。
「争点〕 消費者が取引を請求したか。
〔判旨〕 「XとYの間に平常から呉服の取引関係があり、また、被告があらかじめ訪問販売の方法によって呉服を購入する意思があったことを認めるに足りる証拠はない」として、消費者が取引を請求したことを否定し、特定商取引法を適用した。
裁判例に、指輪の次に寝具を契約した場合に「当該事業に関する」販売ではないとするものがある。
●福岡高判平成11・4・9
〔事案〕 消費者(X)は、訪問販売業者(Y)から、平成6年7月と8月に指輪を購入した。XはYから同年11月、訪問販売で寝具(マットとシート)を42万円で契約し、平成7年2月、訪問販売でダイヤの価値について虚偽の説明をされて指輪とネックレスを268万円で契約した。平成7年12月、Xは書面不交付を理由にクーリング・オフによる解除を通知し、債務不存在確認等を請求して提訴した。
〔争点〕 「年2回以上の取引」による適用除外の当否と錯誤無効。
〔判旨〕 平成6年7月と8月の指輪の取引は、11月の寝具の取引と異なり「過去に行われた取引は、いずれも宝石類であって、今回の販売商品は健康布団としてのマットであるから、販売の事業としては関連があるとは認めがたく、右政令の要件には該当しないというべきである」として、特定商取引法を適用した。平成7年の指輪とネックレスに関しては錯誤無効を認めた。
取引実績
「取引のあった」とは、過去の取引実績により信頼関係が形成され、問題を惹き起こすことはないと考えられるためであるから、原則として、事業者と消費者の双方に取引の認識があることが必要である。仮に消費者が過去に事業者の店頭で低廉な商品を購入した実績があるとしても、両者にその認識がないのが通常であろうから、実際には、ある程度高額な商品を取引した場合、割賦販売により取引した場合、購入者の住居に商品を配達した場合等が該当する(通達)。
過去に契約したがクーリング・オフで解除した場合、紛争が生じた場合等は過去の取引実績に含まれない(通達)。
●広島高裁松江支判平成8・4・24
〔事案〕 消費者(Y)は、平成5年9月7日、美術品の店舗販売業者Aの訪問を受けて美術品の鉢を210万円で契約し、クレジット会社Xの立替払契約を結んだ。Yは、クーリング・オフの期間内にAに電話で契約解除をし、商品を返品した。AはYに約2カ月前の同年7月17日に、壷を210万円で契約していた12日後にクーリング・オフで契約解除していた。XがYに立替払金の支払いを求めて提訴した。
〔争点〕 7月の壷の契約が「訪問の日前1年間の取引」に当たるか。
〔判旨〕 Aは店舗を構えて美術工芸品の販売業を営んでおり、店舗販売が全体の7割を占め、その他が訪問販売であるため、店舗販売が通例であるとした。
そこで、店舗販売業者の取引実績について検討し、「Yは右売買契約締結後2日位して右売買契約をクーリング・オフ権に基づいて有効に解除したことが認められ、右事実によると、AとYとの間には、本件売買の1年内に、Aの営む美術工芸品販売業に関して取引があったのではあるが、右取引は、Yのクーリング・オフ権に基づいて有効に解除されたというのであるところ、このようにクーリング・オフ権に基いて有効に解除された取引は、訪問販売における購入者の保護を目的として、通常購入者の利益を損なうおそれがないと認められる取引の熊様の要件として定められた訪問販売法政令6条2号(注・現行政令8条2号)所定の『取引』に該当せず、したがって、Yは、本件売買当時、同号所定の「顧客」には当たらないものと解するのが相当である。したがって、本件売買は訪問販売法10条2項2号所定の訪問販売に当たらず、本件売買につき同法6条の適用は除外されない」。
契約締結後、約2カ月してダイヤの鑑定書・保証書を交付した事案について「遅滞なく交付」の要件に当たらないとした裁判例がある。
●大阪地判平成12・3・6
〔事案〕 消費者Xは、平成9年8月10日、ダイヤのアポイントメントセールス業者Aに呼ぴ出され、ダイヤモンドルースを約82万円で売買契約し、クレジット会社Yのクレジット契約をした。契約時に、Aの担当者は0.4カラットのルース2個を提示して説明したが、Xがもう少し大きいルースを要望したため、0.5カラツトのルース1個と鑑定書・保証書を提示し、大きさ、色、内包物の有無、カット等について説明をし、Xが申込みをした。当日、鑑定書・保証書を交付せず、同年10月7日、Xに商品と同時に鑑定書・保証書を送付したが、Xは双方の受け取りを拒否した。Xは平成10年8月11日、Aに売買契約を解除する旨を通知し、Yに対する立替払契約の債務不存在確認を求めて提訴した。
〔争点〕 売買契約の不成立、公序良俗違反による無効の主張のほか、本項関連ではクーリング・オフが成立するか。
〔判旨〕 鑑定書・保証書が遅滞なく交付されず、契約書面の交付に当たらないとして、クーリング・オフの成立を認めた。
書面に「申込みの撤回」「契約の解除」「クーリング・オフ」等の言葉を書いていなくても、全体として解約の意思が認められればクーリング・オフ書面と考えられる裁判例
●神戸地判昭和63・12・1
[事案〕 消費者Yは、呉服販売業者Aの創業40年記念旅行に招待され、宿泊先の旅館で開かれた加賀友禅の展示即売会で391万円の振袖を購入し、クレジット会社Xとクレジット契約をした。
Yは、その4日後に販売店に手紙を出し、「何卒御事清御察知くださいましてご了承いただきたく、おことわり斉々お願い申しあげます」と結んだ。XがYにクレジット代金の支払いを求めて提訴し、Yはクーリング・オフを行使したと抗弁した。
〔争点〕 Yの手紙がクーリング・オフの意思表示となるか。
〔判旨〕 この「手紙が、本件売買契約を解除する意思であること、及ぴA側としても右の被告の意思を十分読み取れるはずであることが明らかである。右手紙には、本件招待旅行のお礼や感謝の気持も述ペられているが、これは、人間として当たり前のことであって、前記説示を何ら左右するものではない」としてクーリング・オフを適用し、クレジット会社の請求を棄却した(確定)。
電話によるクーリング・オフの行使の裁判例
●福岡高判平成6・8・31
〔事案〕 消費者(Y)は平成3年2月19日、呉服販売業者(A)から訪問販売で袋帯等30万円を購入し、クレジット会社(X)のクレジット契約をした。Yは、その直後、代金が支払えないことから販売業者支店長に売買契約を解除する旨の意思を口頭で伝えた。クレジット代金の支払いを求めてXが提訴した。
一審(八代簡裁)はXの請求を棄却した。Xが控訴した二審(熊本本地裁)は通商産業省解釈に沿って-審判決を取り消しXの請求を認めたため、Yが上告した。
〔争点〕 契約直後の口頭の契約解除の申し出はクーリング・オフの効力を生じるか。
〔判旨〕 割賦販売法のクーリング・オフの「条項は、訪問販売等においては購入意思が不安定なまま契約してしまい後日紛争が生じる場合が多いので、その弊害を除去するため、一定の要件のもとでの申込みの撤回等を行うことができることにしたものであって、その申込みの撤回等は書面を発した時に効力を生じることにする(同法4条の3第2項)、また、これらの規定に反する特約であって購入者に不利なものは無効とする(同法4条の3第4項)等、いわゆる消費者保護に重点を置いた規定であること、書面を要する理由が申込みの撤回等について後日紛争が生じないよう明確にしておく趣旨であるとすれば、それと同等の明確な証拠がある場合には保護を与えるのが相当である(なお、仮に購入者がその立証ができなければ、その不利益は購入者が負うのは当然である。)ことから考えると、同条項が、書面によらない権利行使を否定したものと解釈するのは問題があるというべきである。これを本件についてみると、……(中略)……申込みの撤回等は有効になされたというぺきである」として二審判決を破棄自判しY勝訴。(口頭のクーリング・オフを否定した裁判例は大阪地判昭和62・5・8一方、肯定した裁判例に古川簡判昭和62・6・15、大阪簡判昭和63・3・18、広島高裁松江支部判平成8年4月24日)
事業者が返還できない場合は、消費者に対して損害賠償を行う必要があるとした裁判例
●津地判平成20・3・27
〔事案〕 消費者(X)は平成19年8月23日、給湯器販売業者(Y)の訪問と虚偽の説明を受け、105万円で屋根の補修工事と給湯器購入の契約をした。Yは24日Xの既存の温水器を撤去し、給湯器を設置した。Xは28日クーリング・オフを通知し、Yは9月5日給湯器を撤去したが、温水器は廃棄したとして返還をしなかった。Xは別の会社から給湯器を購入し23万円を支払った。
〔争点〕 消費者の受けた損害額
〔判旨〕 本件温水器撤去に伴う損害は、新給湯器の購入金額23万円ではなく、撤去した温水器の価値にとどまる。撤去時までの使用による減価を考慮して10万円が相当。Xの慰謝料は温水撤去による不便、経済的精神的負担を強いられた等を考慮して15万円が相当。弁護士費用は5万円が相当と判断した。
(Yは訴訟を欠席し、損害額は裁判所が判断)
書面不備や書面不交付により、クーリング・オフ期間の延長を認めた裁判例
次の4件の裁判例は、書面不交付により、クーリング・オフ期間の延長を認めたものである。
@ 大津簡判昭和57・3・23(書面不交付(印鑑)―1年11月)
A 神戸地判平成元・10・4(書面不交付(紳士録)―1年1月)
B 東京地判平成6・6・10(書面不交付(ゴルフ会員権)―1年3月)
C 東京地判平成8・4・18(書面不交付(ゴルフ会員権)―2年6月)
書面不備により、クーリング・オフ期間の延長を認めた裁判例には以下がある。
D 大阪簡判平成元・8・16(商品の引渡時期(教材)―2月)
E 神戸簡判平成4・1・30(商品の型式、契約月日、クーリング・オフ告知(カーポート、バルコニー工事)―15日)
F 東京地判平成5・8・30(商標または製造者各役務の種類と商品の数量を一式と記載、商品販売価格等の内訳、代金等の支払方法、担当者の名(外壁工事)―2月)
G 東京地判平成6・9・2(商品の数量、対価の支払時期、役務の提供時期、クーリング・オフの告知、担当者の名(リフォーム工事)―8月)
H 東京地判平成7・8・31(商品名役務の内容、数量、価格、役務の提供時期(屋根改装工事)―16日)
I 東京地判平成11・7・8(商標または製造者機種または型式、数量、販売担当者氏名(1件については申込日と販売価格、着物)―7月)
J 大阪地判平成12・3・6(鑑定書・保証書を2力月後に交付(ダイヤ)―1年)
K 名古屋地判平成14・7・4(商品の引渡時期―3月)
L 東京地判平成16・7・29(販売業者名、住所、電話番号、代表者氏名、販売担当者氏名(着物)―10月)
M 京都地判平成17・5・25(クーリング・オフの告知、支払方法代表者名、担当者名、等(活水器等)―2月)
N 大阪地判平成19・3・28(商品名(布団)―10月)
商品の数量、対価の支払時期、役務の提供時期、クーリング・オフの告知、担当者の名(リフォーム工事)
●東京地判平成6・9・2
〔事案〕 消費者(Y)は、平成5年5月28日、住宅リフォーム工事業者(X)の訪問を受け、184万円余で外壁改装工事を契約した。交付された書面には、次の記載があった。
・商品名、商標または製造者Γアルミサイディング」
・役務の種類「外壁工事・ペイント」
・商品の数量(記載なし)
・役務の対価「180万円」
・対価の支払時期「内金80万円、残完工払い」
・役務の提供時期(記載なし)
・クーリング・オフの告知「法5条の書面を受領した日から8日を経過する日までは役務提供契約の解除ができること」「赤枠の中に赤字で記載」
・事業者の名称・住所「x」
・販売担当者氏名「担当者の姓のみ」
・契約締結年月日「平成5年5月28日」
商品の数量、役務の提供時期の記載がないほか、商品名・役務の種類等で工事内容が特定されておらず、対価の支払時期、クーリング・オフの告知、販売担当者の名の記載が不十分と思われる。
契約後、販売担当者から内金の集金日の情報を得た第三者がX会社を名乗ってY宅を訪問し、80万円を詐取した。YはXに連絡して詐取被害に気づき、解約を要求したが、Xが「損はさせない」と言ったので続行を了承したが、Xが代金全額を請求をしたため、支払いを拒んだ。Yは平成6年2月4日発信の書面でクーリング・オフを通知し、Xが代金全額の支払いを求めて提訴した。
〔争点〕 クーリング・オフの成立およぴYの権利濫用に当たるか。
〔判旨〕 書面不備の効果につき「XがYに交付すべき書面について絶対的記載事項を脱漏したことは、当事者間に争いがない。そうすると、法5条の書面は交付されていないことになり、法6条1項1号(現9条1項l号)の起算日は進行しないというべきであるから、Yは同項に基づき、本件契約を解除(クーリング・オフ)することができることにな」るとクーリング・オフの成立を認めた。
XがYの権利濫用と主張した点は「Yは代金の支払についてトラブルを生じさせる原因を作り出したということができ、このような場合、法5条の書面が交付されておらず、クーリング・オフをする権利が留保されているYに、その行使を制限するのは相当ではない」等と述べ、権利の濫用に当たるとはいえないとして、Xの請求を棄却した(確定)。
販売業者名、住所、電話番号、代表者氏名、販売担当者氏名(着物)
●東京地判平成16・7・29
〔事案〕 消費者Aは、平成12年12月、臨時の着物展示場で、呉服販売業者(X)から200万円の着物をB社のクレジット契約を用いて契約した。Aに交付されたクレジット契約書には、Xの名称、住所、電話番号、代表者氏名、販売担当者氏名が記載されていなかった。一方、別にAに交付された「注文書控え」にはXの名称、住所、電話番号、販売担当者氏名が記載されたがクーリング・オフに関する事項が記載されていなかった。
Aは平成13年6月に死亡し、同年10月相続人(Y)がクーリング・オフ通知をした。Xはクレジット立替金をBに返還した後、Yに対して代金支払を求めて提訴した。
〔争点〕 記載欠落書面を他の書面で補完できるか。相続人によるクーリング・オフは権利濫用か。
〔判旨〕 訪問販売法の消費者保護という趣旨を貫徹するためには、訪問販売法5条所定の記載が一通の文書に記載されることにより、消費者が契約内容を確認し、当該契約を維持するかクーリングオフを行うか判断し、行動することができるようにすぺきである。したがって、訪問販売法5条所定の書面の記載要件は厳格に解すベきであり、記載要件が欠けている場合に、他の文書の記載をもってこれを補完することができると解すべきではない。(中略)仮に、Xが主張するとおり、Xの社名、住所、電話番号、担当者の氏名等が記載された本件注文書控えがAに交付されていたとしても、これにより、クレジット契約書の記載の不備が補完され、全体として訪問販売法5条所定の書面の交付があったとはいえない。(中略)
(書面不交付なので)購入者はいつでもクーリングオフ制度による契約の解除を行うことができるというべきであり、本件においてAが存命中に契約をキャンセルしたい旨の申出やクーリングオフ制度を利用した解除の通知をしていなかったとの事情があるのみで、Aの相続人であるYのクーリング・オフの行使が信義に反し、権利濫用に当たると解することはできない。
と判示して、Xの請求を棄却した。(控訴)